「やべぇ詰んだ」
これは私が神から力を授かり異世界に転生して、最初に言った台詞である。
思い帰すまでもなく全ての始まりは、あの白い空間だったのだろう。
死んだら行く場所、魂の最終処理場、神の事務室。
床も壁も地も空もなく、ただ白い空間。いつの間にか私はそこにいた。
いやその時はまだ俺、だったか。
そこで俺は神聖な者と出会った。私に言わせれば、ありとあらゆる邪神よりもおぞましき者だが、その者は確かに神聖な者だった。
彼は神と自己紹介してくれた。その者が放つアウラは確かに神聖であり、神と信じるのは容易いことだった。
そこで彼はこう言ったんだ。
「異世界転生してみない?」
俺は喜んだ。この空間に来る前、よくそういった展開のお話をよく見たからだ。当然だ。私だってまたその空間に行ったら躍り狂って喜ぶだろう。
「何か特典とか貰えますか?」
俺はそう答えた。今まで読んできた話の主人公達の多くはそういった力を手に入れていたからだ。
「もちろん。好きなだけとは言えないけれど、かなり強大な力を上げることは出来るハズだよ」
彼は力強く特典のことを保証してくれた。そして彼はこう続けたんだ。
「君が今までプレイしてきたゲームから特典をあげよう。君が遊んできたデータが君の能力になるんだ。」
それを聞いて俺は喜んだ。今まで遊んできたゲームの力を身に付ける事ができるんだと。FF、ドラクエ、ポケモン、プレイしてきた有名なゲームばかり脳に浮かんだ
「スペランカーの能力だったりしませんよね?」
慌てて俺は聞いた。今まで読んできた物のなかにはゴミの用な特典を渡されて酷い目に会うストーリーのものもあった。
「安心してほしい。特典として選ばれるゲームは君が数十時間以上プレイしたゲームの中から選ばれる。君だって忘れたゲームの能力より、やり込んだゲームの能力の方がいいだろう?あれ?スペランカー数十時間とかしてないよね?」
「あ、はい。大丈夫です。」
数十時間以上プレイしたゲームはどれも覚えている。どれもかなりステータスを上げたはずだ。
「もしRPGじゃないゲームが当たったらどうするんですか?」
心配になった俺はちゃんと質問した。何だって人生がかかっているのだから。私になって思うのは何を質問していたらこんな目にあわないですんだのだろうだが。
「安心してほしい。RPGが当たったときもそうなのだが、フレーバーテキストのような部分やストーリーで描写された能力も全て残さず君の能力にする。だって凄腕剣士のステータスを持っているのにまともに剣が振れなかったら可笑しいだろう?」
確かにそれでは格好がつかない。俺は頷いた。
「例えば君の使っていたキャラがゲームの中で剣聖でも倒したシーンが有れば、転生後の君の剣の腕はかなりの物となるだろう。宇宙を切り裂くシーンが有れば天上とでも言える腕前になるだろう。そして最悪スペランカーが当たったとしても、無謀な洞窟探検家の技術や体力は手にはいるだろう。ついでに装備品やアイテムもしっかりつけてあげよう。」
神はめっちゃ早口に説明してくれた。つまり纏めてみると外れなんてないも当然と言えるだろう。
モンハンが当たれば屈強なハンターの力に俺が狩って作ってきた装備が手にはいるのだ。俺は喜んだ。私からすればここに落とし穴があったと言えるだろう。外れはあったのだ。
「タイムアタックとかも反映されますか?」
俺は欲張って聞いた。たまに妄想したりしないだろうか?世界を絶望に陥れる魔王を5ターンぐらいで倒す主人公ってなにもんだよ、ってね。
「もちろん反映しよう。あぁ、強大すぎる特典になってしまっても力は完全に制御できるおまけも付けておくから安心してほしい。」
おまけまで付いたのだ。やはり世の中発言してこそである。まぁ私にはろくに役に立たないおまけだったが。
「育てたキャラが複数いる場合誰のステータスがもらえますか?」
更に俺は質問した。トルネコのおっさんなんて育てていないのである。
「ゲームで操作できるキャラが複数いる場合、一番使っていたキャラの能力にしよう。これもさっきと似たような理由になるけど、あまり育ててないキャラや使ってないキャラの力をもらっても困るだろう?」
神はちゃんと俺の心配を取り除いてくれた。
「わかりました。転生します。特典を引かせてください。」
俺は安心して転生する決意をした。
「チャンスは一度きり、それこそ何が当たるか僕も解らないけど良いのが当たるといいね」
神は俺の言葉を聞くと笑って、色が変化し続ける珠を中に浮かせた。
「触れた瞬間に書かれていたゲームのタイトルが君の特典だ。触れたまえ」
遂にこの時が来たのだ。
「いきますっ」
目をつぶって中に浮く珠を両手で包む。俺には直ぐに、珠に書かれているゲームのタイトルを見る勇気は無かった。
「ふむ。決まったようだね。」
神が近づいてくる。彼も結果を知らないランダムだったらしいので結果が気になったのだろう。
「では一緒に見ようか。君の次の人生を大きく左右することになるものだ。」
神の声に促されるように両手を開けて珠の表面を見た。
プリンセスティアーズ
珠にはそう書かれていた。
「えっ?」
◆◇◆◇
プリンセスティアーズとは、天使のように可愛らしい見た目なのにくっそ強い魔法剣士の女の子が、コロシアムがある町で闘士として闘いお金を集めるフリーゲームである。
なんとTSの危機ではないか!とこれだけの情報で判断するとそう思える。がしかし、このフリーゲームただのフリーゲームではない。主人公がやられるとヤられちゃうR18なエロフリゲーなのだ。
どんくらいヤられちゃうかというと、目につくキャラの9割9分は主人公を性的な目で見てくるし、隙有らば孕まされる。そしてテキストがねちっこくエロい。そんな素敵なゲームなのである。
確かに俺はこのゲームを数十時間以上楽しんだ。選択によってストーリーが分岐する上に、マルチエンディングのノベルゲーだから当然と言えるだろう。しかも疑似RPGパートであるダンジョン編まで完備されている。よってプレイ時間も36時間を越えていても普通だな!
何がマズいかというと俺はこのゲームを全エンディングコンプリートし、かつ全キーワード(Hなシーンとかに埋め込まれている。詳しくは自分でプレイ、しよう!)を収集してしまったことだ。
プリンセスティアーズは選択肢によってエロい事を回避できる。なので処女プレイ(よく同人ゲーにある処女のステータスを最後まで保つプレイ。Hすると失われる)は簡単だと言える。最悪ノベルゲーなのでLoadしてしまえば大丈夫だからだが。
Hな事をバンバン受け入れる選択肢を選んでばっかり居ると、主人公の行動も段々エロ展開を受け入れる様なものに変化していくのだ。(そこがエロい。実によい。)
つまり全エンディングを制覇した俺のデータのエルシー・イステアリちゃんはかなりのエロエロバッドステータスを持ってしまっていると言えるだろう。
なにせ神様がくれる転生特典は、ゲーム内で描写されたシーンは全て能力として渡すガバガバシステムである。
全然完璧なシステムじゃなかった。何が安心してほしいだ。目の前でアホ面さらしている神の顔面を珠で殴り付けたくなる。
がチャンスは一度と言ってたのでもう変更は許されないだろう。しばらく茫然と考えていると、俺は最悪な設定を思い出した。(エロゲーの時は最高に良い設定なのだが。)
プリンセスティアーズの主人公エルシー・イステアリちゃんは呪いをかけられているのである。ゲーム開始時既に3つの呪いがかけられているのだが、完全コンプリートした俺のデータのエルシーちゃんは覚えてる限り8つの呪いになっている。
どの呪いも恐ろしい(そしてえっちくてねちっこい)呪いなのだが、何がマズイかというと、8つのうちエルシーちゃんが自覚しているのはたった1つしかない描写がゲーム内でされているのである。
つまり俺が転生した後、8つの呪いの事を覚えているかどうかが怪しくなるのだ。
「そこらへんどうにかなりますかね?」
俺が見事R18ゲーを引き当ててからフリーズしている神様に問いかける。
「え、えっとそうだね。結構難儀な能力を当てちゃったね。えーと、そう。鑑定能力をあげよう。気になる事がわかるようになる能力だ。」
俺の言葉に慌てて神が返事をする。どうやらこの事態は神ですら予測できなかったようだ。私にとってそれは何も慰めにならないが。
「ありがとうございます。」
一応能力を新たにもらえた。これは喜ぶべきだろう。マルチエンディングのゲームで何がどのように描写されたか全ては覚えていないため、どんなステータスか把握できないからだ。
「え、えーとそれじゃ。転生させるね。その、ごめんね?ほら。うん!元気な子供は産めるから!」
神様が最後になんの慰めもないフォローをくれる。エルシーちゃんは子を宿したときに安全に産める天使の加護を持っているのだ。
しかし、それはある占い師にかけられた生殖力アップの呪いによって、ありとあらゆる精子で孕み、本来産み落とすことができない筈の奇形種も、無事に出産できるようにしてしまう呪いのようなものと化しているが。
「それではいってらっしゃい」
最後に神様の泣きそうな顔が見えた。