屈強な敵を倒し気分が良くなる。
「転生前じゃ到底できなかった動きも自由自在ね。」
茜色になった長剣を縦へ横へと降り下ろし、変幻自在に操ってみる。そう言えばあたしは剣と魔法のファンタジー世界に来たのだったとようやく思い出すことができた。投げ飛ばしたエルシズロッドの回収を終えると、経験値の処理が終わったのか
ピロリン♪
と間の抜けた音が脳内に流れる。レベルアップである。さっそく鑑定をする。
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Lv:15➡Lv:16
SP:0➡1
生体スキル
鑑定能力Lv3➡Lv4
戦闘スキル
体術Lv03➡Lv04
魔装精製Lv1(New)
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「あ、スキルポイントが増えてるわね」
1lv上がると1SP貰えるのは嬉しい。現状は天使の加護を最優先で上げたいので、他のスキルには絶対使わないから1ポイントだけ増えてもしょうがないのだが。
「また鑑定レベルが上がったようね」
今回は変化があった場所だけを直ぐに表示出来るようになったようだ。…なんかしょぼい。でも変わったところが直ぐにわかるな。
「この魔装精製はさっきのナイフとかよね…」
何度も使っていればLvが上がって、作りやすく成ったりするのだろうか。
「まぁ、戦闘スキルにスキルポイントを使うことは無いわね。」
自分の手で上げられるものはじぶんであげてしまいたい。全てのエルシズロッドを回収したので一つだけ手に持ち後は腰に挿す。
「さて、流石にオークの死体が4つもあると血の臭いが凄いわね」
しかも真っ二つに裂けてるのが一つ、頭が爆四散しているのが一つあるのだ。肺まで赤く染まりそうな気がしてくるので直ぐに離れる。
「これじゃ赤木エリアになっちゃうわ…」
しばらく西に歩き続けると、またある地点を境に環境がガラリと変わる。
乾いた風が吹き、ガンマンが一騎討ちするときによく後ろを横切っていく草が目の前を転がっていく。
「タンブルウィード、だったかしら。」
目の前の森もいきなりなくなり、低木や小低木が疎らに生える草原地帯になってしまう。
「これじゃ遠いところからでも直ぐに見つかっちゃうわ。」
この先の草原地帯に何がいるのか解らず、白木エリアから出る気がわかない。取り合えず境界ギリギリにまできて転がっているタンブルウィードを鑑定する。
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回転刃草
枯れると転がりながら広範囲に種を巻く。
触れるものを切り裂く刺を持っており、この植物が生える草原からは生き物が見掛けなくなる。
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「やだ、このタンブルウィード怖い…」
可愛らしい真ん丸な見た目とは裏腹に恐ろしい刺を隠し持っていたようだ。試しに茜色の長剣を作り斬ってみる。魔力の刃を押し付けると、特に抵抗を感じることなくスパンと真っ二つにできた。
「鋭くても所詮は植物ね。」
今出来る情報収集を終えたので草原地帯を見つめてみるが、入り口のすぐ近くが丘のようになっているせいで遠くまで見通せない。
「取り合えず丘まで行って、何もなかったら戻ることにするわ」
誰にも聞かれてないのに説明する。一人だと独り言が増えると言うが発症が早すぎないだろうか。まぁとにかく今日の目標は食料集めなので丘の上からなんか食えそうなのがあったら進軍、無かったら撤退にしよう。
ふかふかとした腐葉土の地面から、少しかたい草原へと地面が変わる。…底無し沼だったりしないよな?目の前で動いているのが、重さがほぼないタンブルウィードだけで少し不安になる。腰からエルシズロッドを取り出し、重くなるようイメージを込めながらハンマーを作って思い切り投げてる。
……特になにもおきなかった。魔力の無駄である。
そういえば魔力はどれ程使っていただろうか。最大値が大きすぎるせいか、いくら使っても身体に違和感を覚えないから解りにくい。
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魔力:91579/99999
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あと1500ぐらい消費すればようやく8万台である。もう新しいエリアに入るときは、常時鑑定を作動していようか。そんなレベルで尽きる気配がしない。
まぁ見えるのは回転草と丘ぐらいだから今回は使用しないのだが。15メートルくらいの穏やかな丘を登り終えると、登ってくる前と変わらぬ光景が広がっていた。
草原と丘、低木とタンブルウィード。多少はでこぼこしている草原地帯だが遠くまで見通せた。
「なぁんだ、ここも何も無さそうね…えっ?」
遠くの方で見える光景が、おかしいことに気が付く。
明らかに丘よりも大きいタンブルウィードが幾つも転がっているのである。異常を感じ逃げようと思ったが、それよりも早く巨大タンブルウィードが此方に転がってきていた。
「あーヤバイですヤバイです。風のように速く縦30メートル横40メートルくらいのタンブルウィードがあたしに突っ込んできてます。」
パニックのあまり台風の時の天気のおねぇさん見たいなことを口走りながら必死に手を動かす。
七本のエルシズロッド全てに最大値まで魔力を流し込み四本で巨大な盾を、三本でその支えを作り、スキーのジャンプ台のようにするとその影に隠れて丸くなる。
「ひいぃ神さま仏様誰がお助けを~」
願いが通じたのか、赫赫に輝く日緋色のジャンプ台で飛び立った巨大タンブルウィードは東の空に消えていった。
「じょ、冗談じゃねーですよ」
かなりのヤバさに思わずキャラが崩壊する。そしてロッド回収のためにジャンプ台を見たら損壊に耐えきれなかったのか、ゆっくりと霧散していくところだった。
冗談じゃねぇ、込められる最大の魔力を使ったのに、とかさっきのは一体、とか次々に浮かぶ考えを捩じ伏せ、ロッドを回収すると白林エリアに逃げ去るあたしであった。
白林のエリアの東端まで逃げ続けようやく一息つく。
「さっきのはかなり危なかったわね…」
どこかゲーム感覚が抜けてなかったのかもしれない。異世界に来てどこか浮かれていたのか。前世の小説でもわりとよく見た展開だ。
「でもあんなのに殺されかけるなんて…っ」
悪意や殺意は感じなかった。言うなればファンタジー交通事故未遂。あげく相手はすでに枯れていて、種を遠くに運ぶだけの存在である。
「この世界では死骸でも十分に人を殺せる。」
今回学んだことを深く胸に刻むと同時に、異臭を感じエルシズロッドを構える。
恐慌状態で逃げていたせいで、何かに着けられていた事に気がつけなかったようだ。
ぐちゃり。ぐちゃり。ぐちゃり。
何か粘液を思わせる音と共にソイツが見えてきた。
皮膚が溶けたのか、所々筋肉が丸見えになっているピンクの肌を持ち、オークの上半身を縦に半分に分け、間に頭のないオークを挟み無理矢理くっつけたような上半身をし、両肩にはオークの生首が植え付けられ、下半身はケンタウロスのように腰から第二の胴体が生えていた。
「……aaaaAAAAAAAhhhhhaaa!!!!!!!?!?!?」
自分の絶叫で我に返ると、慌てて横に身体を投げ出して避ける。
すると凄まじい速度で、先程まであたしが立っていた所を漆黒の戦槌が通り抜け、地面を砕き、あたりを地割れまみれにしてしまう。
「畜生!殺意満々の死骸じゃない!」
見覚えのあるパーツに相手の正体を見破りながら素早く起き上がる。バケモノは後ろ足で立ち上がると両肩の頭が喉を震わせ咆哮をあげる。
『う゛ぃ ひ ひ ひ ぃ ー ん』
おぞましい咆哮で思わず身が竦む、がしかし不意に身体が軽くなる。まるでそれよりももっとおぞましいモノと戦った事があるから平気だと言うように。
咆哮の束縛から逃れたあたしは直ぐに巨木エリアに向かう。白木エリアの木では何の役にも立たない。
せめてもの抵抗で白木の影に隠れるように移動をするが、全くふりきることができない。
「やっぱり何の役にも立たないじゃない!」
思わず愚痴を吐きながら後ろをみると、オークズウッドクラブを引き抜き、此方へぶん投げようとするバケモノの姿が眼にはいる。慌てずに走り続け、タイミングを合わせて前の地面に飛びこむ。頭上をこん棒が掠めていくと同時に、腕の力で跳ね起き再び走り続ける。
「斜め下に投げられていたら即死だったわね!」
こうして行きはのんびり行った道を全力で走り続け、ようやくあたしは巨木エリアに戻ってきた。
元が鈍重なオークだったお陰か、なんとか距離をおくことに成功したあたしは巨木で視線を切ると慌てて木上に登るのだった。