「んんぅ……」
冷たい夜の風が入ってきて目を覚ます。
「折角小屋を作ったのに、外で寝ちゃったわね。」
堅いウロのなかで寝たせいか、全身に違和感を感じる。伸びをしながらウロの外を見ると、あたりは真っ暗になっていた。
「オーク達はどこかに帰ったのかしら。」
あんなにプギプギ言ってた鳴き声が全く聞こえない。忘れないようにと足元に落ちていた黄金のネックレスを首につけ、ウロのなかから出る。
「なんにも見えない。」
どうやら今夜の天気は曇りのようだ。唯でさえ暗い夜の森が、自分の横に出した手の指先も見えないほど暗くなっている。
遠くで何かが吠える声と、地球では聴かなかった虫達の音だけが得られる情報だった。
しょうがないので一端ウロにもどり、一番痛んでいそうなエルシズロッドを拳に込めた魔力の光で探す。
もちろんその光は外に漏れないようにだが。
「これかしらね。」
腰に指している七本のエルシズロッドのうち一番左に指してあるそれは、利き手の右手で引き抜きやすかったからか、一番消耗していた。
空中でほどけるように、つまりは最初投げた時だけは光が漏れないようにウロの中にあった植物の繊維を巻き付けて、魔力を込めて投下する。
「なんだかケミカルライトを使う特殊部隊みたいだわ」
そのエルシズロッドは計算通り空中で光を漏らしはじめ、地面にまでたどり着くとぼんやりとピンク色の光で辺りを照らしはじめた。
「とりあえず真下でオークの大群が寝てるってことは無さそうね」
ウロからちょこんと頭をだし、ひかり続けるエルシズロッドを眺める。ぼんやりと明かりを眺めていると、ふとあることに気が付く。
「あたし、夜の活動に向いてないじゃん」
試しに天使の紋章に魔力を込めてみると足の部分が桃色に輝き出し、慌ててやめる。
エルシズロッドに光らないように魔力を込めてみるが、ぼんやりとだが光ってしまった。
「これじゃ戦闘になったら光で場所がすぐにばれちゃうわね。」
生憎ながら魔力を流さないでも使えそうな武器は、つい先程貞操帯へと姿を変えていた。
「うーん、無理して夜移動しなくてもいいわね。」
どうせ用事なんて無いのだ。
あたしはウロの入り口を、外から持ってきた巨木の葉っぱで塞ぐと再び眠りについた。
◆◇◆◇
「ひゃあっ!?」
朝、吹き込んできた水が頬に当たり飛び起きると、外は大雨だった。
「うわぁ……すごい雨ね。」
昨日の夜穴を塞ぐために何枚か押し当てておいた巨木の葉が、ずぶ濡れになって当たりに散乱していた。
「ゲリラ豪雨?それともスコールかしら」
夜は暗闇で先が見えなかったが、今は雨で先が見えない。お先真っ水である。
そもそも葉が乗っても折れないぐらい頑丈で大きい巨木ですら防げない大雨である。出たら一瞬で濡れ鼠になってしまうだろう。考えながら皮袋に手を伸ばすと、指が袋の底を掠めた。
「あれっ……。木の実がないわね……」
予備のエルシズロッドを中から取り出した後、袋をひっくり返しても何も出てこない。
「不味いわね……。」
スペルの実は食料としてだけではなく、水分補給も兼ねていたのだ。このまま止むか解らない雨を待ち続けるのはあまり得策では無いだろう。
「一度、拠点に帰りましょう。」
取り合えずこの天気では東の森の探索なんてできないので、拠点に戻ることにした。
この大雨のなかを突っ切っていくことは大変だが、方法が無い訳でもない。
エクスタシスロッドに魔力を込め、自分の全身を薄い魔力の膜で覆っていく。
「こんな感じかしら?」
試しに片腕だけ外に出してみる。
大量の雨はあたしの表面を滑って行き、また落ちていった。
「どうやら大丈夫のようね。」
秘技魔力レインコートの完成である。維持に魔力を1分間に60くらい消費しそうなので、中々非効率な技であるが。早速ウロの外に出る。
「ふふ、傘がなくても濡れないのは良いことね。」
地球に居た時は傘に片手が塞がれるのが煩わしかったので、とても快適だ。
そのまま巨木から飛び出し、紋章に魔力を込め空を駆ける。
しばらく空を走り続け、ある程度は進んだが思ったより進めていない。
「風の抵抗に、雨の抵抗が混ざったのかしら。」
魔力の膜で防いでいるが、水が顔を叩いていくのが鬱陶しい。その上身体は濡れていないが、気温の低下と共に体温が下がってきたのを感じる。
「もうちょっとで拠点だから、かんばれあたしー!」
自分で自分を応援しながら空を走る。もうちょっと何かならないのだろうか。寒さと視界の悪さでやけくそになりながら走り続けていると、ようやく拠点が見えてきた。
「ラストスパートっ!」
紋章に込める魔力を更に強め空を翔上がる。巨木の表面に刻んだだけの梯子はスルーである。この大雨で梯子は間違いなく滑る。
「雨の日は家に籠るに限るわ」
巨木の拠点エリアまでたどり着いたあたしは、そうつぶやきながら拠点のウロの中から荷物を取り出し、地面に突き刺しただけの扉擬きを引抜き小屋の中に入る。
「お手製の小屋でも、やっぱり自宅は落ち着くわね。」
まだ過ごした時間よりも建築にかけた時間の方が長いが、既に愛着心がわいていた。自分の魔力がたっぷりと練られているせいなのだろうか。
「でも家具が何もないわね……。」
小屋のなかにあるのは巨木の板で作ったベッドに鏡の台ぐらいしかない。
え?鏡なんてもっていないだろって?
……ティラスの両手剣を作った台に填めるとちょうどいい感じに姿見になるのだ。
早速背負っていたティラスの両手剣を下ろし、姿見の土台に立て掛ける。
「そう言えば外においておいた角材、水に濡れちゃったわね……」
この豪雨ではもう使い物にならなくなってるかもしれない。木材の保存方法なんてしらないけど。
そんなことを考えながらご飯を食べる。相変わらず最悪な匂いだった。
3時間ほど家に籠っていたら雨はやんでいた。
その間やることが全く無かったあたしは、魔力でやすりを作りひたすら家の内側を磨いていた。
「ピッカピカになったわね。」
出来上がった大量の木屑の上で胸を張るあたし。
魔力刃で強引に切ったせいかざらざらとしていた家の木の表面は、見事に頬ずりしたくなるような滑らかな表面に変貌していた。
掃除のために魔力で木屑を包み込み、強く圧縮する。
「火をつけるときに便利かしら?これ。」
結構コンパクトになった大鋸屑ボールが三つほど出来上がる。そう言えば異世界に来てからまだ一度も火をつけていなかった。普通だったらもう猪あたりを倒して丸焼きにしているシーンとかあるはずなのに。
今度オークでも焼いてみようか?
そう考えるが、あまり食欲がわかない。やはり二足歩行をするものを食べる気はわかなかった。
「さて、今度こそ東の森を調べるわよ」
三時間ちかく木を磨きあげ、少しうんざりとした気分も晴らしたかったのでいい加減に東の森へと向かうことにした。
ベッドに座ると服を脱いで、小屋に戻ってきてから脱いでいた黄金の貞操帯を身につけて鍵をかけてから服を着た後、姿見の剣座からティラスの両手剣を引抜き背負う。
「後は少し多めにスペルの実を持っていきましょう。」
ウロの中にどっちゃりと積んであるスペルの実を何時もより気持ち多めに袋の中につめ、その上に少しだけ回転草刃の実も袋にいれる。
「予備のエルシズロッドを入れる袋も欲しいわね……」
皮袋には木の実をたくさん詰めてしまったので、代わりに予備のエルシズロッドを何本か貞操帯のウェストベルトに挟む。
「元からエルシズロッドを入れるために付いていたようなベルトね。」
貞操帯は黄金だから着ると少し重くなったが、ロッドを挟み込んでも全く身体の動きは阻害されなかった。流石は神お手製SSSSSレア装備である。
「さて、あの青い木がどうなったか見に行きましょう。」
紋章に魔力を込めあたしは飛びだった。