向かう先はちょっとした事務所のようなところだった。
あそこでギルドカードの再発行がされるのだろう。
ここにきて気が付いたのだが、ギルトカードの初回作成と二回目の作成が別の手順だったらかなりマズイことになりそうだ。
たのむから田舎の商店街のポイントカードぐらい簡単に新しいカードを作れるシステムであってくれ。
そう願っている間にも城壁に隣接された事務所っぽい建物の入り口についてしまった。
「うむ。ここが門の再発行所だ。足元に気を付けたまえ、予算が下りなくて壊れたままなのだ。」
どうでもいい話と共にチョビ髭がこちらに振り向く。
そもそも人が出てきたことに驚き、逆に警戒していた様な場所にある門なのだ、おそらくだが監視するだけの毎日ですることが無かったりするのだろう。
まぁ全てあたしの妄想だが、多分それで予算も下りないのだろう。
ある程度リラックスした様子であたしが頷くと、チョビ髭は建物の中に入っていった。
リラックスした体を装うのはギルドカードを再発行するだけなのに警戒していたら、人が出てこない筈の迷宮から出てきた怪しさもあって、不審者確定してしまうから頑張って演技している。本当は緊張していて、じんわりと脇が湿ってきてるけど。
そのまま着いていこうとすると、確かに入口の階段部分が破損している。
「汚いわね……。」
思わず口に出してしまったが、チョビ髭は聞こえなかったのかそのまま建物の入ってすぐの横脇に置かれているカウンターのような、小さな机と椅子があるところに入っていきそのまま椅子に座った。
「さて、とっとと発行してしまおう。」
隣の棚から羊毛紙と羽根ペンそれから透明な水晶玉を取り出して、そう言ってくるチョビ髭。
この瞬間あたしにとってマズイ事が3つ浮かぶ。文字は同じか、羽根ペンなんて使ったことない。何あの水晶玉。
だがそれは顔に出せない。せめて文字が同じかどうかさえ分かれば安心してかけるのだが
「そうね、あたしだって迷宮を抜けてきて疲れているもの。早く終わらせてしまいましょう。」
そう言って羽根ペンを取って椅子に座る。どこか何か文字は書かれていないか、目がすごいキョロキョロしている気がする。
「待て」
え?もうバレちゃったの?流石に怪しすぎたかしら。でもまだ堂々としていれば大丈夫なはず、多分。
「何よ」
「何よではない、私が記録を取るに決まっているだろう。羽根ペンを返せ」
「あーごめんなさいね。あたしが書いた方が早いと思ったのよ」
そういってチョビ髭に羽根ペンを返す。あー!もう!早とちりしてた。
恥ずかしさで思わず顔が赤くなり、身体が甘く疼く。
最悪、羞恥魅了の呪いってこんな下らない羞恥心にも反応するのね。
悶々としているあたしに気づかずチョビ髭は続ける。
「ギルドカードを無くしたのだからギルドランクはまた最下位からだ。それは解っているな?」
「それくらい解ってるわよ。あーあ、またあの人に怒られちゃう」
あの人って誰だろう。あたしはこんなに流れるように嘘をつけるタイプだっただろうか。身体が変わって思考に舌が付いてこれるようになっただけかもしれないが。
「なら早くカード石に魔力を流せ。こっちは暇じゃないんだ。」
「わかったわよ。どうせ暇なくせに…」
適当に面倒な奴って思われておけばあまり突っ込んで聞かれないかな?とりあえず水晶玉に少し魔力を流す。
すると水晶玉がピンク色の光を放ちはじめた。頭の悪そうな色だ。
「ふむ…。それぐらいでよかろう。ではそのまま手を離さないように。」
そう言ってちょび髭は水晶玉と羊毛紙をコードのようなもので繋いだ。
紙に書いた情報が送られたりするのだろうか?
「入力開始する。じゃあまず年齢を教えてくれ。」
「14歳です」
あたしの答えを聞いて羊毛紙に羽ペンを使い、14歳と書き込んでいくちょび髭。どうやら普通に日本語が使われているようだった。
「14歳か。職業はなんだ。」
「冒険者です。」
この質問は来る前から悩んでいた。
剣士とか魔法使いのような戦闘における職業なのか、学生とか宿屋のような普通の職業なのか。
悩んだ末にどっちとでも取れるような冒険者と答えたが、大丈夫だったのだろうか。
ちょび髭の様子を伺ってみると呆れた様な顔をしていた。
「冒険者なぞこのカードを持っている全員がそうだろう。その背中の両手剣は飾りか?大人しく剣士とでも言えばよいものを……。」
どんな反応も返しにくかったので、真顔で見つめ返していたらチョビ髭はぶつくさ言いながら冒険者と書き込んでいった。
ちょっと変なギルドカードになってしまうかもしれない。
「はぁ……。記入したい名前はなんだ。」
「うーん、どんな名前にしようかしら?」
「偽名も構わんが、あまりに間抜けな名前にすると元クランの奴らが探すのに苦労するぞ。お前のクラン所属は新しいギルトカードを作成した瞬間解除されるのだから。」
「そんなの知ってるわよ。それって一々説明しないといけないのかしら?」
「規則だからな。」
よし、乗り切った。多分もう大丈夫なはず。これ以上反感を買ってもしょうがないので、最初に名乗った名前を答える。
「じゃあ、エルシー・イステアリでお願いするわ」
そう答えると、チョビ髭はエルシー・イステアリと片仮名で書き込んでいった。少しださい。そしてそのまま隣にランク:Fと書き込む。
再発行は最下位からスタートとか言っていたのでFが一番下なのだろう。
「規則は規則だ。そんなに見つめてもFランクからスタートだぞ。」
あたしの目線に反応したのか、そう釘を指してくる。
「そんなの解ってるわよ。どうせすぐに上がるわ。」
「まぁ極大迷宮を抜けてきたお前なら直ぐに最上位に戻れるだろう。ところで犯罪は犯したことはないだろうな?」
「あたりまえじゃない。犯罪だって当然犯したこと無いわよ。」
そう答えた瞬間あたしが触れていた水晶玉が青く光る。
「どうやら嘘はついていないようだな。」
何と、コレは嘘発見器だったのだ。これまで吐きまくってきた嘘に全く反応しなかったコレは無能かもしれないが、流石にコレに触れたまま当然よ!嘘なんてつくわけ無いじゃないと答えるのはやめた方が良いだろう。
「無駄なことはしない主義なの」
そう答えてから少し経つと、水晶玉の一部がパカリと割れて、中からカードが一枚出てくる。
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エルシー・イステアリ
AGE:14 JOB:冒険者
Rank:F CLAN:――
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なんというか、シンプルである。材質はよく分からないが何かの金属に思えた。
「今度は無くさないようにしておくわ。」
「あぁ、少なくともうちの迷宮で無くすのは止めてくれ。」
「じゃあ、もう帰っても良いかしら?日も暮れて、早くしないと宿がとれないじゃない。」
「良いだろう。最後にギルトカード再発行費銀貨三枚をそこのボックスに入れてくれ。」
困った。お金なんて持っていない。ギルドカード作成にお金が必要なんてよくある話だというのにすっかり忘れてた。
「お金なんて持ってないわよ。リュックを投げ捨てた時に一緒に捨ててしまったもの。」
だが弱味は見せない。エルシーの見た目で男相手に弱味を見せていたら、幾つ処女膜があっても純潔が証明できない。
なんて考えながら答えたら、
「なら後日で良い。この事務所に来て受け付けに払えば良いから。今日はもう帰れ。」
呆れた顔を隠さずに手でしっしっとされた。
どう考えても子供への対応である。
そう言えば別にエロゲーの世界に来たわけでもあるまいし、そうそうエロイベントめいた事も起きないのだろう。
「解ったわ。明日払いに来るわ」
そう言ってあたしは事務所から去った。