朝起きると喉の奥の方がイガイガしていた。
借りた部屋が乾燥していたのだろうか。
うまくスペルの実の汁を飲み干せなかった時のような違和感がある。
「まぁいいわ。今日こそギルドに行かなきゃ。お爺さんが場所を知っていないかしら?」
ティラスの両手剣を背負い、
「やぁ、おはよう。お嬢さん。」
そう言えば自己紹介すらしていなかった事を思いだし、慌てて挨拶をする。
「エルシーちゃんって言うんだね。私はロブ。ロブ爺とでも呼んでおくれ。」
ロブ爺さんを見て、何故か安心してしまうあたしがどこかにいた。
一週間ほど森のサバイバルを送ってどこか寂しくなっていたのかもしれない。
「エルシーちゃんは今日はどうするんだい?」
パンやベーコンなどを並べながら聞いてくるロブ爺。
お金も払っていないのにこんなにしてもらっても良いのだろうか。
いや、早くお金を稼いでロブ爺さんへのお礼とギルドカードの作成費を支払う必要がある。
ここは少しだけ甘えさせてもらおうと考えながら、あたしは答える。
「今日はギルドに行こうと思います。」
「ギルドへの道はわかるかい?」
「いえ……」
ギルドへの道どころか、この街がどういう形をしているのかも解らない。
悩んでいるとロブ爺さんは羊毛紙に、簡単な地図を描いて渡してくれた。
「良いんですか?」
「何、羊毛紙くらい簡単に手に入るさ」
ロブ爺さんは地図を書き込みながら、ここは危ないから入ってはいけないとか、ここのお店は親切だから行くと良いとか、色々と教えてくれた。
「あとこれが昨日言っていたミルクだ。今朝搾ってきたばっかりの新鮮な物だよ。」
そう言ってロブ爺さんは黄みがかった牛乳瓶を五本並べていく。……少し多いのではないだろうか。
しょうがないので3本この場で飲み干すと、空になった瓶を受け取ってもう少し採ってきてあげようと言って台所を去った。
いや、もう十分なのだが……。
ミルクはひどい味だが、こんな町外れのスラム街の様な所で暮らしているのに、どうしてここまで人の事を思って行動できるのか不思議に思い、瓶を抱えて戻ってきたロブ爺さんに鑑定を使った。
―――――――――
氏名:????????(ロブ爺さん)
性別:男性
種族:人間
Lv:33
SP:33
年齢:72
身体状況:健康
性欲:0/10000
称号:酪農家 栄養満点 ??
パラメータ
体力:250
持久力:70
筋力:20
技量:1000
敏捷:1500
攻撃力:20
防御力:25
魔力:0
生体スキル
精力Lv33
体液増量Lv33
絶倫Lv33
戦闘スキル
無影柳葉刀術Lv58
闘装精製Lv12
―――――――――――
何ヵ所か読めなかったが、間違いなくこの街に訪れてから見た人のなかで一番強い人物である。
でもそんなロブ爺さんがボロい小屋に一人住んでいるなんて、どことなく世間に紛れる仙人のような感じがして、格好いい気がする。
それにいつの間にか見れるようになっていた性欲の項目が0である。
歳だから枯れているだけがしれないが、女の身体に成ってしまった身としては安心できる。
「今日も泊まって良いんですよね?」
もう少しロブ爺さんと一緒に暮らしたい気がした。そう聞くと、
「勿論だとも。私はミルクが飲めないから飲んでくれる人が要ると助かるよ。」
自分は飲めないのに人のために牛を飼っているのだろうか。思わず尊敬の念がわいてくる。
食事を終えると、ロブ爺さんはポシェットのようなものをくれた。
あたしが着けている皮袋では牛乳瓶が運べないだろうと態々サイズ調節までしてくれた。
それでも牛乳瓶五本だと中々の重さに成ってしまうので、出掛ける前に二本ほど飲み干す。
空間倉庫に閉まっても良かったのだが、まだロブ爺に空間倉庫を見せる気はわかなかった。貞操帯の鍵だし。
するとロブ爺さんはそんなに私のミルクが気に入ったのかい?と聞いてきたので、お世辞だが一応ロブ爺さんのミルクはとても美味しいですと返しておいた。
そうしたらお世辞が嬉しかったのか、帰ってくるまでに特製ミルクを作っておくと言われてしまった。あたしはそこまであのミルクが好きという訳では無いのだが……。
まぁもうすでに今日だけで牛乳瓶五本分も飲み干しているから気に入ったと思われてもしょうがないのかもしれない。
お陰で口臭がとんでもないことになっている気がするし、飲みすぎてお腹が若干たぷたぷである。
少し休憩し、ロブ爺にいってきますの挨拶をして家を出る。
「さて、ギルドに向かわなくちゃ。」
ロブ爺に貰った地図を見ながら街の中心部に向かう。
まだ朝だからか、あまり人は出歩いていない。
それでも店の前を掃き掃除している人に獣耳が生えていたり、すれ違う人が剣を携えていたり、異世界の空気を感じることができた。
「ここがギルドね。」
貰った地図通りに歩いていると、盾の上に剣と杖が交差しているエンブレムが描かれた看板を掲げている建物があった。
入り口を見てみると、西部劇で良く見るウェスタンドアである。
「スウィングドアと言うことは荒くれ者が多いのかしら……」
原作のエルシーもGサービスというギルドみたいな場所を利用していたからか、使用者がどんな感じの層か何となくわかる。
もしかしたらトラブルが発生するかもしれないと言うことを覚悟しながら中に入った。
◆◇◆◇
文明は迷宮との闘いの歴史である。多くの滅びた国々がそれを証明している。では迷宮がなぜ作られたのか。
それはとうに滅びたある国の神話に成るが、邪神が世界を支配するために産み出したものらしい。
つまり殆ど解っていないと言って良いだろう。
解っていることは、極大から極小まで様々な迷宮が存在し、世界を涜す為に拡大を続けているということだけだ。
迷宮は生きているという説を唱える学者もいた。迷宮は一種の食虫植物ような存在で、モンスターと財宝を生み出していると。だが、外から栄養をくれてやらなくても迷宮は拡大を続け、全てを呑み込む。
「……えー、であるからして、我々冒険者の目的は断じて迷宮内で手に入る希少な素材ではなく、中の魔物を倒し迷宮のエネルギーを削ることなのであります。」
あたしはギルドにある十人ちょっとしか入らない小さな教室の中で授業を受けていた。黒板の前に立って授業をしているのがあたしの最初の担当である。
あの後ギルドに入ったあたしは知ったかぶりとはったりでなんとか誤魔化そうとしたが、本職は誤魔化せず初期講習を受けていないモグリと数秒でばれて教室にぶちこまれたのだった。
一応この世界の知識が手に入るのでちゃんときいておく。只で授業が受けられるなんて冒険者も中々恵まれていると思う。
主張内容がギルドに張られている街からの依頼なんて良いから、冒険者は大人しく迷宮潜って魔物をぶっ殺せなのは完全にこの教師が片寄っているだけだと思うが。
その後ギルドのランクの手続きやギルドの機能についてすごいさらっと雑に説明された。
……他の担当に教師をやって貰った方が良かったのかもしれない。
その代わりと言ってはアレだが、この街周辺の迷宮の情報は異常なほど手に入った。あたしは特典のお陰でとても強いけど、Fランクの雑魚に極大迷宮の特徴を教えてどうするんだ……。
少し呆れるが、おだてればもっと情報が手に入るかもしれない。
「所であたしは迷宮メインの冒険者に成りたいんですが。」
「おぉ!Fランクなのに見込みがあるな!君もかつてギルドの創設者の弟が言っていた迷宮脅威論を信じているのか!いやぁ君のような見込みのある冒険者は久しぶりに」
「依頼と!迷宮探索を!同時にこなせる組み合わせとかありますか!?」
話が止まらなくなりそうなのでぶったぎりながら質問すると、
「おぉ!そうだな!冒険者といえど稼がなければ迷宮探索の武具も維持できないからな!とはいえ君はまだ Fランクだしこの辺りの迷宮で……」
物凄い勢いでブツブツと言いながら立ち去り、依頼の紙を持って戻ってくると
「……だな。よし!これが良いだろう。依頼受理はしておいたからもう行けるぞ。」
『 中迷宮 小鬼の花園に咲いている小鬼花の雄蕊を三本採取してほしい。』
いや、なぜFランクに中迷宮の依頼を持ってくるのか。極小迷宮の依頼を大人しくくれないのか?
「この迷宮は冒険者崩れの盗賊がよく現れるようだが、女の君なら殺されないですむだろう!冒険者がくだらないことで減らないことは良いことだ!」
いや、全然大丈夫じゃ無さそうなんですけど。
「さぁ気を付けて!ゴブリンどもを根絶やしにしてこい!迷宮崩壊させてきてもよいぞ!」
突っ込みをいれる前にギルドの外まで追い出されてしまった。
「……何よ、アレ。」
とは言え極大迷宮で一週間過ごしたあたしなら余裕だろう。大人しく小鬼の花園に向かうことにした。