「ここね。」
フォト君と幾つか露店を冷やかしながら、フォト君のクランが停めている馬車までたどり着く。
「お、漸く着いたかい。」
声に反応し、振り替えると魔法使いの男が大きな石に腰をかけていた。
「貴方達が無駄に速いのよ」
「いやぁリーダーが花エリアの応援いきたいって五月蝿くてね」
「貴方はいかなかったのかしら?」
「脱出するのに魔法使いきっちゃったよ」
やれやれと大袈裟に肩を竦める魔法使い。
「魔法?魔力じゃなくて?」
「魔力にはそこそこ自信があるけどね、あんなにゴブリンがわいてくるのは思わなかったから、あまり魔法を入れてなかったんだ。」
「ゴブリン。沢山。」
話を聞くにどうやら魔法は使い捨ての様だ。
「なら速く入れ直して追いかけなさいよ」
詳しく聞くために、それっぽいことを言ってみる。
「僕が魔法書を持ってるように見えるかい?あんなデカブツ、クランハウスに設置させてもらうのも大変だったんだ」
「即席魔法書。高い。弱い。脆い。」
一々嫌味ったらしく言う男だ、それに比べてフォト君の何て可愛らしいことか。
だが正直二人とも何言ってるか、全然わからない。
「まぁ、魔法なんて見たことないからよく解らないけど。」
やっぱり正しい知識を得るのに、知ったかぶりは良くないと思う。
「ふーん。」
「何よ。」
「いやぁ?あんな魔力の塊みたいなブーメランを投げてきたのに、魔法を知らないなんて正直思えなくてね。あ、でも魔法知ってたらもっと効率よく魔力を使うかな?うーん……」
此方をちらりと見たあとに考え始める魔法使いの男。確かにちぐはぐなステータスで不審な感じがするかもしれないが、それではあたしが困る。
「助けてあげたお礼に魔法について教えてくれても良いのよ?」
「いいよー?一応リーダー助けてもらったしね」
「一応じゃない。助けてもらった。」
「おうそうだな。フォトはこのボイン娘が気に入ったかい?」
「ボイン?気に入った。」
あー。絶対フォト君ボインの意味わかってない。でもそこが良い。無垢なる者を穢すときには……ハッ。
「うーん、やっぱり教えるのやめようかなー?この子、危ないと思うよ。フォト」
「エルシー。良い子。」
「フォトがそこまで言うなら、おしえてあげるよ。」
フォト君のフォローもあって魔法について教えてもらえるようだ。
と言っても使うだけなら、特別な知識とか呪文とか必要ないらしい。
「ならどうやって魔法を使うのよ。」
「魔法陣を刻んで、そこに魔法を入れるだけだよ。あとは使いたい時だけ取り出してやれば良い。」
試しに一つだけ用意してあげよう。
そう言うと魔法使いの男は懐から羊毛紙を取り出して魔法陣を書き込んでいく。
「これが灯火の魔法陣紙さぁ。炎の魔法書は写本で覚えたから何処でも入れ直せるんだよねぇ。凄いでしょ?」
「さぁ?凄いと言われても良く解らないわ。」
一通り聞いてみると、この世界の魔法は倉庫の出し入れのようなものだった。
まず空の魔法陣を身体に刻み、魔法の保管場所を作る。
次にその保管場所に魔法を入れる。
後はその魔法を使いたいときに、呪文を詠唱することで出して、自分の魔力で入れておいた魔法をコントロールするって感じらしい。
因みに魔法入れるためには魔法書に書かれている魔法陣に魔力を込めて、魔力を魔法に変換して保管場所にしまう必要がある。
だから何処でも魔法書が作り出せたら凄い、らしい。
「でも人によって保管できる数が違うの?」
「そう。僕は7画のセブンウィザード。7種類の魔法を7個まで入れられるんだ。」
倉庫として刻む魔法陣に浮き上がってくる模様の画数が多いほど、使える数が増えるそうだ。
「無理矢理に画数増やしたらどうなのかしら?こう、ぐいーっと。」
「あはは、面白い発想だけど才能を越えて欲張ると身体が爆四散するよー。まぁレベルをあげたりして才能が拡張されると、魔画数も増えたりするんだけとね。」
自慢げに手のひらに刻まれている魔法陣を見せてくる。数画多いだけで、ストックできる回数が段違いだ。
「なら貴方はこの世界でも上の魔法使い?」
「いやぁ。そんなこと全然ないよ。エルフなんて20画刻まれた状態で生まれてくるらしいからね。」
「それは……とんでもないわね。」
「ずるいよねー森の紋章とか言ってるけどさー。産まれたときからほとんどの人間より魔法の素質がありますって……」
魔法使いがぶつぶつ呟きながら石の上で寝転び始めると、フォト君が近づいてきて
「僕。45画。」
どや顔で下腹部に刻まれた魔法陣を見せて自慢してきた。
それは別に良いのだが、刻まれている模様が前世で淫紋と呼ばれていたモノにしか見えず思わず絶句しかけてしまう。
「す、すごい数ね……。」
真っ白でしなやかなお腹と吸い込まれるような恥骨上縁、その間にダークピンクの色で刻まれている子宮を模したように見える魔法陣がとても良い、抱きついて押し倒して頬擦りしたくなる。
でもたしかフォト君って……
「魔力。0。」
「残念ね。」
「残念じゃないよー。レベルアップすればたまに魔力も増えるんだから」
いつの間にか起き上がっていた魔法使いがあたしとフォト君の間に身体を挟み、視線を遮ってくる。
どけっ!フォト君の
ハートのように刻まれた魔法陣を囲むように、薔薇の茨の様な刻印がぐるりと刻まれているのは、実に素晴らしいものなんだぞ!
「(この子可愛いのに視線が男しかいないクランの拗らせた奴がフォトを視る時より酷いな……)フォト。ちゃんと服装を整えなさい。」
「うん。」
魔法使いの男の言葉を聞いてフォト君の魔法陣は仕舞われてしまった。
「……でも他の人に魔法を入れてもらうのは駄目なの?」
ふと気になり聞いてみる。魔法陣が所詮は魔法を入れておく倉庫にすぎないのなら、そこにいれる商品は外注でも構わない筈だ。
「出来るけど、魔力0じゃ発動した後の操作が少しもできないからねぇ。危なくて回復魔法も入れられないよ。折角4545種類の魔法を4545発入れられるのにねぇ」
「そんなに魔法の種類はあるのかしら……?」
「さぁ?それは僕が考える事じゃないよ。さて、君に魔法保管陣を刻んで、中に灯火の魔法を入れてみようか。何処が良い?」
そう言って魔法使いの男は羊毛紙を取り出して、只の円を書く。
「おすすめの場所とかあるかしら?」
「さぁ?でも女の子の冒険者はモンスターとかに押し倒されたりするから、お腹とかに刻んでおくと反撃に便利とか聞くよー?」
どうやら魔法陣を刻んだ場所は咄嗟のときに、魔法がそこから発射できるから反撃に良いらしい。
普段は魔法陣から杖に伝えて、増幅させて使うみたいだが。さて、どこに刻んでもらおうか。
さすがに二人の前で貞操帯を脱ぎ始める気はしないからお腹とか下腹部はNGだ。
目の前の男のように、手の平に刻んだら杖に近くて便利そうだが、どれくらい魔法が使えるか他の人にバレやすい欠点とか有りそうだ。
「悩み所ね……。フォト君はなんで魔法陣をそこにしたの?」
「ゴブリンメイジに刻まれた。」
「魔物に魔法陣を刻まれる事なんて、あるのね。」
「……発情魔法を魔法陣に叩き込んで、暴走させるためだよ。魔力さえあればそんなこともされなかったんだろうけどね。」
悔しそうな顔をして杖を握りしめる魔法使いの男。どうやらこの男もフォト君をちゃんと大切に思っているようだ。すこし安心する。
「不用意に質問したわね。……話は変わるけど、魔法陣って複数刻めないのかしら?」
「んー数を増やすほど効率悪いよー?例えば本来10画の魔法陣を二つに別けると、5画の魔法陣が二つになるんだけど、10種類の魔法が10回分入れられたのに、10種類の魔法が5回分しか入れられなくなっちゃうんだ。」
「つまり種類は減らないけど、回数が減るってこと?」
「そういうことー。しかも端数は切り捨て~。」
「なら両手のひらに一つずつだけお願いするわ。」
エルシーボディを持った私なら、きっと凄い魔法陣になるはず。
原作においてエルシーは可能性の塊とも呼べるほど才能を秘めた存在だった。それは世界が変わっても通じるはず。そう思ったあたしは両手に魔法陣を頼むことにした。
会話の練習。成果はなおきです。