暁の堕姫~堕ちていく人妻~ 作:人妻大好き
個室の中に女の嬌声が響き渡る。
汗とアロマと女の淫臭が入り混じった薄暗い部屋の壁に、二人分の影が踊り狂っている。
「ああーーーーッ! ん、ああ、イイぃ、んん、ふぐぅ! ああ、ひ、い、ん、くっひいいいいいいん!!」
ベッドの上で狂ったように叫んでいるのは、赤毛が特徴的な女だ。人間としてはそれなりの年齢なのだが、まだまだ見た目は若い。シンディの名で店に登録している常連客だ。
それが、バックから串刺しにされて喘いでいる。
固く雄雄しくそそり立ったペニスの持ち主は、もちろんこの店の経営者である綾瀬だ。性感マッサージ店ではあるが、同時に特殊浴場としての機能も併せ持っている。
「ひい、ひい、んひぃ、大きい……ん、あふ、ん、奥、届いてぇ、しゅごいぃのぉ!」
がくんがくんと美波は身体を前後に揺さぶられ、結合部から愛液が零れ落ちた。
「子どもを人に預けてソープ通いというのも、如何なものかと思いますけどね」
「言わない、でぇ。今しか予定が空いてなかったんだから、仕方ない、ん、ふあ! ふ、ん、んああッ! 綾瀬さんが、気持ちイイのが悪いんですからぁ」
蕩けた顔で美波は媚びるように腰を振り、自分でも動く。
すでに何度も交わっているので、綾瀬も彼女の膣内の事は知り尽くしている。イカされたがっている女をイカせるのは、綾瀬にとっては楽な仕事だ。
美波の膣肉は、子どもを設けているとは思えないほど瑞々しく、男を求めている。単身赴任だかで帰ってこない夫のことを忘れて、獣のように腰を振っているのが今の美波の姿である。
もっとも、この店のコンセプトはそこにある。
日常を非日常に変える。
夫や子どものことを忘れて、快楽に溺れる時間を提供するのが、この店の目的である。そう考えると美波はまさしく、コンセプトに嵌ってくれた良客と言えるだろう。
「あん、あん、ああん♡ もっと、もっと突いて、ください! そこ、激しくぅ!」
髪を振り乱して絶叫を続ける美波。
この日だけで何回イッたか数えることも億劫なくらいにイッてしまった。
やがて力尽きて仰向けに寝転がった美波の隣に、綾瀬も横たわった。
「後、どれくらいですか?」
「十五分といったところです」
「まだ、けっこう残ってる」
「再戦しますか? それとも、オプションの追加は?」
「今日は止めときます。ちょっと、疲れちゃったし」
「そうですか。残念です。シンディさんのように可愛い方と関われるのは、この仕事をしていると滅多にないので」
「変に煽てないでください。わたしだって、もういい歳なんですから」
そんなことを言いながらも美波は嬉しそうだ。
風俗の仕事をしていれば、相手をする客の外見は様々だし、この暁の帝国には人間だけでなく何種類もの魔族が暮らしているので、種族そのものが違う相手も多い。
もちろん、その程度のことでサービスを変えることはありえないが、モチベーションに差異があるのは仕方がないことだ。
「そういえば、綾瀬さんは魔族なんですか?」
綾瀬の腕にはリングがついている。魔族登録証だ。これをつけているということは、人間ではなく何らかの魔族であるということだ。
問われた綾瀬は今更ですか、と呟いてから、
「ええ、そうですよ。私は一応、夢魔の仲間です」
「へえ、そうなんですか」
「あまり驚きませんね」
「生まれも育ちもここなんで。それに夢魔の知り合いもいますしね」
「そうですか。それは珍しい。正直、夢魔なんて今となっては数の少ない希少魔族ですよ。この国にもいるんですね」
何と言うことのない雑談をしながら、綾瀬は美波の髪を梳くように撫でる。
「そろそろ時間ですか」
「じゃあ、最後にキスしてください」
「私から?」
「イチャイチャ恋人コースなんですから」
「左様で」
慣れた口調で言葉を交わす二人。
綾瀬は美波を抱き寄せて口付けをする。柔らかい美波の唇を自分の唇で包み込み、ちゅっと軽く吸った。
「ありがとうございます」
「お疲れ様でした」
「そうそう、どうでした? 雪は」
「個人情報なので、お答えいたしかねますが……普遍的な情報としては、大変に美しい方でした」
「でしょう。昔からの超美人」
「氏素性は……まあ、置いておきます。それぞれの事情があるのでしょうし」
さすがに、雪菜は有名人だ。
名前も顔も知らない者は、この国にはいないだろう。
綾瀬もまさかとは思ったものだ。あんな有名人が、この店を利用するとは思わなかった。
「どんな家にも事情があるってことね」
「まあ、この仕事をしていれば、そういった方はたくさんいらっしゃいますから、今更ではあります」
☆
綾瀬の仕事が忙しいのは、実は昼間だったりする。それは、男性と違い対象としているのが女性であり、多くは家族の目がない昼間に利用するからだった。
仕事帰りの疲れたキャリアウーマンが利用する場合もあるが、全体としては主婦層が多い。
そんなこともあって夜は比較的予約が取り易い傾向にある。
夜の十時を回った頃、彼女――――雪菜は店の扉を潜った。
綾瀬からすれば最高級の美女がやって来てくれたのだ。氏素性を考えると、少しばかり危険な気もするが客商売なわけだし、美女が相手ならばやる気もマシマシである。こんなに美人な人妻が、夫に秘密のいかがわしい趣味に墜ちていくのだと思うとそれだけで興奮するものだ。
欲を言えばセフレとして、プライベートでもやりたいくらいだ。
「お待ちしておりました、雪さん。二度目のご来店、ありがとうございます」
「……はい。少し、遅れてしまってすみません」
「お気になさらず。お忙しいお仕事なのでしょう?」
雪菜の仕事は、確かに忙しい。この日も、飛び込みの案件があって、それを処理していたら予約時間を少し回ってしまったのだ。
初めての利用から半月。
あの快感をもう一度味わってみたいという思いが、ずっと雪菜の中で燻っていた。
自分で予約を取るのは、さすがに緊張したが、一度電話をしてしまうと気持ちの面でも割り切れて、思っていたよりもずっと楽になった。
「コースは、ハードマッサージコースのままでよろしいですか?」
「はい」
「それでは、オプションをお選びください」
「オプション……」
ハードマッサージコースは、初めて体験した基本コースと同じアロマオイルと綾瀬の手によるマッサージに加えて、オプションが追加できる。ハードと言いつつも、内容は基本コースを少し過激にしたというだけで、大きく変わるところはない。用意されるオプションは、アイマスクや極太バイブ、ローター、ボールギャグ等々の大人の玩具や、クンニ、フェラといった愛撫に至るまで、比較的多くのバリエーションが用意されている。
「こ、こんなのもあるんですね」
「挿入を伴わないので、性感マッサージの範疇ですよ。性交であれば、ソープ欄から各種コースを選んでいただきます」
「それは、別に、いいです」
性交と言われて改めて、ここが「そういう店」なのだと自覚する。
「オプションは、一つだけですか?」
「いいえ。無料で二つまでお選びいただけます。三つ以上ですと、追加料金が発生しますが、料金は最大でも五つ分だけとなります。つまり、六つ以上選ばれても、五つ分のお値段ということになります」
「そうですか……」
雪菜は悩んだ。
こういった大人の玩具を使った経験は、あまりないということもあるし、自分で選んで人に使ってもらうということにも抵抗があったからだ。
こういう店の値段設定には詳しくないが、最大でも三千円というのはお手頃なのではないか。その程度なら問題なく払えるが、初めてのことが多すぎて一度に多くを経験するのは、雪菜のキャパシティを越える。
「あの、それじゃ、このアイマスクとローターで、お願いします」
「承知しました」
恥ずかしげにオプションを選んだ雪菜。不慣れな感じが、愛らしく思える。各種オプションの中でも無難なところを選んだつもりのようだ。
前回と同じようにシャワーを浴びて、ベッドに横たわり、マッサージを受ける。
アロマオイルを背中から垂らして、満遍なく肌に刷り込んでいく。
この時のほどよい圧迫感が、気持ちいいのだ。
疲れた筋肉と関節が、解れて生まれ変わるような感じがする。普通のマッサージ師としての腕前も、中々のものだという評判は、事実のようだ。
「また肩が凝ってますね」
「身体が資本の仕事でもあります、から、んっ」
ぐいぐいと綾瀬は肩を中心に指圧をする。凝り固まった筋肉を解して、関節を整えるのだ。
さらに今回使っているアロマオイルは特別製だ。
綾瀬は夢魔の一種。性欲と幻惑を司るのが本領である。ラベンダーのアロマオイルには、前回、雪菜から採取した体液から精製した雪菜専用の媚薬が混入している。
それを、身体中に塗り込み、匂いとして吸引させているのだ。知らず知らずのうちに、雪菜の身体は発情状態に誘われている。
「仰向けになってください」
「はい……」
一通り背中のマッサージを終えてから、仰向けになる。媚薬オイルを垂らし、鎖骨からリンパマッサージをしていく。
「ん……んん……ぅっ」
マッサージが気持ちいい。恥ずかしさも手伝って、血流が加速しているような気がする。
「それでは、アイマスクから付けていきますね」
「はい……」
オプションをここで使う。
黒いアイマスクをつけると、雪菜は大きな違和感を覚えた。
「このアイマスク……」
「お気づきですか? このアイマスクには霊的な感覚を遮断する効果があるのです」
「どうして、そんな効果が?」
「普通の人なら、普通のアイマスクだけで十分お楽しみいただけますが、霊感の優れた方ですと、視界がなくなるだけでは意味がありません。どこをどのように触られるかわからないスリルが醍醐味ですからね」
「そ、そういうものなんですね」
アイマスクでのプレイ自体、初めてのことだけに雪菜には綾瀬の説明がいまいち理解できなかったが、アイマスクを装着した瞬間に、今まで見えていたものや感じていたものが一切遮断されてしまったという不安感はあった。
特に霊眼が封じられたことで、これまでと大きな感覚の違いに雪菜は戸惑うことになった。
(本当に、何も分からない……これ、初めてかもしれない)
霊眼に頼らない戦い方を習得した雪菜であっても、通常の視力には依存していたし、どちらも封じられるという経験はなかった。
特に人間は五感の中で視覚を最も重視する生き物だ。目から入ってくる情報を基にして人間は行動を決定することができるので、視覚障害を持たない人間にとっては、視覚はどの感覚よりも鋭敏であると言えるし、それを封じられることで失う情報の量は比較にならない。
だが、一流の攻魔師ともなると話は違う。
第六感とも言うべき霊眼が備わっている彼等彼女等は物理的な視覚以上に霊感が鋭くなっている。雪菜ほどの超一級攻魔師ともなれば、完全に視覚を封じられた状態で日常生活をそつなくこなすだけでなく、綱渡りすら平然とやってのけるだろう。
そうなると普通のアイマスクはなんら効果を発揮しない。
あくまでも男の側が拘束している感じで愉しむ分には十分だが、女性を愉しませなければならないので、霊感そのものを封じなければ意味がない。
よって、この特別製アイマスクが必要になるのであった。
「それでは、ローターも使っていきます。何か気になることがあれば、いつでもお声がけください」
声をかけてから、綾瀬はローターのスイッチを入れる。
震動するローターのモーター音が聞こえてくる。
雪菜は、外の状況がまったく分からない。
今の視覚情報を遮断された雪菜が得られるのは、嗅覚、聴覚、触覚の三つが主になる。そのうち、嗅覚はアロマオイルの匂いしか感じ取れず、聴覚はローターの音と自分の息づかい、綾瀬の動く音を捉えている。そして触覚は――――、
「あっ、あん……っ!」
乳首に触れたローターの感触に雪菜は思わず声を上げてしまった。
一瞬だけの接触だが、雪菜からすれば不意打ちだ。まったく準備していなかったところで敏感になった乳首を刺激されたのだから堪らない。
触れるか触れないかというくらいのソフトタッチで二つのローターが乳首を刺激しては離れていく。
「ん……ん……んふ、ふ、ぅ、んはッ……ん、ふぅぅ」
乳首にローターが触れるたび、雪菜は切ない声を出してしまう。
(嘘、この前よりもずっと敏感になってるような……でも、全然足りないっ)
ローターは少ししか触れてくれない。
震動する音は聞こえてくるのに、肌に触れるのは一瞬だけだ。ジンジンとした熱だけが乳首に溜まっていく。
「きゅぅ、ん、ふ、ぅ……はあ、はあ、ん、んあっ……あ、あ、ん……あ、はぁん♡ ん、んん……っ」
じわじわと焦らされているのが分かる。
どんどん感じていく身体に雪菜は戸惑っていた。
(見えないし、分からない! どこにローターが来るのか予測もできないのが、こんなに……!)
情報が遮断されている不安を解消するために、より多くの情報を得ようとする。視覚以外の五感が鋭敏になって、自然と性感も強くなっていく。
ローターの軽い接触だけでも、十分に感じてしまうほどに雪菜は敏感になっているのだ。
「あふ、ん! ん、んんっ! あ、ん、ふぅっ……ああ、く、ふぅ、ぅ、んんんっ!」
ローターが触れるたびに雪菜は身じろぎをする。
雪菜の意思ではなく、身体のほうが反射的に動いてしまっているのだ。
(もっと……強くしてほしい。こんな、焦らされてるだけなんて……)
視覚が遮断され、真っ暗な中で雪菜に与えられる情報は快感だけだ。だからこそ、普段は考えないようなことも考えてしまう。
耳障りなモーター音が、雪菜を責めるローターの存在を如実に示している。それが今、どこにあるのかを雪菜は無意識のうちに探っていて、感覚がさらに鋭くなっていく。
「ふ、ぅんっ……あ、きゃっ、あ……ん」
乳首にローターが触れるとついつい嬉しそうに声を出してしまう。そして、離れると切なくなる。それがもう何回も繰り返されている。
まるで、虐められているみたいだった。無抵抗の雪菜を調理するかのように、ローターが急所を責める。それも、ただ責めるだけでなく、いつもあと一歩のところで離れていくのだ。
そんな中で、不意にローターが違う場所に触れた。
クリトリスである。
「はうぅん!」
驚いて、雪菜は腰を震わせた。
「あ、突然、ソコ……んんっ!」
「雪さんは、ここも敏感な様子ですね」
「違っ、だって、こんなにずっと、あっ、されたから。んん、ひうっ……誰だって、感じます、ああ!」
ローターが雪菜の太ももの上で円を描く。
微細な震動がくすぐったくて、雪菜は堪らない気持ちになる。
太ももの内側を淡い刺激で震わせながら、ローターが鼠径部に向けて登ってくる。
(……もっと、もっと上……もっと……!)
口には出せない。
出せないのだが、内心ではローターが秘所に触れてくれることを願っている。
鼠径部に移動してくるローターが、こともあろうに性器を迂回して臍に向かっていく。雪菜の性器は、時折、思い出したかのように刺激されるだけで、継続的な刺激が得られていない。まるで酸欠になった魚のように、ひくひくと性器がものほしそうにしてしまう。
今まで、こんなにも官能的な刺激を受けたことはない。
(どうして……そんな、周りばかり……いっそ、直接シて欲しいのに)
じれったい。
直接触れて欲しいと頼んでしまいたいとすら思えるが、雪菜の理性がそれを拒んだ。
唇を噛み締め、ぎゅっとシーツを握る雪菜。じっとりと汗が額に滲み、我慢できないとばかりに膝を立ててしまう。
普通に横たわっていられない。ジンジンとする太ももの付け根を、自分で弄ってしまいたいという衝動を懸命に雪菜は堪えた。
「はあ、はあ、はあ、はあ……あ――――はっ、ぅ……ふうっぅ……ん、くふぅ……」
ローターは嫌がらせのようにクリトリスの近辺に押し当てられる。それだけでもイキそうになるが、ここでイクのはもったいないとついつい我慢してしまう。
こんな風にローターでじっくりと責められたことのない雪菜は、この新しい体験にすでに参ってしまった。鍛えられ、どのような状況にも対応できる肉体も、今は性感を際限なく高める結果を生むことになった。
視覚に代わって触覚から情報を得ようとし、すぐに適応した雪菜だったが、それは身体をより敏感にするという形で現れたのである。
「あふっ……あ、ローター、がっ。あ、くぅぅ……ふぅ、んん! あ、ダメっ!」
「イキそうですか? いいですよ、我慢の必要はありません」
「ィ……ん、く……ん……ふ、ぅ、ぅ……ぅぅっ」
雪菜は快感の波を堪えるように全身を強張らせる。
その雪菜の抵抗を綾瀬のローターが突き崩す。ローターは、ここぞとばかりに雪菜のクリトリスと乳首に押し当てられ、人間の指では実現不可能な微細な震動が昂ぶりに昂ぶった性感帯に、想像を絶する快感を叩き込んだ。
「は――――あ゛っ……ふ、ぐ、んぅぅ……ひぐっ! あ、あっ、ああ! い、イクっ! ダメ、あ、イクイクっ! ひ、ぃ……やぁ、あ、ああ、ああ、ん、ぐ、ぅ、ぅぁ……ひ、ひぃ、いっぃいぃいっ!!」
シーツを握り締めたまま、雪菜はびぃんと身体を弓なりに反らした。
ヴィイイイイインッとローターの震動がさらに強くなる。これまでのは中で、この状態になってから強にスイッチを入れたのだ。
「ひぎっ、ん、んんんっ!! ん、い゛ひぐっ、ん、やあっ! あ、ああおぉ! お、んひっ。い、イグっ、ん、また、いやあっ! また、き、来ちゃうっ、ん、――――ふ、ん、い、あああぁ!」
喉を裂かんばかりに雪菜は嬌声を上げた。
焦らしに焦らされ、媚薬が浸透した身体には、ローターの震動は強烈過ぎた。
「あ――――ぉ、ん、ほあ、あ……あ……あ、はぁ……はぁ……ん、ふぅ……」
一頻り絶頂の余韻に浸りながら、雪菜はぐったりとした様子が枕に頭を沈める。
腰の辺りはまだひくひくと痙攣したままだ。よほど、強烈な絶頂だったらしい。
「はあ、あ、はぁ……ふぅ、はあ……はあ……あ、ん」
綾瀬は雪菜のアイマスクを外す。
とろんと蕩けた表情が露になる。
「如何でしたか」
「ひゃい……すごかった、です……」
「何回か、達してしまいましたね」
「……二回ほど……目隠しって、何だか身体が敏感になったみたいで……」
「お気に召されましたか?」
「……ッ」
雪菜は羞恥心が芽生えたのか視線をそらした。
とはいえ、今までにないくらい感じてしまったのだ。綾瀬がじっくりと雪菜の身体を焦らし、愛撫したからでもあるがアイマスクを使ったプレイは雪菜と相性が良さそうだった。
「まだお時間もありますが、少し休みますか」
ローターを横に置き、特殊繊維のタオルで媚薬オイルを拭き取っていく。前と後ろしっかりと拭き取り、タオルをバケツに投げ入れる。
「よく取れるタオルですね」
「主婦の皆さんは、大変興味をもたれるのです。何といっても油汚れもしっかり落とせるタオルですからね」
「特注品ですか?」
「まさか。市販品ですよ。肌に優しいきめ細かさと、オイルをしっかり拭き取れるという点が優れているので採用しました。うちでも取り扱っているので、帰りに買っていかれますか? 五本で二千三百円です」
「結構、安いんですね。もっとするのかと思いました」
運ばれてきたウーロン茶を口に運んで、雪菜はほっと一息ついた。
少し前までこのベッドの上で絶叫させられていたと思うと、ドキドキする。我を忘れてイキ狂うというのが、あれほどすごいとは思わなかったし、実際にそんなことがあるとも思っていなかった。
さっきまでの自分はまったくの別人だ。今ここにいる雪菜との同一性すら疑われるほどだった。
「雪さん、あと二十分です。どうしますか?」
「もう、ですか……」
二十分後には、サービスが終わってしまうと思うと寂しくなる。そんな気持ちは今まで感じたことがなかった。延長が頭を過ぎったが、明日に響いてしまう。
散々イキまくった雪菜だったが、残り二十分あると言われると、まだ何かできるのではないかと思ってしまう。
「残り時間、目一杯遊んでいかれますか?」
「……あの、お願いします」
そんな風に言われると、ドキドキして断われない。
雪菜は思考が纏らないままに、ゆっくりと頷いた。
「これまでとは趣向を変えてみましょう」
と、綾瀬は言う。
「これまでは寝そべって行ったマッサージですが、今度は座って行いましょう」
雪菜は言われるがままに姿勢を変える。
綾瀬がベッドの枕側に座り、その綾瀬に背中を預ける体勢で雪菜が座った。綾瀬が背後から雪菜を抱きしめる格好になる。
綾瀬は服を脱いではいない。しかし、その息づかいや体温がすぐ近くで感じられる。不思議と嫌悪感がない。これまで裸身を曝し、恥ずかしいところを何度も見られてきたからだろうか。
「雪さん。股を開いて」
「は、い……」
耳元で囁かれて、ぞくぞくとした感覚が背筋を駆け巡る。
これから行われる何かしらのマッサージに対する期待感が、雪菜の鼓動を昂ぶらせた。
M字開脚の姿勢を取る雪菜の胸に背後から綾瀬の手が回りこんだ。
「ん……あぁ……」
優しい手つきで、双丘が包み込まれる。
もっちりとした柔らかい乳房を、壊れ物を扱うかのように丁寧に揉んでいく。さわさわとしたソフトタッチから、形が変わるくらいに握り込む。
「はあっ……ん、はぁ、あはぁ……ん……ふぅぅ……ああ……いぁ……ん……」
雪菜は熱い吐息を漏らし、綾瀬の腕の中で身じろぎする。
「雪さんは、乳首もよく感じてくれるので、マッサージする側としてはやりがいがありますよ」
「そんな変なこと、言わないでください」
「すみません。ですが、正直な感想ですよ」
囁きながら、綾瀬は雪菜の乳首にローターを押し当てる。すでに、強にスイッチが入っていて、この日雪菜を狂わせた震動が再び二つの乳首に襲い掛かる。
「あっ……きゃぁん♡ あ、はあ……んっ、あっ……やぁっ……ん、そんな、強いっ……ふぅぅ!」
逃れるように身を捩る雪菜を綾瀬ががっちりと押さえ込む。身体を反らせる雪菜だったが、それは乳首を前面に押し出すに等しく、ローターがさらにしっかりと乳首に食い込んでしまう。
「あああ、あっ……んぅぅ……ひ、はぁ……んはっ……胸、ばかりぃ……ダメです、ぅ……」
「乳首だけでイッてしまいそうですね」
「そんな、こと……ん、ひやぁ! あ……ローター、ダメ……ん、あん♪」
「ふふ、最初のころに比べたら、ずいぶんと緊張も解れてきたみたいですね」
「んんんっ……あ、あん……んあ、ひぅっ……はあ、はあ……ぁ、ん」
きゅっと唇と噛んで声を我慢する雪菜。
悔しいが乳首が感じるのは事実だ。これだけ感じさせられては否定のしようがない。熱を帯びた吐息が可憐な唇から漏れ出して、雪菜は自分が悦楽に溺れていくのを感じていた。
「それでは、これを最後にしましょう」
綾瀬は時計を確認して、終了時刻が迫っている事を確認してから、ローターを雪菜の股に押し当てる。
「はあっ、ぁ――――ああああああああああっ!!」
雪菜は目を見開いて背中を反らした。
声を我慢することもできない。クリトリスに直接押し当てられたローターの震動が、全身の筋肉に電気信号を送り込んだようだった。
暴れる快感に振り回される身体を、綾瀬が背後から抱きかかえる。
(うそ……乳首とクリ、両方同時なんて……!)
愛液に濡れそぼった割れ目に押し当てられるローターとピンと立った乳首に押し当てられるローター。二箇所が同時に責められて、二種類の快感が同時に雪菜の頭に襲いかかる。
それは、快感の暴力とも言うべき怒涛の攻撃だった。
「ぃ……き、ぅぅ――――ふぐぅう! あ、あ、ふぐあぁっ! あ、んはあっ! あひ、ひ、ひ、ぅ、はああっ! い……くぅ!」
バタバタと雪菜は足を暴れさせるが、シーツの皺を増やす程度にしかならない。しっかりと密着したローターは、雪菜を逃がすことなく、彼女が果てるまで一瞬も休まず快感を与え続ける。
(き――――気持ちイイ……こんな、何も考えられない……)
目の前がチカチカとする錯覚すら覚える。
身体が自分のものではなくなってしまったみたいだ。
その時、湧き上がってきたのは尿意だった。それが、雪菜が現実に引き戻す。
(え、あ、ダメっ。このタイミングで、なんて……ほんとに!)
股を開いた姿勢で、しかもローターが尿道口付近を刺激している。尿意を堪えることができるはずがない。それどころか、ローターの刺激は排尿を促しているかのように雪菜を責め苛む。
(どうしてどうしてどうして、このままじゃ……このままじゃほんとに漏らしちゃう!)
これ以上ローターで刺激されたら、筋肉が弛緩して漏らしてしまう。この歳になって、しかも人前でそんなことになったら、恥ずかしくてどうにかなってしまう。
「あ、綾瀬さん! すみません、わたし……あ、ぁぁ……待って、ください……と、トイレ、に、ん、行かせて。で、出ちゃいそう、で!」
「大丈夫ですよ、雪さん」
「へ……ぇ?」
「ここは非日常を届ける店です。私以外にはあなたの姿は見えないし、ここで起きた事は誰にも伝わりません。誰も邪魔をしませんし、誰の目にも触れません。思い切り全部の欲望を解放してください」
「な、何言って……ふぐっ、は――――ぁ、い、ああああっ!」
綾瀬のまさかの返答に真っ白になった思考を埋めるように、怒涛の快感が襲い掛かる。綾瀬はローターを止めることなく、こともあろうに雪菜の尿道口に押し当ててきたのだ。微細な震動は瞬く間に筋肉を溶かし、痙攣させ、本来の動きを阻害する。
(あ、本当にダメ……本当に)
尿意は明確だ。
これまでに培ってきた意思を総動員して堪えているが、限界が近い。綾瀬は雪菜の懇願を聞き入れることなく、むしろ排尿を煽っているようで、救い主は現れない。ここは個室で、外には一切声が届かないのだから。
(本当に、誰にも知られないのなら、いっそ……)
身体は正直だった。
心で縛り付けていた最後の一線は、この一瞬、雪菜の我慢が途切れたところで決壊した。気付いたときには、もう遅い。堪えていたものが、一気にあふれ出して、
「あ――――ダメっ! もうイクぅーーーーッ!」
雪菜は思わず叫んだ。
ぶしゅっ、と勢いよく雪菜の割れ目から液体が噴き出す。
「あ゛、あ゛ぁ……ふあ、あ……あ、ぁぁ……」
疲弊した雪菜は、綾瀬に背中を預けて荒く息を吐く。
シーツと綾瀬の手が雪菜の体液で汚れてしまったのを見て、雪菜は顔を真っ赤に染め上げる。
「……すみません、わたし……こんな……」
「大丈夫ですよ。先ほども申し上げた通り、ここでのことはここだけのものです。それに、今雪さんから出たのは尿ではなく潮です」
「し、潮?」
「ええ、ご存知ありませんか? 潮吹きというものですよ」
「それは、知ってます……でも、わたし、今まで一度もそんな……」
「これは体質や性格にもよるのです。羞恥心が、潮吹きを躊躇わせてしまうことが少なくありません。雪さんもその類でしょう。尿意に似ていると言いますから、「漏らすのは恥ずかしい」と思ってしまうと、その先まで行きつかないことも珍しくないのです」
「そう、なんですか……」
「それで、どうでしたか?」
「どうって……」
「初めての潮吹きは? 気持ちよかったでしょう。思い切り、絶頂できた証です」
「ッ……ぅ」
そこまで断言されて、雪菜は言葉を失って俯く。
(確かに、今までにないくらい気持ちよかった……イッた後の倦怠感も、むしろ落ち着けて……)
潮吹きというのは話には聞いていたが、自分が経験するのは始めてだ。まさか、こんなに開放感があるとは思わなかった。
自分の中にある欲望のすべてを外に出してしまったかのような、すっきりとした気持ちになれる。
「これは心の持ちようですから、一度経験すると二度目の敷居が低くなります。もし、今後雪さんが当店をご利用になられる際には、また……というのもあるでしょう」
「次……」
次、という言葉に雪菜は頷いてしまう。
こんなに気持ちがいいことを雪菜はほかに知らなかったし、自慰でここまでの体験ができるとは思えなかった。だから、時々顔を出すくらいはしてもいいのではないか、と考えてしまう。次に来たときに、また潮吹きするくらいに気持ちよくなれるのなら、と期待する気持ちも芽生える。
(綾瀬さん、もしかして勃起してる……?)
その時、雪菜は自分のお尻の辺りに固い物の存在を感じた。
この感じは、間違いなく綾瀬のペニスだろう。
綾瀬がまっとうな男ならば、雪菜がイキ狂っている姿を見て何も感じないはずがなかったし、勃起していなかったらそれはそれで雪菜はショックを受けただろう。
(綾瀬さん、わたしを女として見てくれてるんですか?)
夫との関係に悩むこと数年。夜の営みからも離れて、雪菜はすっかり自信をなくしていたのだ。それが、こんな形であっても、女として認められているようで、嬉しさを感じてしまった。
雪菜は顔を上げる。
今更ながら、夫ではない男の身体に自分の裸体を預けていたことを思い出した。
すぐ目の前に、綾瀬の顔がある。
「あ……」
それこそ、唇を寄せればすぐにキスができる。
可能なプレイの一覧には、ディープキスも入っていたはずだ。雪菜が望めば、綾瀬は断わらないだろう。この数年で、キスすら遠ざかってしまったから、久しぶりに――――。
「雪さん?」
「あ、いえ、何でもありません……」
はっと雪菜は我に返った。
唇を寄せれば、自然とキスができる雰囲気ではあったが、だからといって唇を許していいはずもない。いくら、夫との関係がギクシャクしているとはいえ、雪菜には娘もいるのだ。今更かもしれないが、それでも、ここは踏み留まるべきところだった。
「またのご利用をお待ちしております」
「あ、はい……また……」
時間一杯を遊んだ雪菜は、綾瀬の営業スマイルに若干の寂しさを感じながら店を出る。
これから家に帰っても、誰も雪菜を出迎えることはない。日付は零時を回っていて、さすがに娘も夢の中だろう。
(娘が家にいるのに、わたしはこんなお店に)
そう考えると罪悪感すら覚えてしまう。
それでも溜め込んでいた鬱屈の何割かは、今日の夜遊びで解消できたような気がする。こんな方法でストレスを発散するのは悪手だと分かっているのだが、二回もあの店を利用してしまった。悪いことだと分かっているのに、雪菜は頭の片隅で、すでに次に時間が空く日取りを考えてしまっていた。