暁の堕姫~堕ちていく人妻~ 作:人妻大好き
雪菜の仕事は多岐に渡る。
剣巫――――対魔族のエキスパートとしての経験と知識を活かした犯罪対策から、古城の公務に関する仕事まで様々で、さらに家事もこなさなければならない。
最近は家事代行を頼むことも多くなったが、母として娘の将来を心配しているということもあって、心労は絶えない。
一人娘――――零菜は、よくできた娘だと思う。親バカと言われても仕方がないが、勉強も運動もよくできるし、器量もいい。第四真祖の第二世代の一人として、非常に強力な力を有しているが、その扱いも及第点を与えられるくらいにはなった。
懸念がないわけでもなく、
「いちいち言われなくても、分かってる! わたしだって、もう子どもじゃないんだよ!」
と、零菜は機嫌を悪くして部屋のドアを閉めてしまう。
学校のことを話して、それから雲行きが怪しくなってしまった。
真面目で融通の利かない雪菜は、零菜の行動についつい小言を言ってしまう。それが、思春期を迎えた娘には腹立たしく思えてしまうのだ。
中学に上がってから、零菜と衝突する機会が増えた。反抗期は大人の階段を上っている証で、親元からの自立を促すにはいい傾向だという見方もあるが、やはり自分の娘だけに心配で仕方がない。
ただ、雪菜にはどうしていいのかいまいち分からない。友人たちに相談することもあるが、各家庭で事情が異なるし、特効薬のようなアイデアはまったくない。子育てには正解がないという。何をすべきか明確な仕事のほうが、雪菜にとっては楽だったし、何よりも彼女には「親とは何か」ということがいまいち分からない。
雪菜は、実の親から虐げられた経験を持ち、中学まで育った環境は「家庭」としていい環境だったかと言えば、そうではない。
一般的な家庭を知らない雪菜には、母親は務まらないのだろうか――――と、不安に駆られてしまうのも、最近は日常茶飯事となっていた。
「はあ……」
子どもの前で情けない姿は曝せないと家庭内でも気を張っている。それも、そろそろ疲れてきた。いや、もともと疲れていたのかもしれない。ただ、自覚がなかっただけで。
その夜、娘が寝静まったのを見計らって、雪菜はベッドの中で身悶えしていた。
「ん……ん……ん……ぅ」
口を閉じ、声をできるだけ漏らさないようにしながら、白魚のような綺麗な指を自分のショーツの中に入れている。
クリトリスを摩擦し、背筋を走るビリビリとした感覚に蕩けそうになる。
割れ目から滲み出す愛液が指を汚しているのが分かる。
枕に顔を押し付けて、布団の中で膝を立てる雪菜。声を出さないようにするには、この姿勢が一番だと思ったからだ。
バックで突かれるときの姿勢。
この歳になるまで、自慰すらろくにすることのなかった雪菜だったが、ここ最近は急に身体が火照るようになった。夜、人知れずベッドの中で股を濡らしてしまうし、淫らな妄想をついついしてしまう。
二十歳そこそこで母になって以来、十五年を駆け抜けてきた。
忙しさと生真面目さ故に、過去に置き去りにしてきた「女」がやっと追いついてきたのだろうか。
「ぁ……は、ぅ……ん、ぅ、……ふ……んぁ……ぁ、ぅ、ふ、む……うぅん……ぉ、ぅ」
声を殺して尻をひくつかせる。
股に押し込んだ右手が止まらず、膣肉が不随意に蠢く。
雪菜は自分の身体が、媚肉が、さらなる刺激を求めていることを理解していた。その要求に応えるために、人差し指と中指をさらに奥深くに挿入していく。
「ふ……ぅ、ん! ふぅ、ぁっ……ん、ん、――――はぁ……ん、ふぅ……ぅ、ぁ……く、ふぅん……」
股座が熱い。
蕩けるような熱が腰を侵しているしていて、つい堪らず声を上げてしまいそうになる。
猫のように両足でシーツをしっかりと踏みしめて、跳ねそうな身体を支える。
指が動く度、雪菜は刺激に呻く。
「はあ……はあ……ふぅ、ぅ……ん、ふぅ……ふっ、う、ぅ、ぅぅっ!」
びくびく、と雪菜の身体が震えて、呻き声を漏らした。
「あ、はぁ……ふぅ、は、ぁ……」
熱い吐息で枕を濡らす。
自慰で果ててしまったのだ。乱れた呼吸をすぐに落ち着かせるため、大きく深呼吸をする。
(わたし、また……)
愛液に濡れた自分の手を雪菜は眺めた。
暗闇の中でも雪菜の目が、濡れそぼった指をしっかりと捉えていた。気持ちよくなってしまった証である。乱れた身体の後始末をしてから、雪菜は仰向けに寝転がる。
ほどよい倦怠感が、身体にたゆたっている。
寝る前に自慰をするのが、半ば習慣になってしまった。これが、イケナイことだと分かっているのに、身体を止めることができないのだ。
(でも、全然……)
イッた直後は、性欲も鬱屈も発散されて、心地よい疲労感だけが残る。このまま、流れるように眠りに落ちれば、朝は快適な目覚めだろうと思えるくらいにだ。
事実、自慰を始めた頃にはそれで十分だった。
けれど、最近は……
(一回じゃ、足りない……なんて)
恥ずかしい。
自分を慰める回数が、少しずつ増えている。最低でも二回。多いときには四回はしてしまう。今日も、これから寝ようとしているのに、身体の熱は冷めてくれない。
こんなにも悩まされたことはない。昔なら古城が相手をしてくれただろうが、夫と複数いる妻の一人という形に落ち着いてしまった今の雪菜に、今更古城と関係を結ぶというのは、かなり大きな決断だった。そこまで踏み出すには、離れている時間が長すぎたし、今の関係に身を置いたのは雪菜の方でもある。性欲による繋がりではなく、母、家族、仕事仲間としての関わりを優先した結果でもあるのだ。
「は……ぁ……」
もどかしそうな吐息を漏らす雪菜。
足りないということに気付いた途端に、ムラムラして眠気がなくなってしまう。
(……だめ、指だけじゃ)
足りないどころか、触れたい場所に届きもしない。
表面を撫でているだけで、一番欲しい場所に指が届かない感覚。頑張っても、焦らしているのと変わりなく、軽く果てても、深い絶頂には届かない。
あと少し、あとほんの少し指が長ければとじれったく思いながら、雪菜はぐい、と指を可能な限り秘所の奥深くに押し込んでいく。
(こんなとき、綾瀬さんなら……きっと……潮吹き、したあの時みたいに……)
一ヶ月ほど前に、初めて経験した潮吹きを伴う絶頂。
自分が自分でなくなるような、制御不能な快感の嵐を雪菜は知らなかった。プロの手に掛かれば、これまでに積み上げてきた倫理など一瞬で崩れ去り、ただ快感を味わうだけの女に変えられてしまう。
それが、何とも言えず気持ちよかった。日常の何もかもを放り投げて、身軽になれたような気がしたのだ。
(もう一度、行ってみようかな……次で最後にすればいいんだし)
雪菜は、肩で息をしながらそう思う。
この日は三回のオーガズムを経験した。けれど、それはどれも雪菜からすれば浅く、決して満足できるものではなかった。
☆
雪菜が来店するのは、実に一ヵ月半ぶりだった。
仕事帰りのスーツ姿のまま、黒く艶やかな髪が橙色の照明の明かりに映える。
憂いを帯びた緊張感のある表情は、この店を利用することへの罪悪感と期待感が入り混じったものであった。
「お久しぶりです、雪さん」
「……はい、お久しぶりです」
すっかり知った仲のように気さくな、それでいて丁寧な挨拶をする綾瀬。
雪菜が見たところ、ほかに客はいないように思えるが、この店は客同士が鉢合わせしないように最大限の配慮をしているし、各部屋の防音性はかなり高いので、実際はどうか分からない。雪菜よりも早くこの店を訪れ、すでに個室でサービスを受けている人がいるかもしれない。
ほかの人は、いったいどんなサービスを受けているのだろう。どんな風に喘がされているのだろう。そんなことを頭の片隅に思う。
「そういえば、あのアシスタントのリノさんは?」
「彼は今お客様対応中ですよ」
「あ、そうなんですね」
「彼は見た目こそ子どもですが、実のところある程度外見年齢を変えられる能力がありまして、幅広い客層に対応できます。私なんかよりも断然人気ですよ」
この店は主に店主の綾瀬とリノで回しているが、ほかにも綾瀬の使い魔たちが働いている。よって、同時に複数の部屋が稼動するのも珍しくはない。
「リノは本日、すでに最終まで予約が埋まっているので、次回以降になりますが」
「い、いえ。別にリノさんにお願いしようとしたわけではありませんから」
その後、雪菜は個室に案内される。
以前、利用した部屋とは構造が異なっていて、和風の部屋だった。畳の上に低いベッドが鎮座している見慣れない光景に、雪菜は少し驚いた。
「畳にベッド……ですか」
「言い訳しますと私ではなくリノの趣味です。どうぞ、お座りください」
雪菜は上着を脱いで綾瀬に渡し、ベッドの端に腰掛けた。
綾瀬は雪菜の上着を皺にならないように丁寧にハンガーにかけてから、吊るし、メニュー表を手渡した。
「本日はいかが致しますか?」
電話予約も可能だが、こうして現場で直接メニューを見ながらその日のプレイを決めることができる。こういう時間をかけた丁寧な対応も、女性客が途絶えない理由の一つだった。
三回目ともなると、雪菜にもある程度落ち着いてメニューに目を通す余裕ができていた。
性感マッサージ欄には、基本コースに前回体験したハードマッサージコースの他、マニアックコースなるものもある。これは、どうやらハードマッサージコースをさらに発展させたものらしい。手によるマッサージを主体にしたものでなく、大人の玩具や全身リップといった性風俗らしさをふんだんに盛り込んだコースだ。
「そう、ですね……」
三種類のコースに加えて各種オプションの選択と、意外にもバリエーションが豊富だ。アロマオイルの種類も選べるし、オイルマッサージをせずに香りだけ楽しむことも可能だった。これだけたくさんあると、何を選べばいいのか悩んでしまう。本番行為のあるコースを入れれば、さらに選択肢は増える。
「あの、このスライムというのは?」
雪菜が気にかかったのは、オプションにあるスライム風呂であった。
マニアックコース以上で選択可能となる特殊なオプションである。
「これはですね、アロマオイルをスライム化させた使い魔による全身マッサージを行うオプションです」
「使い魔、ですか」
「はい。攻魔師のご経験のある雪さんからすれば拙い技ではありますが、私はこう見えて流体操作系の魔術の心得がありまして。もちろん、資格も許可も取った上でサービスを行っているのでご安心ください」
「それは、もちろんです。そうでなければ大問題です」
魔術を私生活で軽々しく使うのは、もちろん犯罪だ。
仕事で使用するにしても、役所にその旨を申請する必要がある。
雪菜は不正な魔術使用を咎める立場の人間なので、綾瀬が不正をしていれば、当然ながら見過ごすことはできないのだったが、彼が首からぶら下げているネームカードの裏には確かに本物の認可証明書が入っていた。
客にサービスをする際のみ、特定の魔術の使用を許可するものだ。
「もしかして、このサービスのために資格を取ったんですか?」
「ははは、同業他社に負けないように精進した結果です。このオプションも、なかなか人気なのです。まあ、私が担当の時にしか体験していただけないので、いつでもというわけにはいかないのが残念なところですね」
「ということは、それを今日お願いすることも……?」
「もちろん、可能です。スライム風呂、体験されますか?」
「……あ、い、いえ。今日は遠慮しておきます」
と、雪菜は首を振って断わってしまった。
あまりに聞き馴染みのないプレイなので、臆してしまったのだ。
だが、それでも今までにないことをしてみたいという気持ちもあった。せっかく、色々な葛藤を抱えながらもこの店の扉を潜ったのだ。
自室ではできないようなことをしてみたかったし、自室では上げられないような声を上げてみたかった。それくらいすごい経験が、ここでならできると知っているからだ。
「あの、今日はこれを……」
と、雪菜が指差したのはマニアックコースだった。
「オプションは、ええと……アイマスクと、あと……ローターはこの前したから……」
雪菜は、数あるオプションの中から前回堪能したアイマスクに加えて極太バイブと手錠を選択した。
☆
マニアックコースはその名の通り、通常のマッサージコースでは体験できない変わった体験をするのが主たる目的だ。変わった体験とは、要するに性的サービスなのだが、手を使うマッサージコースとは異なり、男性が通う風俗店の女性版と言うべきサービス内容になる。
(まさか、男性と一緒にシャワーを浴びることになるなんて……)
マッサージとコース名に書いていないのは、そういう意味合いも含まれていた。ともあれ、生まれたままの姿を二度も曝している相手なだけに、今更拒否するのも滑稽だし、これは雪菜自身が選んだコースで、彼はそれを実行しているに過ぎないのだ。
裸になった雪菜に対して綾瀬は下半身だけは水着で隠している。あくまでも本番はないという意思表示である。水着を履くのと履かないのとでは、安心感が違うでしょう、というのは綾瀬の言だ。
サービスをするのは、綾瀬の方ということで、シャワーノズルは綾瀬が持っている。弱めのシャワーで軽く身体を流してから、雪菜はシャワーチェアに座った。
「それでは、洗っていきますね」
「あ、はい……」
綾瀬はボディソープをスポンジで泡立てる。泡を作っている途中で、アロマオイルの小瓶から三滴ほど泡の中に落とし、さらに泡立てるとバニラのよい香りがふわりと浴室に立ち込めた。
「いい香り、ですね」
「落ち着くでしょう。このボディソープはアロマオイルと併用することを目的に作られたものなんです」
だから、ボディソープそのものはほぼ無臭でアロマの匂いを邪魔しない。それどころか、泡の中にアロマの香りを溜め込むので、泡が弾けるたびにアロマの香りを愉しむことができるのだ。
無論、これには雪菜専用に調合された気持ちよくなる成分が含まれている。
綾瀬が雪菜の肌に泡を乗せていく。きめ細かい泡が、バニラの香りと共に雪菜の身体を包んでいく。
マッサージの延長のような感じだ。擦ったりせず、表面の汚れを洗い流すためだけのものだ。
だが、それでも異姓に身体を洗ってもらうということがすでに、雪菜にとっては初体験だった。全身を洗うという説明から想像をしていたが、雪菜の秘裂まで綾瀬の手が及んだ。
「ぅ……ん」
身じろぎする雪菜。
やはり緊張するし恥ずかしい。触れられると分かっていても、身構えてしまうのだ。
綾瀬は雪菜の背中に泡を塗り、背後から雪菜を抱きしめる。
ぬるぬるとした泡を潤滑剤として、綾瀬の両手の平が雪菜の腹部から胸部までを行き来する。背中に感じる男の体温と吐息、手の平の淡い感触にドキドキしてしまう。
「痒いところとかありませんか」
「大丈夫です」
成り行きに任せるままに雪菜は答える。
綾瀬の手の平は腹部から太ももに移る。敏感な太ももの内側をさわさわと優しく愛撫されると、その刺激で秘所が期待をしてしまう。
綾瀬の手つきは表面をなぞる程度の力加減でとても優しい。だからこそ、物足りないと思えてしまう。まだ、始まったばかりだというのに。
すると、綾瀬は唐突に雪菜の耳に舌を這わせた。
「ッ!? あ、何を……!?」
驚いた雪菜は背後を振り返るが、綾瀬はそんな雪菜を抱きかかえたまま、彼女の首下に顔を埋める。
「動くと滑って危ないですよ、雪さん」
「あ、あの今のは……?」
大人しく雪菜はシャワーチェアに座りなおした。
「マニアックコースは手だけで愛撫するだけではありませんから。説明したとおりですよ」
「そ、そうでした。すみません……驚いて、しまって」
「構いません。こういったことも初めてなのですね。反応が初々しくて、愛らしいです」
「そんなこと、言わないでください」
恥ずかしがった雪菜は俯いた。
綾瀬は雪菜の乳房を下から支えるように両手を差し入れる。それから、ゆっくりと乳房の付け根に沿って、手を動かしながら、絞るように手を先端に向かわせる。
アンダーバストから乳首までを一体のものとして愛撫していく。
「あ……ふ、ぅ……ん、ぁ……!」
何も乳首だけが胸の性感帯ではない。敏感な場所はアンダーバストからスペンス乳腺まで様々あって、雪菜はどれも未開発だ。オーソドックスなセックスしか経験していない雪菜にとっては、女性の性感帯を知り尽くし、個々に合わせて対応できる綾瀬の手は、彼女自身の気付かない性感帯を瞬く間に探り当ててくる不思議な存在だ。
(いつもと違う場所……何これ、頭、ふわふわして……)
胸を弄られているだけだと言うのに、股座が切なくなってくる。
脇の下と乳房の付け根当たりにあるというスペンス乳腺からアンダーバストを通り、乳首まで……という一連の愛撫が堪らなく気持ちイイ。
ただのマッサージではなく、雪菜を感じさせるための愛撫。それでいて欲望に犯されたような激しさはなく、雪菜のために愛撫だということを明確にした優しさを感じる。
「あ……はあぁ……ふ、んふぅ……んぅ……はあ、あっ……ふう、ぉぁ……ん、ぃ、あぁ……」
じっとしていられない。今にも爆発してしまいそうな衝動が身体の芯に溜まってくる。胸をゆったりとしたペースで刺激されながら、首筋から耳にかけてを舐められてしまう。
綾瀬の舌先が、雪菜の耳たぶをペロペロと弾くたびに聞こえる音が雪菜をさらに興奮させる。
「はあ、はあ、んはぁ……んん……あ、んっ……あ、ふ……ぁ……!」
「こういった場所はあまり普段は触られませんか?」
「ん! んん! あ、ぁ……ん、触り、ませんっ! ん、はあーっ、ん、だって、ここがこんなに感じるなんて、わたし……ふ、ぅ!」
乳房だけで雪菜はイってしまいそうになっている。
「雪さんは、全体的に胸に感度の高い性感帯が集まっているようですね」
「ち、違います。これは、違うんです。んっ、そんなこと、言わないで……んぁ……ぁ……やだ……ィィ……あ、ふ、んんぅ……!」
綾瀬の手から逃れようと上半身が悶える。
ゆっくりと、確実に快感を蓄積している乳房が雪菜には憎らしい。
(どうして、こんなに感じているの? こんな、恥ずかしいこと……)
知らなかった性感帯を暴かれて、雪菜は困惑していた。だが、口では否定しながらも胸が気持ちイイことは疑いようがなかった。泡とシャワーで誤魔化せているが、すでに秘所は愛液を滴らせている。いっそのこと、自分で股座を弄り回したいとすら思ってしまう。
「大分、緊張も解れてきましたね。泡を落としましょう」
もうすぐ絶頂に導かれようかというときに、綾瀬は愛撫をやめてしまう。
お預けを食らった雪菜は、胸の高鳴りをそのままに頷くしかない。
シャワーで泡を綺麗に流してから、洗いたてのタオルで水気を取る。
そして、生まれたての姿のままベッドに向かった。
「寒くないですか?」
「大丈夫です」
空調はしっかりとしていて、寒くもなければ熱くもない。風呂上りで火照った身体には、ちょうどよい室温だった。
「それでは、ご要望のオプションから使っていきましょう」
「あ……はぃ」
雪菜は、前回同様アイマスクを着用した。視界が完全に遮断され、変わりに肌の感覚が研ぎ澄まされていく。一ヶ月ぶりの感覚に、自然と期待感がこみ上げてくる。
見えないことへの不安よりも、見えないからこその期待のほうが今は強い。
さらに、そこで雪菜の両手に手錠が嵌められる。プラスチック製の手錠なので、本物ではないし安全だ。
ベッドの上にその状態で寝転がると、視界も動きも大幅に制限されてしまい、雪菜自身では何もできなくなる。まさしく、俎板の上の鯉状態だ。
そんな状態の雪菜の隣に並んで横たわる綾瀬。
綾瀬は雪菜の首の下に腕を通して肩を抱き、もう片方の手で雪菜の乳首をコリコリと弄っている。さらに、綾瀬は雪菜の耳を舌で愛撫し始める。
「はっ……ふあ、あ! や、それ……ん、ぃやぁっ……あ、んんっ! ふああっ!」
卑猥な音が耳に直接叩き込まれる。
綾瀬の吐息とぬるぬるとした舌の感触が、触れられることを想定していなかった耳を重点的に責めてくる。
だが、これは所詮は序の口に過ぎない。挨拶程度の愛撫だ。
「雪さん。口付けはいかがしますか?」
「……それは……ダメ、です」
「分かりました。では、それ以外はリップサービスしてよろしいですか?」
「……は、はい……お願いします」
雪菜は僅かな逡巡の末に頷いた。
口付けは、夫以外とはできない。滑稽ではあるが、雪菜の中の一線だった。
だが、同時に綾瀬の唇が身体に触れるのだと思うと身体が熱くなってしまうのも否定できなかった。
綾瀬は雪菜の頬にキスを落とし、それから首筋、肩、スペンス乳腺へと愛撫する場所をずらしていく。スペンス乳腺には強めにキスをして、アンダーバストまで一気に舐める。
先ほど、軽く刺激しておいたため、雪菜はいい反応を示した。
「あ、ああっ♡ ん、あ! あ、ん……んんっ!」
甘い声を漏らした雪菜。
視界が封じられているので、余計に胸が感じてしまうのだ。
(ざらざらした舌が、胸を……すごい……こんなに気持ちイイなんて)
おまけに手錠をかけられて抵抗できない状態でされているというのが、何とも言えず心地よい緊張感を生み出してくれる。
「れろ、れろ……ちゅ、ちゅぷ……れろ……ちゅちゅっ」
綾瀬はわざと音を立てて、愛撫を繰り返している。雪菜を肌感覚だけでなく、音でも感じさせるためだ。音は否応なく聞こえるものだ。
我慢しようとしても、どうにもならない感覚だ。
両手で雪菜の乳房を軽く揉みしだいてから、乳首を唇で挟んで吸う。さらに舌先でチロチロチロと間断なく舐め回すと、雪菜は我慢できず膝を立てて、シーツを踏みしめてしまう。
「あ……ん……ふぅ……ふ、ぅ、ぅ……んは、あ……ふぁ……あ、きゃ、んん」
雪菜が細かく声を漏らしている。
綾瀬の愛撫は胸から腹部に移り、さらに秘所を避けて鼠径部近辺を舐めて、キスをする。
(そんなところまで、舐めるなんて……ダメなのに……でも、ぞくぞくする)
茫洋とした頭で雪菜は状況を整理する。
綾瀬の顔は今どこにあって、どんな風に雪菜を舐めているのか。見えないから、想像するしかない――――というか、想像してしまう。
人に見せられない場所を、綾瀬が至近距離で見ている。キスをしている。舐めている。背徳的な感情が、渦を巻いて攻め上がってくる。
「はっ――――あっ……ん、ふ、あっ! ……あ、あ……ん……ふ、ぁ、んきゃ! あ!」
綾瀬は雪菜の足の間に身体を入れて、雪菜の膝を立たせる。M字開脚の状態になった雪菜の膝から太ももの付け根までをペロペロと舐める。
ここは足の中でもとりわけ敏感な場所だ。特に付け根付近は、本丸間近である。そんなところを舐められて、平常心でいられるはずがない。
恥ずかしさと期待感で雪菜は一杯一杯になっている。
両足の太ももを丹念に愛撫され、雪菜は堪らず呻き、腰をひくつかせる。
雪菜の秘所からじわりと愛液が滲み出る。触れられていないにも関わらず、雪菜の蜜壷は準備万端といった様子だ。
綾瀬は両手を雪菜の膝の下に入れ、腹部に回す。これで、がっしりと雪菜の腰を固めたのだ。
綾瀬の眼前に広がる淫らな花園。まずは、親指を使って大陰唇を広げて膣口を広げる。性的興奮が高まっているおかげで、入口ははっきりと分かる。クリトリスも勃起していて、刺激されるのを今か今かと待っているようだ。
綾瀬は舌先でまずこのクリトリスを舐める。
「は――――ぁぁん!」
ざらつく舌が敏感極まりないクリトリスを刺激すると雪菜は声を堪えることができずに、弾かれたように腰を悶えさせる。
「ペロペロペロ……れろぉ、チロチロ」
「ひっ、ぃ、ん! あ、あ、んあぁ! あ……き、ぁ、ああ! はあ……ふぐ、ん! んん!」
綾瀬は舌全体を使って秘所を舐め上げる。
舌を左右に振ってクリトリスを弾き、小陰唇を丁寧に舐めていく。
「はっ、はっ、はっ、ふぐ……んっ……くぅ……ひ、ぅ、あんっ……ああ!」
男に女性器を舐められているという事実が雪菜の羞恥心を煽る。
舌の感触が敏感な性器をさらに敏感に作り変えていく。しっかりと太ももを掴まれているので、腰の稼動域が小さく、快感から逃げようとしても然したる抵抗にならない。
一方的に快感を与えられていく一方で、雪菜は反射的に喉から声を絞り出すことしかできないでいる。
「ねろぉ、れろぉ、じゅるる……雪さん、如何ですか? 奥から、愛液が出ていますよ」
「そんな、聞かないでください……ふ、ぅ……んは、あ……」
「男としては雪さんからも感想を聞きたいところです。張り合いになりますし、どこがいいのか教えていただければ、奉仕しやすくなりますからね」
「ふ、はっ……ん、ふぅぅ……あっ……う、ぅぅ……は、あっ、そこっ」
綾瀬の舌先がクリトリスに触れると雪菜は思わず言ってしまう。
「ふふ、ここですね」
「ひ、ぃぅ……ん、あっ、あ、あ……そこ、そこイイ! きゃん♡」
びくっびくっとクリトリスを弾かれると尻肉を震わせる雪菜。
「雪さん、もっと教えてください。あなたの気持ちイイ場所」
「ひゃい……あ、んんん! クリ……あ、ん! あ――――やっぱり、クリ、一番、イイ!」
快感で訳が分からなくなった雪菜は、快楽を口にするようになった。
自分の身体が自分でなくなったような感覚に溺れる。
「やっぱり雪さんは、クリトリスが敏感ですね」
何て言いながら、綾瀬は雪菜の勃起したクリトリスを音を立てて啜る。
「ふにゃあっ!! あ――――、ん、ひあぁっ!」
それまでの優しい愛撫から一転した強烈な刺激に昂ぶった雪菜は一瞬にして絶頂を迎えてしまった。筋肉の震えから、雪菜がオーガズムに達したことを綾瀬は理解した。その上で、さらにクリトリスを舌で愛撫する。
「う、うそ……綾瀬、さん! わたし、今……い、イッた。やめ……まだ、余韻が、は、あ、ん、んんっ! ひぅ、あ……待ってくださ、あ! ひ、ふっ……また、また、来てるぅ!」
雪菜は二度目の絶頂に達する。
膣肉がもどかしそうにしているのを感じながら、雪菜は軽く痙攣した。
「あ、あふ……ん……はあ……き、気持ちイイ、はあ……はあ……また、イってしまいました」
「ふふ、雪さんも、ずいぶんと素直になってきましたね。いい傾向ですよ。この当店は、お客様の欲求を好きなだけ解放する場を目指しているのですから」
「わたしの、欲求……」
「ええ。そろそろ、欲しいのではないですか? この、奥深くに」
綾瀬は、雪菜の秘所を撫でる。二度の絶頂にも関わらず、そこは相変わらず貪欲に男を欲しがっている。
「極太バイブ、まだ使っていませんよ」
「あ……」
すっかり忘れていた。最初にオプションとしてバイブを選んでいたのだった。
極太バイブというのが、どれくらいのものか分からないが、膣内に挿入して、思う存分奥深くまで穿り返せるのは間違いない。これまで届かなかった場所を、直接刺激できると思うだけで、雪菜の膣内は瞬く間に準備を整えてしまった。
「こちらはすでに準備できています。すぐにでも挿入できますよ」
綾瀬が用意したのは黒々としたバイブレーターだ。イボがついていて、先端がフック状に反っている凶悪な見た目だ。
「……あ、はい……その、お願い、します」
緊張感を含みながら雪菜は綾瀬に頼む。
「分かりました。力を抜いてくださいね」
力んでいると挿入が難しくなり、性器を傷付けるかもしれない。
バイブを弱で震動させ、雪菜の膣口に宛がう。
「あっ、あっ、あっ……ああっ! んあ、あ!」
バイブが膣口に触れた瞬間に雪菜は声を上げる。
ローターの時と同様に微細な震動に、性器が過敏に反応してしまっているのだ。
「う、うあ、あ……入って、あ、ああ、ん、んん――――!」
震動しながら極太バイブが雪菜の膣口を押し広げる。震動が媚肉を弛緩させ、掘削機のように奥へ進んでいく。
一息に奥深くまでは突かない。
慣れるまで多少の時間を要するからだ。
もっとも、雪菜は出産を経験しているし、これまでに十分に愛撫を重ねているので膣内は愛液でびしょびしょだ。
処女を責めるよりも、順応性は高い。
綾瀬は震動の強度を中に上げ、膣内を掘り進める。
「お、ぉ……ほ、ぁ! あ、ん、くぅぅ、あ! は、ぁ……ひぃ、ん……ほんとに、大き、ぃ!」
「でも、しっかり飲み込んでますよ。もう少しで、一番奥まで届きますからね」
「は、ぃ……あ、ん――――い、あ゛! ん、あ、あ、ああっ!」
フックの先端が、一番奥に届いた。
綾瀬はすかさず震動を強に引き上げる。
ヴィイイイイイインとひと際激しく音を立てる極太バイブ。
「ああ――――♡ ふ、ぎ、ぃいいぃ♡ あ、あ、あ、い、きああああああああああっ!」
ガチガチと手錠を鳴らして痙攣する雪菜。
バイブが刺さった股をくねくねと振って、逃れがたい快感を味わっている。綾瀬はバイブが抜けないように支えつつ、小まめに律動をさせる。
先端のフックは、Gスポットを刺激するための構造だ。これまでの愛撫で、雪菜のGスポットは把握している。そこに的確に、バイブのフックを当ててしまえば、雪菜に我慢する術はない。
「はにゃあっ! あ、何っ!? ひ、こ、これ、ん、そこ、当たって、ひぃっ!」
雪菜は喉を反らして快感の波に翻弄される。
久しぶりに奥深くまで挿入され、さらに強力なバイブ機能で内側から全方向を間断なく刺激されているのだ。おまけにそれがGスポットを的確に捉えてくるとなれば、少しも我慢できずに昇天してしまうのも、仕方がない。
「は、へあああああああああああああああっ! い、イクぅ! あ、い、い、イクっ! イクぅぅううっ!」
髪を振り乱して、快楽を雪菜は叫ぶ。
愛液が膣口から零れ落ち、シーツに染みを作っていく。ガクガクと足が痺れるような感覚に襲われ、全身の性感帯が膣に集中するかのように感覚が研ぎ澄まされていく。
「雪さん。バイブの味は如何です?」
「ひぃ、ひぃ! す、すごい、すごいです、当たるっ! 奥、イイとこに当たってます! はへっ、ん、ふひっ!」
雪菜は興奮した口調で、綾瀬の問いかけに答えた。
「ん、はっはっはっ、ふぐぅ! ん、いぃぃっ! ん、はあん! あ、ふう、んんんっ! ああっ! これ、これこれ、こういうのが! こういうのが、ずっと欲しくてっ! お、奥、届くのっ、き、気持ちイイっ!」
長年溜め込んだ思いを吐露する雪菜。
「あん、イクっ、イクの止まり、ませ、んんんんっ!」
雪菜の媚肉が引き締まってバイブを締め上げる。するとバイブとの密着度が上がって雪菜はさらに多くの快感を得てしまう。
(ダメ、これ……頭が真っ白に――――あの感じが、もうっ)
ゴリゴリと膣内を穿られる感覚の中に、不意に鎌首を擡げる尿意にも似た感覚。
一ヶ月前に初体験し、それ以来待ち望んでいたオーガズムの到達点が見えてきた。
「あ、あ、あっ……はっ、ふっ、んぉ♡」
「いいですよ、雪さん。あなたの好きなように、イってください」
(そんな甘いこと、言われたら……)
理性的な思考はそれが最後だった。
我慢をする理由が尽く失われた。外部から遮断された個室なら、どれだけ粗相をしても綾瀬以外には知られないし、ベッドを汚しても構わないと綾瀬から言質を取っている。前回の潮吹きで、心理的なハードルも大分下がった。
だから雪菜は、考えるよりも先に身体の欲求を優先してしまった。どうにかして我慢するという考えよりも、我慢しなくてもいいという考えが頭を過ぎったから、身体は怒涛のように欲望を解放する道へ突き進んだ。
「あっ、あ゛ああああああああああああああああああああああああああっ!!」
雪菜は一ヶ月ぶりに潮吹きにまで達した。
膣口を塞ぐバイブの隙間から透明な体液が漏れ出して、シーツをびしょびしょに濡らしてしまう。
一頻りイッた後で、綾瀬はバイブを引き抜く。
その刺激で、さらに軽く潮を吹いた雪菜は呼吸を荒げて枕に頭を預ける。
「はあ、はあ、はあ……あ、ぁ……わたし、また、粗相を……」
冷静になってみるとなんとはしたないことか。
口にした数々の言葉を思い出して、雪菜は恥じ入った。
手錠とアイマスクを外す。視界を取り戻した雪菜は、自分が作ったシーツの染みの大きさを目の当たりにして、顔を真っ赤に染め上げた。
「これだけ気持ちよくなってくださったのは、冥利に尽きるというものです。ご心配なく。ここで起こった事はここだけの秘密ですから」
「ぁ……はい……」
いたたまれず、ベッドの端に腰を下ろした雪菜。タオルを身体に巻きつけて、一応裸身を隠した。その隣に綾瀬も座る。
「そろそろお時間ですね」
「はい」
「雪さんは、あまりマニアックなプレイをした経験がないようですね。それどころか、ろくに性感帯の開発もされていないようです」
「開発って、そんな……」
そのような言い方をされると、さすがに恥ずかしい。
確かに、雪菜はまっとうなセックスしかしてこなかったし、愛撫にしても性感帯の開発といったマニアックなことはしなかった。
「雪さんの身体は言ってみれば、まだ男を知らない処女と同レベルです。今後、新しい性感帯の開発の如何によっては今以上の快感を得るのも難しくありません」
「そう、ですか?」
「もちろんです。というか、未開発の状態でここまで感じたのだから、きっと生来敏感な身体なんだと思います。開発が進めば、より強い快感に繋がるのは当たり前です」
そんなことを面と向かって言われても困るのだが、言われている意味はよく分かった。
今まで性感帯として意識したことのない部位が、実は性感帯だったというのは驚きだ。しかし、そこは女性器のようにすぐに快楽を感じられるわけでなく、性感帯として機能するようにトレーニングをする必要があるということだ。
「もしも、次にご来店いただけるのであれば、その時は、また新しい性感帯を試してみるのもいいかもしれませんね」
「宣伝ですか?」
「もちろん。雪さんのような美しい女性に来ていただける。これに勝る喜びはないわけで、末永くご贔屓にしていただきたいのです」
「……考えておきます」
「よろしくお願いします」
今回までと思って来てみたが、また新しい扉が開きそうで、距離を置くのももったいない。別に誰かに咎められているわけではないのだ。三回が四回になったとしても、然したる違いにはならないだろうと、そんな考えが頭に浮かぶ。
今回は、新しい発見があって、時間が足りなかったのだ。だから、次回に持ち越しになっても仕方がない。次で終わりにすればいい。
雪菜は内心でそう思いながら、夜の町に姿を消した。