それと、ガチめな体調不良で投稿最後の推敲ができていません。後で誤字と表現、そして納得いってない微妙な展開の修正はしますので、どうかご了承下さい…
それではエピローグをどうぞ
※あとがきを書き足しました
ちゅんちゅんと雀が鳴いている。グレーのシックなカーテンの隙間から漏れた陽光が、瞼を焼く。目の痛みと不快感に、意識がゆっくりと浮上する。
「ぬ、ぅ……」
とはいっても、眠いものは眠い。うとうとと睡魔に身を任せようとするが、一向に眠れやしなかった。何せ、全身はだるいし、何故かあそこが痛いのだ。じんじんと響く鈍痛が常に襲って来て、睡眠どころではない。
仕方なしに目を開けて体を起こそうとすると、視界いっぱいに亜美の顔が広がった。
「ふえぁあっ!?」
「おはよう、お寝坊さんなお嬢様?」
いるはずのない人物に驚きふためく俺に、にんまりといたずらっぽい笑みを浮かべている亜美。
何言ってるんだ、お嬢様ってお前の事じゃないか、とまで思考したところで、はたと気づく。
自分が出した声がいつもとは違い、随分と高めの女声であることに。何で、と考える前に、1つ思い出したことで連鎖的に昨日のことを思い出す。
意識を失う前、俺と亜美はセックスしないと出られない部屋に閉じ込められていたことを。
脱出手段を探している最中、亜美に勧められるがまま薬を飲み、冗談のつもりが本当に女になってしまったことを。
そして、最終的には元に戻る選択肢よりも亜美と結ばれることを選び、男性器をはやす薬を飲んだ彼女と致し、こうして無事に脱出できたのだ。
ようやく頭が全部思い出した時には、自身でもわかるくらい顔の紅潮を抑えられなくなっていた。
「え、あ、う、うぅ……」
一連の流れを思い出したのと同時に、睡眠ガスらしきもので意識を失う前に繰り広げた痴態をも思い出してしまったのだ。
拒んだ媚薬を口移しで飲ませられ、丁寧だが強引に舌を絡ませられると、すっかり体の力が抜け、亜美の成すがままになってしまう。
どこで覚えたのか不思議なくらい冴えわたる亜美の舌技と、徐々に効き始めた媚薬で意識も蕩け、始まったのは後は思い返すのも恥ずかしい行為ばかり。
何とかフェラだけは拒んだものの、それ以外に思いつくような行為は殆どされ、俺の体を味わいつくされた気がする。
「あんあん喘ぐ真尋お嬢様、とっても可愛かったですよ?」
「止めて、お嬢様呼びマジで止めて」
「今度から私の家に嫁入りするのですから、お嬢様で良いではないですか」
にまにまと意地の悪い笑みを浮かべている笑みは、真っ赤な俺の顔をとても楽しそうに眺めている。恥ずかしさの極みに達した俺は、ぐるりと反転して亜美の視線から逃げるが、背後から抱きしめられ、逃げ場を失う。
「嫁入りなら、お嬢様じゃなくて奥様だろ」
「あら確かに。それでしたら、お嬢様ではなく若奥様ですね。是非とも、裸エプロンで仕事帰りの私を迎えて、定番の台詞を言って頂かなくては……」
「墓穴を掘ったぁ……」
反撃の糸口も掴めず捕獲されてしまった俺は、うなじにキスを落とされるなど好き放題にいじられ始める。
「んんっ……」
「ふふ、くすぐったいですか?」
「少し……やっぱり、ちょっと敏感なのかな。今くすぐられたら、死んじゃう気がする」
「死なれたら困りますね。まだ結婚すらしてないのですから、楽しみはもっと後に取っておきましょう」
大手を振ってというわけではないが、こうして堂々と彼女といちゃつけるというのは、なんとも幸せだった。それは亜美も同じようで、感嘆の声を漏らし、ほうと息を吐く。
「ああ。貴方と結ばれた暁には、どういちゃいちゃするかよく考えたものです。貴方の腕に抱き着いたりして、驚かせて反応を楽しむなど、妄想するだけで胸が躍ったものですが、こうして女の子になった真尋を弄るのも、とても楽しいですね」
「こうなるのは予想外だけど、俺も嬉しいのは間違いないよ」
女同士になるという想定外の展開だったが、普通の恋人同士のように振舞えるのがこんなにも嬉しいとは、想像だにしなかった。何せ、以前は人目がないところでさえ躊躇っていたのだから。世間のカップル共はもう少しありがたがった方が良いぞ、本当に。
「ところで、ここ何処? 俺の部屋じゃないのはわかるけども」
「私の部屋です。二人まとめて同じ場所に運ばれたようですね」
ふと浮かんだ疑問に周りを見回してみると、棚の上に飾られた家族写真や、小さなころに撮った小さな俺と亜美の写真が目に入る。それ以外にもクローゼットには見覚えのある彼女の衣装がかかっており、確かにここは彼女の部屋らしかった。
「そっか……無事に出られて良かったよ」
「そうですね。大丈夫だとは思いましたが、一応同一犯ではないという線もありましたし」
一度も入ったことの無かった聖域への侵入が、こんな形になるとは。内心がっかりしていたが、ひと先ずは無事に帰れたことを喜ぶべきか。
「とりあえず、警察に連絡しとかないとな。あれから何日経ってるか知らないけど、捜索願が出されてるかもしれないし、探してくれてる人を早く安心させとかないと」
「概ね同意ですが、電話するのはもう少しだけ、後にしませんか」
聞き返す言葉は出てこなかった。背中に触れた、ぬるぬるとした熱い塊に、意識を持っていかれていたからだ。
「ね? 一回だけ、致しませんか?」
「え、あ、ここで……?」
「駄目ですか?」
「だ、駄目に決まってるだろ。起きてすぐにだなんて、発情期の猿でもしないって」
浮かんだ感情は、戸惑いよりも躊躇いと言ったほうが良かった。何せ、自分の認識では女になって幾ばくも経過していないのだから、素直にうんと言えるわけがない。しかも、初めて見る彼女の部屋で、最初にすることが犯されることなのだから、拒否感もさらにマシマシだ。
だが、嫌そうに見せかけた態度も、そう長い時間持たなかった。
「ひうっ」
「ダメ、ですか……?」
「だ、めぇっ……ひあっ!!」
「でも。真尋のここは、意見が違うようですけど、如何でしょう?」
耳を唇で食まれてふっと息を吐きかけられ、濡れ始めたあそこをくちゅりと指で触られると、男の牙城はすぐに突き崩された。
股間からの刺激は初めての性交、つまりは昨晩の逆転した処女と童貞喪失を想起させ、あっという間に頭を蕩かす。
「あ、あ、あ……」
「ほら、真尋だってしっかり準備完了してるじゃないですか。私がお猿さんなら、差し詰め真尋は猫ちゃんですかね。下のお口でにゃんにゃん鳴いておねだりする、エッチな猫ちゃん……ね? 良いでしょう? 一回だけ。ね?」
「あ、うぅ……」
クリトリスと包皮の上から触られ、蜜壺を人差し指でゆるゆるとピストンされると、一時的に取り戻していた男としてのプライドはすぐにガタガタとなり、覚えたての女としての性欲がむくむくともたげてくる。
情熱的なあの情事を思い出し、膣が亜美の指を物欲しげに締め付けだす。ふふ、と笑った彼女の吐息が耳にかかってはもう、ぞくぞくと背筋を駆け上がる感覚に逆らえない。
「は、ぃ……」
「良い子ね……」
疼く下腹部と衝動に、俺はもう限界で。か細い声は、本音を口走る。
顔を見なくともわかる彼女の嬉しそうな声に、俺は身を任せた。
結局、一回では済まず三回も中出しされ、俺はあまりの快感に再び意識を失っていた。
亜美曰く、痛み止め代わりだと言って飲まされた媚薬だったが、まさかTS薬と一緒で永続性じゃないよな、と今更に心配になってくる。気持ち良すぎて、一度セックスし始めたら衝動が止められないのだ。亜美共々はまりすぎそうで、後々が非常に怖い。
ともかく、再び目覚めてから亜美にその事で散々弄られた後、シャワーに入りようやく通報と相成った。
警察からは例の事件ではないかと疑われてはいたものの、やはり捜索願は出されており、見つかった報が知らされ、俺達の両親は一安心だと喜んでいたようだ。だが、警察で俺達と対面した瞬間、困惑の表情に変貌した。
当たり前だ。片や息子、片や別れさせた筈の娘の恋人が女になっているのだから、戸惑うのも当然である。しかも、亜美には男性器が生えており、亜美が俺を犯して脱出できたのだと説明すると、場は一瞬で混迷を極めた。
それからすぐにDNA検査やらなにやらで俺たちは詳しく調査された。その結果、俺たちが正真正銘『新堂亜美』と『五十嵐真尋』である事が証明され、同時に、俺は完全に女性に、亜美は男性器に生殖機能があることも確認された。おかげで、世紀の大発見だと興奮した機関によってその後の検査が更に多くなり、非常に疲れたことだけは覚えている。
その後、『セックスしないと出られない部屋』による被害が世界的な事で、密かに設立された国際機関によって、今回の異常事態、つまりは俺が女になったことと、亜美に男性器が生えた事は公表しないこととなった。
理由としては、国際機関や政府側の勝手な都合である。そんな物が実在していると知ってしまえば、同性愛者をはじめとしたいろんな方々が暴走することが目に見えているから、というのが理由だ。幾年月、国際機関や警察機関が全力で捜査に当たっているのに、未だに犯人の影も形も捕まえられていないのだ。もっと頑張れと言われたところで既に限界なのに、暴動が起きてはたまらないと、TS薬の開発に目途が付くまで、事実が伏せられることとなったのだ。
とはいえ、俺たちにとってもその話は渡りに船だったので、全面的に受け入れることになった。薬による効果ではあるが、手術をせずに女になってしまった俺の存在が世間に知れ渡ると、当然マスコミが押し寄せ、生活が滅茶苦茶になってしまうことは、火を見るよりも明らかだった。
更には国際機関の働きかけで、俺は公式に女性としての戸籍を手に入れられるし、特例により亜美との籍も許可されるなど、唯一心配していた点も解決してくれる良い案だったため、断る理由がなかったのである。
知った瞬間なんて、亜美は喜びすぎて、政府の人が目の前にいるのに、俺を抱き締めキスをしたほどだ。無論俺も喜んだが、亜美の要求が何故か認められ、亜美が夫側になったのは若干不満だった。が、結婚は可能なだけマシと思い、今回は飲み込む事にした。
俺の些細な不満など、亜美との幸せには代えられない。彼女が微笑む顔を見て、俺は間違っていなかったと確信していた。
まだ様々な問題を抱えつつも、各検査や関係各所との話し合いが落ち着き、事件の公表が行われてから、一週間ほどが経っていた。
ようやく日常生活に戻れるぞ、と一息吐いていた俺達を待ち受けていたのは、美味しいネタを嗅ぎつけたマスコミの方々の攻勢だった。
例の部屋に関する報道は当初は盛り上がっていたものの、一向に犯人は捕まらず、被害者が変わるくらいで情報が代わり映えしない。報道はマンネリ気味となり、民衆の関心も薄れてすっかり下火となっていた。精々、新しく出た被害者が出た事を報道するくらいだった。
そんな中現れたのは、今まで必ず異性同士を攫っていた筈の『例の部屋』事件で、(公式の発表上では)初めて女の子同士の監禁である。しかも、片方は美人で著名な女社長ということも合わさり、各紙面やワイドショーはこぞって取り上げていた。
『新堂グループのご令嬢が、あの部屋の犠牲者に!?』
『お相手は幼馴染の女性か』
『初の同性同士の監禁に、世間は戦々恐々?』
などと、視聴者の興味を引く見出しが様々に並び立った。
政府と国際機関の訴えかけにより、基本的に例の部屋関係の被害者への取材は禁じられているが、それが日ごろからマスメディアに露出している人間であれば話が別である。
社長という立場上拒否できない亜美を積極的に取材し、亜美の取材姿は連日連夜報道番組に流れていた。
『新堂さんは、彼女とお付き合いをされているのですか?』
『ですから、それ以上は彼女のプライバシーに関わるのでお答えできかねると何度も……』
『どのような経緯にしろ、関係は持ったのですよね? 責任を取るつもりはおありになりますか!?』
『彼女と私の問題ですので、放っておいていただけないでしょうか?』
「相変わらずこの局はしつこいなぁ……これ以上、亜美に何を言わせたいんだか」
退勤した直後の亜美に直撃取材し、何か目玉になるコメントを取ろうとしつこく食い下がるリポーターの姿に、思わず眉を顰める。
一週間もすれば世間も流石に飽きてくる筈だが、まだ何か隠していることがあるはずと、一部の報道はしつこく取材してくるのだ。
その質の悪さと言ったら、亜美と一緒に住んでいる俺を例の相手だと断定し、禁止されているはずの取材を試みようとする程度には、悪質である。その事を報告した警察や国際機関からの警告に、本人だとは思っていなかった、などと苦しい言い訳をしつつ引き下がったマスコミだったが、分散していた矛先が亜美に向くだけで結局は変わっていない。
マスコミに嫌気が刺し、つけっぱなしにしていたテレビを消し、俺はぐつぐつと煮立ち始めた料理へと意識を傾けた。
さて、その後どうなったのかを軽く説明しておこう。
まず、俺は先ほど言った通り、亜美の家で彼女と同棲している。
理由は単純で、女性として生きることに慣れていない俺をサポートできる人間が、彼女以外に近くにいなかったのである。
両親は遠く離れた田舎住まいで、来てもらうにしても帰るにしても、俺や両親の仕事が絡んで実現できそうな案ではなかった。ということで、これを機に堂々と交際宣言をした亜美が世話をすると言い、俺は転がり込んだのだ。
ちなみに、同棲開始から今に至るまで、それはもう様々な困難な出来事が起きたが、それらに関してここでは言及しないでおく。
それはもう、聞くも涙語るも涙の物語があったのだ。
例えば初日、下着や衣服、その他日常生活に必要なものを買う為に出かける際、着るものが無いからと彼女のお古を着せられた事があった。
幼い顔立ちの今の俺が若干ぶかぶかの服を着ると、お姉ちゃんのおさがりを着た妹にしか見えない。そんな状態で亜美と買い物に行くと、ほほえましいものを見る周囲の奥様方の視線が痛い上、ふとした拍子に自分が着ている服は下着を含めて亜美の物なのだと思うと妙に恥ずかしさを感じるし、今思い返すだけでも羞恥で死にそうだ。例えスカートをはく羽目になろうとも、あんな事はもう二度としたくないと誓った。
2日目、シャワーではなく初めて風呂に入る際、洗い方の指導と称して色々嬲られた事があった。
世の女性は絶対、そんなエッチな洗い方していないと男の俺が断言できるほど、性感帯のみを重点的に洗ってくる亜美の手から逃れようとする俺。しかし、女性の扱いという意味では向こうの方が上手で、あえなく喘がされ、おねだりさせられる羽目になる。
あまつさえ、ようやく風呂に入れたかと思ったら身体の内から温まりましょうね、などと言って、浴槽の中で挿入された時なんて、冗談抜きでイキすぎて死ぬかと思った。
3日目、亜美が何処からか調達してきた猫耳、猫の形に穴が開いたブラジャーやパンティーなどのコスプレ一式を装備させられてのセックスを要求される。
それら単品は非常に可愛いのである。実際、どこかの量販店で売られていたであろうそれのパッケージに印刷されている女性は、とても可愛らしく着こなしている。男時代であれば、息子も元気になった事間違いなしだ。
しかし、女になっている今、そんなことは何の慰めにもならない。むしろ、俺がそれを着ることで、毎日散々お世話しているはずの亜美の子供さんを更に慰める羽目になった。
わざわざ4K画質のカメラで撮影されたコスプレショーとその後の濡れ場は、間違いなく俺の黒歴史である。ああ見えて独占欲の強い亜美の事だから流出は心配していないが、物持ちが良いせいで将来、自分の子供にあられもない姿を見られてしまう事にならないか、今から心配である。
ちなみに、たまに着て自画自賛していることは、亜美には秘密である。絶対弄られるだけじゃすまないからな。
これがまた似合っているのだ。胸部装甲が豊かな方が向いているのはそうなのだが、幼い雰囲気に猫というのは可愛いを増幅させるので、とても良い。これが自分じゃなかったら、言いよっていた事間違いなしである。
閑話休題。
そう、ここまで並べれば気づいたと思うが、大体の苦労が亜美の性欲関係なのだ。
つい昨日も、僅か二週間弱の間にこそこそ撮りためていたらしい映像を見せられながら、軽いボディタッチとフェザータッチで性感帯を刺激されて、最終的におねだりさせられ、晩飯の前に2回戦もこなす事になった。
俺も与えられる快楽に夢中になっている節があるのでお相子かもしれないが、流石に絶倫すぎないか。毎日最低三回は出しているし、並みの男以上の性豪である。
今まで我慢していた反動で箍が外れたのか、それとも異性の性器があるというのは性欲を掻き立てる性質があるのか。まぁ俺も、普通の女より淫乱気味な気はしているし、あってもかしくないとは思う。
しかし、だからと言って男に抱かれたいかと言うと違うのだ。想像するだけで寒気がするし、外を歩いていると感じる品定めするような不躾な視線を浴びても、イケメンからナンパされても微塵も興味がわかない。
それは亜美も同じようで、女性を見ても、試しにAVを見てみたらしいが興奮しなかったらしい。
真尋のだからしたいんです、だなんて殺し文句を囁かれては、俺もおとなしく股を開くほかない。
結局仲良くしているのだから、この事はもう深くは考えない事にしている。
話すとすると、後は俺と亜美の仕事関係になるか。
亜美は戻ってきたその日には職場に復帰している。俺も姿形は変わってしまったが、身内以外には伏せられている俺に関する情報規制も、特別に松永さん達職場のみんなには開示してある為、その気になればいつでも戻れるのだが、未だに復帰していない。
何故かというと理由は単純で、女になることで純粋に腕が落ちてしまったのだ。
女性になったことで腕力や手先の感覚が変化し、包丁の扱いが下手になってしまっていた。それでも昔取った杵柄か、人並み以上には出来るため、普通の家庭料理レベルならば大丈夫なのだが、飾り切りや隠し包丁等、指先の精密な操作が必要となる技術が、感覚が変わってしまったことでめっきりできなくなってしまったのだ。
だが、技術に関してはまた練習を積めば良い。年月を経て経験を積めば、いずれ解決してくれることである。
技術の低下よりもっと深刻で尾を引きずっているのは、俺の味覚である。
目の前の小鍋で煮込まれているのは、野菜の入ったコンソメスープである。レストランに入りたての頃教えられた、単純で誰でも作れそうなレシピのスープ。
各調味料を精密にメモし、いつ作っても同じ味になるように覚えたこの料理は、塩気も甘みもすべてが均等にバランスよく出来上がるように調整されている。これは俺が美味い料理を作るための尺度、つまりは味覚のベースとなっている料理なのだ。
カチリ、とコンロの火を止めると、充分に煮立ったスープをスプーンで掬い、口元に運ぶ。
噛むように味わい、こくりと喉を鳴らし飲み込む。
「……丁度良い。けど、塩は極端に少なくて、砂糖を入れすぎてる」
自身に丁度良く作り、レシピ通りの分量になるのが最善なのだが、今の俺は塩分を強く感じ、甘みをより欲するようになっている。明らかに、舌の感覚が変化しているのだ。
「くそ、早く慣れないと、満足に料理もできない……」
仕込みだけなら既に復帰できるかもしれない。でも、ここが元に戻るか変化を受容出来ないと、上達は見込めないのだ。
見た目は勿論、味も美味しくない限り、フルコースに採用される料理を作ることなど、夢のまた夢なのだから。
これで今日何度目だろう。ひたすらに慣らしていくしかないが、それにしても進歩が遅い。思う様にいかない現実に、苛立ちと共にスプーンをシンクに放り投げる。
頭が茹っている事を自覚しながらも、焦りから止める機会を失っていた。
「もう一度、最初から……」
「ただいま、可愛いコックさん」
と、鍋に手を伸ばした所で、視界がブラックアウトした。
驚きで暴れかけたが、聞きなれた声に手を下ろす。
「あ、亜美!? びっくりさせないくれよ、もう……」
「随分と煮詰まってるようですね?」
それ程長い時間やっているつもりはなかったが、随分と長い間試行錯誤していたようだ。亜美の指の隙間から窓を見ると、夕陽が赤い光で部屋を染め上げている。すっかり日が暮れ始めていた。
出迎えもせずに悪い事をしたな。後悔しながら振り返り、おかえり、と挨拶代わりにキスを交わすと、亜美は心配そうに話をつづけた。
「まぁ、ね。包丁は工夫次第でどうにでもなるんだけど、どうしても、味覚が鈍くてな……」
新しいスプーンを取り出し、小皿に一口救って亜美に手渡す。
いつも通りテイスティングし、琥珀色の液体を嚥下する。
「個人的にはこの方が好みですが、そういう話ではないのでしょう?」
「今の俺もそうなんだけどな。違うんだ。これじゃ、コース料理はまだ作れないんだよ……」
褒めてくれるのは嬉しいし、亜美の好みに作れているのはそれはそれで嬉しいのだが、ちと話のベクトルが違うのだ。
「結婚はまだですが、それももう時間の問題ではないですか。私は、帰ってきたときに真尋が家で出迎えてくれて、ご飯を作ってくれるだけで充分満たされていますよ?」
「俺だって、幸せさ。まだ2週間もたってないけど、今まで損してた分を一気に取り返すくらい、な。でも、これは俺の矜持の問題だ」
かつて亜美に約束した、弁当を作ってあげるという話は今でもこなせるが、それでは個人的に納得がいかない。
今でこそ、俺との情事を経験し、一皮むけた彼女の威圧感や、その他諸々に押され、ついに交際を認めた彼女の父親だが、俺自身で認めさせてこそ、俺は大手を振って結婚できると思っているわけだ。
身体は女でも心は男のままでいるつもりの俺は、シェフとして成り上がり、彼女の父親を見返すという目標を変更するつもりは毛頭なかった。
「……まぁ良いです。そうやってキリっとしてる真尋もカッコイイですし、昔からの夢ですからね。私は応援していますよ」
「ありがとう」
腰に手を回しぎゅっと抱きしめてくる彼女の手のひらに、俺は手を重ねる。
こうして触れ合っているだけの何気ない行為でも、とてつもなく幸せだった。早く大手を振って婚姻出来るよう頑張ろうと、気力が湧いてくるようだ。
「でも、困りましたね。味覚の変化が、こんなにも大きな影響を及ぼすとは……もう一度変化があるかと思うと、真尋には苦労を掛けますね」
「もう一度って何? ああ、男に戻るときって事か」
亜美のつぶやきが耳に入り、俺は勝手に納得していた。確かに、男と女で味覚の変化があるのであれば、男にもし戻れた際、もう一度この苦労を味わってしまうということだろう。それくらいは仕方ない事として受け止めるしかない。それに、元に戻るだけなら新たに試行錯誤する羽目になっている今よりも苦労は少ないだろうし、そこまでは心配していなかった。
「いや、もっと身近にあるじゃないですか。女性の方の好みが変わってしまうような出来事が」
「……?」
気にしなくて良いぞ、と口にする前に言われた台詞に、疑問符が生まれる。
好みが変わるって、戻る以外に何かあるのか? 年取るとかか? 俺は思いつかないが……
と思案していると、亜美は無言でずいっと顔を近寄せて来る。
「な、何だよ」
「……もし。酢の物が食べたくなった時は、すぐにでも言ってくださいね。一緒に病院に行きましょう」
「酢の物……? ……!?」
酢の物、女の人、味覚の変化、そして頻繁に行われている、夜の情事。連想ゲーム的に出来事が頭に浮かんできて、最後に閃いたワードに、俺はカッと全身が火照るのを感じる。
「質の悪い冗談は止めろって!!」
「うふふ、冗談だと良いですね。では、先にシャワー頂きます。今日も暑かったですし、汗もかきましたから」
俺の怒鳴り声も何のその、柳の様に受け流すと、意味深な言葉を残し、流れるように手を振って風呂場へと向かって行ってしまう。
「ああもう……うん、いってらっしゃい。その間に夕飯作ってるよ」
まあなんだ。俺も別に、子供が欲しくないと思っている訳じゃない。悪い気はしないし、積極的に拒むような事ではないだろう。一回コンドームを試して、やっぱり中出しの方が気持ち良いなぁ、などと考えた訳じゃないからな、マジで!!
すっかり毒気が抜けた俺は、忘れていた夕飯の準備に取り掛かるべく、再び台所に向き合ったのだった。
そう遠くない日に子供を授かるだろう。その日を待ち遠しく思いながら、俺は笑みを浮かベてしまっていたことに苦笑するのだった。
「あ、今子供を愛でる母みたいな顔しましたね。やっぱり欲しいんですね子供!! 良いでしょう、ならば今から子作りを……!!」
「いいから先にお風呂に入ってきなさい!! ご飯と俺はその後で、ってあーーー!!」
と油断した所で、風呂場の扉からこちらを覗いていた亜美が、こちらに突進してくる。
勢いだけも思いきや、しっかりコンロの火を消してから俺を抱きかかえ、ソファに優しく横たえる亜美に、俺は半ば抵抗しなかった。こうなった亜美に抵抗するのは無駄だと、今までの生活でわかったからだ。
「飯が遅くなっても、文句言うなよ……」
恨みがましく睨んでいると、彼女のスカートを押し上げる逸物の存在を認識する。俺で興奮していくれている、と否応なく示すそれは、俺にとっても興奮を駆り立てるものだった。嫌じゃない。むしろ、望むところだ、と俺は迎え撃つ気満々だった。
「ねぇ真尋。あのおねだり、聞かせてくれないでしょうか?」
亜美が何を要求しているのか理解して、俺は若干の恥ずかしさより、この後の満足度を取ることにする。
若干シチュエーションは違うものの、エプロンを付けた女性に、男が要求することなんて決まっていた。
亜美の趣味で選ばれたスカートを捲り、亜美の趣味全開の下着を露出させる。
「お帰りなさい、貴女。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、わ・た・し……?♥」
「返事は決まってるわ。私が選ぶのはいつも、貴女よ……」
最初こそ声が震えてリテイクを食らっていたが、今の俺は違う。顔が赤くなるのは仕方ないが、噛む事なく最後まで台詞を言えるようになったのだ。いや、別に誇るようなことでは無いが。
以前の要望通り、語尾にハートマークが付きそうなくらい、甘く蕩けた声色で、彼女を誘う。舌なめずりする亜美の姿に、ふるりと全身に震えが走る。下着からたらりと太ももを伝う露で、俺自身も興奮しているのがわかる。
夕日の差し込む部屋で、熱い吐息が重なった。ひと月前は想像だにしなかった幸せの形に、俺は身をゆだねた。
エロシーンはありませんが、ひとまずこれにて終了です。
お嬢様と幼馴染の話でしたが、責任を取るのは真尋ではなく亜美だった、というオチでした。タイトルを思いついた時は、我ながら天才過ぎるなとそれはもう自画自賛しましたが、オチにうまく被せられなかったので意味不明に終わりました。無念。
前編の前書きでも書きましたが、いままで書いてきたTS百合の中で過去一自信がありませんでした。これならいけると組み上げたプロットを実際書き上げてみたところ、途中とオチがそれはもう微妙で…幾度となく書き直した結果が、この遅さとエロシーンが無しという結果です。
何処がと言われると困るのですが、書き直した結果、真尋の職業が3回くらい変遷を遂げた、と言えば伝わるでしょうか。次回作はもう少し頑張ります。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。次回は期待に沿えるよう頑張ります。
(もし、書くとするなら)次のうちどの蛇足が見たい?
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幸平と美衣
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慶介と恵里佳
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アキと凪咲
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真尋と亜美
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TSしちゃった連合の飲み会話