ゆかりと俺は、学部も取っている講義も全く同じ。どちらかの家の前で待ち合わせ、二人並んで大学への道のりを歩くのがいつもの俺達の朝の光景だ。
今日の授業は一コマ目からということもあり、朝一から通勤者と通学者がごった返している往来を、今日は手を繋ぎながら歩いていた。
今更手をつなぐだけで照れるような間柄ではないが、行き来する人たちの中には大学の同期や先輩後輩などもおり、からかわれる格好の的になるため普段は控えているところだが、今日に限っては切実な事情があった。
「……」
「そんな借りてきた猫ちゃんみたいに警戒しなくても、皆気づいてないよ……?」
周囲から向けられる視線を気にしてしまい、ついついきょろきょろと周囲を確認してしまう俺の手を引きながら、諭すゆかり。
「そう、なんだけどな。つい視線が気になって……」
視線を集めているのが美人と見せつけるように手を繋いでるせいだとわかっていても、自意識過剰気味に人々の視線が気になってしまうのは、当然理由があった。
俺の手を引く、という言に現れているように、前から見ればゆかりに隠れて歩く格好となっている俺の姿は、彼女の大きな体にすっぽりと隠れてしまっている。
俺が男性平均より少し低いくらいで、対照的にめぐみはスポーツ選手と間違われるほど恵まれた体格であるからして、ゆかりの方が目立つのは当然の帰結だ。だが、それにしてもすっぽりと隠れすぎである。
何故そんなことになっていて、そんな事をしているのか。理由は単純明快で、鏡を覗けばすぐにわかるだろう。
朝方降った雨で出来た水たまりに、二人の姿が映りこんだ。
ブラウスにフレアスカートを合わせたシンプルな服装でまとめた、大人っぽい格好の美人女子大生と、黒で統一したワンピースにスニーカーと、色は兎も角ちぐはぐな格好をしている金髪碧眼の美少女。
前者は言われるまでもなくゆかりであり、ゆかりが手を引いている少女は紛れもなく俺だった。そう、俺は結局、男に戻れなかったのである。
『結論から言うわね。ごめんなさいWiz、今あなたを男に戻すことは出来ないわ』
『え、えぇ!?』
力尽き、ベッドで死に果てていた俺をAIが起こす。ドクターからの連絡と聞き、喜び勇んで応答した所、舞い込んだのは朗報ではなく逆に止めだった。
『正確に言うならば、元には戻すことが出来るのだけれど、戻すと問題があるのよ』
『というと?』
『うーん、どう説明しようかしら……』
直截な言い方を好むドクターにしては珍しく歯切れが悪い。嫌な予感を覚えた俺の直感は、結果的に間違ってはいなかった。
『Wiz、貴方パソコンとかは得意?』
『まぁ、それなりには』
『ならまだわかるかしら。理屈を抜きにして貴方にわかる様にざっくりと話すと、あの認識阻害のウイルスが原因で、貴方の変身デバイスにバックドアを仕掛けられてしまったのよ――』
ドクターが初めに説明した通り、今回は防壁を貫通してウイルスを仕込まれたこと自体が問題であって、ウイルスだけに限れば、単純なつくりの簡単に除去できるものだった。
その為、防壁を貫通してウイルスを仕込む、新たな兵器の性能確認テストだと思い解析していた所、本命は別にあった事が判明した。それが、ウイルスを除去すると同時に発動してしまう、デバイス所持者の居場所を特定する別のウイルスだったのだ。
『――戻ったが最後変身前の貴方が狙われる事になるから、本当に申し訳ないけど今すぐのウイルスの除去は出来ないわ。ごめんなさい。勿論、今後もバックドア含めて対策は講じていく。仕事上での問題だから傷病手当金も払うし、以前通りの生活をサポートするために、デバイスの日常生活での使用も許可するわ』
ということで、俺は女から戻れず、その姿のまま大学に通う羽目になってしまったのである。
AIにより認識改変機能が常時作動しており、ゆかりが買ってきてくれた女物の服を着ていても、周りは男の俺にしか見えていないし、声も男のままに聞こえているらしい。試しに弟と妹に電話して確認してみたが、気づかれることは無かったので、効果が発揮されているのは間違いない。
『マスターが利用しているのは、宇宙最先端の技術がふんだんに使用された、地球の価値では到底換算出来ない貴重な装置なのですよ。マスターはもう少し私を信用してください』
「お前は信頼してるし、技術云々を心配してるわけじゃないんだ。わかってる、頭ではわかってるつもりなんだよ。でも、家の中にいるのとは違うというか、落ち着かないというか……」
理解しているつもりなのだが、この背格好や声のまま、以前の様に振舞えという方が無理だと思う。俺以外からは男に見えていても、俺の視点から見れば、以前とは比べくもない、見た目相応の力しかないか弱い少女にすぎない。何かあったら、弁論は兎も角押し負けるのは間違いなく俺の方。バイト中ではこんなこと一度も無かったのに、今では急に世界が反転してしまったように思ってしまい、全ての物ごとに恐怖を感じる始末である。情けない事に、ゆかりの傍を離れるのが怖くて仕方ないのだ。昨日も結局、何だかんだと理由を付け、ゆかりに家に泊まってもらった始末である。
ゆかりに対しては、怖いとは口が裂けても言えないが、心細い。その一言に尽きた。
「大丈夫だよ伊織君、皆気づいてないって!! 二人でいちゃついてるように見えて目立ってるからだけだと思うよ?」
「そうだといいんだけど……」
きゅ、と強く握ってくれた掌の感触で、ゆかりの顔を見上げた。
「プラスに考えていこう? 折角だから、その体を楽しむくらいに考えていかないと」
普段から可愛いとは思っているが、今は殊更かわいく見える。見惚れているのをごまかすように、俺は視線を落とした。
「そう、かもしれないな。認識改変機能切れば、目線気にせずデザートビュッフェとか行き放題だしなぁ」
「そうそう!! カップル割とかレディースデーとか、いいとこどりし放題だよ。そして……!!」
「コスプレはもうやらないぞ。もう一生分やったから」
「ええ~~!?!? 勿体ないよ伊織君!! 折角AIさんのおかげで好きな衣装着放題なのに!! コスプレで天下取る気無いの?」
「ないよ。魔法少女はもう仕事だけでいい……」
『週刊誌の表紙を飾るまでのディレクションは任せてください。まずはお堅く強めの版権で知名度を稼ぎましょう』
「お前もしれっと乗るんじゃないよ。そもそも悪用するなっつったのお前じゃんか」
『ご安心ください、私の意思で協力する分には合法です』
「なんだって!! 私、BLEACHの夜一さんとかみてみたい!! あの猫化してるやつ!!」
「このナイチチボディに対してなぜそこをチョイスした???? しかもあれほぼ裸じゃねぇか!!」
『なるほど、ちょっと無理してる感を出して、可愛らしさをアピールですか。ゆかりさんの戦略もありですね』
「このAIも馬鹿か? 無理してるも何も、コスプレどころかあれ何も着てな――」
「うわああああ伊織君えっちだぁああぁっ!!」
「おいやめろ、無言でイメージ図を出すんじゃない!!!! こんな大通りで叫ぶなゆかり!!」
さっきまでの怯えはどこえやら、とめどなく押し寄せるゆかりとAIの攻勢に、大声で抵抗し続ける羽目になった。
俺達がどれだけ目立っているか、気にもせずに。
「……あいつら何騒いでんの?」
「伊織が何のコスプレするかって話してる。今最有力候補は夜一さんのコスプレらしいよ」
「罰ゲームか何か????」
「……俺、明日から大学に居場所あるんだろうか」
『何なら今日からないかもしれませんね、HAHAHA』
「てめぇ……!!」
普段は流暢に喋るくせに、きちんと後半は棒読みチックに読んでくるあたり、本気で殺意が沸いた俺だが。
「大丈夫、そんな伊織君も愛してる♡」
「……」
後頭部を包み込む幸せな感触に、鼓膜を打つ心地よい声色。
背後から抱きしめられながらささやかれてしまうと、もう駄目である。特に、このボディに固定されてからはダメージが著しいようで、途端に気勢がそがれてしまう。
これが、きっと惚れた弱みというやつなのだろう。
「じゃ、行こっか……♡」
「そうだな――おい、大学だよな? そっちに大学はないが? 何かお高い休憩所しかないが!?」
『流石に"休憩"では公休になりませんので悪しからず』
「知ってる!! だから止めてるんだろ!!」
文句は言いつつも半ば抵抗する気のない俺は、諦めて真昼間からラブホに連行されるのだった。
おまけはエロ足せたら投稿するかも
(もし、書くとするなら)次のうちどの蛇足が見たい?
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幸平と美衣
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慶介と恵里佳
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アキと凪咲
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真尋と亜美
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TSしちゃった連合の飲み会話