その一か月後、クリスマスの朝。幸平と同様に女になってしまった会社の同期、高橋とその妹と一緒に、美衣に連れられて向かったのは、とある高級旅館で……?
※『冴えた倦怠期の乗り越え方』の続編になります。
2(短編)
「確かに、ご本人の免許証のようですね……大変失礼しました。この後も良いご旅行を」
「いえ、お気になさらず」
何回も見比べ、生年月日を再確認し、それでも納得いかなさげな表情を浮かべる警官は、免許を僕に返すと、首を傾げながら前方に止めたパトカーの中へと戻っていく。はぁ、と僕の深いため息が車内に木霊するとともに、後部座席から笑い声が上がる。
「あははははは!! これで警察に止められるの、何回目だよ。ひぃ、腹が痛い」
「くぅ、他人事だと思って好き勝手言いやがって……」
すらりとした足を活かすパンツルックで、男物っぽくも見える派手なジャケットを着こなし、体を揺すって笑い転げている女性を、僕はバックミラー越しに睨むが、まったく効果は無いようだった。動きすぎて、シートベルトのロック機構が作動するほど笑っているのは、僕の会社の同僚である高橋である。
先月、男性が女性化してしまうという世間を騒がせた性転換事件。僕の友人でもある高橋は、その被害者の一人だ。だから当然、元の性別は男性である。程よく大きい胸にすらりと伸びた手足、どんな服でもばっちり着こなしそうなスタイル。黙っていればかっこいい系の女性モデルにも見えるその美貌を崩し、遠慮なくケラケラ笑っているのは、この空間がプライベートだからではなく、その肉体を持て余している証左に他ならない。
車内でなければ一発ぶん殴ってやるのに、と僕も筋肉の少ない拳を握りこんで怒りをため込むが、その怒りは全く高橋に伝わっていないようだった。
「もうお兄ちゃん、幸平さんに悪いよ。折角運転してくれてるのに……」
「そうは言ってもな……自分から運転を買って出ておいて、1時間の運転で警察に止められること3回だぞ? これはもう笑うしかないだろ」
そう高橋を止めつつも、自身も笑みを隠しきれていないのは、その高橋の妹さんだ。高橋沙織ちゃん、国立大学の3年生で、現在は高橋と同居している、高橋とは5歳違いの明るい女の子である。170cmちょっとと、女性にしては身長が高いほうで、女性になった高橋と同じく、可愛いより綺麗という言葉が似あう、美人さんな妹である。
二人並ぶと、以前は美女と野獣という形容詞が似合う光景が広がっていたが、今ではうり二つの美人姉妹である。姉妹と呼ばれるのを非常に嫌っているらしいが、先日は2人並んで歩いている際、姉妹でどうですか、と芸能事務所にスカウトされたらしいし、今では認めざるを得ない事実である。
「幸平さん、やっぱり運転変わりましょうか?」
「大丈夫だよ。こうなったら、何回止められようが、到着するまで絶対に運転は変わらないぞ!!」
運転席に座っている僕の横、助手席に座っているのは、僕の奥さんである美衣ちゃん。美衣ちゃんは心配そうな表情で僕を見つめているが、僕はその視線を振り切る。立て続けに警察相手に馬鹿にされ、意地になった僕は、美衣ちゃんとペアルックな可愛らしいセーターをまくり、再びハンドルへと向かうのだった。
先程高橋の紹介で性転換事件の被害者だと言ったが、かくいう僕もその一人である。すらりとかっこいい女性になった高橋とは裏腹に、手の平サイズの可愛い女の子になってしまった僕。元々平均よりちょっと高いくらいだった身長は、女性の平均をぶっちぎる程縮み、美衣ちゃんと並ぶと最早美人母娘である。そんな姿だからか、先程から警察に何度も止められていることからわかるように、未成年として扱われることが多くなった。仕事でスーツを着ている時でさえ、背伸びをした子供に見える有様である。プライベートでもかなりのストレスだったが、まさか運転中でもそんな扱いをされるとは思わず、完全に頭に来てヤケになっていた。
「後何回止められるかはわからんが、帰りは俺が運転してやるから、行きはなんとか頑張れよ」
「くっそー、自分はそんな美人になったからって馬鹿にして……!!」
「幸平さんも十分美人ですよ」
「そうですよ!! 幸平さん、ぬいぐるみみたいに抱っこして、一緒に寝たいくらい可愛いですもん!!」
「それ僕にとっては誉め言葉じゃないから!!」
座席の高さを上げ、座席を思いっきり前に出し、ようやくまともにアクセルを踏み込めるようになる。流石に運転歴は長いので危なっかしくはないのだが、また止められそうという別ベクトルの心配をされている僕は、今度こそは、という決意を抱いて、路肩に寄せていた車を再び発進させるのだった。
今日はクリスマス。イブの夜もたっぷり啼かされた僕が朝早く、美衣ちゃんに連れられて訪れたのは、レンタカー屋さん。今日明日、泊りで旅行に行こう、とのことだった。一泊の筈なのに大量の荷物を抱える美衣ちゃんには嫌な予感を覚えつつも、倦怠期だった頃を無事脱却できた記念ということで、喜んで参加することにした、のだが。
事前に高橋と抱いていた危惧は、駅前で高橋姉妹を拾った時点で濃厚となり、高橋の妹さんも何泊する気なのかと言いたくなる大きさのキャリーケースを引いてきた時点で確定となった。そんなに楽しみ? と笑顔で美衣ちゃんに聞かれる程度には、僕の表情が無かったらしい。さもありなん。
そうやって始まったクリスマスの旅行だったが、その後は何の邪魔も入ることなく、無事に目的地へと到着したのだが……
「なぁ高橋。ここ、僕の目には旅館に見えるんだけど……」
「奇遇だな東。俺の目にもそう見えるぞ」
ナビが目的地に近づくにつれて、通りすがる地名や看板で何となく察知していたが、嫌な予感は当たるものである。目の前に広がるのは、有名な温泉地の中でも、一等地に建つ立派な高級旅館。玄関に入るだけでその荘厳さと威容に気圧され、たらり、と背中を流れる冷や汗。
「まずいよ、こんなとこに来ても、僕たちが女風呂に入れるわけないだろ……!!」
予約していた東ですが、と言ってチェックインの手続きをしている美衣ちゃんを尻目に、ロビーの隅で辺りを見回していた高橋に、焦りながら小声で耳打ちする。
辺り一面温泉しかないこんな旅館に来てすることなど、火を見るより明らかである。温泉につかる、それしかあるまい。これがひと月前だったなら何の問題もないが、今は違う。そう、今の僕は、外は女性で入るならば女風呂になるが、かといって中身は男性なのだ。そりゃ、事故に際して政府に用意してもらった身分と戸籍は女性だが、悪用は避けるように、との言葉も頂いているし、それを免罪符にみだりに振りかざしていいものではない。
焦った僕がまずいぞどうする、と高橋に声をかけると、僕と同じく窮地に置かれたはずの高橋は、きょとんとした顔でこう言った。
「え、入らないの? お前」
「高橋ィ!!」
本気でぶん殴るが、じんわりと僕の拳に痛みが帰ってくるだけ。やわになった僕の筋力では、女になった今でも鍛えているらしい高橋の腹筋を超えることはできなかった。傍から見れば、年下の女の子がお姉さんに甘える図にでも見えているのか、周囲の人間から生暖かい視線を送られているが、今はそれどころではない。
「何考えてるんだ!! 流石に犯罪だぞそれは!!」
「何でだ、大チャンスだろ……!! 流石の俺も、わざわざ銭湯に行って覗くのは気が引けるが、機会が向こうからやってきたんなら話は別だ。大手を振って女風呂を覗ける、無二の機会を逃すわけにはいかん……!!」
整った顔をキリリと引き締め、まるで使命感に燃える正義漢のように静かに闘志を燃やす隣のろくでなしの姿に、僕が頭を抱えていると。僕の反対側で話を聞いていた沙織ちゃんが僕らの話に割って入ってくる。妹さんは止めてくれるのだろう、と思っていたら。
「そうですよ! こんな機会逃せないですよ幸平さん!!」
「え、沙織ちゃんそっち?」
「当り前じゃないですかぁ!! ここの温泉はですね、美肌になる作用がたっぷり含まれた美人の湯と言われているんです。近くの旅館に泊まっている方でもわざわざこの旅館の温泉に入りに来る程有名なので、女風呂に入ったらそれはもう、あちらこちらに美人さんがより取り見取りで……えへへ」
ぐ、っと右手を握りしめて力説していたかと思えば、突然にへらと表情をだらしなく崩す沙織ちゃんに、ああ、やっぱり血は争えないなあ、と遠い目になる。
よくよく考えてみれば、沙織ちゃんは栄養剤を飲んだ後、自宅で倒れていた高橋本人を、高橋の彼女か何かだと思ったまま、看病するふりをして美味しく頂いた、美衣ちゃん以上の強者である。むしろこうなることは、当然の帰結であった。
「マジかよ……そんなに期待感煽って大丈夫か、妹よ。これでお婆ちゃんばかりとかだったらただじゃおかないぞ?」
「そりゃあもう、大いに期待して頂いても大丈夫ですよお代官様げへへ。お年を召された方は、ここの向かいの旅館の長寿の湯に行かれますからねぇ。若い子は自然、ここに全員集うといった次第ですよ」
「ぬふふ……お主も悪よのう」
「ぐふふ……悪代官様程ではありませんよぉ」
日頃はあれだけ文句言ってるくせに、いざとなれば一致団結してこんな猥談をしだすのだから、どう見てもただの仲良し姉妹である。話してる内容はとんでもないけどね。
その光景を想像しているのか、両手を合わせてうっとりとしている沙織ちゃん。
「ああ、夢だったんです私、お兄ちゃんと一緒に女性ナンパするの」
「え、何言い出したの急に!?」
「ほら、お兄ちゃんのガタイで私連れて女の子ナンパしたら、ただの怪しい人たちじゃないですか。でも、今の女の子になったお兄ちゃんなら違うんですよ。どこからどう見ても、ただの女の子が大好きなだけの美人姉妹じゃないですか。
低い声で、今日は君とベッドインしたいんだ……そう言ったらイチコロですよぉ!! 私一人じゃ無理でも、お兄ちゃんと二人掛かりならどんなに
そこだけ切り取れば、難局を兄を信じて切り抜けようとする美しい姉妹愛が垣間見れる名場面だったろうが、きっと妖しいルビがふられているであろう事実が、それを台無しにしていた。
どうやってテンションの上がり切ったこの馬鹿姉妹を止めてやろうか、と思案している僕に助け舟を出してくれたのは、手続きを終えてこちらにやってきた美衣ちゃんだった。
「残念ながら、今回は皆で家族風呂だけどね」
「あ、そうなんですね美衣さん……残念だなぁ」
「まぁ、そりゃあね……でも、問題なのは俺たちだけなんだから、別にお前は入ってきていいんだぞ沙織?」
至極残念がる沙織ちゃんに対して、コロッと態度が変わる高橋。まぁ、評判や態度とは裏腹に、比較的常識を弁えている高橋なので、ただの悪乗りみたいなもんだとは思っていたけどね……高橋の場合、流れでそのまま行きかねないのが、僕に怖さを感じさせる理由なのだが。
「まぁそれは入るけどさぁ……うーん、お兄ちゃん一緒じゃないなら別に良いや。今回もお兄ちゃんで我慢しとくー」
「いや、その流れで俺で鬱憤晴らそうとするのは違うくないか……?」
流れるように決まった高橋の夜の処遇に、手を合わせるしかなかった。が。
「幸平さんも、今日の夜は楽しみにしていてくださいね……」
真後ろにいる女将さんに聞こえないように、僕だけが聞き取れる音量で囁かれた誘い文句に、僕はあそこが湿り気を帯びたのを感じ顔を真っ赤にしてしまう。
「ふふ、女将さんがお部屋に案内してくれるみたいですよ、さ、みんな行きましょうか」
女将さんが襖を開くと、目の前に風情のある和室の景色が広がる。4人部屋だけあってとても広く、一面に敷かれた畳の匂いがふわっと香り、どことなく懐かしさを感じさせるその光景は、昔の子供のころを思い出させた。
「何かありましたら遠慮なくお申し付けください」
女将さんは手慣れた様子で用意を整えると、丁寧に頭を下げ、部屋を辞していった。
「ふわぁ……とっても豪華なお部屋ですね」
豪華といっても、華美過ぎず品を失わない程度のもので、とても雰囲気の良い和室である。これは、温泉の件がなくても人気になるのはよくわかる。
沙織ちゃんが思わず、といった様子でこぼす。
「こんなすごいお部屋、よく取れましたね美衣さん」
「ふふ、ちょっと伝手があって、ね?
沙織ちゃん、早速お風呂行ってみない?」
「行きます!!」
荷物を置いて一息つく間もなく、女性陣は美肌の湯とやらに入る準備を始めた。運転していて疲れた僕は、コロンと畳の上に寝転んだ。高橋も気疲れか、座り込んでタバコに火をつけ始める。
「俺たちは部屋でゆっくりしてるから、沙織と美衣さんもゆっくりしてきて良いですよ」
「じゃあお言葉に甘えて……幸平さん、行ってきますね?」
「うん、いってらっしゃい。沙織ちゃんもごゆっくり」
「はい! じゃあねーお兄ちゃんに幸平さん」
あっという間に準備を終えた二人は、きゃいきゃいと盛り上がりながら部屋を出て行った。
「……はぁ」
「あれ、寝るのか? 折角こんな景色の良いところにきたってのに」
あっという間に煙草を吸いつくすと、枕を持ってきて横になる高橋。まだ3時にもなってないのに、気が早いな。窓から外を覗くと、すっかり雪化粧を終えた山々が視界に入ってくる。雪は降っていないものの、普段住んでいるところでは積もることが少ないので珍しい光景だ。来たからには楽しまないと、と思い外を眺めながら高橋にそう問うたが、寝転がったままの高橋は横目で僕を見つめる。
「ああ、夜は長いからな。どうせ、今日もまともに眠らせてくれる気がしないし」
「……」
心が落ち着く白銀の世界が、急激に色あせた気がした。旅行気分で浮かれていた気分が現実に一気に引き戻される。別に愛されるのは嫌いじゃないが、今日は高橋にその痴態を聞かれかねないのだと考えると、気持ちは一気にブルーになった。わざわざ、同じ境遇にある高橋とその妹さんを美衣ちゃんが誘ったあたり、嫌な予感しかしないけども。それは、高橋もお互いさまだろう。
「僕も、ちょっと寝ておくかな」
「それが良い」
高橋と並ぶように寝転ぶと、僕は日も高いのにお昼寝を敢行するべく、目をつぶるのだった。
美衣ちゃんたちが大浴場から帰ってきて、しばらく部屋で歓談して過ごしていると、あっという間に食事の時間となった。1つ山を越えるとすぐそこは海であるここは、山の幸と海の幸を同時に味わえるという絶好の立地である。その調理も見事で、味だけではなく見た目も見事なその料理に舌鼓を打ち、素晴らしい時間を過ごしていると、あっという間に日は落ち、世界は暗がりへと転落していた。
「そろそろ良い時間ですし、家族風呂に入ってみます?」
「良いですね!!」
腹ごなしに持ってきていたトランプも一段落し、皆も美衣ちゃんの提案に乗る。僕も、別に美肌が気になるわけではないが、温泉地の温泉にはつかってみたいと思っていたところだった。ただし、高橋は違うようで、なんとか重い腰を上げる、といった風。
「仕方ないなぁ」
「どうしたのお兄ちゃん、毎日毎日、お風呂入らないと気が済まないってくらいお風呂いつも沸かすくせにー」
「そりゃお前が汚すからだろ、涎やら汗やら色んなもので!! 今入ってもどうせ後で入り直しになるのに、気が進まないだけだよ」
確かに間違っていないが……そのド直球な言い様に、ちょっと顔が赤くなる。
「こういうのは風情というのが大切ですから……折角一緒に来ましたし、そう言わずに」
「まぁ……そうですね。沙織とじゃなくて、東とそのかみさんも一緒に入るってのは妙な気分だが、折角だしなぁ」
改めて考えれば、男同士の裸の付き合いはまだわかるものの、家族でもないのに美衣ちゃんを含めて一緒に風呂に入るとは中々抵抗感がある。美衣ちゃんは女の子になってしまった高橋は無警戒なのか、それとも沙織ちゃんの知り合いの女の子、とでもカウントしているからか、別に気にしてない様子でニコニコと笑っていた。まぁ、美衣ちゃんが良いなら僕が言うまでもないか……
「勿論、私の一番は幸平さんですから、ね?」
時折、美衣ちゃんは僕の心を読んでるんじゃないかと思う時がある。美衣ちゃんは、びくり、と肩を跳ねさせた僕に笑いかける。
「さ、行きましょう?」
まるで紳士の様に、さりげなく肩を抱く美衣ちゃんに僕は逆らえず、うぶな少女のように頷く他なかった。手慣れすぎだよ美衣ちゃん……最近すっかり受け側の精神が染みついてしまった自分に情けなくなりつつも、従うしかない僕であった。
如何な初心者であろうとも、流石に一か月も経てば自分の下着姿や裸くらいでは動じなくなってくる。最初こそ女装してる感が半端なくて違和感しか感じなかった女物の服も、今では一応着こなすくらいは出来るようになってきた。ブラもスムーズにつけられる。まぁ、僕の胸はあまり大きくないのでスポーツブラだけどね。……ただ、美衣ちゃんが買ってくれたふりふりの、女の子趣味な可愛らしい下着を履かされた時は、恥ずかしくて死んでしまうんじゃないかと思ったが。
生で見ると、服越しに見るよりも予想以上にでかかった高橋の胸部装甲に驚愕しつつも、服を脱ぎ去り脱衣所から中に入ってみると。
「うわぁ、凄く広いね」
「そうですね。大浴場程とはいきませんが、十分広いです」
売りにしているだけあり、湯舟は家族風呂の範疇の中でも十分広く、4人が広々とくつろげるほどのサイズだった。マンションの狭苦しい風呂桶とは違い、手足をゆったりと伸ばし、美衣ちゃんと面を向かい合って話せるのは新鮮な気分だった。
これはのんびり羽を伸ばせそうだ、と僕は顔を綻ばせていたがしかし、クリスマスのお祝いは前日に済ませている二組であるからして、今日の宿泊の主目的はそのお祝いでも温泉でもない。夜の行為が目的であることからして、裸になって何か起こらないわけがなかった。
基本的なマナーとして、湯舟に入る前には身体を洗うわけだが、男の頃とは勝手が違い、髪の毛の洗い方や大切な所の洗い方など、どうにもなれず手間取っている僕を見かねたのか、美衣ちゃんが代わりに洗ってくれることになった。僕が美衣ちゃんに髪を洗ってもらっていると、手慣れた手つきであっという間に洗い終え、湯舟につかる姉妹から笑い声が上がる。
「んふふっ、お母さんと娘……」
「ふふっ、もうお兄ちゃん、笑わせないでよっ!!」
二人してけらけら笑っている。その二人の胸元には、大きな乳袋が2つお湯に浮かんでおり、その迫力に、僕はDNAの格差というものを味わい、落胆を隠せなかった。
僕と高橋の姿であるが、DNA的には性別以外全く差が無いらしく、今の姿はもし性別が違う状態で育っていたら、という姿に変化しているらしい。高橋の家系はみんな胸がでかいらしく、東家はその逆。つまりはそういうことである。折角ならでかい方が良かったな、なんて思ってしまうのは男の性だった。
そんな風に視線を逸らしていたのがいけなかったのだろう。美衣ちゃんの指先が、僅かに赤みを帯びている胸の先端を狙っていることに気づけなかったのは。
「んひゅぁっ!!」
「大きい胸も私は大好きですけど、幸平さんのこの、育て甲斐があって、敏感に反応してくれて、私への期待に胸を膨らませてるちっちゃなお山も大好きですよ」
「もう美衣ちゃん!!」
きゅっとつまみあげられた突起からの刺激に思わず声を上げてしまい、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。振り返って美衣ちゃんを睨みながら抗議の声を上げるが、美衣ちゃんはうふふ、とお茶を濁すばかり。
そんな美衣ちゃんのイタズラを見ていた観戦者たちはと言うと。
「わぁー、ロリっ子が顔真っ赤にして喘いでるのって、すごくエッチで背徳的ですねぇ。美衣さん良いなぁ」
「うーん、確かにエロいんだけど、あれが東だと思うと妙な気分だよなぁ」
目をギラつかせ僕の未成熟な肢体を舐めまわすように視線を這わせる沙織ちゃんと、微妙な顔をしつつそれでもしっかりと観察している高橋。ああそうだ、刺激で瞬間的に忘れてたけど、ここにはもう二人いるんじゃないか……
更なる恥ずかしさで胸元まで肌を真っ赤にしつつ、僕はその後の魔のボディウォッシュを終えた時には、息も絶え絶えになっていた。
「み、美衣ちゃんの意地悪……」
「とってもエッチなおっぱいで私を誘ってる、幸平さんが悪いんですよ?」
「流石にそれは言いがかりだよぉ!!」
入る前からぐったりしてしまった僕は、美衣ちゃんに抱きかかえられてお風呂に入っており、折角広いお風呂に来たのに、結局いつも通りの体制に。
「幸平さんったら、お風呂入る前から全身真っ赤ですね……どうしよう、ちょっとなら味見してもばれないかな……」
「やめとけやめとけ、美衣さんはたぶん独占欲強い方だぞ」
そんな様子を、僕の耳に入る距離で話しているエロ姉妹の会話が、余計羞恥を擽る。百歩譲って同性の高橋に見られるのはまだわかるが、何でほぼ初対面に近い沙織ちゃんにまで、恥ずかしい姿をさらけ出さないといけないのか。
「ううう、死にたい……」
「あ、沙織ちゃん、良かったら幸平さん弄ってみます?」
「良いんですか!?」
「良いわけあるかぁ!!」
ザパーン!! と波を立てて勢いよく立ち上がる沙織ちゃん。突然の美衣ちゃんの
「え、嘘でしょ美衣ちゃん……!?」
「ほら幸平さん、近所付き合いって大切じゃないですか? お隣さんにお裾分けです」
「いやいやいやいや!? 離して美衣ちゃん!?」
唐突に降ってわいた更なる羞恥の機会に、じたばたとお湯を跳ねさせて暴れるものの、か弱くなった腕力ではやはり振りほどけず。目を輝かせて迫りくる沙織ちゃんの向こうでは、高橋が目を瞑ってこちらに祈りを捧げていた。
「ひぃ、や、やだぁ」
「大丈夫ですよ、沙織ちゃんもとっても上手ですから……
ほら、緊張しないで?」
じゅる、じゅるるるる……
「ふ、ふあああ……」
僕の耳元に吸い付き、舌を入れたり、わざとらしく音を立てる美衣ちゃん。厭らしい水音で満たされる聴覚に、今までの美衣ちゃんとの愛し愛されを思い出した僕は、全身の力が抜けて、上げていた手がぽちゃんとお湯の中に落ちる。美衣ちゃんはその後も攻め手を緩めることなく、ちゅぱちゅぱと送り込まれ続ける淫らな音。この一か月、みっちりと美衣ちゃんから嬲られ続けた
僕が意識をふわふわと飛ばしている最中にも、ざっぱざっぱとお湯をかき分けながら沙織ちゃんが僕に近づいてくる。
「ひ、や、やめてぇ」
美衣ちゃんの過剰な夜のご奉仕のせいでもあるのだが、慣れない感覚に元々敏感だった体は、今では胸の突起をいじられるだけで軽く達してしまうほどに育て上げられてしまった。そんな体を美衣ちゃんではない他人に弄られるなど、どんな目にあうかわからない。
全身に甘く痺れる快楽の記憶に、体は成すすべもなくびくつくだけで、言葉での抵抗が限界であった。しかしそれは、沙織ちゃんの気勢を削ぐどころか却って燃えさせてしまったようで。
「嫌よ嫌よも好きのうち。そんなに涙目で言われちゃあ、逆に誘ってるみたいで私、火が付きました!」
「ひぃ」
「えへへぇ。それじゃ美衣さん、いただきまーす」
瞳のぎらつきが増し、完全に獲物を狩る獣に変貌した沙織ちゃんは、ぺろりと唇の端を舐めると、僕の胸元へその顔を近づけていく。
ピチャ……
「っふあ!!」
わざとらしく音を立てた、最初の一舐め。指で刺激されるのとは違う、乳首を上から下までなぞり上げた、ざらりとした舌の感触が脳に伝わってくると、僕は快楽のうめきを抑えることは出来なかった。
「んふ、良い声」
沙織ちゃんはそのまま咥え込むと、チュパチュパと激しい愛撫の音を立てながら乳首を舐め回す。美衣ちゃんの緩急を付けた攻めとはまた違う、ひたすら激しい攻めの応酬が僕を襲う。
「あっ、あっ、あ―――!!」
脳を揺さぶるその快感の波に、僕は成すすべなく喘がされる。
乳首を激しく嬲る一辺倒なのかと思いきや、刺激が強いのは変わりないものの、こちらを慣れさせないよう刺激するリズムを変えたり、歯ですりつぶしてみたりと、とにかく多彩な方法でこちらを攻め立てていた。
「――――!!」
「お兄ちゃん、胸大きいからか知らないんですけど、あまり胸じゃ感じてくれないんですよねぇ。それに比べて幸平さんは、何しても敏感に反応してくれてとってもやりがいがあります」
「うふふ、幸平さんの体は毎日しっかり磨き上げていますからね。性感帯はもちろんですけど、ほら、こうやって背筋をなぞり上げるだけで……」
「ひやあああぁぁあ……」
静かな、しかし確かに脳に伝播するぞくぞくとした感覚。沙織ちゃんは喋りながらもピンク色の突起を弾く手は止めておらず、暴力的な快感と合わさり再び絶頂を迎えてしまう。既に僕は何度も頂点を極めており、沙織ちゃんに割り開かれた足の付け根からは、ねっとりとした液体が風呂の中へと混じっていく。
何度もイかされて沸騰する頭と、風呂のお湯で温められる体温のせいで、茹でだった思考はだんだん霞が掛かってくる。それでも、沙織ちゃんの愛撫にいつまでたっても満足出来ない僕がいた。さもありなん。
「ひ、ひだりもいじってくださいぃ、おねがいしましゅ……」
「あれ? 右だけでこれだけイければ十分じゃないです? 幸平さん」
左手でくりくりと乳首を弄りながら、右手は股間から愛液を救い上げ、僕の目の前にその粘り気の強い液体をかざす沙織ちゃん。年下の子にここまで感じさせられる僕自身と、そんな恥知らずなおねだりをしてしまう僕に対しての羞恥で、快感とお風呂による熱以外で顔が赤くなってしまう。そう、沙織ちゃんはひたすら右の乳首だけを弄り倒しているのである。沙織ちゃんの激しい愛撫で赤くなり始めた右の乳首に対して、いくらおねだりしても刺激が加えられない左の突起は、いつまでたっても来ないご褒美に辛抱しきれず、充血しきりびくびくとひくついていた。
「やぁ……これだけイってるのに、まだ切ないの……」
「あああ、幸平さんの蕩けた顔も、泣きそうな声でのおねだりもとっても可愛いなぁ!!
あの美衣さんが結婚したのも頷けますね!!」
思考回路は仕事を放棄し、早く楽になりたいと快楽のみを追及していた。何をどんなふうに喋っているかなんて、最早僕自身把握できていなかった。
「じゃあ最後に思いっきりイかせてあげますが、最後に一つだけお聞きしたいことがあるんです」
「な、なぁに?」
「私と美衣さんの愛撫、どっちの方が気持ちよかったです?」
蕩けた思考に、浴びせられる冷や水のような質問。正直、どちらも気絶しそうなほどに気持ち良い。それでも選ぶのは、大好きな美衣ちゃんなのだが。しかし。
「正直に答えてもらって良いですけど、もし美衣さんだなんて言ったら、私悲しくてこのまま辞めちゃうかもなぁ」
「う、ううう……」
沙織ちゃんのこんな言葉が僕を悩ませる。時間感覚なんてもうあやふやだから、どれだけの時間イかされ続けていたのかはわからないが、それはイコールそれだけの間我慢させられ続けていたということでもあり、もう我慢できそうになかった。でも、これで沙織ちゃんと答えるのも美衣ちゃんを蔑ろにしてしまうようで嫌だった。雁字搦めになって追い詰められた末、僕が出した結論は……
「み、美衣ちゃんの方が気持ち良いです……」
「あれ、幸平さん、それで良いんです? ずっとお預けになっちゃいますよ?」
愛撫の手を止めて、くるくると乳輪の周りを指でなぞっている。決定的な快楽ではないそのむずむずする感覚に、僕は焦燥感を燻ぶられる。それでも結論は変えない、一度決めた結論を覆すのは、男らしくない。
「お預けはいやだけど、だって、だってぇ……沙織ちゃんもすごい気持ちよかったけど、やっぱり美衣ちゃんの方が大好きなんだもん……」
「「……」」
快感でピンクがかった脳みそから出てきた言葉は随分子供らしくなってしまっていたが、それでも僕の意思はしっかりと伝わったはずだ。ぐすぐすと無図がりながらもそう答えた僕に、沙織ちゃんはというと。
「もう可愛いなぁ幸平さんったら!! 嘘ですよぉ、いくらでもイかせてあげますってぇ!! ……愛しの美衣さんがね!!」
「ふへ?」
ぎゅ、と後ろから強烈なハグをかまされたと認識する間もなく。ぐり、と摘ままれる左の乳首から送り込まれる待望の快感に、包皮越しにぐりぐりと刺激されるクリトリスの暴力的な快感が合わさり、僕の思考回路はあっけなく吹き飛びそうになる。
「幸平さん、幸平さん幸平さん幸平さん……私も、大好きですよ」
「~~~~――――!!」
声なき声を上げる喉に、明滅する視界。大好きな美衣ちゃんの体温が直接僕に伝わり、安心しきった僕は、ゆっくりと意識を手放すのであった。
「うぅ、ここは……」
僕が目を開くと、木目の天井を見上げていた。どうやら脱衣所のベンチに寝かされていたようだ。いつの間にやら、旅館の浴衣に着替えさせられている。
先ほどの快楽の余韻がまだ残っているのか、体の動きが覚束ない。気絶する前の行動を思い出して恥ずかしくなるが、この一か月間で慣れてしまった僕にとっては今更の話である。行為中に、何故か言動が幼くなる。男の頃はこんなことなかったし、恥ずかしいし止めたいのだが、原因不明で抑えようがないのである。根本的な対策としてはそもそもしないという選択もあるが、興奮した美衣ちゃんに勝てないという腕力的な面でも敵わなければ、今日はちょっと……と断った時の寂しそうな表情からくる、精神的な圧力でも敵わないからもうどうしようもない。
さすがに、高橋や沙織ちゃんの前ですら致すことになるとは思ってもみなかったが。
「美衣ちゃん達、まだ入ってるみたいだな……」
籠の中には美衣ちゃん達の洋服が入ったままである。気絶した僕を先にお風呂から上げて、そのままお風呂タイムを続行しているのだろうか。ぴたぴたと素足で床を歩きながらお風呂の扉を開けるべく近づいて行ったのだが……
「イ、イっくぅぅううう…!! だ、だめ、これ以上イったらおかしくなるっ!! っひああああああ!!」
「うわぁ、美衣さん凄。お兄ちゃんが媚薬無しにここまで乱れてる姿、初めて見た……」
「さおり、そんなこと言ってないで助けっふあ!!」
「沙織ちゃんはテクニックは十分あるんだけど、ちょっと逸りすぎね。イかせてあげる直前に焦らす様に一瞬止めてあげたり……」
「っふあ!! はぁ、はぁ、はぁ、なんで――」
「油断したときに一気にこうやって攻め上げてあげると」
「っあ――――!!」
「イった時のピークが長く深くなるから、こういうことも覚えていくと良いわね」
「流石美衣さん、勉強になります!!」
一体何の勉強をしているのだろうか、彼女らは。教材が高橋なのは何となくわかる。楽器の勉強だろうか。うん、きっとそう。だってほら、高橋も美衣ちゃんにチューニングされていろんな高さの声上げてるし。
「触らぬ神に祟りなし……」
よし、まだ起きてないふりをして横になっていようかな。まだ頭がぼーっとしてるし、体はまだ重いし。……高橋の嬌声で、あそこが濡れちゃって来てるし。いや違うんだこれは、高橋に欲情しているわけではなく、あの高橋がこれだけ声を上げる、美衣ちゃんの愛撫を思い出しているだけなのだ。
……誰に言い訳しているのだろうか、これ以上はいろんな意味で危ない。
あ、ちなみに、これはさっき高橋に見捨てられた仕返しでは断じてない。ただ単に、この状況に介入する勇気がないだけである。
「おやすみなさい」
ころんと椅子の上で横になると、僕は再び気持ちの良い午睡に身を任せるのであった。
そして、そんな見捨てるような真似をした罰が当たったのか。僕が再び目を開けると、そこは既に脱衣所ではなく、部屋へと場所が移っていたのだが……
「……んう?」
「あ、起きました? 幸平さん」
「うん、おはよう美衣ちゃん」
座った状態で寝かされていた僕に、美衣ちゃんが僕の後ろでごそごそと何かをしながら声をかけてきた。返事をしつつ、反射的に体を動かそうとするのだが、腕やら足が動かない。まるで縛られているようだ。
「あの、美衣ちゃん? 僕に何したの?」
「え? 縛ったんですよ?」
「縛った!?」
「よし、出来ました」
ぎゅ、と手首が閉まる感覚。体を見下ろすと、僕は真っ裸で胡坐をかいた状態で、縄で縛られているようだった。手は後ろに縛られ、全身に走る縄、縊りだされ、強調された胸の先端では、相変わらず元気な乳首が自己主張をしていた。これが自分でなければ、そんな性癖が無い自分でもごくりと生唾を飲んでしまいそうな光景であったのだが。
「どうですか、幸平さん? これなら痛くないと思うんですけど」
「いや、確かに痛くはないけどさ」
それ以外にもっと気にしてほしいところがあるというか……
体を捻ろうとすると、縄が軋む音が耳につく。しっかりと専用の縄で拘束されているらしかった。
美衣ちゃんが縛ったのであろうが、態勢のキツさ以外に縄で締め付けられて苦しいところはない。動かないといっても、ある程度稼動するくらいは緩められており、適度な拘束感を僕に与えてくる。
「縛るのは久しぶりで心配だったんですけど、忘れていないみたいで安心しました」
「え、美衣ちゃん縛ったことあるの!?」
「勿論ですよ。昔取った杵柄ってやつですね」
開いたキャリーケースの中に余った縄を片付けながら、美衣ちゃんは事もなさげに僕の驚愕に答える。家事から始まって美衣ちゃんは何でも出来るイメージだったんだけど、こんなことまでできるなんて衝撃だった。僕が女の子になる前はそんな素振りすら見たことなかったから、余計である。
「学生の頃に少し縁がありまして、ここの女将さんから教えていただいたんです。今でこそ引退されてますが、昔は緊縛界ではその名を知らない人はいない程で、その人に教えを受けられた人は皆から羨ましがられるくらい凄い方なんですよ」
「えぇ-!? あの女将さんが!?」
驚くべきところは色々とあるが、まず処理すべきはここだと突っ込む。女将さんと聞いて殆どの人が想像する通りの、お客さんを立てて粛々と仕事をこなす、着物の似合う50代くらいの理想的な年の取り方をしたご婦人だったのだが、そんな裏があるとは誰が想像できるだろうか。というか、美衣ちゃんの言ってた伝手ってそういうことか!
ぽかんと口を開けて衝撃を隠せない僕に、美衣ちゃんはすっと隣の部屋の襖を指さす。昼間は開かれていた部屋は、夜になると布団が敷かれ、襖で仕切って僕たちと高橋達のプライベート空間となる。とはいえ、ただの木枠に紙を貼っただけのものに防音効果など期待できるわけもなく、音はこちらに筒抜けなのだが。
「あいたたたたたたた!? むね、胸が締まってる!!」
「ああ沙織さん、それじゃすぐに鬱血して解かないといけなくなりますよ。その縄はこの間を通してですね……」
「おお、こっちの方がよりお兄ちゃんの胸が強調されて、卑猥でやらしいですね!! さすが女将さん!!」
「アレンジも良いですが、生兵法は大怪我の基ですからね。今日でしっかりと基本を学んで、自分の技を身に着けてくださいね」
「はーい!! ぐふふ、これさえ覚えてしまえば、お兄ちゃんからの反撃なぞ怖くない……!! お兄ちゃんに縄の味を覚えさせて、私から離れられなくさせてやるのだ……!!」
「女将さん、こいつにいらん知恵付けさせるのやめてくれませんかね!? これ以上激しくなると俺の身が持たないんですが!!」
「しかし、お兄さんも縄化粧の似合うお方ですね。これ程のお客様は未だかつて出会ったことがない。
……いけません、縄師としての血が騒いできました。これは、沙織さんのご指導が終わった後は私の特別技をかけて差し上げるしかありませんかね……」
「ひぃ、今度は女将さんまで!? いや、お願いだから話を――いぁあっ!!」
「もう、お兄ちゃん、今は私の番なんだから集中してよ!! うふふ、今夜は寝かさないぞ♥」
「今夜も、の間違いだろ!? くふぅ、そこ弱いからぁ、変な癖ついちゃうからぁ!!」
「お兄ちゃんは私のものだもん、今日は徹底的に、私のものだって印つけちゃうもんねー!!」
助けて誰かー!! という高橋の悲鳴が、嬌声になるところで耳をふさぐ。いや、縛られてるから耳塞げないし、聞こえてないフリなんだけど。これ以上聞いてたら僕もダメになりそうだし、何なら僕も今からおいしく頂かれるところだし……高橋が教材の勉強会その2から目を背けると、満面の笑みの美衣ちゃんと目線があう。
「女将さんも楽しんでいるみたいで、何よりですよね」
「そ、そうですね」
気づけば、美衣ちゃんの手にはキャリーケース一杯に詰まっていた、色とりどりの大人のおもちゃが握られていた。冷汗が止まらない。いつも抵抗できているとは言い難いが、それでも一応動ける状態で受け入れるのと、全く抵抗できない状態で責められるのでは大きく違う。
「さっき、私の方が気持ちよかったって言ってくれてとっても嬉しかったです」
じりじりと僕に迫り来る美衣ちゃんは、憂いのある表情を浮かべる。
「私、昔から女の子も好きになれる子だったんです。家族以外に言ったことはないですけどね。男の人を見てかっこいいなって思うことはあっても、恋人にするならやっぱり可愛い女の子が良いなって、いつも思ってました。
そんな私が初めて好きになった男の人が、幸平さんだったんです」
うぃんうぃん、とバイブを動かしながら美衣ちゃんは続ける。
「一目見て、この人だって確信しました。幸平さんが女の子っぽいわけではないですよ。付き合ってきた人の中で初めて、この人となら結婚できる、一生を添い遂げられるって、そう思えたんです。
実際、幸平さんは素敵な人でしたし、後悔なんてありませんでした。女の子とエッチするときはいつもリードしてあげてましたから、初めてされる側になってみて、いつも私を気遣ってくれる幸平さんを見て、やっぱり素敵な人だって。
でも、やっぱり女の子を可愛がりたいって思っちゃう自分も居て、幸平さんと倦怠期になっちゃった時、それがピークになっちゃって。町を歩く女の子にいろいろ目移りしちゃったりして……」
抵抗する気力をなくした僕を呆気なく制すると、ぶぶぶ、と振動するピンクローターを僕の乳首に取り付けながら、美衣ちゃんはしょんぼりとした顔で言う。
「幸平さんが女の子になっちゃった時、大変だって思う前に、実はご褒美だって思っちゃいました。そんな私が情けなくて。幸平さんが先に泣いてなかったら、私の方が泣いちゃいそうでした。
でも、そんな私を受け入れてくれて、女の子には攻めたがりな私も受け入れてくれて。やっぱり、私は幸平さんの事が大好きなんだなって思ったんです」
ころん、と僕を布団の上に寝ころばせて。僕を覗き込んだ美衣ちゃんは、満面の、花が咲いたような笑みを浮かべるのだった。
「えへへ。私、女の子としても、男の人としても、貴方を愛してます」
「ずるいよ美衣ちゃん。そんなこと言われたら、抵抗出来ないよ……」
笑みを交わした僕らは、静かに唇を合わせる。絡み合う舌、お互いの吐息だけが部屋に響き、時折混ざる水音に、否応なしに僕の興奮は高まっていく。
たっぷりと一分以上愛し合った後、どちらからということもなく、自然に口を離すと。頬を上気させ、妖艶な笑みを浮かべる美衣ちゃんと目が合う。
「今日は、いろんな道具でたっぷり愛してあげますね、幸平さん?」
問いかけではない宣言に、僕は初心な少女のように頷くしかなかった。
つぷ、と口に割り入れられた指にちゅぱちゅぱ音を立てて吸いつくと、不自由な体と合わさってまるで赤子に戻ったかのような心地になってくる。
かちり、とスイッチを入れる音が鳴ると、ピンク色の突起にテープで張り付けられたピンクローターが、ぶぶぶと振動を始める。
「んぶあ……」
一定のリズムで振動し続ける、無機質な快楽。美衣ちゃんや沙織ちゃんのテクニックに比べれば天と地ほどの差があるその刺激は、最早物足りなさしか感じず、僕は手慰みに美衣ちゃんの指を吸って耐えしのぐしかなかった。
「幸平さんのここ、物欲しそうに口を開いてますよ。お布団にまでお汁が垂れちゃって、とっても恥ずかしいですね」
そんなえっちな幸平さんが、私は大好きなんですけどね。そう耳元でささやかれ、恥ずかしさで死にそうだった僕は、一気に発情する。つつ、と女性器から零れた雫が背中を伝って布団を濡らし、背中の内と外、両方からぞくぞくとした刺激が僕の脳に駆け上ってくる。くい、と指の腹で舌を押さえつけられて、無理やり口を開かれると、自然と懇願の声が漏れ始める。
「みいひゃん、おねがいします、ぼくのあそこに……その。うう、恥ずかしい」
「ううう、幸平さんが可愛すぎるぅ……折角縛ったのに、もっと虐めて一杯やらしいおねだりさせたいのに、もう幸平さんに入れたくて仕方ないぃ……」
地味に毎回やらされているこのおねだり。しかし、すっかり少女のような声色になってしまった僕が、その卑猥な単語を口に出す事にどうしても慣れず、毎回このように最後まで言えずに断念してしまうのだ。顔を真っ赤にして美衣ちゃんから顔を背ける。そして、毎回美衣ちゃんも僕のあられもない姿に悶絶しているようで、結局最後は美衣ちゃんが折れてしまうのだが。
「今日は、旅行に来たんですもの。せめて、せめて幸平さんのおねだりを聞くまでは絶対、入れてあげませんからね!!」
美衣ちゃんはあたりに転がっていた道具をごそごそと触っていると、ずい、といきなり黒い物体を僕の視界に差し入れる。それが何かを理解した時点で、僕は生唾を飲み込む。
男性のあそこを模したおもちゃである。ただ、それは単なるディルドではない。片側だけではなく、本来持ち手になっているはずの場所にも男性器が聳え立っていた。双頭ディルド、女性同士が愛しあう際に使われることもあるおもちゃだ。今まで、幾度となく使われてきた、あのおもちゃ。
見えなくてもわかる程とろとろになっているあそこに、それを入れられる感触を思い出す度、息が荒くなり熱い吐息が僕の口から吐き出される。
「ほら、幸平さんが大好きな、私のおちんちんですよ。我慢できなくて、私の方は入れちゃいました。後は、幸平さんの中に入れるだけなんですけど、その前に、おねだりだけ、聞かせてくれませんか?」
作り物のおちんちんと、僕の女性器が接触する。少し腰を動かすだけで中に挿入されるという段階で、美衣ちゃんはそう僕に囁きかけるのだ。
興奮に喘いでいるのは僕だけではなかった。美衣ちゃんも、普段の瀟洒な姿からは想像もつかない程興奮しきり、荒い息と欲望の視線を僕に向けてくる。愛しい人が僕で興奮してくれている、それだけで、理性のブレーキは容易に破壊され、先ほどまで考えるだけで恥ずかしかった言葉が口をついて出る。
「ぼ、僕のおまんこに、美衣ちゃんのおちんちん、ください」
「あああ、最高に愛してます、幸平さんっ!!」
ずぶずぶ、と音を立てて僕の中に入ってくる。開発されつくした膣内を摺り上げながら奥へ奥へと進んでいくその異物に、僕はただ口をぱくぱくと開閉させることしかできない。いつまでたっても慣れない異物感、自分の中に何かが入ってくるという感覚。普通の男性なら一生味わうことの無いその感覚は、美衣ちゃんの懇切丁寧な開墾作業によって、切り開かれ植え付けられ、とっくの昔に快楽へと変換されるよう開発されつくしていた。
「ああ、幸平さんのおまんこもすっかりおちんちん飲み込むのも慣れたみたいですね。最初はあんなに嫌がってたおちんちんも、今では入れただけでイけるようになるだなんて……私、感動してます」
「んああ……」
美衣ちゃんと僕の腰がくっつき、ディルドが狭い膣一杯に埋め尽くされている。とてつもない圧迫感に呼吸が浅くなるが、それでも、美衣ちゃんと繋がっていると思うだけで苦しさすらも愛おしさの中に溶け込んでいく。
「じゃあ、動きますね」
ずち……パァン!! パァン!! パァン!!
「んひいいいぃっ!! あ、ひあぁっ!!」
美衣ちゃんはその一言でピストンを開始する。音だけで容易に激しさが想像がつく程、えげつない音を伴う壮絶なピストンに、僕はもう微かな呼吸を繰り返す他ない。
引き抜く際はディルドのエラの部分が、愛液で淫らにぬら光る膣壁からその液体をこそぎ落とし、外に掻き出したかと思った次の瞬間には、その長大な陰茎の全てを膣内に収めんと猛烈な勢いで、子宮へと向かって迫ってくるのだ。
「あっ、あっ、気持ちいいです、幸平さんっ……!!」
前傾姿勢で僕に覆いかぶさってきている美衣ちゃんも、その快楽で全身汗濡れで、時折ぽたりと僕の肌や縄に滴り落ちてくる。その艶やかな姿に、下半身からの快感とは別のベクトルの心地よさを感じていた。攻められているのは僕の筈なのに、まるで自分も美衣ちゃんを攻めているかのような錯覚。指や舌で攻められている時とは決定的に違う、一方通行な快楽ではなく、お互いが気持ちよくなれる男女のセックスのような。
「あああっ!! ぼ、僕も、気持ち良いよぉっ!!」
「はぁ、はぁ、幸平さん、幸平さん……!!」
「美衣ちゃん、美衣ちゃん……!!」
お互いの名を呼びながら、淫蕩に耽る僕たち。お互いの性器から零れ落ちる蜜が混じり合い、股間はぐちゃぐちゃになっていた。
ごりごりと膣の中の気持ち良いポイントをこすられ続け、まともに喋ることすらできない状態になっていた。溺れているのは間違いなく女性の快楽なのに、愛しい人と繋がれているという幸福感が合わさり、僕はもう何度も意識を飛ばしかけていた。
「全身ビクビクしてます、幸平さんも、イきそうなんですねっ!! イきましょう、一緒にイきましょうねっ!! ああ、止めのガン突き行きますよ、おぉっ!!」
「美衣ちゃ、ぁっ!! 美衣ちゃぁ、いちゃぁ……!!」
より激しさを増した美衣ちゃんの腰のグラインドに、視界がチカチカと明滅し始める。体感でわかる、ありもしない美衣ちゃんの精液欲しさに、子宮がちょっとずつ下に降りてくるのが。それは、自意識が男である僕が覚えてはいけない禁断の感覚。当初はディルドですら入れられることを拒んでいた僕なのに、今では忌避感は無かった。
それは、抗いがたい快感に屈した訳ではない。今でも、少しは嫌悪感が浮かばないことはない。それでも、僕が偽物でもおちんちんを女性器に入れるだなんて事を決心できたのは。これが、僕を攻めてばかりで全く満足できていないだろう美衣ちゃんを気にしていた僕が、唯一美衣ちゃんと一緒に気持ちよくなれる行為だからだ。
大好きな美衣ちゃんが、僕で気持ちよくなってくれているんだという喜び。人によっては物扱いだと怒る人もいるのだろうが、か弱い存在になってしまった僕にとってはそれが、何物にも代えがたい充足感を与えてくれていたのだ。
拘束された足が一人でに暴れだす。僕の腰を掴む美衣ちゃんの手も、びくびくと痙攣し始める。
「あ、あ、イク、イクッ、イっちゃいますっ!!」
「一緒に、一緒にぃっ!!」
体が浮き上がるほどの衝撃に、単純な言葉を繰り返す事しかできない。ふわふわと飛び始める僕の意識に止めを刺す様に、美衣ちゃんは腰をぐっとつかむと、最後に一際強く僕の中に突き上げる。
「~~~~――――!!」
「イっくぅうううぅうっ!!」
ごちゅ、とディルドが子宮口にめり込む音が僕の中に響き渡り、僕はその激しい快楽の濁流に、全身を激しく痙攣させ、唯一動かせる頭を仰け反らせ、その快楽の度合いを不自由な全身で精一杯表現する。未だかつて感じたことのない程の悦楽に、喋るという機能を忘れた口は、ただただ絶頂で失った思考回路を回復すべく、反射的な呼吸を繰り返すのみ。
「あっ、はぁっ!! イ、いってるぅっ!!」
時を同じくして、僕の痴態に興奮していた美衣ちゃんも同様に絶頂を迎えていた。しかし、女の子歴一か月で息も絶え絶えな僕とは違い、深い絶頂にもまだ余裕がある様子で……
「んひぃいぃっ!!」
遠のきかけていた僕の意識は、ぎゅ、と摘ままれたクリトリスから脳にダイレクトに伝わる快楽で、再び現世へと呼び戻される。
「えへへ……まだ、夜はこれからなんですよ。まだお家でも使ってない道具、沢山あるんです。ここでしか使えない道具も、一杯あるんです。幸平さん、今日は寝かさないんだから……」
餓えた獣のように、半開きになった唇から零れ落ちる涎が、未だ絶頂の余韻でびくびくしている僕のお腹に滴り落ちる。そのひんやりとした感覚でまた軽くイってしまった僕が、反論なんて出来るわけもなく。縛られていた気分と、ちょっとした思い付きで、雰囲気に流された僕はとんでもない言葉を口走る。
「ご、ご主人様ぁ……」
その声色は絶頂を極めた余韻で蕩け切っており、まるでご主人様に甘える奴隷のように淫蕩に沈み切っていた。正常な意識など残っていない、もっと美衣ちゃんに満足してほしい、そんな思いが出したこの言葉に、美衣ちゃんが誘われないわけがなく。
「幸平さんが誘ったんだもの、私はやりたくないけど、仕方ないよね。そう、きっとそう。うふ、ふふふふふ……
こんなえっちな格好でご主人様を誘う奴隷ちゃんには、朝までたっぷりお仕置きですよ……後悔してもおそいですからね。もう、何を言っても、止まらないんですから……」
普段なら寒気すら覚えるその言葉にも期待感しか抱けない程、美衣ちゃんとの同時絶頂に呆けていた僕には、愛のささやきも同然だった。
「ご主人様、大好きぃ……」
「私も、大好きですよ、奴隷ちゃん」
既に世界観に入り切っている僕たちは、その言葉を合図に、再び淫欲に満ちた世界へと落ちていくのだった。
山々の間から顔を出した朝日が、部屋の窓から布団の上で重なり合うように倒れこんでいた僕たちに差し込む。
寝息を立てて眠る美衣ちゃんの顔に朝日があたり、その美しい
起こさないよう、そっと、彼女の頬に僕の小さな白い手をあてる。かわいらしい寝顔に、僕の顔は綻ぶ。終始縛られていたせいか、痛む体を押してぎゅ、っと彼女を抱きしめる。身長の差で彼女の豊かな胸に顔を沈めているせいか、ぱっと見は母に甘える娘なのだろうが、この際気にはしまい。
「素敵なクリスマスプレゼントだったよ、ありがとう、美衣ちゃん」
気恥ずかしさから、仮に起きていても聞こえないような小声でお礼を言う。
女の子になってからというものの、男の頃とは付き合い方が変わる人たちが多い。付き合いがほぼ無かったのに、馴れ馴れしく話しかけてくる人や、逆によそよそしくなったり。パターンは様々だったが、性別が変わったのだからそれは当たり前の話である。同じ境遇である高橋や、沙織ちゃんが特殊なのだと頭でわかっているつもりでも、それでも僕が少なからずショックを受けているのを、美衣ちゃんはよくわかっていた。僕が隠せているつもりでも、落ち込んでいる日の夜は、いつにもまして激しかった。快楽で乱れる中で、隠れて涙を流した事が何度あっただろう。美衣ちゃんがいなかったら、きっと僕は耐えられなかった。僕からのクリスマスプレゼントは、ちょっと高いお店でのディナーと、新しいペアの指輪だなんて即物的な物で申し訳なかったのだけれど。美衣ちゃんからは、気の置けない仲間と、愛しい人と。とても楽しい思い出を貰った。……途中、美衣ちゃんの欲望が暴走してたところもあるけれど、僕もとっても気持ちよかったから、これで良いのだ。美衣ちゃんには、感謝しても仕切れない。
「んふふ」
突然、ぎゅう、と美衣ちゃんが僕を抱きしめる。起きたのかと思ってドキリとしたけれど、寝息は安定していて、たまたまなのだとほっと一息つく。
とくん、とくんと一定のリズムで刻まれている、美衣ちゃんの鼓動を聞きながら、僕はもう一度まどろみの中に落ちていくのだった。
「私こそありがとうございます、幸平さん」
朝起きて、今度はエッチな行為は無しでゆっくりと温泉につかり、女将さん特製の絶品の朝食を食べて。旅館での一泊二日の旅を満喫した僕らは、女将さんから見送られながら帰路についた。帰りの運転は勿論、高橋である。
疲れていたのか、後部座席で熟睡している女性陣をさておき、僕は助手席に座り、高橋のナビをしながら他愛のない会話を交わしていた。
「最初はどうなることかと思ったけど、最終的には楽しい旅だったね」
「ああ、食事も美味かったし、風呂も気持ち良かったしな」
「2回目はね」
「言うな、それを……考えないようにしてるんだから」
顔を赤らめ煙草をふかしながら、見事なハンドルさばきで車を走らせている高橋の姿は、まるでドラマのワンシーンと間違う程様になっている。小学生に間違えられかねない僕と比べて、何でこんなに差があるんだと悲しくなりつつ、今朝からずっと気になっていたことを切り出す。
「なぁ高橋。今朝死にそうだったけど、そんなに良かったの? 女将さんのテクニック」
「それ、聞いちゃうかぁ……」
僕の問いに、顔を歪めてかなり嫌そうにつぶやく高橋。
今朝、高橋達より僕たちの方が先に起きたわけだが、満足げな表情を浮かべ寝付く沙織ちゃんとは対照的に、憔悴した様子で沙織ちゃんに抱き着かれて布団に倒れ伏す高橋の姿に、思わず美衣ちゃんと顔を見合わせていた。部屋には、美衣ちゃんが持参したものより更にえげつない道具が高橋の周辺に散らばっており、高橋による勉強会は盛況のうちに終わったのだと否応が無しに理解させられたのだ。
聞こうにも切り出すタイミングが無く、女性陣が寝付いたこんな場面で聞くことになったのだが、高橋は苦虫を潰したような表情を浮かべて、苦しそうにこう吐露した。
「俺、ずっと、自分はどちらかというとSだと思ってたんだよ。布団の上じゃ女性は悦ばせてなんぼだし、満足させてやるのが男の甲斐性だってな。だから、沙織にいつもやられてる時は何か納得行かなくてな……そりゃ、今は女なんだし、確かに女性になった影響で感じやすくなってるのはあるけどさ、それでも俺らの自意識じゃ男なわけだし。早く、元に戻りたいって思ってたわけさ」
「思ってた?」
常日頃から高橋が漏らしている、早く男に戻りたい、という一言。正直、美衣ちゃんさえいればどうなっても良いと思い始めている僕には薄い感情だが、高橋にとっては何にも譲れない思いである。それを覆すような発言に驚く僕に、高橋は昨晩の光景を思い出したのか、再び赤くなった顔を隠す様に右手を顔に当てる。
「……あの女将さん、やべぇよ。お前のかみさんの師匠なだけあるわ。
風呂場でお前のかみさんにやられた時も既に陥落気味だったのに、あの人の手にかかったら、俺なんてまな板の上の鯉だったわ。マジで半端ない、沙織なんて下の下、お前のかみさんですら霞むくらい、やばかった」
「え、そ、そんなに?」
「そんなにだよ。
……初めて、女のままでも良いなって、思っちまった。
いよいよ俺も終わりかもしれん……」
右手の下から覗く赤らめた表情。それは最早、羞恥から来る赤さでは無かった。昨晩の痴態を思い出し、発情していたのだ。
男に戻ることに固執していた高橋にこうまで言わせるとは、女将さんって一体何者なんだ……
「おい東、お前も気を付けた方が良いぞ」
「え、何で僕が?」
戦慄が隠せない僕に、高橋が僕に突然そう忠告してくる。その女将さんの弟子であるっぽい美衣ちゃんが奥さんだからか? それなら、もう既にその片鱗は味わってるし問題ないが。
「あの人、去り際にお前のかみさんに秘伝の書的なの渡してたぞ」
「え……」
そう余裕ぶっこいていた僕の表情を、凍り付かせるような一言。はっと思い出し、後部座席を振り向くと。熟睡している美衣ちゃんが書き抱いているのは、一冊の手書きのノートである。表紙の隅っこには、あの女将さんの名前。たらり、と冷汗が流れ出す。え、今でも十分すごいのに、あれ以上になるの……?
「俺はもう諦めた。男に抱かれるよりはマシだと考えることにした。お前も諦めた方が良いぞ、人生、諦めが肝心だって偉い人も言ってるしな」
「は、ははは……」
悟ったような事を言う高橋に、乾いた笑いしか出てこない。折角良い気分で旅行を終えようとしていたのに、完全に藪蛇だった。
「まぁでも、僕の奥さんだからね。こんな姿になっても受け入れてくれる、僕の自慢の奥さんだから。何されても、僕も受け入れるまでさ」
「ははは、強がりさんめ。美衣さんのことご主人様~、なんて言って喜んでたくせに、良く言うぜ」
「あれ聞いてたのぉ!?」
「ああ、当たり前だろ。むしろ、あんな大声で喘いで聞こえてないと思ってたお前の方が不思議だよ。襖一枚だぞ?」
「うう、穴があったら入りたい……」
「はっはっは、これからも末永くご主人様から喘がされることだな。お幸せに」
「高橋に聞かれるとは、恥ずかしすぎる……でも美衣ちゃん好きぃ……」
「この状況で惚気られるとは、強くなったなお前……」
「私も大好きですよ幸平さんっ!!」
「うわぁ!! 美衣ちゃん、起きてたの!?」
「私も、私も大好きだよお兄ちゃん!!」
「ひぁあっ!! やめろ沙織ぃ!! 運転中だぞ胸揉むな!! 隣のドライバーガン見してるだろうがっ!!」
こうして、姦しく旅行は終わりを告げるのであった。男に戻れるかは定かではないけれど。少なくとも、美衣ちゃんや高橋達がいる限り、後悔のない日々が送れるに違いなかった。
……明日からの夜の生活については、頭を抱えているけどね。
「年末年始の休みに入ったら、女将さん直伝のノート、片っ端から試していきますから……楽しみにしててくださいね、幸平さん」
「お、お手柔らかにね?」
語尾にハートマークでも付きそうなほどうきうきし踊っている美衣ちゃんの言葉に、やはり僕は乾いた声を上げることしかできないのであった。
(もし、書くとするなら)次のうちどの蛇足が見たい?
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幸平と美衣
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慶介と恵里佳
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アキと凪咲
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真尋と亜美
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TSしちゃった連合の飲み会話