※この作品はR-18です。

TS百合短編集   作:くえん

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お待たせしました、後編です。
フリガナ小さいのは本当にごめんなさい。


4(後編)

 少し前、紆余曲折を経て、一年越しに思いを伝えてようやく付き合い始めた俺と名瀬さんであったが、一か月たった今でもカップルっぽいことはしていなかった。何故かと言うと理由は簡単で、俺も名瀬さんも非常に忙しいのである。名瀬さんがトップに立っている部署自体は、残業が常態化している営業ほど忙しくはなく、殆どの人員が定時で上がるのだが、部の取りまとめともなると少々忙しい。土日出勤するほどではないが、ほぼ毎日残業が発生するので、仕事帰りにデートとしゃれ込むのは少々時間が厳しいのだ。

 とはいえ、土日は二人とも休みだし、幾らでもデートする時間は確保出来るのだが、それだけが理由の全てではない。主に原因は、俺である。

 

 

 

 平日でも十分多いのに、週末のせいで酔いそうなほど人が密集している都会の街並み。目印代わりに待ち合わせ場所にしていた公園の入り口で、俺はその姿を発見する。淡い青のブラウスにフレアスカートを着こなした女性は、携帯を弄りつつ、時折誰かを探すように周囲を見渡している。明らかに周囲の目を引いており、声かけてみろよ、だなんて声も聞こえる。急がないと、またあの光景の繰り返しになるだろう。そんな女性と付き合っているのは俺なのだという優越感に、口角を釣り上げたまま、俺は小走りに駆け寄ると、自然と目線があった。その瞳が喜びに満ちたのも一瞬、俺の姿を認識した途端に、華やいだ雰囲気は一瞬で引き、口元が引きつる。

 

「慶介君……」

「すいません、本当にすいません……」

 

 それ以外に何を言えというのか。何とも言えない微妙な表情を浮かべる名瀬さんに、俺はいつもよりも(・・・・・・)若干高い(・・・・)声で平謝りするしかなかった。

 

「遅くなりますって連絡が来た時、ひょっとしたらとは思ったけど……本当に女の子になってるだなんて。呪われてるのかしら」

「面目次第もございません……」

「気にしなくて良いのよ。悪いのは慶介君じゃなくて、そんな体にした薬品会社なんだから……」

 

 名瀬さんが気遣ってくれているのはわかるが、どこか影のある憂いを潜めさせたその表情から隠しきれない落胆を感じとり、非常に申し訳ない気持ちになる。

 名瀬さんと付き合い始めてから今週までで、女のまま週末を迎えるのは新記録だった。そう、平日はそこそこ男である頻度が高いが、土日はすべからく女なのだ。一年以上、女と男を行き来する特異な体質と付き合ってきたが、ここまで曜日で偏ったことはなかった。名瀬さんと付き合えた幸運で、その分それ以外の運が下がりきっている気がしてならない。名瀬さんの言う通り、恋愛の神様か何かにでも呪われたに違いなかった。

 

「い、行きましょうか。カップル割は、もう適用されませんけど」

「もうレディースデーに行きなおした方が良いんじゃないかしら……」

「そんなこと言わずに!! 名瀬さんだって楽しみにしてたじゃないですか!!」

 

 若干すね始めた名瀬さんの背中を押して、俺達は映画館に向かった。

 

 

 

 てきぱきと仕事を片付ける会社での様子からは想像もできないが、プライベートでの名瀬さんはかなり女性的だ。料理ができて家事掃除はお手の物、というとジェンダー差別かもしれないが、およそ世間一般人が女性的と言われて想像することは大抵出来るといっても過言ではない。手料理を何回か振舞ってもらったが、かなりの腕前だ。プライベートでは気が弱いところがあるのが玉に瑕だが、それにしたって男心をくすぐるし、そういう名瀬さんも好きなのでマイナスではない。

 そして、会社での地に足のついたお堅いイメージとは裏腹に、存外に少女趣味だ。例えば、今日の洋装は色調の落ち着いたシックなものだが、買い物に行くと、名瀬さんの熱心に見ているのは大抵可愛い系に属する服が多い。

 慶介君ならともかく、私じゃ似合わないから。なんて言って結局買わないのだが、憧れのような感情は隠しきれていない。女性にしては背が高い部類に入る名瀬さんでは、着ても似合わないと思っているのだろう。俺としては似合うと思うのだが、可愛い服を着た名瀬さんも好きなんだけどなぁ、だなんて言葉を口にした日には、恥ずかしがって俺の肩をバシバシ叩いた挙句、腹いせに俺が被害を被る(着る)羽目になるので、決して言わないが。

 他にも、理想のファーストキスのシチュエーションは細かく指定があったり、デートの雰囲気といったものをとても大切にしている。なので、女の俺とキスなんて言語道断!! 初めては男の俺とが良い!! という名瀬さんの熱弁により、付き合い始めて1か月以上たとうとして居るのに、いまだにキスすら交わしていない訳だ。

 勿論、俺も名瀬さんの言うことに納得している。いくらたまに女になる俺を受け入れてくれたとはいえ、名瀬さんは女の俺と付き合っているわけではないのだから。名瀬さんご希望のシチュエーション通りに行けば、熱いベーゼを交わした後そのままベッドイン、だなんて展開もあり得なくはない。いずれ味変のノリで女で致すこともあろうが、最初から女でやるのは俺も嫌なのだ。というか、トイレですら最近ようやく慣れてきたって段階なのに、いきなり夜の行為だなんて出来るわけなかろう。

 昨日寝る前は男だったので、名瀬さんも俺自身も、遂に! と期待していたのだが、起きてぶかぶかのパジャマを着ていることを自覚した時は、がっかりとかいうレベルではなかった。それは名瀬さんも同じようで、あれだけ楽しみにしていた映画を目の前にし、溜息が絶えなかった。

 女になってしまっていることに関しては、もうどうしようもない。キスやら何やらは次回以降に期待してもらうとして、この後の予定で何とか楽しんでもらうしかあるまい。

 溜息が止まらない割に、映画の展開で涙腺を緩ませている名瀬さんに和みつつ、俺は頭の中での予定表のページをめくるのであった。

 

 

 

 慶介君にとって、女の子になってしまう現象は不可抗力である。そう頭でわかってはいても、こうもタイミングが合わないとわざとなのかな、と思ってしまうのが私の悪い所だ。大人げなく拗ねていた私だったが、慶介君の必至な慰めと、楽しみにしていた映画を見て、すっかり機嫌を直した。と同時に、慶介君は何も悪くないというのに拗ねていた自分が恥ずかしくなり、一言慶介君に謝り、それからは楽しいデートとなった。

 今の慶介君に似合う洋服を探したり色んな買い物をしつつ、夜は慶介君おすすめのおしゃれな居酒屋さんで過ごした。個室の多い落ち着いた雰囲気で、周囲もカップルだらけである。私たちもその中の一組なのだと思うと、私の中に謎の優越感が沸き起こる。

 肝心の中身はというと、突き出しの時点で既においしく、食べ歩きが趣味らしい慶介君のセンスは相変わらず素晴らしかった。

 美味しい料理と話にお酒も進み、席の時間が来た頃にはすっかり出来上がっていた。いや、出来上がりすぎていた。

 

「うぐぅ……」

「大丈夫? 吐きたかったら吐いた方が楽になるわよ?」

「だい、じょうぶです……」

 

 顔を真っ赤にして、気の抜けた表情をしている慶介君は、私に掴まっていないと歩くことすらおぼつかない。お酒に酔って意識がふわふわしているのだろう、返事も半分浮ついており、普段からしっかりしている慶介君らしからぬ様子だった。

 慶介君が酒に弱いイメージは無かったのだが、もしかすると女性の体になった状態だと多少お酒に弱くなるのかもしれない。そういえば、女になってからお酒はあまり飲んでいなかったそうだし、今までのデートで行った店だと乾杯の一杯くらいでそこまで飲んでなかったから、慶介君本人も含めて誰も気付かなかったのかもしれない。

 

「うう……」

 

 慶介君の家は知っているし、このまま家に送り届けても良いが、女性の体で、千鳥足で意識も浮ついている慶介君をこのまま放り出すのは心配だった。

 せめて、目の届く範囲に置いてあげないと。そう思った私は、慶介君を連れ出す。

 

「すいません、区役所の近くのマンションまで」

 

 稼ぎ時ということで、飲み屋街の近くに溜まっているタクシーを捕まえて乗り込むと、タクシーは静かに走り出した。

 よくいる、積極的にお客さんに話しかけてくるような、社交性のある運転手でなくて助かった。どうにも、初対面の人と話すのは苦手だから。こういう時に頼りになる慶介君は今、私の肩に頭を預け、静かに寝息を立てているし。事情を知らない他人が見れば、飲み会で飲みすぎた後輩を介抱する先輩か上司にしか見えないだろう。まさか、恋人同士などとは思いもしない筈。そう、こんな可愛らしい女の子が私の彼氏だなんて、未だに実感がないのだ。

 雪が降る日、私が慶介君に助けられ、それ以降仕事場で会うたび目線で追いかけた彼は、理路整然と話し、相手を納得させる頼りになる仕事人であり、いざというときは自身を盾にしてでも他の人を庇える男らしさを感じさせる好青年だった。

 仕事場では今でもそうで、"彼"であろうと"彼女"であろうと、変わらず職場の誰もが頼りにする出来る男だ。でも、私にだけ見せてくれた新たな一面は、意外と彼女の姿が似合っている事を私に教えてくれた。それは女々しいという事ではなく、ただ彼の良さを強調するだけ。私しか知らない彼の一面を知る度、私は更に彼に夢中になった。今日だってそうで、勝手な理由で拗ねる私を必死に盛り上げようとしてくれる彼の必死な姿や、恋愛ものの映画で涙ぐむ私を見てほっこりとした笑みを浮かべる彼の姿は、頭の中のフォルダに大切に保管してある。

 そんな彼だからこそ、私は好きになったのだから。1つ、覚悟を決める。

 

「うう……」

「大丈夫?」

「なん、とか……」

 

 タクシーが停止し、お金を払って降りたのはとあるマンションの前。意識が空ろな慶介君は、ここが私の部屋だとは気づいていない様子だが、ここは今まで上げたことのない、私の家。

 辛そうに呻く慶介君に肩を支えながら、私は自室の扉を開く。可愛らしい物ばかり飾られた、私の部屋。友達によく子供みたいと馬鹿にされる、少女趣味全開の部屋のベッドに、彼を寝かせる。可愛らしい部類に入る慶介君が寝っ転がると年相応に映り、まるでここが慶介君の部屋であるかのようにすら感じてくる。

 自分の趣味であるが、どうにも似合わない私は慶介君に若干の嫉妬を抱きつつ、水を継ぐと、慶介君にコップを差し出す。

 

「お水持って来たわよ」

「ありがとう、ございます」

 

 声をかけると、慶介君はなんとかといった様子で体を起こし、私からコップを受け取り、口をつける。女性の体では、一口に飲める量など少ない。こくり、こくりと小刻みに飲み込み、水が嚥下する度うねる白い喉元。私の指導もあってか、最近は随分と自然な化粧ができるようになってきた、薄くひかれた口紅の唇。アルコールで火照り、リンゴのように真っ赤な頬は、少し子供っぽい容姿とは裏腹に、大人の妖艶さを感じさせる。

 私にそんな趣味などないはずなのに、私の目には目の前の女の子が、とてつもなく魅力的に映った。

 小さく吐息を漏らす仕草は、とても女の子一年目とは思えない色っぽさを感じる。

 

「すみません、名瀬さん。最後の最後で恰好つかなくて。

 ……いや。女の姿で来た時点で、最初からついてなかったのかもしれないですけど」

 

 皮肉気に自嘲する。溌溂とした慶介君からは程遠い印象。お酒が入り、あの時のように慶介君の弱気が表に出ている。以前と違うのは、その思いを私に吐露してくれているという点。

 

「そんなことないよ。今日は一日素敵なデートだったし、子供っぽい事にいつまでもこだわってる私が悪いんだもの。気にすることないわ」

「……でも、男としては答えたいじゃないですか。好きな人の、夢くらい」

 

 両手でコップを握り、俯く慶介君。付き合い始めのキスは、ロマンチックな雰囲気が良いだなんて、大人になり切れてなかった私の思いを必死に叶えてくれようとする慶介君の姿勢に、思わず笑みが零れる。ああ、私って心底馬鹿だったな、と。

 しょんぼりと肩を落とす慶介君の横に座ると、ぎゅ、とコップを握りこんでいる小さな手を取る。

 

「名瀬、さ……!?」

 

 疑問の声を封じるように、私は口を塞ぐ。驚きで目を見開き、強張った手からコップが離れ、中に残っていた水が彼女のスカートを濡らす。

 鼻を抜けるアルコールと仄かな甘み。男なんて微塵も感じない、女性特有の甘い香り。舌を絡ませたりしているわけでもなく、ただただ唇同士を合わせ、互いに口紅の塗りあうだけのファーストキス。

 私が口を離すと、慶介君は乱れた口元を手で隠す。動揺が隠しきれない慶介君に、私はいたずらっぽく微笑む。

 

「貴女のファーストキス、貰っちゃった」

「……よ、よかったんですか?」

 

 かろうじて絞り出したらしい言葉に、してやったりと笑みを深める。

 

「私が好きなのは、慶介君だもの。男でも女でも、関係ないわ」

「あっ……」

 

 とん、と軽く肩を押すと、小さな音を立ててベッドに収まる。酒の火照りで洋服が乱れ、所々肌をチラつかせつつ、未だ収まらぬ動揺で瞳を揺らすその扇情的な姿。女である私すら欲情させるその艶やかな姿に、熱に浮かれたように、覆いかぶさる。泳ぐ両手を抑え込み、逃げられないように。

 高鳴る鼓動に、交錯する視線。ふいに、向こうから目をそらす。そこには、期待感、高揚感、そして僅かばかりの恐怖が浮かんでいる。

 

「……怖い?」

「正直に言えば、そうですね」

 

 想定していたシーンとは居場所が反対の現状に、慶介君は居心地が悪そうに、もぞもぞと全身をゆする。

 頑なに合わせない視線。恥ずかし気にそっぽを向いたままの慶介君の様子に、私はふと思いつく。

 

「もしかして、女の子の体で触ったことないの?」

「……俺は、男ですから。こんな風に、受けに回る経験なんて、あるわけないですよ。いろいろあって、精神的に追い詰められててそれどころじゃなかったのもありますけど。そこまでしたら、俺が女だと受け入れてしまうようで、とてもそんな気には」

 

 でも、と前置きすると。アルコールか、雰囲気か。慶介君は、どちらかに酔って頬を真っ赤に染めながら、潤んだ瞳で私を覗き込む。

 

「こんな"私"で良いなら。受け入れてくれた名瀬さんとなら、私は……」

 

 愛らしいその容姿を私に捧げるように、瞼を閉じる。

 ……ああ。世の中の男の人って、こんな風に女の人に欲情するのかしら。慶介君が、どうしようもなく愛おしい。胸中に沸き起こる愛おしい感情を、止められない。

 私にとっても、今の状況は理想のシチュエーションとは真逆だ。それでも、いざ目の前の王子様(お姫様)を前にしてみると、もう我慢できなかった。女の子が好きなわけではない。慶介君が、特別なのだ。

 

「今日だけは、私の王子様(お姫様)。女の子の相手は初めてだけれど、とびっきり優しくするわ」

「名瀬、さん……」

「二人きりの時は、恵里佳、って呼んで?」

「えりか、さん……」

 

 もう一度、口づけを交わす。唇同士を触れ合わせるだけの軽いもの。たったそれだけなのに、胸に満ちるこの幸せな気持ち。その感情はアルコールのように私を酔わせ、キスは自然と貪るようなものに。

 

「ん、む……」

 

 恐る恐る絡み始めたそれは、求めるがままに次第に激しくなり。気づけば、互いに口内を責めあうまでに。鼻息が擽ったい。だが決してやめる理由にはならない。

 慶介君から、鼻から抜けるような声が漏れる。私の呼吸も自然と荒れ、次第に鼻息以外に水音まで立ち始めた。初めての味に、私も彼女も夢中になる。

 

「ぷはっ」

「ふぅ、はぁ」

 

 呼吸が苦しくなり始めた頃、ようやく終わる。小さな胸を隆起させ、慶介君は物欲しそうに、とろけた瞳を私に向けてくる。

 辛抱たまらない、そんな様子の慶介君を見て、私も火が付く。急に熱くなってきた私は、乱暴に着ていた洋服を脱ぎ捨てる。

 びっくりしたように目を丸くした慶介君。そして、露出した私の下着に目を白黒させ、視線がくぎ付けになる。

 

「え、あの」

「ふふ、次は慶介君にお願いするわ。でも、今日のエスコートは私。彩ちゃんは、私に身を任せてくれれば良いのよ……?」

 

 女の子同士で経験が有るわけじゃないけれど、少なくとも慶介君……この場においては、彩ちゃんよりは女性について知っているつもりだ。

 腕から上半身へと手を滑らせ、かろうじて女性が着ていてもおかしくない、ほぼ男物のシャツのボタンを外すと、小ぶりな丘陵を隠していた、デザイン性など皆無な下着が姿を現す。デパートで一山いくらで積んでいそうな、シンプルと表することすら失礼に当たりそうな、最低限の機能性だけを有したそれを見て、僅かに顔をしかめる。

 

「もし次も女の子の姿でデートなら、今度は下着も買いに行かないといけないわね」

 

 フロントホックのそれを脱がすと、予想通り小さな胸がまろびでる。成熟していない、青い果実を思わせるそれ。それでも先端には、ピンと屹立した乳首が自己主張している。

 

「そんなにまじまじと見ないでください。さすがに、恥ずかしいです」

「私のも見たんだから、お相子よ?」

「んんっ……」

 

 わざとそれを避けるように、つつ、と肌を爪で掻くように走らせると、びくびくと体を振るわせる。全身が敏感なのだろう、初めての刺激に戸惑いの感情を浮かべながらも、声を上げないよう必死に唇を閉じ我慢している彩ちゃんを見て、むくむくと沸き起こる悪戯心。

 

「ん、んんっ!!」

 

 彩ちゃんの未成熟な体にキスを落とす。わざと音を立てながら、何度も何度も。彩ちゃんに意識させるように、全身に私の印をつけていく。

 

「えりか、さぁん……」

 

 たまらず、彩ちゃんがもどかしそうに体をゆする。いつまでたっても訪れない刺激に、物欲しそうに私を見つめている。いつも頼りになる慶介君が、こうして縋るような視線を私に送る。

 いつだったか、慶介君が話していたギャップ萌えだとかいう話。私としては今一わからない感覚だったが、慶介君がおねだりする様を、乱れる様をもっと見たいと思ってしまうこの感情が、そうなのだろうか。

 沸き起こる衝動に身を任せ、私はひたすらキスの雨を降らせる。

 

「ふぁっ、あっあ、なんで、こんな……!!」

 

 名前の通り、そのキャンバスに"彩り"を添えるように、今日新生したばかりの彩ちゃんの肌に赤い花を咲かせていく。性感帯を触られたわけでもないのに鋭敏に感覚を伝えてくる自分の体に対し、喘ぎながらも戸惑いの声をあげる彩ちゃん。自分の体に真っ赤な花が咲くたびに、腰を浮かせ、胸を強調するように胸を突き出す姿に、私は笑みが深まるばかり。

 

「やぁっ、あぁっ!!」

 

 口は否定しようとも、体は素直だった。乳首の周囲で円を描くように指でなぞると、鈴の音のような声を上げる。聞くだけで耳がとろけてしまいそうなほど、甘露なそれを聞くのに夢中な私は、彩ちゃんのその可愛らしい口からおねだりを聞くまで決して止まらないとばかりに、焦らすような指運びをやめなかった。

 

「えりかさん、さ、触ってください、お願いですからぁ」

 

 彩ちゃんは絶え間なく襲うもどかしさと切なさに、敢え無く白旗を上げる。

 息も絶え絶えになりながらも、遂におねだりをし始めた彩ちゃんに、私は攻め手を止める。

 

「何処を触ってほしいの?」

「どこって、その、胸を……」

「胸なら一杯可愛がってあげてるわよ? もしかして、もっと激しくってことかしら」

 

 恥ずかしいのだろう、決定的な言葉を濁す彩ちゃんに、私はとぼけた声を上げて知らないふりをした。汗ばみ始めた肌にキスをし、ゆっくりと胸を揉みしだく。再び始まる焦らし地獄に、自分で気づいているのかいないのか、彩ちゃんは内またになって足をすり合わせていた。

 

「あ、ああっ」

 

 言わないと始まらないと察したのだろう、羞恥で頬を真っ赤にする彩ちゃんと、目を合わせる。潤んだ瞳からは自然と涙がこぼれ、色っぽい吐息のこぼれる口は、何かを言おうとぱくぱくと開いては閉じている。

 

「そ、その……」

「なあに?」

 

 一瞬の躊躇いの後、止まらない私の焦らしに屈したように、ようやく口を開く。

 

「お、俺の……」

「今は、彩ちゃんでしょう?」

「わ、私の、乳首。触ってください、恵里佳さん」

 

 仕草に、声に、表情に、きゅん、とまるで漫画のような音を立てる私の胸。あまりの可愛らしさにおかしくなったのかと思ってしまうほど、激しく高鳴る。

 

「よくできました。彩ちゃんが満足するまで、たっぷり可愛がってあげるわ」

 

 辛抱たまらず、私はむしゃぶりつくように興奮で腫れあがった乳首を口に含んだ。

 

「~~~~!!」

 

 口で吸いながら、舌で転がす。たったそれだけの刺激で、彩ちゃんは顔を跳ね上げ全身をびくつかせた。表情は見えないが、あまりの快感に嬌声すら上げられず、足をばたつかせている様を見るに、満足してくれている事は明らかだった。

 追い打ちをかけるようにもう片方も指で転がしてやり、時たま変化を持たせるように舌や指ですりつぶしてやると、更にその様子が加速する。

 

「いきゅのがとまりゃないぃっ、あたま、まっしろになりゅっ!! いあぁあああ!!」

 

 がくがくと体中を痙攣させながら叫ぶ様子は、その絶頂の壮絶さを物語っている。それでも手は止めず、常に快感を送り続ける。舌足らずに叫ぶ彩ちゃんをもっと見たい、もっと悦んでほしい、そんな思いが私を暴走させる。

 攻め手を緩めない事からイキっぱなしの彩ちゃんを見て、私も興奮がピークに近づく。彩ちゃんの痴態でぬれ始めたあそこを、滑らかな彩ちゃんの足に擦り付け、快感を得始める。彩ちゃんの様子に合わせ、普段ではありえないそのはしたなさも加わり、私も呆気なく絶頂に達する。

 

「えりかさん、えりかしゃんっ!!」

「(彩ちゃん、彩ちゃんっ……!!)」

 

 体がつながっているわけではない。でも、心は通じ合っていた。絶頂の波が落ち着いていた彩ちゃんも私も、お互いに名前を呼びあいながら絶頂に向かっていき。

 

「「~~~~!!」」

 

 二人同時に果てるのだった。

 

 

 

 セックスしたわけでもなく、どちらかと言えば自慰に近かったこの行為。なのに、私はいつもよりも強い充足感を感じていた。物足りないどころか癖になりそうなほど、私は満ち足りていた。

 笑顔の私に対し、お相手の彩ちゃんこと慶介君はというと。

 

「死にたい……」

 

 絶頂しっぱなしで乱れていた呼吸もようやく整い、我に返った途端、腕で目を覆ってこんなことをつぶやき始めた。

 

「なんだよえりかしゃんって、俺は子供か。しかも、恵里佳さんにあんなおねだりみたいなマネまでして……もうやだ、恥ずかしすぎて死にたい。恥ずか死しそう……」

 

 ぐすぐすと鼻をすする音までしだし、次第に泣き言にまで発展し始める。

 

「ご、ごめんね慶介君? 私、つい調子に乗っちゃって……」

 

 いくら慶介君が認めたからといって、今回は私の方から半ば無理に迫ったに等しい。少しやりすぎたと思った私は、物騒なことを言いながらすすり泣きしている慶介君に謝る。

 

「いや、自分があまりにも情けなくて泣いてるだけですから。名瀬さ……じゃなくて、恵里佳さんは関係ないですよ」

「でもほら、死にたいだなんて……」

 

 ぐすぐすとまだぐずっている慶介君は、ふるふると首を振って否定する。

 

「確かに、あんな女みたいな喘ぎ声上げて乳首だけでイクだなんて、恥ずかしすぎて穴があったら入りたいくらいですけど。相手が恵里佳さんですから、恥ずかしいですけど気にならないです」

 

 むしろ癖になりそうで怖い、だなんてことを呟く慶介君があまりにいじらしくて、寝っ転がっていた慶介君を持ち上げ、ぎゅ、と胸に掻き抱いた。泣いていた慶介君は、目を白黒させながら抗議の声を上げる。

 

「ぷあっ、恵里佳さん!?」

「男の時は頼りになってかっこいいのに、女の子になったらこんなに可愛いだなんて、慶介君はお得ね」

「人をお買い得物件みたいに言わないでください。恵里佳さんこそ、会社じゃクールな癖に実は可愛いもの好きだなんて、ギャップがありすぎて可愛いすぎるんですよ!!」

 

 私の胸元で上目遣いに睨んでくる慶介君と、私の言い合いが始まる。これほど幸せな喧嘩がかつてあっただろうか。自然と笑みが零れ、温かな気持ちが胸に広がる。

 

「……俺以外の前で、見せちゃダメですよ。絶対、男が放っておきませんから」

「ふふ、じゃあ慶介君も、女の子の時は気を付けてね。あんなに可愛い慶介君見たら、それこそ皆放っておかないでしょうから」

「気持ち悪いこと言わないでくださいよ……想像するだけで鳥肌が立ちそうです。女の姿で誰かと一緒に寝るのは、後にも先にも恵里佳さんだけですから」

「嬉しいことを言ってくれるわね。私も、誰かに慶介君を取られちゃうのは嫌だから、気を付けるわ」

 

 そう言い、私の腰に手を回す慶介君。私も、安心させるようにもう一度抱きしめる。

 流れる時間がゆっくりと感じられる、温かなひと時。慶介君の新たな一面も見れ、改めて、慶介君が彼氏で良かったと思う幸せな一日だった。

 

「この後はどうしましょうか。あそこも触ってみる?」

「えうっ!? こ、これ以上はちょっと……」

「癖になるって? 大丈夫よ、彩ちゃんのその姿を見るのは後にも先にも私だけなんだから。いずれやるんだから、いつやっても一緒よ」

「やるのは既定路線なんですか!? ちょっとさっきのが尾を引いてて、これ以上は……あっ」

「ほら、可愛くない下着がこんなに濡れちゃってる。こんなになってるのに、触ってあげなかったら逆に可哀そうじゃない?」

「う、うううぅ。恵里佳さんの、意地悪……」

「……そういう言い方が良くないのよ。逆に、一杯虐めたくなっちゃうじゃない」

「藪蛇っ!? その手つき止めてください、俺初めてなんですよ!? いわば処女ってことで、ちょっとは手加減を……あんっ!!」

 

 このマンションは割と防音はしっかりしている方だが、翌日、隣の住人からさりげなく苦情を入れられるくらいには、燃え上がった私達だった。

 

 

 

「なぁ慶介、最近お前、えらく女っぽくなったよな」

「は? 何気持ち悪い事言ってんだお前」

 

 とある日の休憩中、人事が一新されすっかり健全になった営業部で働く元同僚が、そんな戯言を言い出した。

 

「いやさ、ちょっと前までは、女の姿でもまるっきりお前だっただろ。仕草とかも含めて歩き方は男らしいし、言葉遣いこそ丁寧だったがほぼ営業トークそのままだし、丸っきりお前のマイナーチェンジ版というか、お前をよく知ってるやつが見たらわかるレベルでお前だったじゃん?」

「じゃん? って言われても、本人にはわからんわ……」

 

 確かに、女らしい仕草など気にしたこともなかったが言われてみるとそうなのかもしれない。むしろ、心まで女にならないようにわざとしていた節はあるので納得である。

 

「それが何だよ、気が付けばちょっとした振る舞いまでほぼ女になってる上に、いつの間にやら女子の制服着てるし。やけに似合っててこっちも気持ち悪いわ」

「うるせぇよ。これは、名瀬部長の指示で仕方なくだな……」

 

 恵里佳さんの指示で着始めた女子の制服。所謂OLが着ているような服なのだが、どうにも慣れない。何度着ても履きなれないスカートは勿論の事、仕事はスーツというイメージが頭から抜けないせいだと思うのだが、とにかく動きづらくて仕方ないのだ。

 仕草云々に関しては、恵里佳さんから受けた教育も関係しているとは思う。客先に出ても違和感のないように、という建前の元、恵里佳さんから徹底的に教え込まれたそれは、よく観察されない限り、相手に指摘されないくらいには仕上がっている。最近女の姿で床を共にする際、そんな仕草で喘がされることが多いので、恐らく趣味の荷重の方が多いとは思うのだが、私生活で実際に助かっている場面も多いので、俺からは何も言えない。女性の快感が癖になっているのでは決してないぞ、絶対に!!

 あ、ちなみに、初夜の翌週、無事に男の姿で致せました。恵里佳さんも俺も非常に満足です。

 

「お前、まさか俺を口説こうとはしてないよな……? もしくは、俺を狙ってるやつに仲介を頼まれたとか?」

「そんなわけないだろ、理由が気になっただけだよ。今までそんなことなかったのに、急に変わったからな」

「理由ねぇ……」

 

 話しても良いが、名瀬さんから内緒よ! と念押しされているため、正直に全部話すわけにもいくまい。ただ、こいつとは長い付き合いだし、特別にヒントくらいはやっても良いだろう。

 

「とりあえず、休みの日に無意味に出歩いたりはもうしないかな」

 

 俺の言葉に呆気にとられ、意味を理解した瞬間の表情の変貌は、思わず録画しておくんだったな、と後悔してしまう程面白かった。

 

「……は? まさかお前、見つけたのか!! マジで!?」

「はっはっは、どうだろうなー」

「その言葉、絶対見つけただろお前!! とぼけるなよ、一緒に探した仲だろ、詳しく教えろよ!!」

 

 とぼける俺の肩を持って揺さぶる同僚。それでも答えない俺に業を煮やし始めたところで、俺は小さな体を生かしてするりとその拘束から抜け出す。

 

「あちょ、待てって!! せめて写メだけでも……」

「良い女は、秘密が多いってね」

 

 ぺろりと舌を出し、俺は休憩室を出た。

 かつてはふざけ半分でも言えなかった、自分を半分でも女だと認める言葉。それが簡単に口に出せるようになる程、俺は変われた。それは悪い変化ではなく、今の俺を認め、良い方向に変えてくれた人がいたからである。

 

「……彩君」

「うわぁっ、名瀬部長!? い、いつの間にそこに」

「たまたま通りかかったの」

 

 休憩室の外にいたのは、俺を待ち構えているように腕組みしている恵里佳さんである。眼鏡をかけ、髪を後ろで縛っている姿は、出来る女上司という言葉が意思をもって歩いているかのような似合い具合だが、その視線は俺を咎めるように鋭かった。

 

「私達が付き合ってる事、秘密って言ったわよね……?」

「あれじゃわかんないですよ。単に俺に彼女が出来たって言っただけですし、相手が名瀬部長だとは一言も――」

「秘密って、言ったわよね?」

「ば、ばれませんってきっと――」

「……」

 

 いや、絶対あんなのじゃわかんないですって。温度の低いじっとりとした視線に、開こうとした俺の口も自然と閉じる。

 

「すみません……」

「今日は"残業"ね。みっちり教育してあげるから、楽しみにしてなさい」

 

 残業をする、つまりは今夜一緒に過ごそうという隠語である。人にはこうして怒る割に、ちょっと頭を捻れば思いつくような単純明快な隠語を考えるあたり抜けているのだが、それがまた可愛いのだ。

 ほら、口調こそ怒っている風だが、その口元は笑みが隠し切れていない。そんな可愛らしい姿に、俺もまた笑みを浮かべる。

 

「ご指導のほどよろしくお願いしますね、俺の自慢の上司(恵里佳)さん」

「私の彼氏が可愛すぎる……」

 

 俺の万感の言葉に頭を抱える恵里佳さんだったが、恵里佳さんよりも身長の低い今の姿では、ニヤついた笑みが丸見えである。そんな姿を見ると、俺まで笑顔になる。

 しばらく悶えていた恵里佳さんだったが、突然キリリとしたいつもの表情に戻ると。

 

「今夜はたっぷり可愛がってあげるわ、私の大切な部下(彩)ちゃん」

 

 すっかり女の俺を責める喜びに目覚めた恵里佳さんは、嬉々としてそう呟くのだった。ぞくぞくと背筋を奔る快感に操られるように、俺は首肯する。最近、本当に癖になってきて、自分でも弄るようになってきた。ダメだとは思いつつも、やめられない。でも、相手が恵里佳さんであるなら、と自分から受け入れつつある。

 盛大に遠回りしながらも、ようやく築き上げた恵里佳さんとの関係は、これからも色々と変化し続けるだろう。変な体質を抱えて自殺すら考えた俺が、恵里佳さんのお蔭で生き永らえ。ただの上司と部下(赤の他人)という関係から、上司と部下(恋人同士)になれたように。どのように変化するかは俺たち自身にも予測できない。それでも、俺たちの関係はこれからも続いていくだろう。

 

「俺、幸せです。恵里佳さん」

「私もよ、彩ちゃん」

 

 ここが会社だということも忘れ、キスを交わす俺達の行く末は、希望に満ちていた。




死ぬほど長い癖に中身は水より薄い始末。文才がなさ過ぎて情けないです本当。

(もし、書くとするなら)次のうちどの蛇足が見たい?

  • 幸平と美衣
  • 慶介と恵里佳
  • アキと凪咲
  • 真尋と亜美
  • TSしちゃった連合の飲み会話
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