して、中身についてですが。唐突な展開から始まりますが、流石にあの内容からじゃここまでの前振りは出来なかったんじゃぁ……許してつかぁさい(´・ω・`)
話は変わるが、男女をセックスしないと出られない部屋に閉じ込め、その経過を見守るというのは、創作の世界では割と昔から制作され、メジャーなものである。所謂『セックスしないと出られない部屋』という奴だが、近頃、それを模した妙な事件が世間で話題になっていた。
何処からか2人を攫い、ベッドだけおいてある密室に閉じ込め、文字通り2人が致せば、その瞬間睡眠ガスで眠らされ、さらわれたすぐ近くの場所で解放する。逆に、しない限り絶対に開放しないという、質の悪い冗談のような部屋だ。
チープなAVの企画でも無さそうな内容だが、これらは全部実際に起きてしまった事件である。それも一度だけではなく、幾度となく繰り返されているのだ。
事件は世界各地で一定のペースで続いているのだが、未だに犯人は捕まっていない。
というのも、犯人の犯行手段どころか目的も不明なため、足取りが全く掴めないのである。というのも、被害者を閉じ込めはするものの、監視カメラで覗いている様子はなく、2人の行為を録画して売りさばくわけでもない上、後から脅してお金をせしめようとするわけでもなかった。逆に言えば映像が無いため、監禁場所のヒントは被害者の供述のみという、兎角犯人につながりそうな手がかりが無い厄介な事件なのだ。
更に犯人の特定を混迷させているのは国も様々なら被害者も様々という点で、名の知れぬ一般人が被害にあったかと思えば、時にはそれなりに地位のある者の娘が被害にあっている事もある。更に、監禁される2人の決定方法も謎で、最初がカップルだったかと思えば、次は全く面識のない2人だったりと、法則性が無いのだ。
更に事態をややこしくしているのは、被害者が殆ど警察に告訴しないという点である。何せ、当人たちが恥ずかしい事を除けば実害はほぼ0であり、逆にこれがきっかけで付き合い始め、結婚に至った者も多いのである。実質被害者のいない愉快犯に近い為、国によっては完全に見逃しているところまであるという、他に聞いたことのない珍しいケースになっているのだ。
今でも一か月に一度のペースで攫われており、事件が発覚した当時は騒がれたものだが、民衆もすっかり慣れてしまった昨今では、次はあの人か、くらいの反応しかしない有様だ。
かく言う自分もそうで、知らない人と閉じ込められたら嫌だなぁだとか、どうせなら亜美と一緒が良いなぁだとか、下世話な想像をするばかり。料理の腕を磨くことに意識が行っていることもあったが、あまり真剣に捉えず画面の向こうの出来事くらいにしか考えていなかったので、被害者へのインタビューなどは聞き流していた。
だが、今となってはもう少し真面目に考えておくべきだった、と非常に後悔している。
「えー……これから、どうしようか」
「どう致しましょう……」
白を基調とした殺風景な部屋の中央で、唯一置かれた家具であるベッドに腰掛ける俺達。
俺と俺の隣に座る亜美は、電子ロックのかかった扉の上に燦々と輝く、『セックスしないと出られない部屋』という、一切隠す気がないド直球で直截な看板を眺め、呆然と呟くのだった。
昨晩の記憶は、部屋のベッドに転がり、決意も新たに彼女のために頑張ろう、と思って目をつぶった所で終わっている。
そんな何の変哲もない日常の次の日、目が覚ると隣には、寝巻ではなく余所行きの服を着、ばっちり化粧までキメた彼女が寝っ転がっている上、あんな看板が掲げられた部屋に閉じ込められているのだから、呆然とするのも当然だと思うのだが、隣のお嬢様はどうやら違うらしい。内心はともかく、少なくとも外見からは戸惑った様子が一向に見受けられないお嬢様の姿を見ると、段々俺の反応の方が間違っている気がしてきた。
「困りましたね、明日が期限の決済が合ったはずなのですが、間に合うでしょうか……」
「拉致されてまず心配するのは仕事とは、お嬢様は随分と肝が据わってるね」
呆れ交じりで視線を向けると、何を馬鹿なことを、とでも言いたげな視線をこちらに返す亜美。
「私が1つ書類を落とせば、1人の首が飛ぶだけでは済まないのですから当然です。何とかして戻らないといけませんわね……」
「……あれ、でも今日は休みって言ってなかったっけ?」
ふと昨日の亜美の言動を思い出した俺は、浮かんできた疑問をそのままぶつけてみる。
「言いました。真尋が誘ってくれるなら、どれだけスケジュールが真っ黒だろうとその日は休みになるのです。逆を言えば、その日以外は全部仕事ですね」
「流石にストイック過ぎるよ。俺もたまの休みの日くらいはゆっくりするけどな」
俺のためなら時間を作る、と素面で言ってのける亜美に、照れくささ半分、申し訳なさ半分の俺は、その事に反応することなくスルーして会話を続けた。
「朝起きたときはゆっくりするか、と言っておきながら、午後には材料を買いに行って結局練習を始めてしまう真尋の事が、私は大好きです」
「……まさか、俺の部屋に監視カメラつけてないよな?」
耳に入ってきたのは、俺が亜美に言ったことのない筈のありがちな休日の過ごし方。
俺が修業させてもらっているレストランは大衆向けの薄利多売型の店舗ではないため、仕事の忙しさはまだマシな部類だ。だが、それでも仕込みの量ではなく、質が高い為に労力はそれほど変わらないのだ。仕事が終わった後も、調理技術の練習をしていることも関係し、腕が上がらないくらいにへとへとになる事もしばしばあり、休日は身体の休養に当てることが殆どだった。
だが、ゆっくりしていると、何かにつけて亜美の事を思い出してしまう。脳裏に浮かぶ彼女の悲しそうな顔を思い浮かべるた度、心に到来する寂寥感。最終的に、家でも練習し始めてしまうのが王道のパターンなのだ。
こんな休日の過ごし方を亜美に知られるなんて一生の恥な訳で、俺が話していない以上、亜美が知っているはずがないのである。
手段は不明だが、俺のプライベートが筒抜けで殆ど把握されていることに思わず戦慄し、隣に座る亜美を睨みつける。
切れ長の目に憂いの感情が乗り、思案気にベッドで佇んでいるお嬢様。少し肩口にかかるくらいのよく手入れされた黒髪が、程よく効いたエアコンの風を受けてふわふわと揺れていた。片手を頬に添え、ほう、とため息をついてポーズをとれば、さながら映画のワンシーンを切り取ってきたかのように様になっている。流石、美人の次期社長として何度もニュースに取り上げられるだけはあるのだが、話をうやむやにしようとしているとなると途端に色あせて見える不思議。
「時計も携帯もない以上、私たちがどれくらい寝ていたのか、今が何時なのかわかる術はありません。なるべく早くここから出る必要があります。」
「話そらさないでくれる? もしかして盗聴器つけてたりしない?」
「可及的速やかに」
「ねぇってば」
「一刻も、早く」
「……わかったよ」
決して目は合わせないが、圧の強いセリフに一先ずその話は置いておくことにした。家を調べる事、と忘れないように心の中にメモをしておき、先を促す。
「それで? まさか、さっさとセックスしてここを出よう、だなんて言わないよね?」
デリカシーのない発言と見せかけて、正直一番これが心配している点だった。
この幼馴染が手間を何よりも厭い、実直で効率を求める性格なのは、昔からの付き合いで良く知っている。生まれも育ちも良いが、思い切りの良い幼馴染ならそう言いかねないと思い恐る恐る表情を伺うと、お嬢様はじろりと険しい視線をこちらに向けて来る。
「てっとり早いのは否定しませんが、流石の私でもそんな無遠慮な事は言いませんし、羞恥心くらいあります」
「で、ですよねー。ごめんなさい」
一部は認めるんだ、と思いながらも、流石に無神経すぎたので素直に謝った。
普段から、2人きりの時はため口を要求する彼女である。真剣に見てなかったため記憶はあやふやだが、今までと同一犯ならば、この部屋に監視カメラがないのは間違いない。
社会人の嗜みと称してどんな新聞やニュースにも目を通す彼女の事だ、そんなことはわかりきっているだろう。
「でも、実際どうしようか。俺はともかく、亜美がいなくなったのはすぐにわかる。捜索チームはすぐ組まれるだろうけど、今までのパターンだとすぐには見つからない場所につれてこられてるんだろうし……」
「それなりのセキュリティが備わっている我が三澄家の屋敷に侵入し、寝込みを攫えるくらいですから、用意周到に準備していたのでしょう。今までの犯行と同じく、足取りをつかめない可能性は高いでしょう。怪しい場所を虱潰しに探すのも時間がかかりますし、助けは来ないと思ったほうが良いですわね」
「そうだな……」
そうなると、ここから出る方法を探さないといけないのだが、単純に出るだけなら簡単だった。看板に書いてある方法を実践すれば一発だが、お嬢様が否定したように、それには様々なハードルが立ちはだかる。
例えば、今時珍しいくらい古風な三澄家の家柄を考えると、三澄家の長女である彼女とセックスする、ということは、彼女と契りを交わしたことと同義である。つまり、簡単にいってしまえば三澄家の跡継ぎになる、と解釈されてしまうのだ。それこそが、あの父親が俺を恫喝してまで付き合いを遠ざけようとした理由であり、彼女が今時あり得ない悪習だと自分の父親を唾棄して激怒する原因でもある。
それに加え、俺個人としても、このまま状況に流されておっぱじめるのに抵抗感を感じていた。
もしこのままセックスするならこちらから誘うべきで、でもこんな状況で初体験は男のプライドが許さない、だとか。
好いた相手とセックスするならもうちょっと雰囲気が欲しいのもあり。
どうせするなら、風俗嬢相手にでもいいから、少し練習しておきたかったなぁ、と後悔したと思えば。
そもそも、こんな部屋に閉じ込められる事になるなら、昨日の誘い乗っておくべきだった、とか。
複雑な事情と単純な私情が交じり合い、俺の内心は多種多様な感情が渦巻いていた。
よくよく考えなくても、付き合い始めてキスですら一度しかしたことのない恋人と2人きりの空間である。しかも、ここなら誰にも邪魔されず、脱出するためだから仕方ないという、非常に優秀な言い訳のおまけつきだ。
脱出方法がほぼ1つしかないこの部屋で、非常にプロポーションの良い亜美と一緒にいると、むらむらとしてしまうのも当然だった。
よろしくないとは思っても、下世話な思考が頭を埋め尽くす。
悶々としていた俺を余所に、考えを纏めたのか亜美はすっくと立ち上がる。
「真尋とセックスするのが一番確実で早いのは間違いありませんが、それは最終手段ですわ。私だって、こんなシンプルで何もない場所じゃなくて、もっとシックな雰囲気なホテルのスイートルームで、貴方から結婚を申し込まれて、熱いベーゼを交わしながら貴方のペニスで処女喪失したいとか、希望はあります」
「言い方ァ!! いやいや、もっとお嬢様らしく言葉を飾ってくれよ、羞恥心はどこ行ったの!!」
「貴方しか聞いていないですし、これくらいいいじゃありませんの……」
私にだって羞恥心はある、とつい先程言っておきながらこの発言である。
これで顔が真っ赤にでもなれば可愛げがあるのだが、事も無げに全くの無表情でされては冗談なのかも判別できない。本当に困ったお嬢様である。
俺の必死のツッコミにも面倒だなぁ、という感情を隠さず表に出す亜美に、俺はもうため息を隠そうともしなかった。
昔からの付き合いで、この羞恥心の欠片もない言動も慣れたもの。とはいえ、もう良い大人なのだから、もう少し本音を隠す事を覚えて欲しいものだ。
「とはいえ、このまま唯々諾々と従うのも癪です。一先ず、この部屋を一通り探してみましょう。もしかすると、犯人自身が閉じ込められてしまった場合に使う、脱出用の道等があったりするかもしれません」
「ダメで元々、やるだけやってみますか……」
処女喪失というお嬢様らしからぬワードが口から出た衝撃ですっかり気疲れした俺は、亜美の提案通り何もない部屋の捜索を開始した。
亜美の指示で、俺がベッド回り、亜美は部屋の壁を見てみることに。
ベッドの下を覗き込んでみたり、マットをひっくり返してみたりと、何か隠されていそうな場所を探してみるが、何も出てこなかった。
「収穫は無さそうだな……」
そういった緊急用の対策があるとすれば、普通に使っていては気づかないような所に仕込むのが基本である。俺が脱出ゲームのプロだったら話が違ったかもしれないが、別に隠し部屋や装置などを見つける専門でもない自分たちでは、何も見つけられないのは当然の帰結だった。
というか、ベッド以外に本当に何もないのである。
強いて言うなら天井に取り付けられたエアコンと照明があるが、それにしたってベッドに乗ったところで手が届く高さではない。
いよいよ本当に、亜美とセックスするしかないのか、と期待半分、申し訳なさ半分の複雑な感情を抱いていると。
ガコン……
「あら、外れたわ」
「え!?」
物音とともに聞こえた言葉に振り返ってみると、亜美が立っている前の壁の一部がはずれ、四角にくりぬかれた空間が露出していた。
慌てて駆け寄ると、40cm四方の大きさの空間の中央に、赤いボタンがポツンと置かれている。
「隠しボタン……? もしかして、これ押せば扉開くのか?!」
「継ぎ目もない、精緻な作りでした。今回はたまたま気づけましたが、判然とあるのかわからない手探り状態で探していれば、見つからなかったかもしれません。これだけ精巧に隠していたのであれば、可能性はありますね」
押してもびくともしない取っ手のない扉も、これなら開くかもしれない。
物は試しとばかりに亜美が押してみると、カチリ、と仕込まれた回路が切り替わる音に続き、カシュ、と空気が抜け、何かが開く音が耳を打つ。
「おお!?」
これはまさかあたりを引き当てたかと、期待とともに背後を振り返る。だが、唯一の出入り口の扉は閉じたままだった。
「あれ……?」
「おかしいですね。確かに音はしましたが」
扉に近づき開こうとしてみるが、押しても引いてもびくともしない。どうやら、扉のロックが外れた音ではなかったらしい。
「まさか、空調が切れるとか危ないスイッチだったんじゃ……」
「……? 真尋、ちょっと」
「ん? どうし……」
何も考えず押したが、もう少し考えて動くべきだったかと後悔していると、背後を振り返っていた亜美に肩をたたかれ、後ろを向くよう促された。
何事だと部屋を見渡してみると、俺は音の原因を察し、言葉を失った。
「嘘だろ……」
視線の先では、扉のない3方向の壁の丁度腰辺りの高さの一部分が開き、中に隠されていた物を露出させていた。どうやら空気の抜けるような音は、この隠し扉が開いた音らしい。そして仰々しく隠されていたのは、大量の大人の玩具だった。
アダルトグッズと言われた時始めに思いつくであろう、ディルドやピンクローターに始まり、鞭や拘束具などといったSMグッズ、更には栄養ドリンクのように見える精力剤なども置いてある。
更にはピンクに変わったライトも合わさり、やけにフカフカなベッドだけしかなかった悲しい部屋は、ボタン1つで様変わりしていた。頭に浮かんだ単語に、俺は頭を抱える。
「場末のラブホテルかよ……」
「セックスを促すという目的であれば、回りくどい手段だとはいえ、脱出に繋がる一手に違いはありませんね」
頭が痛い俺とは裏腹に、興味深そうにそれらの玩具を見回している亜美。如何にお金持ちで若干常識が世間からずれているお嬢様とはいえ、これらの名前くらいは知っていると思うが、生で見たのは初めてなのだろう。ディルドを手に取り、興味深げにまじまじと見つめている。
「これがディルドですか。初めて見ましたが、リアルすぎて気持ち悪い物から玩具にしか見えない物まで様々あるのですね。これがヴァギナに入ると思うと若干怖い気もしてきます……」
「こんなの入るのかってサイズもあるな。これなんて腕より太いし」
この一角には、多種多様なディルドが所狭しと並べられていた。種類が豊富なのはディルドだけではなく、ローターやSMグッズ等も、それら一系統だけで意味不明なくらい数が揃っている。金額にすれば優に7桁は超えそうなラインナップに冷や汗をかく俺に対し、物怖じせず物色する亜美。
ラインナップの中には貞操帯まであり、これだけ豊富な品揃えならば、どんなニーズにも答えられること請け合いだ。
しかし、本当にセックスを促す効果はあるのか? 逆にそれ以外の行為助長させてないこれ? と首を傾げていると、亜美が疑問を投げかけてくる。
「真尋、このバンドのついたディルドは何です?」
「ん? ああ、それはペニスバンドだよ。女性同士でする時に使ったりするんだよ」
AVなどでおなじみの物を見て俺はそう答えたが、主に、という言葉は飲み込んだ。ふと頭を過ったのだ、男女が逆になろうと、その行為をセックスと言い張ればセックスじゃないのか、と。
処女喪失シーンに異様なこだわりがある彼女の意向を汲み、希望に沿ってあげたいのはやまやまだったが、俺に後ろの穴を掘られる趣味は無く、流石にそこまでして彼女の夢を守ってあげようという気概はなかった。下手に亜美に知恵をつけさせ、そうなってはたまらなかった。これを正直に言うのは優しさではなく自爆、勇気ではなく蛮勇というんだよ。
俺の返事を聞いて手元の黒革のベルトに突き立った黒いシリコンのディルドを見、ふぅん、と気のない言葉を零す亜美。
「成程。つまり、これで真尋のアヌスの処女を奪えば、私はこんなところで処女を失わなくても良いというわけね?」
「ああもう、折角言わなかったのに、何でそこに気づいてしまうのか……!!」
「大丈夫、初めては優しくしてあげる……」
無表情ながら、ちょっとわくわくしていそうな亜美の瞳に、寒気が全身に駆け巡る。
ベルトを腰に巻き、かちりと股間にペニバンを固定する動作は淀みなく、どう考えても未経験者の動きじゃなかった。
え、まさかとは思うけど、処女だけどそういう経験は豊富だってオチ?
「落ち着け亜美、話せばわかる……」
「ふふ、冗談よ。私がそんなことするわけないじゃない。真尋も怖がりね」
「冗談って言いつつ、片手にローションしっかり握りしめてるの止めてくれないかな……」
じわじわと後ずさる俺に笑いかける亜美は、腰に取り付けたペニバンを外し元の場所に戻すが、今1つ信用ならない俺は警戒を解かなかった。
体格差はあるから抵抗することは出来るかもしれないが、万が一ということもある。他のアダルトグッズを物色し始めた亜美を常に視界の端に捉えるようにしつつ、俺も何かないか探そうと視線を動かし始めた。
だが、物が増えたとはいえ所詮は大人の玩具。脱出に繋がるようなものがあるわけがなく、亜美が面白そうな物をピックアップして俺に見せに来るだけだったのだが、最後に持ってきた怪しげな薬で話の流れは一変した。
「なにそれ」
「TS薬です」
「TS……?」
「TSです」
耳馴染みのない言葉に聞き間違いかと思い聞き返すが、答えは変わらない。
透明な液体が収められた瓶には、怪しげで目に眩しいピンク色のラベルが張られている。そのラベルにはでかでかと『TS薬』と書かれており、文字の周囲には♀と♂の性別記号が乱舞している。
「媚薬じゃないの?」
「違いますね」
亜美がこの飲み物らしき何かを取り出してきたところには、他に精力剤や媚薬などといった薬が収められていた。てっきりその部類なのだと思ったのだが、断言した亜美としては違うらしい。
「ここに書かれている効能を信じるのならば、服用者の性別を変えてしまう薬ですね。TS、つまりはTranssexual(性転換)薬という訳になりますか」
「TSって、そんな非現実的な……それ一本飲んだくらいで性別変わるなんてありえないでしょ。ジョークグッズなのかな」
「ちなみに、いろんな種類があるようですよ。今私が持っているのは男性が女性になる男性用、後はその逆の女性用に、身長を増減させるものまで色んなものがありました」
「無駄に凝ってるなぁ、たかが媚薬で」
栄養剤ほどの大きさのそれを受け取り、手に取ってみる。ラベルの裏、効能と書かれた欄には確かに性別転換薬、と律義に書かれており、種別の欄には♂→♀の記号が書かれている。
「折角だから飲んでみません? これだけ種類があって何も試さないというのも勿体ありませんし、効果が本当なら女の子になった真尋も見てみたいですし」
「他人事だと思って勝手だなぁ……どうせ効果なんてないだろうし、飲むくらい良いけどさ」
酔いそうなくらいピンクな照明に瓶の底を透かして見るが、何か沈殿している様子もない。中身はほぼ間違いなく栄養剤か精力剤で、酷ければ市販の飲料水を詰め替えただけに違いない。
さっきからちょくちょく話にフェードインしてくるペニバンで掘られるより遥かにマシだと思い、パキパキと音を立ててアルミの蓋を開き、中身を一気に煽る。
栄養ドリンク特有の変な甘みもなく、存外にすっきりとした味わいだった。この爽やかさは、スポーツドリンクだとか柑橘系の炭酸飲料の後味に似ているか。量が少ない事もあり、一気に胃の中に納まった。
「うん、思ったより美味しいなこれ」
「どうです? 何か違和感はあります?」
手を開いたり閉じたりしてみるも、特段変な感触はない。手足の痺れや倦怠感もなく、至って正常だ。
ほらやっぱり普通の飲み物じゃないか。
深く考えずに飲んでしまった俺は、問題なかろうと楽観的に判断する。
「特にないね。体が火照ってきた訳でもないし。いやまぁ、そんな速攻性のある薬だったらやば――」
視界がぐらりと揺れる。疑問など浮かぶ暇もない。考えなしに行動した罰が当たったのだろう。
異常なさそうだし、亜美も飲んでみたら?
だなんて言葉を紡ぐ前に、俺の意識は敢え無く消え去ったのだった。
私がこの小説につけた仮題は、SEXしないと出られないTS百合です。安直も安直。
次回もよろしくお願いします。
(もし、書くとするなら)次のうちどの蛇足が見たい?
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幸平と美衣
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慶介と恵里佳
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アキと凪咲
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真尋と亜美
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TSしちゃった連合の飲み会話