※この作品はR-18です。

雪の楽園   作:ホネ

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ご無沙汰していますm(__)m

連勤中にまた食物アレルギーを起こして仕事を休みました。
二回ほど検査は行ったのですが、結果はハウスダストやスギ花粉以外は陰性で原因が分からん…。

そんな私情はさておき、十三話無事書き上げることが出来ました。
それではどうぞ^^




第十三話

「おはようさん。はいこれ」

一日空いて、出勤したオフィスで珍しく早めに会社に出勤していた芦間にマッカンを渡された。そういえば一昨日、マッカンを奢ってもらう云々の話をしていた気がする。もう随分と前の記憶に思われる。

「おぅ、サンキュー」

渡されたマッカンは程良く冷えていた。丁度飲み頃なのでそのまま頂くことにした。相変わらずの甘さと喉越し。この中毒性の虜になって何年にもなる。ドク●ーペッパーのように賛否両論分かれる代名詞とも言えるこの商品だが、最近また販売範囲を縮小したらしい。関東以外では三県くらいでしか購入できないようだ。何と悲しきことか。マッカンは一刻も早く文化遺産として保護すべき最優先対象だろ。まったく、何を考えているのだこの世界は。甘ったるさの中に口の中で広がるコーヒーの味わい深い香りg・・・

 

「ほれ、そろそろ戻ってこいよ。比企谷」

芦間に脇腹を小突かれた。せっかく良い精神状態でトリップしていたというのに。

「昨日はどうだった?」

芦間が話題の転換を促すように質問をした。

「…まぁ最初だからな。かなり疲れたわ」

仕事というよりは人間関係で。

「そっか。まぁそういうのは一番最初がキツイものだから後は楽になっていくと思えよ。」

「そうだな」

オープニングトークとして軽めの話題を提供したのであろうが、俺からしてみれば中々にキラーパスだった。昨日はどうだったって?生憎だが、一晩明けた今でもなんと形容して良いものなのか全く分からない。動揺、不安、高揚、奮起、静謐・・・。どれも適さないだろう。昨日からずっと自分の心臓の裏に自転車のサビのようにこびり付いた黒い靄を拭えずにいた。この靄の存在を知った時、初めてそれが自分の中に現れた気がしなかった。もっと前から俺はこの靄と付き合いが長いのではないか。そう思えてならなかった。

お前の正体は何なのだ。俺は知りたい。しかし、それが分かった時、自分の周りの世界が崩れてしまうようなこの予感はどういうわけなのか。しがらみも無く、好奇心に従うことが出来たらどれほど楽なことだろう。

答えに手を伸ばそうとすると手首に後悔の残滓がつきまとう。

 

 

結衣に昨日の夜に同じような質問をされた時、施錠した心の鍵を強引にバールで外されたような不快感を感じていた。

自分でも驚きだ。

俺は妻にさえ、この感情を覗かれることを拒んでいるのか。

どうにも気持ちの整理がつきそうにない。

 

心情はともかく、荷物は整理して、自分の席の椅子に座ると朝から大きな虚脱感に襲われた。働きたくないでござる。さて、この倦怠に飲み込まれる前に昨日の報告を纏めないとな。

「あ、そういえばさ。比企谷」

早速仕事に取り掛かろうという瞬間に芦間に水を差された。せっかくスイッチ入れたのに。エンジンを止められた気分だ。

「ん?なんだ?」

首だけ芦間に向けて答える。

「大したことじゃないんだけどさ。お前もアメリカの出張に行くことになったみたいだぞ」

「え」

「うん」

いや、うんじゃなくて。

「なにゆえ、俺はアメリカ合衆国に行かねばならんのだ?」

そもそも海外にあまり行きたくないんだが。

「それがさ、俺らが行く予定の海外採用の出張の件なんだけどさ、追加でもう一人必要になったんだよ。そしたら人事の人がさ、こっちで好きなメンバー決めてもいいってさ。それで智佐吹さんがお前を連れてきたいって向こうにお願いをしてしまい、受理されちゃいました〜!わ〜パチパチ〜〜☆」

 

…。

どこからツッコめば良いのだろう。そもそも俺が海外採用のメンバーに選抜されたことか?事前承諾も無しに海外出張を勝手に決められたことか?それとも人事採用なんてものに連れて行かれることか?

枚挙に暇がないな。そして、俺の人生経験から言わせてもらうと、文句を言ったところで覆らないという諦念も持っていた。

「それで、何日間だ?」

とりあえず、どれだけ結衣に会えないのかが最優先確認事項だ。

「切り替え早いな。多分、大きく分けて二回行くことになると思う。最初がまぁ一週間もかからない。けど二回目がこの前も言ったように各大学を周って行くから20日間は軽くかかると思う」

「げ、マジか」

「さようでございます」

急に無駄に畏まった芦間をよそに頭を抱えた。そんなにも長い期間結衣に会えなくなってしまうことになるとは夢にも思っていなかった。まさに青天の霹靂と言わざるを得ない。結婚して以来、10日以上も離れ離れになってしまうことなど一度も無かった。学生時代はインターンや授業の兼ね合いで一月も会えなくなってしまうということは珍しくはなかった。だが、それも今の俺からしてみればだいぶ昔の話だ。現在、見事なまでに嫁離れが困難な体質になってしまっている。

「二回目の内容は分かったが、一回目はどこに何をしに行くんだ?」

「あぁ、一回目ね。前にちょこっとだけ触れた話題になるんだけどさ。二回目がボスキャリっていう超大きなイベントじゃん?一回目はそれよりも小さめな就活イベントになるんだけど、ロスキャリってのがあるのよ。それにいくことになってる」

結局、太平洋を超えて向こう岸まで行かなくてはならんのか。長旅になるな。これも嫁離れを治すための荒療治と考えて乗り切るしか無さそうだ。ホームシックに拍車が掛かるだけになりそうだけど。

「ロスってことはロサンゼルスか」

「ピンポーン!俺が大学時代に居た場所だな」

「それは初耳だ」

「あれ?言ってなかった?」

「お前の大学時代の話はそこまで聞いたことがないぞ」

「そうだっけか。俺ハリウッドの近くにいたのよ。まぁ別に隠しているわけでもないから、気になることあったら全然質問してくれても問題ないよ〜ん」

と言われてもお前の大学時代の話なんてものにはそこまで大した興味は無いのだが。もし聞いたとしても、内容ちんぷんかんぷんだろうし。だが、仕事の関係上ある程度は聞かなければ話が進まない。今回の仕事内容はただ単純に別の地に出向いて人事採用を行うというそう単純な話でもないのは、断片的とはいえ、一昨日聞かされていたしな。

「つーわけで、一回目も二回目も結局俺は何をしたら良いんだ?俺だと、面接官も務まらないし」

まずそれを知らないと準備のしようがない。

「基本的に事務作業とかだな。面接中は智佐吹さんも身動き取れないから。あと、こっちの本社との連絡係とかもやってもらうかも」

芦間が滔々と答える。

「あいよ。大学生の話相手にもなってくれなんて言われたら、流石に二の足を踏んだわ」

今時の大学生と会話が合わせられる自信が誠に申し訳ないが全く無い。自分が大学生だった頃。前に触れたことがあるが、それなりに交流はするようになったものの、当然人は選んでいた。流石に、無作為に選ばれた人間と一定時間、会話をもたせてくれなんて事を言われてそつなくこなすことが出来る者は稀有だろう。そんな役回りをこちらに持ってこようものならそれは人選ミスと言わざるを得ない。最悪の采配だ。

 

 

「あ、大学に行く時に企業説明会もやるから話相手もやってもらうことになるぞ」

おい。

「面接はもちろんのことだけど、こういうイベントって企業説明会だけ聴きに来る生徒も多くてさ。その後に会場で会社の雰囲気や社員の様子を観察しようって考えで先を見据えて就活の年の前から若い子たちの姿が結構見られんだよ。智佐吹さんたちが面接やってる間は俺やお前が面接受けてない生徒との会話をもたせる役目な」

「さいですか…」

芦間はご愁傷様ですと言わんばかりの表情をこちらに見せている。こいつ、明らかに俺の反応を見て楽しんでいるだろ。

「まぁあと、智佐吹さんや人事の島田さんだけじゃなくて、おそらくは比企谷も面接やるかもしれない。お前、結構人を見る目あるからな」

俺が面接官?それこそ、寝耳に水だ。人事の手腕を疑うぞ。

「俺が面接をやろうものなら、相当に偏った奴を採用することになると思うが」

ニヒルで現実的。それでいて、大勢とつるまない日陰のような生活を送ってきた人物。俺が欲しいのはそういう人材だ。それか戸塚。

「別にそれでも良いんじゃね?まぁ、最終面接のパートナー面接とかは流石に上のお偉いさんがやるだろうし、比企谷の好みが完全が反映されるなんてことはないと思うけどな」

芦間はケタケタと笑いながら、タイピングを続けていた。当初予想していた反応とは違ったが、乗ってこられても面倒なのでそれでよしとする。

「また、件の女子大生か?」

芦間は指の動きを止めると、こちらに顔を向ける。相変わらず憎らしいほどに均斉の取れた顔だ。総武高校時代にいた、みんなの人気者を思い出させる。俺の最も苦手なタイプの一人だろう。それなのにもかかわらず、事ある毎にこいつとつるんでいるのは自分でも不思議だった。

「そうやで。今時の学生って感じは全く無いくらいしっかりした子だよ。俺の方が畏まっちゃっているし」

「へぇ、そんなやつがいるのか」

こいつが人を褒めるところをあまり見たことがないので贔屓目なしにその女子生徒は優秀なのだろう。興味本位だが、一度お目にかかりたいものだ。何度も言うが別に他意は無い。

「その子、今度ロスキャリで内のブースに挨拶来るみたいだぞ。俺も会うのが楽しみだよ」

「そうか」

留意しておこうと思ったが、一週間もすれば記憶の隅に追いやられてしまうのだろうな。いつだって人に興味を持つのは一瞬だ。超過した自意識は身を滅ぼすだけという結末が待つ。それ以外は無い。

「って、そういや俺の好みってなんだよ・・・」

「なんか話が遡ったなぁ」

芦間が目を細めていた。が、直ぐに顔をもとに戻すとキーボードを叩きながらものぐさに口を開いた。

「比企谷好みの女性社員」

「ほう、お前に俺のタイプが分かると?」

珍しく挑戦的だな、お前。と芦間に怪訝な顔をされた。昨日の件もあってちょっと気が立っているのかもしれない。

 

 

 

「そうだなぁ・・・。多分、お淑やかな見た目に反して、毒を比企谷に対してよく吐くんだけど心の底ではお前に依存しているみたいな綺麗系の黒髪ロング」

 

 

用意していたのかどうか分からないが、驚くほど流麗な回答だった。

「というか結構詳細だな」

「ふふふ。俺は意外とこういう事に関しては類稀なる慧眼を持っているのだよ」

「いや、一個も当てはまっていないぞ」

「あれ?お前の奥さんのイメージって黒髪美人の静かな人だったんだけど」

芦間はシンジラレナーイといった表情だった。言うならばリンゴが大好きな雷の神が自分の電撃が効かない人間が居ると知った時のように。あそこまで目を大きく見開いているといえば大袈裟か。

芦間がどうしてそのような女性像を思い浮かべたのかは深く掘り下げてみたく感じた。しかし、それは自分に刃が返ってきそうで出来なかった。こいつがたった今、口にした女性のイメージに思い当たる女性が一人俺の頭の中に鮮明に浮かんでしまったからだ。

「俺の嫁は物静かと称するよりかは、明らかに天真爛漫を地で行くタイプの人間だ。それに、髪の色の黒じゃないしな。どちらかといえば見た目は完全にギャルっぽいかもしれない」

自分に言い聞かせるように言葉を紡いだ。嫌な汗が頬に伝わるのが分かる。

「ほぇ〜、そりゃあ意外・・・ってわけでもないなぁ。正味、さっき言った黒髪美人じゃなければ、今比企谷が教えてくれた女性のイメージだったから」

本当かよと思いたくなるような口ぶりだが、先程の恐ろしいまでの洞察力や感性を目の当たりにした今は、仄暗く現実味を帯びて首元に押し寄せてくる。

「芦間からして、俺に合う女性は最初に言っていた人みたいな印象だったのか」

「ん?まぁそうだなぁ。比企谷は元気女子とか毛嫌いするって勝手に思ってたわ」

それに関しては当たらずとも遠からずではある。結局の所、こういった話ケースバイケースという結論に落ち着く。別に、割と早い頃から一色や結衣のことは好意的に見ていたこともあるし。まぁ戸部みたいなのは無理。

 

 

 

「ちぇ。予想外したの初めてだわ。俺も勘が鈍ったのかなぁ」

芦間はふてくされたように乱暴にキーボードに打ち込んだ。まぁ、予想なんてそんなものだろう。最近の天気予報は物凄い精度で当たるけれども。

 

 

「おはようございます。比企谷さん」

「おーそうそう。まさに、こんな感じの黒髪美女がお前の好みだろ?・・・って。うん???」

「なんだ、どうした芦・・・・・・」

 

は?

 

見覚えのある艶味のかかった長い髪。モデルのような容姿から醸し出される知性。

すごく馴染みのある女性だ。

 

いや、そういうことじゃなくて…

 

「あら、挨拶も出来ないのですか。社会人になって随分と結構なご身分(ゴミ分)になったのね。比企谷さん」

 

 

彼女は誰もが見とれてしまうような笑顔で王水を傷口に塗り込んだ。

開いた口が塞がらない。

普段であれば、彼女のささやかな挨拶代わりの一撃をいなして、返すことなど容易いものだ。ところが、予期していないものだから無防備に顎に一発喰らったに等しい。

寝覚めの一杯としてはあまりにも苛烈を極める。

眼の前には、お淑やかで、時に毒を吐く黒髪美女・・・雪ノ下雪乃が居た。

 

 

続く

 




ゆきのん書いている時はやっぱり一番楽しいですね笑
もうすぐ夏コミ。まだカタログ買ってません()
因みに、私はアナログ派で重い冊子を何周も見つつ、気になったサークルのマーカー引くのが好きです。

次話分も既に9割作り終えていますが、投稿のめどは二週間を予定しております。

ではまた次回もよろしくおねがいします!!^^
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