※この作品はR-18です。

雪の楽園   作:ホネ

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ご無沙汰しております。
連続で読んでくださっている方はありがとうございますm(_ _)m



今回含めて三話は一週間間隔で投稿をしようと考えています。
なので今回はちょっと短めです。
それでは十六話です、よろしくおねがいします!

※後書きが今回長いです。私から読者の方への質問もあるので最後の部分だけでも見ていただければ幸いです(_ _)



第十六話

帰宅した時には深夜の12時を回っていた。

玄関の出迎えはなく、家の中は人の気配を感じさせないような静寂だ。結衣からは帰宅途中に『ごめん、今日は先に寝るね』とLINEが来ていた。そういえば、今朝、彼女が久しぶりに三浦や海老名さんといった総武高校時代の友人達に会うと言っていたような。その疲れからか今日は寝てしまったのだろう。まぁあのメンツならこうなるのも無理はないな。

結衣は随分と幸せそうに眠りについていた。子供が出来たらこんな感じに眠り顔を見守ることが出来るのだろうか。それも悪くない。

 

冷蔵庫の中に今日の夕食がラップを掛けて置かれていた。それをそのまま電子レンジの中に入れると『あたためスタート』のボタンを押した。昨今の電子レンジであればレシピごとに加熱方式をボタンで設定できる程に技術が発達しているが、疲れからかわざわざ時間を弄してまでその作業をする気力が無かった。

携帯の画面を確認したが、着信や、ショートメッセージの類の受信の通知は来ていなかった。今日渡したばかりでいきなり連絡が来るはずもないのに何を期待しているのだろうか俺は。

自分が逆の立場だったらと仮定して考えてもみろ。うん、絶対送らないわ。はい完。

 

最近はこういう一人の時にやたら今日の一日を振り返ることが多くなってきた。それも当然か。まるで漫画の超展開のように毎日がハプニング続きだ。寝る前に事前整理でもしていなければ脳のキャパシティを余裕で超えてしまう。

正直、昨日今日再会したばかりで雪ノ下がいきなり会社にやって来たことは本当に想定外だった。この数日間で一体、どれだけの寿命が縮んだことだろうか。健康に良くない。医者が休養を勧めるに違いない。そう、俺は休みたい。あわよくば労災で生活したい。

 

馬鹿につける気付け薬のようなレンジの完了音が鳴った。鍋つかみもつけずに皿を取り出すと、結衣が寝ているので机の上に静かに置く。

静謐の中で食事を取りながら、一色との会話を思い出していた。当然だが、雪ノ下の登場によって一言物申したい気分であることは昼食の前からとっくに予想はついていた。

 

仕事終わりに会った彼女の様子は予想していたものよりも、遥かに冷静にして狂気だった。

 

いや、言葉で表現することすら、彼女の感情に限界を創造してしまうことのように思える。

 

 

 

…。

仕事が終わって、一色との待ち合わせ場所にすぐに向かった。智佐吹さんが仕事のヘルプをお願いしてきたような声が後ろからしたが、今日はこれ以上残業する気分にもならなかったので捕まる前にそそくさと退散した。オフィスを出る直前に彼女の恨めしい声が伸びてきたが、それは気のせいだ。とはいえ、無視は今後の人間関係に関わるので、『今度何か、別の形で返すので許してください』とだけ、返しておいた。その言葉を聞いて驚くほど、溜飲を下げた上司の顔が今でも忘れられない。それになんだか、気味の悪いゲス笑いをしていたような。というか、サービス残業一ヶ月40時間ノルマで各々が自由に消化すればいいって決まりじゃなかったか?俺はもうその条件はクリアしているのだから、今月に関しては何の問題も無いはずだ。

 

『あ、先輩。お疲れ様です!!』

『おつかれ。悪い、待たせた』

『今日もお仕事長かったですね。二時間以上も待っちゃいました』

『へいへい。悪かったな』

『別に大丈夫ですよ。このあと特に予定も無いですし』

一色は会社のビルから一駅離れたカフェで待っていた。流石に、ビルの入口で待つのは色々とお互いに支障をきたすという配慮からだ。待っていたと言うわりには机の上には本や紅茶がおいてあり、周りの雰囲気も静かなので、有意義に過ごしていたんじゃないかとも思う。急ぎ気味で来る必要も無かったんじゃ。

『それで、話ってのは何だ?』

『もう。先輩って本当に要件人間ですよね。少しぐらい、ムードとか女の子の気持ちとか意識して欲しいです』

『相談って聞いて来たのにそんなことまで配慮しないといけないのか…』

『むぅ〜。それはご尤もなんですけど。なんか、こう。ね。…まぁ良いです。先輩ですし』

『え、もう呆れられてんの?俺』

『え、今更ですか?』

『よし、帰る』

『あああああ!ちょっと待ってくださいよ〜!!本当に大事な話があるんですから!』

『おいおい、やめんか。分かった!分かったから!!』

一色はしがみついてきた。もう大人なんだからそんなみっともない姿を公然に晒すのはハチマンどうかと思うんですよ!?それよか、同じグループに括られるこっちの身にもなって欲しい。仕事も終わって、日もすっかり落ちたというのに嫌な汗をかいてしまった。

落ち着くためにもまずは着席しよう。

俺と一色は向かい合うようにして席に着いた。一色は机の上に肘を乗せながら顔をこちら側に乗り出している。お前は女子高生か。

店員がドリンクのメニューを持ってきた。とりあえず最初に目に入ったカフェオレを注文する。

しばらくは一色の会社での愚痴や、最近の流行り物の話など、取り留めのない会話をしていた。こうして一色と二人で話すのは久しぶりなのかもしれない。大学に居た頃は二人でよく話していたはずなのに、覚えたのは懐かしさではなく新鮮さだった。

だが、一色と間に広がる沈黙は決して不快感を感じさせるものではなかった。深層心理では大分俺は一色に心を許しているのだろうと思う。こういう時に得てして、本当の人間関係の距離というものが分かったりするものだ。初めて一色に会った時の俺であればこいつと気の置けない仲になっているなんて夢にも思わないことだろう。現在の俺ですら、半信半疑なのだから。

『それにしても…』

一色が口を開く。先程の女の子らしい姿勢とは真逆とも言える、完全に机に身体を預けた状態で話を続けていた。俺が高校の先生であれば寝ていると思って注意したな。

『雪ノ下先輩に朝から会うなんて心臓に悪すぎですよ』

『俺もだ。まさか、会社に来るとは思わなかったわ』

『”会社に”…ですか。その口ぶりからして、やっぱり先輩は今日以前にも雪ノ下先輩に会ったことがあるんですね?』

一色が咎めるような口調になる。自分に伝えていなかったことに腹を立てているのだろうか。カップの呑口を指で何度もなぞりながらこちらを見ていた。

『言うタイミングが無かっただけだ。俺だって雪ノ下に久しぶりに会ったのは昨日のことだからな』

『それって、出向先が雪ノ下先輩の会社だったってことですよね?』

『ああ。待ち合わせ場所で待っていたら、いきなり雪ノ下が現れて固まった』

『なんか運命の再会みたいでちょっと癪です…』

『実際に雪ノ下と再会した時は運命というよりは、何か自分が誰かの筋書きの上で操られているような感覚に襲われたんだけどな』

いじける一色をフォローするように付け加えておいた。とはいえこれは真っ赤な嘘というわけでもなく雪ノ下の会社から家に戻ってきた時に思ったことだった。

『それは、なんとなく分かりますね。うーん、陽乃さんの差金…かなぁ?』

一色は不安そうな表情でこちらを見る。

『まぁあの人は間違いなくこの件に絡んでいるだろ。雪ノ下さんが会社にやって来たすぐ翌日の出来事だからな。そう考えないほうが不自然なくらいだ。ただ……』

『ただ?』

『………いや、なんでもない』

頭の中をよぎった考えを今一度反芻し、口に出さずにおく。

 

一色に雪ノ下さんの話題を出された時、俺は一連の流れを最初から振り返っていた。

雪ノ下さんが会社に来る。そしてそこから、あまりにも整然とセッティングされた俺と雪ノ下の再会。勿論、雪ノ下さんであればこの程度の裏工作は造作も無いだろう。どうやったかというのは話の肝でもないし、考えてもどうしようもないか。

 

俺が一番、疑問に思ったのはそこではなくそもそもの話だ。

 

何故、雪ノ下さんは今、このタイミングで現れたのだろうか?

 

それを紐解くために、別の切り口から考えてみる。彼女の目的は十中八九、俺と雪ノ下をもう一度引き合わせることだ。俺と雪ノ下が直接関わりを持つようになってから、露骨にこちらに連絡を取らなくなったことが証拠だろう。そこでさらなる疑問だ。

 

そして何故俺と雪ノ下が会うことにならなければならなかったのか。

雪ノ下の会社がなにかトラブルに見舞われたわけでもない。彼女の様子を見る限り、極限まで切羽詰った状況というわけでもなさそうだった。

とどのつまり、仕事やプライベートでの不満や溝があれど、今このタイミングで俺と雪ノ下を引き合わせるほどのきっかけが今の雪ノ下にあるとはとても思えなかった。

言わずもがな、かつての奉仕部の溝という根本的な問題は前提としてあったとしても、どうして今なのだろうか。雪ノ下さんの気まぐれというのは稚拙な推理に感じる。

 

だとしたら?

 

俺は黒幕は“雪ノ下さんではない別の誰かなのではないか”、そう考えている。そして、その人物の正体は間違いなく、雪ノ下さんや俺たち総武高校の面々、いや少なくとも俺と雪ノ下の両方と縁がある。

 

つまり、この条件に一色は当てはまるのだ。

俺が口に出すのを躊躇したのはこの一連の流れを作った人物の正体が誰か分かるまでは下手に情報をもらすことは得策でないと考えたからだった。言い方は悪いが、一色は容疑者の一人である。まぁ、こいつの表情を見る限り、限りなくシロに近い反応ではあるが。念には念をだ。

『まぁ、いいですよ。先輩が隠し事をするのは今に始まったことじゃないですし』

『ふん。人間、歳重ねれば隠し事も重ねるものだ。お前だって俺に知られたくないことの一つや二つあるだろ?』

『屁理屈ですね』

一色の一顰一笑が見て取れる。それはお互い様か。それを楽しんでいるのか一色は、足をぱたぱたとさせて、こちらをじっと見ている。

『あぁ全くもってその通りだ。詭弁を弄するのが大人だ』

『じゃあ先輩は高校の時から大人だったんですね』

『当たり前だろ?あんなに世の中の真理を鋭く見抜いた洞察力の持ち主が大人でないとどうして言えようか』

『うわ。そこまで強情だと流石に引きますよ』

『…悪かったって』

バツが悪くなったのでカフェオレを飲もうとしたが、カップの中身が既に空だった。仕方なく、入店して時に、店員が持ってきた水を少々口に含んだ。随分とぬるい。元々このくらいの温度なのか、店についてから随分と経ったからなのか、分からない。落ち着いて周りを見渡すと客は俺たち意外にはノマドワーカーか、社畜のサラリーマンのオフィス外労働か分からないがスーツを来た30代らしき男性が、喫煙室の奥に座っているだけだった。気がつけばかなりの時間が経過していたらしい。腕時計を見ると既に二時間以上経っている。

『一色、お前終電大丈夫なのか?』

『そうですね〜。あと10分以内にここを出たほうが良いかもしれません』

その割には随分と呑気に見える。携帯や、腕時計を見る素振りすら今の今まで一度もない。こいつ、帰る気ないな…。荷物をよく見たら、オフィスレディにしては大荷物だし、泊まる気満々といったところか。

『ほれ、行くぞ』

こいつのペースに巻き込まれる前に伝票を持って退散しようとした時だった。

 

 

不意に一色が俺のスーツの胸元を掴むと一気に自分の顔に引き寄せた。

そのまま俺の唇は抵抗の余地も与えられぬままに彼女に奪われてしまった。

一色は接吻をしたまま手を俺の両頬に添えるようにして、俺が離そうとすれば逃さないように固定した。

体中の血液が沸騰するような感覚と急激に凍りつくような感覚が同時に攻め上げてきた。

彼女の舌が口の中に侵入してきた。ねっとりとした唾液に覆われたその舌は俺の舌を逃すまいと執拗に絡みつき、快楽を貪る。

結衣だけが許された俺にとっての聖域の一つが一色いろはという一人の女性によって侵されている。甘美な享楽が喉の奥まで突き抜けている。

こいつは一体何を考えているんだ。

人前だとか、公然の店の中でなんというモラルの話なんてことではない。

口内が彼女の柔らかい舌に尽く蹂躙され思考を奪われていく。

快感に囚われそうになる瞬間に一色は焦らすかのように顔を離し、伝票を持ってレジへと足を向けた。

そして、途中でこちらをチラと見て、妖艶な微笑みを見せつける。てらてらと怪しく光った唇が視覚までも犯した。

『今日はありがとうございました。ここは、私が払いますから』

紅潮した一色の表情は10年程の付き合いがある俺が初めて見るような可憐で扇状的なものだった。

気がつけば、バイトであろう女性店員がこれは良いものを見たと言わんばかりに興味津々な目でこちらを見ている。その視線で我に返った俺は乱暴に荷物を掴むと、その場からに逃げるように退出した。

 

 

続く

 




なんやかんや投稿始めてから五ヶ月が経過しました。モチベーションを落とさずに毎日最低でも一行は書くつもりでパソコンを開くというルールを守るようにしてから、まさか自分でもここまで続くとは思いもよりませんでした。沢山の読者の方に読まれているというのが本当に飽きっぽい自分のモチベーションになっております。
本当にありがとうございます。


投稿前書きにも書きましたが、次回から二話ほどは一週間間隔で投稿をする予定です。
既に話の方は書き上がっているので問題なく投稿できると思います。



さて、気になったのですが、投稿間隔について。
一週間とかの方がいいのかなぁと思いました。自分が仕事に向かう途中の電車の中で投稿を確認していたりしたのですが、一万字はちょこっと読むにしては長いような気もしました。

5000字とかで細かく区切りながら一週間投稿とかのほうが良いのかも…(汗)

基本的には場面で区切るようにしているのでどうしても同じ場面での会話シーンが長く続くとそれが終わるまでは同じ話として投稿するようにしていました。なので次回からちょっと試験的に本当は同じ話として投稿するつもりだったものを分けて投稿してみます。(そこまで、ぶつ切りにはしていないので問題ないかと)

また、場面が切り替わるがチャートとしては同じセクションに入るといった時は話を分けるものの、投稿期間を早めるように工夫するのでご理解いただければ幸いです。

長くなりましたが、一言で言うと、次回の投稿は一週間後になります。
今回も読んでくださってありがとうございます!
それでは次回もまた、よろしくお願いしますm(__)m
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