その間にとりあえず、書き溜めることも出来たので投稿間隔も少しずつですが、短くしようかなと思います^^
今回も留美編です。
次回からまた本編に戻る予定なのでよろしくおねがいします。
授業が終わると留美は足早に図書館に向かった。図書館は学内に複数点在しているが、一番大きなものはキャンパスの中央に位置しており、見た目は聖堂や美術館を彷彿とさせる荘厳な佇まいだ。作りはレンガで地上三階、地下一階の四階建てで建築されている。この大学は学部ごとに細かく棟が別れているため授業ごとの移動が基本的に激しい。留美は学内への他の建物へのアクセスがしやすいことからいつもここで勉強をしている。
出る寸前のところで、クラスメイトらしき男性から一緒に勉強しないかと誘われたが、相手に食い下がる余地も与えず、無慈悲に断った。こういったことが頻繁に起こるので留美は辟易していた。勿論、一人だけで膨大な量の宿題と、難解なテストを乗り切ることは不可能に近いので、レイチェルや他の中の良い友人たちに協力を依頼することはままあるが、これ以上の助けは必要なかった。
「あ、留美先輩、お疲れ様っす!」
「うん。お疲れ様、クロ」
図書館でばったり会ったのは、同じ日本人会で理事をやっている後輩だった。後輩とはいえ、彼は幼少期に両親の都合で渡米し、そのままアメリカで育った日本人なので、アメリカ生活においては留美にとってはかなり上の先輩になる。にもかかわらず非常に流暢な日本語を話すので、正直、初見ではアメリカ育ちであることを留美が疑ったほどだった。
「XXXX社からメール来たよ」
「早いっすね。それで、なんて言ってました?」
クロは耳に付けていた大きな黒いヘッドホンを外した。ヘッドホンからはかすかに日本のアニメ主題歌らしき音楽が漏れ出ている。留美はそのジャンルには疎かったが、かつて留美が仲良くしていた男が好きだった曲に似ているような気がした。
留美は携帯電話のメモに残しておいた情報を開き、そのままクロに伝えた。
髪をかきあげながら画面を見る彼女の姿に道行く学生たちが見惚れていた。留美本人は知らないが、彼女はかなりの有名人である。
「当初の予定通りで構わない」
「了解っす。因みに面接の方はどうでしたっけ?」
「面接官は最大で三人。図書館の勉強個室を三部屋用意してほしいって」
「なるほど。それなら、三人で一部屋ずつ部屋を予約すればいいですか?」
「ううん。面接は全部で四時間って言ってたから六人必要」
「げ、マジですか。あの部屋って一人最大三時間までの予約でしたよね?三時間プラス一時間だからあと三人必要じゃ…」
「うん、だから他の人に協力してもらわないといけない。面倒」
「その協力してくれる人を集めるの、俺なんですけどね」
クロがメモを取る。一応、彼がキャリア部門の情報をまとめる役を担っていた。留美などの直接連絡を取る実行部隊は契約先の企業との連絡の内容を纏めてクロに伝達するようにしている。
「あとは、私がイベントページを作って、先方さんからリンクや、企業説明文をもらうだけかな。私が担当している他の二社に関してはもう全部準備が終わってる」
「流石留美さん。準備が滅茶苦茶早いですね。他のメンバーはまだやっとメールのやり取り始めた段階だっていうのに」
クロが感心したように頷いた。彼に時間をくれてやればすぐにでも他の理事の愚痴を際限無くこぼしそうな面持ちだ。
「連絡のタイミングも企業に依るだから仕方ない。偶然、私が担当した企業のアポイントが早かっただけ」
留美は後輩のヨイショにも相変わらず塩対応だった。対して、クロも彼女の反応の薄さに鼻白むといった様子も無い。留美であればこう返すだろうと予想がついていたからかもしれない。そう思えたからか、逆に留美のほうが拗ねている表情だ。
「それもあるけどやっぱり、先輩は本当に仕事早いですよ。どうやったそんなに上手くマネジメント出来るのか疑問でならないっす」
「褒めても何も出ないよ」
「もし自分が期待しているならもっと露骨に媚び売りますし、それが通用する相手にしかやらないですよ」
クロは悪巧みをするように含み笑いをしながら、携帯のメモに進捗のログを取っていた。その様子を見て、留美は先程までの自分の苛立ちっぷりに我ながら呆れてしまっていた。
「あとで、自分の方でスプレッドシートにも書いておきますね」
「うん、ありがとう」
「いえいえ。それで、今日のミーティングには来ます?」
「ミーティング…そっか。今日だったね」
クロに言われてようやく留美は今日ミーティングがあることを思い出した。本来であれば、理事であれば絶対参加の会議ではあるのだが、留美は正直乗り気ではなかった。
「…でどうします?別にキャリアのメンバーはそこまで、出なくてもいいとは思いますけど」
「うん。今日はやめとく。会長に会いたくないから」
留美の含みがありそうな物言いにクロは怪訝な顔をした。
「会長となんかあったんすか?」
留美はしばらく押し黙ってから返答した。
「……口説かれた」
「うわ、なんて怖いもの知らずな」
「何か言った?」
留美の顔から一瞬で表情が消えた。クロは眉間に拳銃を突きつけられたかのような恐怖に両手を上げて降参の姿勢を見せた。
「いいえ。何でもないっすよ。というか、会長ってこの前、うちの団体の子と別れたばっかりでしたよね?もう次を探し初めてるんすか?」
クロの言う通り、日本人会の会長はつい先日三ヶ月付き合っていた日本人の彼女と破局したばかりだった。噂とは本当に足が速い。ましてや、海外の大学の日本人学生コミュニティともなれば規模もそれなりにたかが知れているので色恋沙汰のタレコミなど一瞬で広まってしまうのだった。
「ううん。その子と別れる前から口説かれてた」
「クズじゃねーか・・・」
「うん。付き合ってた子と私、よく話す仲だから、彼女に会長が浮気しているかもって相談受けながら、彼に口説かれてた。なんか会長曰く私と付き合うために周りの女の子から近づく戦略を取ったらしい」
留美は淡々と事実を述べた。その様子は逆に狂気とも言えるほどに冷静に見える。
「え、何その昼ドラ」
「私が彼のこと嫌いなんだからドロドロにはなってない」
「まぁ、そうっすね。クソッタレの会長サマは勝率ゼロじゃないですか。うーわ、めんどくせー…」
クロはおそらく自分に火の粉が大量に飛んでくることを案じているのだろう。流石の留美もそこには同情していた。
「クロに相談来るかもね。私とデートするにはどうしたらいい?って」
「俺は別にそこまで会長と親しくもないですよ。多分、会計やってるキタさんにその案件が行くと思います」
「ううん、クロに相談が来るのはクロが私とよく話しているから。あと、会計はそんな話が来ても絶対に取り合わない」
「自分も容易に想像がつきますね。その後、飄々とした顔でジムに向かってそうだ。おそらく今日は背中鍛えてますね。というか、今日はそっちの方に俺誘われるかも」
「それを口実に逃げるといいよ」
「そうっすね。そうしますわ」
クロは大きくため息を付いた。留美は彼の服装をまじまじと見つめた。黒いTシャツに半パンというかなりラフなスタイルだった。寝癖を直していないままで校内を歩く姿はとても大学生には見えない。しかし、非常に頭の切れる男で留美が一定の信頼を置く数少ない異性の一人だった。
「とりあえず、ほとぼり冷めるまでは留美さん来ないほうが良いかもですね。留美さんモテるから、表面化していないだけで会長以外にも結構な人数、留美さんのこと狙ってると思いますよ」
「興味無い」
留美はまるで歯牙にもかけないといった面持ちだった。普段からどんな人に対しても基本的に最初はこの話し方なので、彼女の人となりを知らない者からしてみれば非常に取っ掛かりが見つかりづらい女性という第一印象だろう。それ故に、彼女の性格を理解しているクロのような周りの人間は留美のフォローに振り回されることが多い。
「興味無いっすか。まぁ、そうでしょうね。というか、留美さんって心に決めた人がいるって感じしますし」
「…っ!そんなことはない」
不意の爆弾発言だったので留美はひどく取り乱してしまった。これではいくら人の機微が全く分からない素人相手でもバレバレである。言った張本人のクロですらも呆れ顔だった。
「留美さん、嘘下手なんですから無理にクールぶらなくても……」
「クロ、うるさい」
「なんで急に小学生の反論みたいになってるの!?って俺もう授業あるんで行きますよ。ミーティングの内容結果は俺がまた纏めて、夜にグルチャに上げときます。会長の件は先輩の方で何とかしといてくださいよ〜!」
「うん、宜しく。その件は私がなんとかする」
クロは足早に次の授業場所へと向かった。背中に背負っている大きなバックパックが上下に激しく揺れていた。
クロを見送った留美は自習用の机がある場所へ向かい、空席を探した。程なくして窓隣の一人席を確保することに成功した。大きなガラスを右手に、留美は机にノートや教科書などの自習用具を広げていった。
留美は窓の外に目をやった。
「…日本か」
留美は高校を卒業してからそのまま海外の大学へ進学した。長い休みに入れば帰国はしていたものの、もうかれこれ三年近くはアメリカを拠点に生活していることになる。
留美は思い出したかのように携帯を取り出して、先程までメールのやり取りをしていた企業のホームページを開いてみた。業種は会計とコンサルティング。留美の専攻にはそれなりに合致している。
彼女の記憶にはふと思い出す影があった。
小学校の時に誰からも受け入れてもらえなかった自分を悪役を演じながら助けてくれた、冴えない高校生。
別段多く言葉を交わしたわけではない。これといって二人で何か特別なイベントが有ったわけでもない。それなのに、不意に彼の影が彼女の人生に絡みつくような気分になる時がある。
「………」
窓の外では木枯しのような強い風が吹いていた。なびく木々の擦れる音と雲一つ無い茫漠とした青空が彼女の虚ろな心を映し出しているようだった。留美の居る地域は年中乾燥しているためこういった風が吹くのは珍しくもない。ただ、日本人の感覚からしてみれば、今はようやく夏の終わりだというのに随分と季節外れな風だった。
留美はパソコンを取り出すと、慣れた手付きで大学のサーバーに接続した。そこから午前中に自分が受けた教授のアカウントに移動し、今日の授業のスライドをダウンロードした。
画面に100ページを超える超大作のスライドが現れる。スライドが配布されるのであればノートを取らなくても良かったのではないか。留美はひどく後悔した。
留美は自分の意識を戻した。
いつものことだった。
彼を想ったところで連絡の方法も無ければその宛も無かった。
恋というものでもなければ友情というわけでもない。
だが、彼女の中に確かに存在した大切な繋がりだった。
彼が自分の事をどう思っていようが、どうにも思っていまいが、この繋がりは留美にとってかけがえのない特別な絆だ。
そして、もうまもなく彼と彼女が再び相見えることになろうとは彼女には知る由もない。
続く
ルミルミ編でした。思った以上に長くなりました。
先の話にはなりますが、留美は出張編ではメインヒロインになるので、しっかりと書いていきたいと思っていました。成長した留美と八幡がイチャコラするシリーズがSSであまり見つからなかったのでじゃあ自分が書いてhshsしようという魂胆で書きました。
メインヒロインは雪乃であることに変わりはないのですが、他のヒロインにどれくらいのスポットライトを当てるのかは実はほとんど決めないで書き始めてしまったので、このまま流れに任せて書いてみようと思います。
ゆきのんといつエッチするのか…。すいません、この話の先現在35000字位は書いてあるのですが、全然先です。(実はもう現時点で10万字オーバーなのにどんだけ長くなるんだろこの作品…)
仕込みが終われば、H三昧の浮気編になるのでそれまで自分も悶々とさせながら、雪乃とのプレイは妄想しておきます。勿論他のキャラとのHシーンもですね。
18禁のシーンではもう完全に自分の性欲をぶつけるだけの話になると思うのでご了承下さい()
次回はまた八幡視点に戻ります。
今回はこの辺で。こんな後書きまで読んでくださった皆様ありがとうございました!
次回もまたよろしくおねがいしますm(__)m