.5話とか書くのであれば絶対アラビア数字の方が良かった()
それはさておき、今回からまた八幡視点です。
よろしくおねがいしますm(__)m
-Side Hachiman-
会社と出向先とを行き来する生活をするようになってから既に一ヶ月が経過していた。
一月も経過すれば流石に出向先でも多少なりともスムーズにやり取りを行うことが出来るようになっていた。
とは言うものの、俺と雪ノ下はここ最近は仕事上での会話しかなく、それ以外には特にこれと言った会話も無かった。雪ノ下は新しいプロジェクトを抱えたらしく、俺の方にまで手が回っていないのが見て取れた。元より、彼女の手助けも必要では無いわけで俺が一人でなんとか出来る仕事ではあるのだが。
そんなわけで、俺は雪ノ下と同じ職場に居ながら全くと言っていいほどに赤の他人状態となっている。
しかしながら、会社に居るのは雪ノ下だけではない。
「比企谷さん、今日仕事終わったら、皆で飲みに行くんですけど良かったら一緒に行きませんか?」
「今日の夜ですか?」
雪ノ下とは疎遠なものの、こうして出向先の社員からも割と気軽に誘ってもらえるほどには仲良くなっていた。既に何回かはこういった集会に参加している。雪ノ下は当然居ないが、それでも出向先の人間とのコミュニケーションは大事だ。仕事の九割は人間関係だと思え。ある本で読んだ言葉だ。
とはいえ、今日はまっすぐ帰ろうかと思っていたのだが。なんとも断りづらい。
「実は雪ノ下さんも来るんですよ」
あまり乗り気でないことを言いづらそうにしている俺を見てか、ここだというタイミングで相手の女性はジョーカーを切り出してきた。何という策士。俺からしてみれば、諸葛孔明が『今です!』って言ってるのが幻聴で聴こえたくらいだ。幹事であろう女性はそこまでの効果は無いだろうという前提で言っただろうが、お見事だ。俺には効果覿面。これ以上無い甘言だ。
「お、おう。ま、まぁ今日の夜は特に予定も無いから行きます」
さっきまでまっすぐ帰ろうとか言ってたじゃないかって?馬鹿野郎。俺は言ってない。ちょっと頭をよぎっただけだ。だからセーフ。
「ホントですか〜!?良かったぁ〜!OLの子たちから比企谷さん絶対に誘ってねって言われてたから断られたらどうしようかと…」
なんというか、うん。幹事さん、ご愁傷様です。
女性コミュニティも大変だなと思った。男にはわからないギブ&テイクと権力や数の暴力による搾取が行われているのだろう。後半は俺の勝手な想像なのであしからず。
「それよりも、そんな皆、一気にあがってしまって大丈夫なのでしょうか?」
「はい!大丈夫ですよ。先週で繁忙期は終了したので寧ろ、行くなら今!って雰囲気なんですよね」
そうだったのか。言われてみれば先週の稼働量に比べれば、今日のオフィスは幾分か落ち着いているように思える。
「よし、比企谷先輩のOKは貰えたからあと一人かな」
メモ帳を開きながら幹事さんが確認を行っている。どうやら俺は最後の方に誘われたっぽいな。
「それじゃ、今から雪ノ下さんを誘ってきますね!」
そう言うと意気揚々と幹事さんは席を立った。
……。
え?
おいちょっと待てえええい!!さっき雪ノ下来るって言ったよね!?どゆこと!?さっきのは俺を釣るための餌だったの!?
「え、ちょっと。さっき雪ノ下来るって…」
「雪ノ下さんが来ると言ったな。アレは嘘だ」
「いや、何キメ顔で嘘を認めてるんですか!?」
「大丈夫ですって。今から嘘から出た真にするんですから」
びっくりするくらい信用ならねぇ。幹事さんは今にもスキップでもしそうな足取りで雪ノ下の元へと向かっていった。いや、今勤務中だし、雪ノ下に怒られると思うんだけど。
幹事よ、図ったな。今更、撤回しようものなら完全に俺が雪ノ下目当てみたいではないか。
嫌な予感がしたが、自分にはどうしようもない。業務に戻るとしよう。
三分ほどして幹事さんが帰ってきた。案の定、足取りが重くトボトボと甲子園敗北を喫した野球部のような意気消沈ぶりだ。
「どうしたんですか?」
「仕事中なんだからそういった話はタイミングを考えなさいって怒られた…」
やっぱりな。まぁそんなことだろうとは思いましたよ。しかも、その言い方だと雪ノ下は多分来ないな。
困った。別に行っても良いのだが、ちょっとだけ行く気が失せてしまった。さっきも言ったが、雪ノ下が来ないから行くのやめますとか、そんな露骨なドタキャンはどう考えても邪推される。いやいやその言い方だと俺が雪ノ下を再優先事項に考えているのを認めているみたいではないか。
そうか。雪ノ下行かないのか。うーん。
「それでですね。雪ノ下さん来るみたいですよ」
ゑ?
「え、雪ノ下来るの??」
思わずタメ口になってしまった。謝るタイミングがなさそうなので、とりあえず心の中で謝罪しておく。
「そうなんだよ!なんかまたいつものか…って不機嫌オーラ出てたのに、比企谷くん来ますよって言ったらそれはもう途端に『今日は仕事も早めに終わりそうだから、行こうかしら』って可憐な表情に!これはなんというか、大改造!劇的ビフォー・ア◯ターだよ!比企谷くん!」
幹事さんもつられてカジュアルな話し方になっている。というか、ここ数分間での貴方のキャラ崩壊の方が劇的ビ◯ォー・アフターなんですけど。
「というわけで難攻不落の雪ノ下さんが比企谷くんというONE WORDだけであっさりだよ。魔法の言葉過ぎて日常的にも使いたくなっちゃうくらいだよ!いやもう、次回からこれ使うわ!乱用必至ですわ!」
幹事さんが暴走し始めたので放置して仕事に戻ることにした。どうしてこう、俺の周りにはこんなタイプの人が多くなるのだろうか。才能の一つだとしたら早急に手放したい能力だ。
「さて、話が盛大に脱線したような気がするけど…」
脱線していたのは貴方だけなんですが。喉元まで出かかっていたが、言うだけ野暮だな。
「これはお手柄だよ。比企谷くん!なぜなら雪ノ下さんは一度もこういった集会に参加したことが無いからね。男達の血湧き肉躍る表情が目に浮かぶよ」
「それは何よりです」
一々、幹事さんの発言が若干古臭いのが気になる。雪ノ下も雪ノ下で会社の集会に一度も参加したことがないってどれだけ頑固なんだよお前…。かく言う俺も会社の集まりに参加したことあったっけ?あれ?記憶に無い。
一人考え込んでいると気づけば目の前には幹事さんの人懐っこさがにじみ出た可愛らしい顔があった。吸い込まれそうな茶色の目から逃れようと思わず顔を逸らした。
「ん〜?何比企谷くん?もしかして私のこともイケる口?」
「ノーコメントでお願いします」
「そっかそっか。じゃあイケるということで口説かれるの楽しみにしておくね。またあとで仕事終わったら私がまた連絡するから!」
幹事さんはノリノリで去っていった。雪ノ下に注意されていた時の彼女は今や何処にと言わんばかりで一喜一憂の激しい人だという印象だ。
ふと気になって、雪ノ下の方を見たが、彼女はこちらの様子には目もくれずただ黙々と業務を続けていた。
時計は十一時を指していた。昼食の休憩にはまだ早すぎるのでもう少し、業務を終わらせてから取ることにしよう。
…と、思ったのだが、結局キリの良いところで休憩に上がった時には既に、午後の2時になっていた。
休憩室は流石にこの時間帯であればそこまで混雑はしていないな。一番奥の席に座るとしよう。
着席して携帯を確認すると、芦間から連絡が来ていた。おそらく、海外出張の話だろう。何か進展があったのかもしれない。
『最初のロスの日程決まったぞ〜♪ とりあえず再来週から一週間とりあえず、キャリアフォーラムな。荷物とか必要な資料とかはこっちに出社した時にまた細かく伝えておく』
げ、再来週には俺は海外に行かないといけないのか。なんとめんどくさい。しかもアメリカだろ?飛行機何時間乗らないといけないんだ?俺はあんなエコノミーのパーソナルスペース侵害しまくり旅客機に長いこと拘束されるなんてのは御免だ。どうにかして、経費でビジネスクラスに出来ないかなぁ。いや、下っ端は無理ですよねはい。いや、中々に大きな企業なんだから流石に部下三、四人の旅費くらいちょっと頑張れば豪華な感じで捻出できそうなものだけど。(会計会社もやってる企業に所属している社員にあるまじき言動だなこりゃ)
「あら、さっきから、何放送出来ない程の気難しい顔をしているのかしら?」
「え?」
驚いて後ろを振り返ると、雪ノ下が立っていた。何かと背後に立たれることが多いような気がする。こいつ、俺の後ろを取るのが趣味なのか?それにしても、俺今日滅茶苦茶『え?』って言ってるな…。難聴系主人公か俺は。まぁ、『え』の後に『何だって?』を付けていないからセーフだろ。
「何やら見当違いも甚だしい不愉快な意見を持たれていそうだからとりあえず、『違うわ』ということだけ先に言っておこうかしら」
「邪推だな。俺は別にそんなことは考えていない。再来週の出張について思案していただけだ」
言い当てられたことに内心冷や汗をかいたが、雪ノ下にはバレていないようだった。
「出張?左遷の間違いではないのかしら?」
「見当違いも甚だしい不愉快な意見だな」
「そう、それは残念」
雪ノ下はそのまま横を通り過ぎると、俺の正面に座った。さも当然と言わんばかりの着席だった。
これまでは俺が座っている長机の反対側にさり気なく座っていたことが多かったが、眼の前に座られたのは初めてだ。
雪ノ下は自分で弁当を作っているらしく可愛らしいパンさんの弁当箱を取り出した。お前その歳になっても相変わらずパンさん好きなのな。
彼女の弁当の中身を見ると、豪勢な出来栄えかと思いきや、かなり家庭的な手料理が丁寧に並んでいた。10種類近い品目があるのにもかかわらず、どれも手作りらしい。冷食の一つでも弁当に入れる主婦らしさがあれば人間味が感じられるというのも変な話だが、ここまで手料理を徹底している雪ノ下の方が逆に人外ぶりを発揮している。
「残念なのは、俺が左遷じゃなくてってことか?」
俺はビル一階のコンビニで買った焼きそばパンを齧りながら雪ノ下に尋ねた。
「いいえ。再来週から貴方が居ないってことが、よ」
「え」
「……!」
こいつ、今自分が言ったことの意味を理解しているのだろうか?いや、変に突っ込んだら絶対に『そうやって自分にとって都合の良い解釈ばかりするのはどうかと思うのだけれど』とか言われそうだから聴かなかったことにしておこう。
変に期待しない。俺は思春期にそれを死ぬほど学んできたじゃないか。
と思いきや雪ノ下の表情を見るに案外全く考えもなしに言ったらしいことが一目でわかった。
「そ、その、きょ、今日みたいに会食に出なければならなくなった時とかに話し慣れている人がその場所に居ない、のは大変になりそうだと思ったからという理由で、べ、別に貴方が居ないということに対する落胆の言葉というわけではないわ。やましい希望を持っていたとしたら今すぐ捨てることね」
やけにあたふたしていたが、まぁそういう事にしておいてやろう。別に話すわけじゃないけど居てくれたら心理的負担が軽くなる場合もあるよな。逆に気を使われすぎて速攻で帰りたくなるって場合のほうが多いけど。
…というか。
「…いやお前、出なければならなくなった時って言ったってなぁ。お前、飲み会とか打ち上げの類に全く参加したことが無いって幹事さんが言ってたぞ」
「っ!……偶々、予定が、合わなかったからよ。私が貴方が行くからという理由で今回参加を決めたわけではないわ」
「へいへい、そうですかい」
「貴方、絶対納得していないでしょ?」
「してないことはない。というか別に、納得とかそういう話でもないだろ」
「…そういう言葉が聞きたかったわけではないわ」
雪ノ下は真っ赤になってそっぽを向いてしまった。うーん。これは俺が悪いのか?独り相撲しながら勇み足で自滅しただけにしか見えないんだが、俺が謝ったほうが良いのだろうか。いや、この状況での謝罪は雪ノ下のプライドを傷つけるだけだろう。
俺は黙って手に持っていたパンを口にすると、自動販売機で購入したマッカンを開封した。
正面の雪ノ下を見ると何やら物を言いたげな顔をしているが、何を言わんとしているか、手に取るように分かる。
高校時代の知り合いにいつも言われる言葉だ。
どうせ『未だにマッカン飲んでるの?』だろ。川崎や戸塚に会ったら毎回言われるわ。実は三ヶ月に一回くらい集会がある。結衣と一緒に参加しているのだが、何故か材木座や平塚先生まで来る。最近平塚先生が俺を寝取ろうと本気で迫ってくるのが悩みの種だ。
ソウルドリンクってのは禁酒以上に難しいものだと思っている。この魔力をどう回避できようか。いや、出来まい。甘ったるくて飲めないと言っている奴らの言葉が信じられん。こんなにも美味しいのになんでだろう。
あ、雪ノ下ほったらかしだった。
にしても、どうやって話を振ろうか。先程、後味の悪い話の途切れ方をしてしまった手前、どうにも切り出しづらいものがある。
「…貴方はどうして今日は参加することにしたの?」
「ん?」
と、思っていたら、意外にも雪ノ下の方から話を振ってきた。相変わらず機嫌は全く直ってはいない。
「別に、偶々だ。そういう気分なだけだ」
「納得いかないわね」
「お前、意固地になりすぎだろ…」
「何かしら?私は貴方の言うことが解せないというだけなのだけれど」
こっちにも言えない理由があるんだよ。それに気分ってのは本当のことだから嘘は言ってない、うん。というか、芦間のアドバイスが早々に役に立つとは思わなかった。
「何故黙っているのかしら?」
どうやら火に油を注いでしまったらしい。氷の女王様は南極の氷を全て溶かしてしまいそうな勢いだ。
「雪ノ下はどうして俺が行くと思った?」
「貴方、逆に質問で返すのね。大方、会社に気になる女性でも居るのではないかしら?」
「……………………」
「あら、図星?貴方、由比ヶ浜さんが居ながら、そこまでクズに成り下がったの?」
いやいやいや。そうじゃない!どうしてそうなる!?いや、必然的にそうなってしまうのか。
困ったことになった。大正解ではあるが、お前が思うような目的じゃないからなんて言おうか迷ったんだって言ってもダメだろうし、そもそもそれを言ってしまったら折角、秘匿にしていた事情がまるで台無しになるとかいう本末転倒。どうしろと?
イカン。あらぬ方向に会話が進んでいる。しかも弁解に非常に困るベクトルに。しかし、今後を考えれば雪ノ下との関係が悪化するのは本意ではない。
「…お前が来るって聞いたからだよ」
「…………」
「おい、なんでだんまりなんだ」
「…そ、そう」
雪ノ下はそのまま平然と食事を続けた。その表情は何事も無かったかのように涼しげだった。先程まで剥き出しにしていた鋭い刃が嘘のようにすっぽりと鞘に収まっている。
しかし、何故こうも無反応なのだろうか。何かしらのリアクションが無ければこちらとしても対応に困るのだが。
「………」
雪ノ下はチラチラとこちらを見ながら箸を進めていた。
しかし、よく見ると耳が真っ赤だった。
いかん。俺も反応できなくなっていた。
結局、それ以降は俺も雪ノ下と同じく、ただ黙って食事を進めるしかなかった。今ほど、最高に気まずいのに食が進んだ食事は金輪際起こらないだろう。
続く
久しぶりのゆきのんでした。
最近は、ルミルミやいろはすにポジション取られつつある()でも一番はゆきのんやで、ほんとに。
さて、次回の投稿はちょっと早めに出来そうです。ストックもかなり溜まりましたし。ちょっと早めに投稿しようかなって思います。5日後を目処に準備いたします(*^_^*)
では、今回も読んでくださってありがとうございました!!
次回もよろしくお願いします!m(__)m