※この作品はR-18です。

雪の楽園   作:ホネ

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50000字ほど書き溜められたのでちょっと早めの投稿です。
この作品を書こうと思ったのが春先だったのでそう考えると時間の経過が物凄く早く感じます。

今回は長めです。場面の切り替わりを考えて丁度良いところまで入れました。


後書きにちょっと今回の話の裏話も書いてあるので良かったら読んでいただければ幸いです。


第二十三話

「それでは、北米大陸での出張の安全と成功を祈願しまして…かんぱーい!」

「かんぱーい!」

「…」

眼の前で智佐吹さんと一色が今日の疲れを一気に吹き飛ばすが如くジョッキを合わせると景気の良い音が響き渡った。二人して良い飲みっぷりだ。男性も顔負けの豪快さ。

…うん、どうしてこうなった。

俺達は、会社のある駅から三駅ほど離れた場所にあるバーにいた。智佐吹さんが仕事終わりに一人で飲む時によく使う店とのことでマスターともよく知った仲らしい。店内の雰囲気は暗い空間を暖色のライトがぼんやりと照らしている。席はカウンターが8席ほどでテーブルが3つの程よい面積だった。

智佐吹さんが用意していた席はカウンターの端だった。マスターの後ろに並ぶ瓶のラベルを見るにかなりの高級品やマニアが好むブランドもある…らしいが俺はあまり酒を飲まないのでそこら辺の話題になってしまうと全く分からない。

…いや、それはともかく決起集会だというのに何故このメンツなんだ…?

「あの、智佐吹さん。決起集会なのに、人事の島田さんと芦間は何処行ったんですか?」

状況だけ見れば半数欠席なんですがそれは…。というか、なんで一色が居るんだ。こいつアメリカ行かねーだろ!ビルの一階集合って言われて場所に向かったら普通に一色が居た。というか、この前の一件以来、実はロクに会話もしていなかったので、非常に気まずい。正直顔も合わせられない。

智佐吹さんを待っている間、一色は普段と変わらぬ様子だった。俺は他愛のない会話で一色との場を繋いでいた。彼女は時に俺をからかい時にあざとく振る舞う。それは俺がよく知る一色いろはだった。だが、その存在が嫌に不気味に感じた。

智佐吹さんが現れたのはその時だった。正直救われたという気持ちが大きかった。

そして現在に至るわけだ。席順は俺が女性二人にサンドイッチされるという本来であれば男にとって喜ばしいシチュエーションではあるのだが、素直に喜べない。何だこの名状し難い圧迫感は…。

「ん?島田さんは当然のように残業なので誘ってないよ〜。トシは断られた」

あの野郎…。こうなることを分かってて、わざと来なかったな。あいつのほくそ笑む顔が鮮明に目に浮かぶわ。恨めしい。

「それで、どうして一色が…」

「あれ?先輩もしかして忘れちゃったんですか?」

一色が俺を咎めるように睨みつけた。

「何のことだよ?」

「だいぶ前の話ですけど、私言いましたよね?先輩が出向に行く時に『埋め合わせして下さい』って」

「そんなこと言ってたか?…って痛い!」

「先輩…女の子との約束を覚えていないなんてゴミを通り越してクズ以下ですよ?」

有無を言わせない後輩の剣幕に圧倒された俺は素直に首肯するしか道は残されていなかった。一色は自分が持っているジョッキをグリグリと俺の頬に押し付けている。冷たいんですけど…。

「それがなんでこのタイミングなんだ?」

「先輩出張から帰ってきたら絶対忘れているだろうなぁって思ったからです。なので、智佐吹さんに事情を話してセッティングをしてもらいました。まぁどっかの誰かさんは、とっくの昔にその約束を記憶の彼方に追いやってしまったらしいですけどね、ふん!」

脇腹を抓られた。彼女の毒が先程からいつにも増して異様に濃い。智佐吹さんに助けを求めるように反対側を見るがどういうわけか彼女の表情も優れなかった。…というよりは彼女の視線からも敵意を感じる。え、なんで?

「まさか、比企谷君。私との約束も忘れたわけじゃないでしょうね?」

「え?」

「ほぅ…?」

そう言えばあの夜一色に会った時、仕事場で残業をお願いされて『今度別の形で返すので許して下さい』とかそんな事言った気がする。

「残業の埋め合わせってことですか?」

「お?きちんと覚えていてくれたんだ!嬉しいなぁ。いろはちゃんのは覚えていなくて、わ・た・しのは覚えていてくれたんだね!」

上司の機嫌がすこぶる良くなった。それ自体は喜ばしいことなのかもしれないが、片や、いろは嬢は今にも刀を抜こうとしていらっしゃる程に殺気が湯水のごとく溢れていらっしゃる。飛●御剣流奥義とか平気で繰り出しそう。抜刀斎の頃の。逆刃刀じゃないやつ。

「ねぇ、先輩。やっぱり先輩って年上のお姉さんみたいな人が好きなんですか?」

一色が抑揚のない平淡な声で問いかける。全身から血の気が引いていった。死神の声かな。もし今、健康診断されたら緊急入院必至だ。

「比企谷君…君って人は、、、奥さんが居ながら私にも手を出そうというの…?」

言葉とは裏腹に智佐吹さんはやけに嬉しそうだ。短めのタイトなスカートから覗かせる肉付きの良い太腿が扇状的な魅力を放っている。

「先輩、よくよく考えたら平塚先生のこと好きでしたよね?そう考えたら昔から年上好きの気はあったのかも…」

「その名前を出さないでもらえませんかね…」

「ん?いろはちゃん、その先生って誰?」

この時点で俺は面倒な方向に話が流れることを覚悟した。

どういった話になったかと言うのは言うまでもないだろう。平塚先生と智佐吹さんが似ているということ。俺が平塚先生の性格や容姿がもの凄く好みだったということ。(十年早く生まれていて、十年早く会えていたら心底惚れていたという話はしていない。その話は墓場まで持っていくつもりだ)それらの話が事細やかに一色の口から上司に伝わってしまった。その間、智佐吹さんはというと終始破顔した状態で一色の話に耳を傾けていた。自分が平塚先生と似ているということに喜びを感じる人が存在するとは…。だってアレだよ?平塚先生に似ているということは、独しn…急に謎の寒気に襲われたのでこれ以上言及することは止めておこう。俺の命の安全のためにも。

「…というわけなんですよ~☆」

「うふふ。それはとてもいいことを聞いたわね…。ぐへへ…ざまぁみろ、真紀の奴…」

智佐吹さんが魔女のようなドスの利いた声を漏らしていた。その口調があまりにも不気味だったので知らないふりをしていた方が身のためではないのかと思えるほどだった。

「あ、あの大丈夫ですか?」

若干どころか相当引いている一色に変わって俺が智佐吹さんの様子を探ることにした。

「え…?どうしたの比企谷君?別に私は何も問題ないよ」

彼女はいつもと変わらない爛漫な声で答えた。杞憂だったのだろうか。というか、この人平塚先生と同じでいきなり変なスイッチが入ることがあるから、正直俺からしてみれば別段珍しくもないんだけどな。一色はこの人のこういう一面はあまり見ることがなかったから困惑したのかもしれない。

二人の女性に挟まれていることに落ち着きを隠せなかったこともあってそちらの処理に脳のプロセッサを割いていたが、ようやく周りを見渡せるほどには平静を取り戻した。

入店した当初とは打って変わって客層が男女二人組ばかりになっている。彼ら、彼女らの中でどういった駆け引きが行われているのかということには心底興味が無いのだが、その逆はあるのだろう。先程から他の客たちの視線をかなり感じる。当然だろう。冴えない男が女性二人を両脇に引き連れてこんなバーに入ってるのだから。加えて両脇の二人が飛んだ美人とくれば尚更か。しかし、俺がどうしてこうなったのかと一番嘆きたいのだから彼らの疑問を解消できるほどの答えなど用意できるはずもない。

「一週間か」

「うーん、一週間も先輩に会えないとなると流石に寂しいですね。渡航先で女性作っちゃダメですよ先輩?」

「一週間で出来るわけ無いだろ…。ましてや向こうに行ったとしても仕事してるだけだわ」

「心配ないよ、いろはちゃん。比企谷くんには私がしっかり付いているから」

智佐吹さんがえへんと背筋を伸ばして胸を張った。大きな女性の象徴に目が行くのはニュートン先生のせいだとそれ何百年も昔に言われていることだからな。未だに帰宅した時に結衣の胸に目が行ってしまうし。

「それが、心配なんですよねぇ…」

一色の表情は曇っていた。そういえば、この二人って初めて会った時からあまり馬が合わないように見える。俺がどうしてこの二人が一緒に飲んでいるのだろうかと疑問に思った原因の一つがそれだった。智佐吹さんが苦手という人は多くはないのだが、珍しく一色はそのうちの一人だった。

「しっかり付いているって言ったってそんなに四六時中一緒ってわけでもないでしょうに」

「そうね。でもホテルの部屋は私と比企谷くんで一つの部屋を使うことになっているし、業務中は勿論面接の時以外は一緒だと思うから結構な時間を私と過ごすことになると思うけど?」

「「ぶぼッ?」」

俺と一色が同時に吹き出した。今飲んでいる環境が環境なだけに非常にマナーの悪い行為だ。取り繕うように場を整えながら上司を見た。

「ちょちょちょちょっと!?本当に何言っちゃってるんですか正気ですかもしかして先輩に脅迫されているんですか今すぐ通報しましょうそして然るべきところに先輩を突き出して先輩に裁きの鉄槌が下されて贖罪の獄中生活を終えて出所した暁には私が一生面倒見ますから!」

「おい待て一色。途中から色々とおかしい。あと長い」

「まぁ、冗談なんだけどね」

「で、デスヨネー…」

一瞬本気で考えてしまった。でも、悪くはなかった。

「もー!体に良くない冗談はダメですよ!智佐吹さん…」

「ふふふ…」

智佐吹さんはさっぱりとしたとした表情だった。俺や一色の狼狽っぷりに満足したのかマティーニを飲みながら一人、優雅に過ごしている。同じ机で酒を飲んでいるはずが、片や、俺達はあっけらかんとした表情をしている。

それにしても智佐吹さんもう三杯目じゃないか?こんな大人のバーで一杯目がまさかの生でその次が、マルガリータだった気がする。一色はレッドアイを飲み終えてカシスオレンジをゆっくり飲んでいる。因みに俺は一杯目のカルーアミルクだ。しかもまだ半分も飲んでいない。いい加減氷が溶けそうだが、大体飲みとなるとこうなるから、元より全く気にしていない。

「どうしたの、比企谷君?あまりグラスが進んでいないようだけど?」

そう言うと智佐吹さんは俺の腕に自分の腕を絡めてきた。そして身体を俺に預けるようにしてもたれ掛かる。甘い香りが鼻孔を貫いた。一色や雪ノ下、結衣とも異なる妖艶な色香に抵抗が無かった俺は一瞬にして陥落しそうになる。というか結衣と同等、否それ以上に豊満な彼女の胸が俺の腕に当たって形が変わっている。というか俺の腕が埋没している。

「顔が赤いよ。もしかして一杯目で酔っちゃったの?」

「…いつも自分はこれくらいのペースですよ。そんなに酒は強くない方なんで」

智佐吹さんはわざと胸の感触を伝えるように身体をよじらせてきた。その度に俺だけに聴こえるように甘い声出すの止めてもらえませんかねぇ…。

この人酒が入ってからキャラが変わり過ぎじゃないか?それともこっちが本性か。

ものすごく酒癖が悪いと言うか人が変わるなぁ。

ネットで見た言葉を借りるのであれば“酒が人を駄目にするのではない。酒が駄目な人間であることを暴くのだ”というべきか。まぁ俺は今の智佐吹さんの方が普段の時よりも百倍好きなんですけどね。エロいから。

「先輩、飲んだとしても毎回一杯か二杯くらいですよね〜。もうちょっと飲んでもらって酔っ払った先輩の動画でも撮って脅迫材料を確保出来たら良いのに」

「さらっととんでもないこと言うもんじゃないぞ」

「あ、でも今の様子でも撮影して結衣さんに送っちゃおうかなぁ〜…」

「殺す気か」

「今の先輩はいっぺん地獄見てくるべきだと思います」

一色が鬼のような形相をしていた。直ぐに離れろと言いたげな表情だが、今の俺にそんな理性も決断力も無かった。酒とフェロモンに思考を完全に奪われている。さっきからずっと腕を抓られていた。いや、仰らなくとも分かるんですけどね、そろそろ痣になりそうだから勘弁してください。あと、智佐吹さんの胸超柔らかい。

「あら?脅迫出来る情報が欲しいのであれば私に言ってくれれば幾らでも売ってあげるよ、いろはちゃん」

「ホントですか!?しょうがない…ここは敵だけど、一つ手を組むとしましょう」

当の本人の眼の前で黒い契約が堂々と交わされていた。二人は昨日の敵は今日の友と言わんばかりの力強い握手をしている。何処から突っ込めば良いものか開いた口が塞がらなかった。それよりもまずは、俺の秘密を業者の様に抱えているように言っていた上司を問い詰める必要がありそうだ。出張の合間に聞き出して情報源を潰しておかねばならない。

「あ、そうだ先輩」

「何だ?」

一色に話しかけられると未だに心臓が跳ね上がってしまう。この前の出来事を思い出して、顔が熱くなる。

横目で一色に目をやった。

それに合わせて一色が腕を組んできた。そのまま頭を肩に預けるようにして寄りかかった。

「この前の続き、ここでしませんか?」

耳元で悪魔のような甘い囁きが聴こえた。俺の身体は節操もなく一色の誘惑に流され始めている。

「な…!?いろはちゃん!?」

俺以上に動揺していたのは智佐吹さんだった。一色も見せつけられたことに対する意趣返しなのか、他の人がいる前でここまで積極的になったのは見たことがない。とはいえ、効果は抜群。いつもは凛としている上司がオロオロしていた。

「い、い、い、い、いろはちゃん?こ、こ、、、この前の続きって何かな?」

「さ〜て、何でしょう?☆」

「くっ…貴方も意外に根に持つタイプなのね…」

「陰湿さなら智佐吹さんとタメ張れそうですね♪」

ちょっと。言い争う度に腕を締めないで。うっ血して腕の間隔が無くなりそうだから。

「まぁ、いいけど。明後日から比企谷くんは私が独り占めできるのだから」

智佐吹さんが勝ち誇ったような表情で一色を下に見ている。一色も周りからは分からないように奥歯をギリッと噛み締めながら笑顔を作るので精一杯だった。正面のマスターは素知らぬ顔でグラスを拭いている。その優しさ、逆に刺さります。助けて。

「チッ…。先輩、出張中は毎晩私に電話して下さい」

え、ちょっと一色さん。舌打ちしませんでした?気のせいだよね?なんかこいつもこいつで酒が入って人が変わってない?

「いや、結衣に電話するならまだしも、なんでお前に電話しないといけないんだ…?」

その一言が引き金になった。一色の目からハイライトが消えたように目に光を失った。その時だった。

「ふーん、そういう事言うんですね。私とキスしたの結衣さんにバラしますよ?」

耳元で一色が囁く。デビルいろはすが降臨なすった。

「そ、それだけは勘弁してください…」

「……もう。冗談ですよ」

この場で土下座をしようとしたその時に一色に止められた。

「本当、毎回それを材料に脅してくるの止めてもらえませんかね…」

「それは先輩のこれからのあり方次第です♪」

「難しいこと言ってくれる」

「二人って本当に仲がいいよね〜。学生時代の時からずっとそうだったの?」

「いいえ、第一印象はお互い最悪でしたよ」

「私もこの人だけは絶対にありえないって思ってましたね〜」

「え、俺そのレベルまで最悪の印象だったの?」

「そりゃあ、ね。目が腐ってるし、捻くれてるし、そんなに顔もカッコ良くないし」

「ぐ…悪かったな」

「でも今は先輩に心底惚れてますよ♡」

そう言うと一色はウィンクをしながら得意のあざといポーズを決める。

「そ、そうか…」

「いろはちゃんって凄いよね…。そうやって本気で既婚者の男の人を堂々と奪いに行く表明しちゃってるんだもん」

その言葉を聴いた一色が怪訝な顔をした。

「智佐吹さんも言っちゃえばいいのに。その方が楽になりますよ?」

「な!?」

「え、智佐吹さんも既婚者ねら。。。。ぐふ」

「先輩はお口チャックしててくださいね〜☆」

一色に横腹を突かれた。痛い。もう少し年上を敬って欲しい。

「そ、そんな事言われても…。私、仕事で距離が近すぎるから逆に無理だよぉ〜…」

この人酒が入ると幼児化するタイプなのか、すっかり口調が俺や一色よりも随分と年下のように見えてしまう。

「ふふふ。私もそう思っていた時期がありました。ですが、今はこうして先輩が私のことを徐々に女性として意識するまでに籠絡させつつあります。私なんて実は最初はマイナスから攻略が始まってますからね。ネバーギブアップですよ!」

「そ、そうかなぁ」

この二人は何を話しているんだ?

「い、いろはちゃん。否、いろは師匠!その極意、教えていただいてもよろしいでしょうか!?」

智佐吹さんが突如立ち上がって一色に向き直った。

「良いでしょう!同じ志を持つ者同士、語り合いましょう!」

一色も同じく立ち上がり俺の頭上で固い握手が交わされた。何だこれ。

「そうと決まれば二次会だね!ごめんね比企谷君。今しがたのっぴきならぬ事情が出来てしまったよ。これからいろはちゃんと重大な会議をおこなうことになっちゃったから。そしてこの会議は君が居ると始まらない」

「え」

「そういうわけです!この会議は先輩が居たら駄目ですからね。今日は先輩は早く帰って出張の準備もして下さい」

それだけ言い残すと智佐吹さんが目にも留まらぬ手付きで会計を済ませると、二人は次なる目的地を目指し、夜の街へと消えて行った。

…いや、この後どうすんのよ。

 

「…マスター。これ(カルーアミルク)にあうおつまみってありますか?」

 

 

 

 

 

翌朝、会社のビルの入口で玉木さんに会った。まだ一色は来ていないらしい。相変わらず玉木さんは会社の人気者たる所以をいかんなく見せつけている。眩しいくらいに美しい艶姿だった。オフィススーツ着てるだけで艶姿と形容するのもどうかとは思うがそれ程までに妖艶という表現意外に適切な言葉を自分の脳内の辞書を隈なく引いたところで見つからなかった。貧相なボキャブラリーで表現するのであればもうただエロいの一言に尽きる。

「おはよう、比企谷くん。何だか君と話すのも久しぶりだね」

「そうですね。ほとんど毎日挨拶をしているはずですが、あまりこうして落ち着いて話すことも最近は無かったからかもしれないです」

「そうかも。私としては比企谷くんと話せるのは嬉しいんだけど、比企谷くんは何だか機嫌が良くなさそうだね…」

「…そう見えますか?」

「うん。それに君が私と話す時ってね、良くないことが起こって他の人には話しづらい雰囲気の時が多いから」

「…ほんと敵わないですね」

正直寒気がした。この人の観察眼は人を恐怖に陥れる凄みがある。それもその通りで、相変わらず俺は結衣とまともに話せていない。

「今度、話聞こっか?私で良ければだけど」

「玉木さんが男を誘うなんて今年一番のニュースかもしれませんね」

「そうかも…私いっつも誘われる側だからね」

憎たらしいまでの自信に満ちた発言も彼女であれば許される。しかし、俺はその誘い乗る気分にはなれなかった。

「魅力的なお誘いではありますが、今回は遠慮しておきます。でも気持ちが楽になりました。ありがとうございます」

「そっか、うん。分かった」

頭を深々と下げて丁重に断った。玉木さんは予想していたのか、気にしていないような様子に見える。「これでも結構ショックなんだからね」と付け加えていた。智佐吹さんや結衣を遥かに凌駕するほどの豊満な身体にまとまった茶髪が幼さと妖艶さを混在させた色香を放っていた。俺だって、こんな時じゃなければ間違いなく彼女の誘惑に流されていたに違いない。だって、ダントツにエロいもんこの人。

「でも、昨日はちーちゃんの食事のお誘いには付き合ったんだよね?」

不意に毒を吐かれた。どうやら素直に通してはくれないらしい。

「ど…どうしてそれを」

「昨日はすごーく機嫌良さそうに会社を出たから、あー比企谷くんを誘って成功したんだな〜って」

「…そうですか」

この人の洞察力は一体何なのだろうか。というか、会社の噂話を一色が何処で仕入れて来るのかが今分かった気がする。絶対この人だ。女の勘で全部悟り妖怪のように把握していたに違いない。

「というか、ちーちゃんって智佐吹さんのことですか?昔からの仲って噂は本当だったんですね」

「え!?疑われていたの!?同じ大学だし、結構遊ぶ仲だったんだよ〜。二人で大学の高嶺の花を務めていたんだからね。まぁ私もちーちゃんも全く男と遊ばなさすぎて百合説が流れてたんだけどさ」

玉木さんは即座に肯定した。それにしても百合説か。その二人の百合ならそれはそれでとても見たいと思うのは俺だけではないだろう。

「別に私で妄想するのは比企谷くんだったら大歓迎なんだけど、ちーちゃんとは友達だからね?」

「わ、分かってますよ…?」

もう脳内に直接とかそういう次元の洞察力ではなかった。マイ●ドスキャンだこれは。

「比企谷くん、ちーちゃんのことよろしく頼むね。出張って聞いてびっくりしたよ。あの子方向音痴なのよ。だから心配で…。それに、、、」

「はい、分かりました」

「ううん、君は分かってないよ」

玉木さんが言下に否定した。

「どういうことですか…?」

そう聞くと、玉木さんがこちらに来るように手を招いていた。オフィスに入りかけていたが、もう一度受付カウンターに戻った。

玉木さんが顔を近づけてきた。あ、すごくいい匂い。いやいや、そうではない。

「ねぇ、比企谷くん」

「…はい、何でしょうか」

「私は、君のことも心配してるんだよ?それを分かってない」

「…すみません」

「いいよ。でも今は違う言葉が欲しいかな」

「……ありがとうございます」

「よろしい。じゃあちーちゃんをよろしくね」

玉木さんは俺の鼻の先を小突くとオフィスに戻るようにそっと肩を押した。オフィスに入る時もう一度彼女の方を振り返ると、彼女もこちらを見ていた。手を振っていたので一度だけ返した。やばい。すごく気持ち悪いニヤケ顔をしているだろうから早く忘れて中に入ろう。

中に入ると、丁度目の前に人が立っていた。下を向いていたため、顔は見ていなかった。「すみません」と挨拶をかけると相手の女性はひどく狼狽した様子だ。

不思議に思い、顔を上げた。相手は件の女性だった。

「お、おはよう。比企谷君」

「お、おはようございます。智佐吹さん。昨日は、ご馳走様でした」

「ううん。先輩として当然だよ、あと昨日はごめんね。滅茶苦茶お酒が回ってたよ」

「結構昨日の酒が残ってますか?顔色が優れないようですが」

「そうだね…羽目外して飲みすぎちゃった…」

「一色に連れ回されたんですか?あいつ結構強いから」

「うん、、、いろはちゃん凄いお酒強いんだね。ありゃあ男が酒に頼って連れ込もうとしても無理だわ。男が潰れるよ」

「笑えない冗談ですね…」

酒豪いろはす。普段は好き好んで飲むわけではないらしいが。

「それで、昨日は一色と話は纏まったんですか?」

「あ〜、そのことなんだけどね……比企谷君ってさ。私のことどう思ってる?」

「突然ですね。とてもいい上司だと思っています。部下のこともよく見ているし、仕事も正確で早いですし」

「なんか言わせてる感が半端ないんだけど、私が欲しい言葉はそれじゃないんだよなぁ…」

智佐吹さんはやっぱりかと言うような面持ちだった。

「ねぇ、比企谷くん。昨日さ、いろはちゃんが言ってたこと覚えてる?」

「ま、まぁそうですね」

この人が既婚者狙いだって話か。正直意外だったな。この人がまさかと思った。

「その人って誰だと思う?」

「え、ここでクイズですか?皆目検討がつかないんですけど自分が知っている人ですか?」

「え〜…これ超サービス問題にしたつもりなんだけど。まぁいいや。じゃあヒント教えてあげるから耳貸して」

「あ、はい。分かりました…」

俺は耳をすませて彼女の言葉を待った。

 

「ーーーーーーーーーーー。」

 

……え?

 

 

「ふふふ。さて、今日も仕事が溜まってるよ。出張前とはいえ、残業も覚悟しておいてね、比企谷君!」

そう元気な声で告げると、彼女は持ち場へと足取り軽く戻っていった。

 

 

続く




飲み会編兼久しぶりのオリキャラ達主役編。書いてる時は楽しかったんですけど正直読者の印象が一番心配な回でした。
千紗(←自分で作ったくせに最近まで表記揺れ満載だった)はがっつりエロシーンも考えていたのですが、本番行為はいろはすや雪乃などの原作キャラのみにすることにしました。オリキャラは物語のスパイスとしてBくらいまで書こうかなという予定です。
千紗はいろはや雪乃達の関係を深めるための引き立て役として動かすという形に落ち着きました。その割には結構物語に出てきますが(;・∀・)

なので、彼女がこの話の最後に口にした言葉は敢えて隠すことに。(書いちゃったらメインヒロインっぽくなっちゃうので)

今回は色々と思うところのある回で後書きに少しだけ補足を入れました。
この作品を読んでいただくにあたって特に必要な情報でもないのでへーそうだったのか(ハナホジ)程度に読んでいただければ幸いです。

それでは今回も読んでくださって有難うございましたm(_ _)m
次回もよろしくお願いいたします。
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