私の正月は寝正月でした。(年越しは寝てました。三日連続のコミケだったので…)
今年も投稿ペースを守ってアップしていく所存なのでこれからも読んで頂けると嬉しいです!
それでは第二十八話お願いします。
『そっか〜、じゃあ明日から仕事が始まるんだね』
「まぁそうなるな。でも俺は会社に履歴書出しに来たり、イベント参加にやってきた人の話相手役になるみたいだけどな」
『え、じゃあ結構重要じゃないの?八幡の印象で会社の印象が決まっちゃうじゃん。責任重大だね!』
「そ、そういうプレッシャーかけるの止めてもらえませんかね〜…」
電話越しに聴こえる愛妻の声から察するに彼女の機嫌は非常に良かった。俺の土産話を楽しみにしているようだ。現に結衣は道中の風景や立ち並ぶ店、道行く人の服装など細かく聞いてきた。
ミーティングと昼食を終えた後はそれ以上の予定はなく各自で自由行動ということになった。智佐吹さんは買い物に出かけた。芦間は久しぶりにこちらの友人に会うらしい。島田さんと俺が部屋でゆっくりとした時間を過ごすという選択をした。落ち着いたので早速結衣に電話をかけたのだった。
現地の日本時刻は朝九時頃、対してこちらは夕方の五時頃だった。
『今日はこれからどんな予定なの?』
「ん?これから明日までは何も無いな。飯食った後は明日の資料見て寝るだけだ」
『そっか〜、えへへ』
「どうかしたのか?」
『ううん。なんかこうして話せるのが嬉しいなぁって』
「…あぁ、そうだな」
『うん!』
こんなにも元気な妻の声を聞いたのはいつ以来だろうか。俺は安堵の息を漏らした。
携帯電話を右手に持ちながら、ボールペンを回す。
その先をずっと見つめていた。
五時だというのに日が長く、未だに太陽はオレンジ色に染まっていない。よく考えてみればこっちの地域はサマータイムだった。11月くらいまではたしか、時計を一時間進めることによって日が出ている時間を長くするとかいう政策。まだ空は明るいが帰宅ラッシュの時間故に、既に眼下の道路は渋滞を起こしていた。芦間曰く日本ならお盆の高速道路で起こりそうなレベルの渋滞が毎日のように発生しているらしい。
渋滞を眺めながら結衣と話していた。島田さんがフライト中の機内食の乾燥パンが好きだという話に結衣が何故か興味津々だった。
『…じゃあそろそろ切るね。明日の仕事頑張って!』
「おぅ、ありがとな」
『うん!おやすみ』
元気な挨拶と共に、結衣との通話を終了した。
バルコニーに出て手すりに腕を乗せた。地平線遠くの山の稜線を目でなぞる。木々が生い茂っておらず、茶色の山肌が居住区を囲むように延びていた。
渋滞の列は一向に動く気配が無さそうだった。日本の倍以上もある数の車線の全ての列が車両で埋め尽くされているのは圧巻だ。ここら一帯は高い建物が少ない。ロサンゼルスの中心地の方は高層ビルが何軒か立ち並んでいるのが見えるが、それ以外には背の高いビルは確認出来なかった。
強い海風が吹いている。考え事をするには丁度良いのかもしれない。
揺れていた。自身の心が風鈴に付けられた舌のように休まることなく吹き荒れていた。
結衣は紛れもなく最高の女性だ。こんなにも優しくて美しい人は俺の人生の中で二度と現れない。毎日のように夫の帰りを待ち、献身的に支えてくれる。今の自分があるのは彼女のおかげでしかない。これまでだって自分のが折れそうになった時何度も助けてくれた。
だが、結衣と話す度に、彼女が、雪ノ下雪乃の顔が頭に浮かぶ。彼女の透き通る声、儚げな横顔が脳裏に焼き付いていた。結衣の笑顔、明るい声を認めるといつもだ。自分の中の雪ノ下が私を見捨てるのかと泣きそうな顔で俺の袖を引っ張る。そんな彼女を見て、哀れに思う。そして同時にどうしようもなく彼女が欲しくなる。こんな俺を求めるもう一人の最高の女性。誰よりも優れた容姿で尚且自分が話していて最も楽しい女性。
あの日雪ノ下が涙ながらに口にしたあの言葉が目を閉じる度に耳の奥から聴こえてきた。
もしあの時、彼女の肩を抱くことが出来たらどうなっていただろうか。そんな事ばかり考えていた。おそらく自分を抑えきれなかっただろう。雪ノ下の涙を見てこみ上げてきたのは、自分に対する怒りや彼女に対する憐憫の情。
それだけではなかった。
俺はあの時どうしようもなく雪ノ下雪乃が愛おしくてたまらなくなった。同時に邪な欲望も渦巻いていた。悪魔の囁きに身を任せて雪ノ下を離さないという選択肢もあった。それが選択肢にあると思ってしまっていた。
そして、彼女に会えなくなった今、心臓の奥底深くに潜む抗いがたい欲望の芽が著しくその茎を伸ばしていた。
…欲しい。
雪ノ下雪乃が欲しい。
もし許されるのであればあの女を心ゆくまで犯したいとさえ思う。
初めての感情だった。浮ついた感情などという生易しい一瞬の気の迷いなど比較にもならない。本能が強く揺さぶられる強烈な衝動が全身を支配する感覚。
出張前日に結衣を抱いた。あれは雪ノ下を犯すことが出来なかったあの日の猛りを鎮めるための行為だったのかもしれない。自分は結衣を雪乃の代替として使ってしまったのだろうか。あんなにも精液を放出し続けた夜は一度とて無かった。自分は彼女の中を突く毎に雪ノ下の艶姿を重ねていたのだろうか。
聴いてみたい。
雪ノ下雪乃は一体どんな声で啼くのだろうか。
抑えようもない爆発しそうな欲望に押しつぶされる。
日に日にその欲望は大きくなった。
出張の前日に我慢できなくなって結衣を犯した。あまりにも暴力的で身勝手で自己満足の交わりだった。
果たしてそれを愛の交配と称して良いものなのだろうか。
それを俺は人生最高の行為だと認識していたのだ。
深く呼吸をして考えを整える。
一色に耳を舐られ、智佐吹さんに機内で陵辱された時、俺はどういう反応だったのだろうか。あのときは必死に逃れようと藻掻いていた。
だが、思い出してみろ。結果どうなった?
結局、一色のときは快楽に身を任せ身体を彼女に預けた。そして智佐吹さんの時に至っては預けたどころか絶頂を与えられた。
結果だけを見れば、そこにいたのは享楽に耽溺する自堕落な男ではないか。一色に舐められていた時、破裂する程に愚息が膨張していた。智佐吹さんに慰められていた時、呼応するようにして子種袋から大量の精液が汲み上げられた。
あの時味わった感覚を強烈に覚えている。
敗北や屈服。それらは最高の快楽のカンフル剤にはなりえない。
刻みつけられたのは結衣に対する罪悪感だ。
最愛の妻を裏切って他の女性に身体を晒し、蜜月の時間を与えようとしてしまったこと。何よりもそれに締め付けられた。
だが、それだけではない。
あの時、罪悪感と同時に抱いていたのは得も言えぬ快感だ。
一色や智佐吹さんとキスをした時、そして、精液を放った時。絶頂はそれまで抑制されていた自分への解放の啓示へと昇華された。その感覚を俺は覚え始めている。
一度その沼に身を沈めてしまえば二度と戻ることは出来ない。
既に俺はその沼に脚を入れてしまっていた。
その重大さを自覚しなければならない。
もし、誘惑に負けて沈んでしまったらどうなる?
決まっている。人生の終わりだ。
結衣という最愛の女性を失い社会的信用も地のそこまで失墜する。
一色も智佐吹さんもその沼に俺を引きずり込もうとしているのだ。
抜け出すなら今しかない。
これ以上彼女達に調教されようものなら俺は二度と結衣の元に帰れなくなってしまう。
だが、雪ノ下はどうなる。
今の俺に彼女を諦めるなどという選択肢が果たしてあるのだろうか。
分からない。だが、答えは直ぐそこまで見えているような気がする。
…逡巡しずぎて頭が痛くなってきた。
外はもう暗くなっていた。
長旅の疲労もあるだろう。携帯を机の上に置き、ベッドの上に自分の身体を放り投げた。
明日は6時にロビー前に集合だった。朝が早いので早めに寝よう。
携帯が着信を告げていた。おそらく一色だろう。だが、今の俺に出るだけの気力がなかった。端末の電源を落とし、消灯した。少々早い気もするが、目を閉じて明日に備えた。
これ以上の衝撃もドラマもそうそう起こらないだろう。
……そう思っていた。
このときの比企谷八幡は何も知らないのだ。
明日のイベントに現れた来訪者が俺の人生を加速させ混沌へと導く存在になろうとは思いもよらなかったのだ。
続く
八幡の精神が少しずつ不協和音を出し始めた瞬間。
ここから物語がようやく”承”の中心に入ろうとしていく段階ですね(;・∀・)
八幡の心情描写は非常に悩みました。ちょっとだけ補足を入れると現在の八幡は結衣への純愛と背徳との狭間で自身の精神が混在しているような不安定な状態に入っています。比率で言えば前者と後者で6:4でしょうか。
あと一押し。。。。。。かな(^_^;)
今回はこの辺で。
ここまで読んでくださって有難うございました!!
次回もまた宜しくおねがいします!