ここから少しペースを上げて投稿できるかとおもうので宜しくお願いしますm(__)m
では二十九話です!
会場は既に幾つかの企業の人事達で賑わっていた。参加した企業の数は30弱といったところか。11月頃のメインの就活イベントに比べると規模は大きくないようだ。
今回の企画はイベントホールを一つ丸々借りて行われる。芦間が言っていたが、参加する企業の多くはコンサルや会計関連の企業が多いらしい。つまり俺達からすればライバル企業ということになる。競合企業だからといって別にいがみ合うわけでもないが仁義なき人材の取り合いはあるのかもしれない。
「んで、俺はどうすればいいんだ?」
隣で携帯を見ている芦間に問いかけた。俺達は今自社のブースのセッティングをしている。
「ん?まぁ参加する学生さんたちが履歴書持ってここに来るからそれを受け取って質問に答えてあげればいい」
「そんなんでいいのか?」
「何を言ってるのだよ比企谷氏。これはとても大事なミッションだぞ」
「昔のオタクみたいな話し方になってるが、急に誰になったんだ…」
「気分ですはい。モデルは居ません。要は比企谷は看板社員というわけだ。君の立ち振舞で会社の印象が決まると言っても過言ではない」
「はぁ、そういえば昨日、結衣もそんなこと言ってたな」
「お、奥さんと電話したのか。関係は良好に戻ったみたいで安心したぞ」
「おかげさまでな」
ホテル近くのスーパーで購入しておいたキットカットのファミリーパックを開封しながらそれに答える。こっちのチョコレートってものすごい量だな。ファミリーサイズがもう業者が仕入れるそれに近い。
「このキットカット、ビター味とホワイトチョコレート味も入ってるんだな」
「そうやで。むちゃんこ入っていてそれで$10だから大学で勉強していた時はよくそれにお世話になってた」
「ホワイトチョコレートは本当に激甘だな。最高」
「宇治抹茶味も意外に甘さが強いよな」
「羽田空港で買えるやつか?」
「そうそう。あれ。京都土産に買おうと思ったらあるやんけ!ってなるやつ」
「俺は結構好きだけどなアレ」
「実はアレこっちでも売ってるんだぜ」
「マジか。最早レアリティ無いんだな」
「そそ。日本の食品を売ってるスーパーとかで。抹茶味ってもう通常販売のフレーバーになってる。あ、ビター味くれ」
芦間にビター味を幾つか渡すと美味しそうに頬張っていた。
「というか日本の食品売ってるスーパーって何だ?」
「文字通り日本のレトルト食品とか調味料、お菓子とか売ってる店ぞ。有名なのはミツワってとことかかな。大体そういう店とかにはフードコートとかもあって日本料理も食べられる。ラーメンや牛タン丼とかありますな。まぁ味は保証しないけど」
「こっちでもラーメンとか人気なのか?」
「結構人気よ。二郎インスパイアとか魚介豚骨のつけ麺とか独自の進化ってよりかは日本の食文化を踏襲している店が多い。そういう店って基本日本人が経営してるからって理由だけども。味はそれゆえに美味い所もあるぞ」
「ほぅ」
いいことを聞いた。こっちのラーメンの味を確かめてやりたい。
「まぁ比企谷はラーメンにうるさいからお前の舌を満足させられるかどうかは分からんよ」
「別にそこまでうるさくはないぞ。俺がうるさいのはマッ缶に関してだけだ」
世の中にコーヒーとは二種類存在する。マッ缶とそうでないものだ。
「そっか。てか、ここの近くに俺がよく行ってたラーメン屋あるから空いてる時間にでも一緒に食べに行くか?」
「ここに来てまで日本食ってのもどうかとは思うが、まぁ一日くらいであればいっか」
「そう言いながらも結局毎日、日本食のレストランにいそいそと向かう比企谷であった」
「勝手にモノローグを入れなくていい」
「一日二日白飯食わないと本当恋しくなるからな。その感覚を味わうがいい」
「急に復讐心みたいなのに燃えてるが俺何かした?」
「準備は出来たの?」
丁度二人で話していたところに運営側との話が終了した智佐吹さんが戻ってきた。
「一応、形にはなっているとは思うんですけどどうでしょうか?」
「うん、まぁこんなもんでしょ。島田さんに後は細かい指示仰いでみて」
智佐吹さんの承諾を得た。周りの企業も同じくして万端のようだ。
「そんでこれからどうします?」
「トシはここに居て。三十分もすれば学生さん達来ると思うから。比企谷君はちょっと買い出しを頼みたい」
「いいですよ。英語が不調法なもので正しいものを買って来られるかどうかは分からないですが」
「はじめてのおつかいみたいな感覚でそれはそれで面白い」
「まぁ、大丈夫。これが買ってきてほしい物のリストね!トシ、一応これ全部英訳してあげて」
「了解しました〜」
芦間は内ポケットに忍ばせていたボールペンを取り出すと丁寧な文字でリストに書かれた日本語を英訳していった。なるほど、その日本語って英語だとそう言うのか。
「ほい」
「サンキュー。そんじゃあ、ぱぱっと行ってくるわ」
「おぅ。頼んだ」
「比企谷君。ついでに何か炭酸系のお水買ってきてもらってもいい?」
「分かりました」
自社ブースを離れて会場を出た。外の天気は相変わらず雲ひとつ無い晴天だった。水色のペンキを全面に塗ってあるかのように一色だ。湿気も少なく、過ごしやすいだろう。芦間はここら辺は住むには物価が高かったり諸々向いてないとか言ってたけど。
手頃なスタバに入ってフリーのネット環境に接続した。一番近くのスーパーの位置を確認するとスクリーンショットを撮って買い出しへと向かった。
スタバの出口で丁度入店してきた女性とぶつかりそうになった。
「っと、すみません…ってここアメリカだったか。あ、アイム、そ…」
「あ、日本語で大丈夫です。こちらこそすみません」
眼の前に居たのは黒髪の似合う大学生くらいの女性だった。身長は平均よりもやや高めだが、雪ノ下程ではないといったところか。髪の長さも相まって一瞬雪ノ下がアメリカにまで現れたのかと錯覚したが身体のある部分を見てそうではないと直ぐに分かった。どことは言いません。そうですよねニュートン先生?
「あれ?え、えーと。に、日本人?」
「…そうです、留学生で…。あそこのホールでのイベントに参加します」
モデルか女優と見間違うほどの美人だった。雪ノ下とはまた違ったクールビューティを醸し出している。
「そ、そうなのか。実は自分も参加することになっていて…。その、う、運営側だけど」
いかん、挙動不審になってる。日本語まで片言になってるのだから世話ないな。
「………」
ドン引きされたのかと思いきや、その少女は俺が首からぶら下げているネームカードに釘付けだった。自分の名前は書いていないものの、企業の名前は記載されている。彼女が興味を持っている企業だったのだろうか。その後、彼女は俺の顔とネームカードを代わる代わる見ている。照れちゃうから止めてね。うん。嬉しいけど。
「げ、もう三十分後に始まるから。行くわ、すまん。あと、良かったらうちの企業見に来てくれ。入って右側らへんにブースあるから」
翌々考えたらイベント前に戻らないとやばかった。そもそも出張で人手が足りていないのだから急がなければ。彼女には申し訳ないが。一応、弊社の宣伝だけ軽くやっておいた。言い方がキャッチっぽいけどナンパじゃないです。
「あ、待って…!」
少女が呼び止めたような気がしたが、スーパーマーケットに群がる企業の人間や学生達の集団が見えたので早くしないと間に合わんぞこれ。
メモをもう一度手に取って買うものを記憶した。
店内に入ると大きな空間が出迎えた。本当なら海外のスーパーってどんな感じなんだろうと散策したかったのだが、それはまた別の機会にしよう。赤い買い物かごを手に取って目的の品物がある場所を探し始めた。
————少女は困惑していた。
会場に入る前に一息つこうと入店したカフェ。そこであった男性がとても彼女が想っていた者にまるで瓜二つだったからだ。
そんなわけはない。何度も心にそう言い聞かせてみても彼のことが頭から離れなかった。
顔だけではない、声や口調までそっくりだった。彼女が知る彼は高校の時で止まっている。顔つきは凛々しくなっていた。あの彼が成長したらあのような顔立ちになるのだろうか。
ここは太平洋を越えたアメリカ大陸だ。彼は日本に居るはず。常識で考えてみろ。彼がこんな場所にやってくるというのは絵に描いた餅もいいところではないか。
それでも、一縷の望みを捨てることが出来ない自分がいる。こんなにも高揚したのはいつ以来だろうか。
少女はブラックコーヒーを手にとった。空いているカウンターに腰掛けると、もう一度彼の顔を思い浮かべた。
心臓の動悸が激しくなる。カフェインのせいだろうか。
コーヒーを口につけた。鞄に入れてある英文の履歴書を意味も無くもう一度確認した。
彼が首から下げていたのは彼女が面接をしようかと考えていた企業だった。何もかもが運命の様に感じてしまう。
少女は胸に手を当てると想い人の名を口にした。
「…………八幡」
続く
やっと、ここまで来た〜(;・∀・)
さて、次回いよいよ再会ですね。。。