-Side Hachiman-
この世界に“運命”という言葉が存在すると言われれば俺はそれを鼻で笑ってきた。何故なら“運命”とは存在しないからだ。結果とは皆全て過去の自分の行いと努力の果てにもたらされるものであり、因果応報である。
ネットでもてはやされる運命の赤い糸など馬鹿げている。彼らが最後まで永く続くなんてことはそうそう無い。一瞬の気の迷いや、早とちりがもたらした迷信に過ぎない。もし仮に赤い糸で結ばれていたなどと言っていた人間がめでたくその相手と結ばれたとしても単なる偶然の産物に過ぎないというだけのことだ。
そんな事をつらつらと述べて生きてきた人生だった。
しかし、今のこの状況を形容する言葉だが、“運命”という言葉以外に適当な表現が見つからない。
眼の前に居る女性…カフェでバッタリ出会った女性がまさか昔会った鶴見留美だったとは思ってもみなかった。
確かによく見てみると面影がある。長い黒髪に大きな吊目。身長は勿論あの時よりもかなり伸びている。身体もすっかり大人になっていた。
成長した姪っ子とかを久しぶりに見た時ってこんな気持ちになるのだろうか。もし小町に子供が出来たとしたら…いや、小町を誑かす男は万死なので一生甥っ子姪っ子はできないか。それはそれで残念な気にもなるがいた仕方ない。
留美の顔立ちは雪ノ下に似ているような気もするが彼女とはまた違った魅力を出していた。勿論、雪ノ下と同様に留美も誰も寄せ付けないような高嶺の花、気高さを感じさせる気品を持っている。体つきと言い、顔立ちといい正直…。
どストライクだ。
「…何か言ってよ、八幡」
留美が不機嫌そうに呟く。突然の思いもよらぬ再会にこちとら言葉を失っているのだからそれくらいは容赦して欲しい。
「あ、いや。その…。驚きが強すぎてだな。というかなんでお前が海外に居るんだ?」
「だから“お前”じゃない。留美」
「わ、悪い。その、る、留美がどうしてこんなところに居るんだ?」
「留学してるから。私、こっちの大学に通ってるの」
「そうなのか。にしても、あの留美が留学か」
「何か変?」
「あんまりそういう印象無かった」
「高校の時、国際教養科に居たからそういう進路も選択肢にあった」
「ん?もしかして留美。総武高校に行ったのか?」
「うん、そう」
留美も総武高校だったのか。黒髪ロングという点も同じなのでさながら雪ノ下二世だ。
「なら俺は先輩になるわけだな」
「一緒に通ってないじゃん」
「そういう事言うなし…」
「私、その言い方嫌い」
「お、おう。すまん」
久しぶりだというのに、あいも変わらず留美に圧倒された。そういうところは昔と同じなのね。
「…比企谷。お前、鶴見さんと知り合いだったのか?」
芦間が目を丸くしてやり取りを見ていた。智佐吹さんはさっきから呆然としている。
「ああ。まぁ話せば長いけど、十年くらい前にな」
「そりゃまた、随分と昔の話だな。さっき、彼女の履歴書を見て同じ高校出身だったからまさかなって話をしてたら、それが本当なんだからびっくりだわ」
「まさかの伏兵・・・」
智佐吹さんは何言ってるんだ…。とりあえず頼まれていた物が入った袋を差し出す。
「おう、お使いご苦労さん。なんというか、盛り上がっているところ非常に申し訳ないんだが、とりあえずこっちも選考やらがあるから積もる話は夜の食事会にでもどうだ?」
芦間に言われてから気づいたが、もう少しすれば面接の時刻というところまで時間が迫っていた。俺どんだけ店に居たんだよ。確かに見て回るの楽しくなっちゃってちょい寄り道してしまったけど。
「え、でも私食事会に誘われると決まったわけでは…」
「そんなこと言っても良いのか?食事会に呼ばれるのは個人面接に合格した人だけだし、食事会のこともそもそもシークレットじゃないのか?」
八百長のようにも見えてしまうと危惧したが、周りには誰もいなかったのでひとまず安心した。
「これくらいは前情報でバレてるから大丈夫大丈夫」
咄嗟に島田さんを見ると、やや肩をすくめていたが、問題ないといった表情だった。
「まぁ、彼女なら受かるでしょ。私は全く心配してないよ」
どこかへ旅行していた魂がようやく帰ってきた智佐吹さんが留美を励ました。
「今回の集団面接の選考は島田さんに一任してるのよね。あの人の好みに依るところは少なからずある……ってこれ以上は依怙贔屓になっちゃうから内容は言えないけど、後は頑張ってね!うまくいけばそのまま今日にも内定が出るから」
「ありがとうございます」
「一日で内定が決まるってのが海外の就活の違いよなぁ」
「確かに二次や三次も一日で終わらせるのは日本だとあまり考えられないな」
「まぁ、そうでもしないと日本に帰国してからもう一度会社に来てくださいってのもこういう場所でイベントやる意味も薄れちゃうしね〜。それに面接と面接の間にこっちの学生さんの熱も冷めちゃうでしょ?」
「それは確かに」
もしそれで将来性の高い人材を取り逃してしまったら元も子もない。このイベントに参加する費用も決して安くはない。ここに参加した全ての企業が海外人材の獲得に大金をはたいてやって来ている。何の成果も得られませんでした!じゃ洒落にならない。
「って留美。うち志望なのか?」
留美がどうしてこのブースに来てるのか。そもそもの話に戻ってしまうが、紆余曲折あってようやくその話題に焦点を合わせることが出来た。
「そうだけど」
「げ」
「何?」
「いや、何でもない…」
留美が弊社志望とは。コンサルか会計か。一応今回俺達はコンサル部門としてやって来たが、一応会計部門の採用も兼ねていた。会計部門は流石に俺達だけでは裁量が困難なので人間性と社風に人格が合っているかのみ島田さんや智佐吹さんが判断して、会計部門の人事で日本での二次選考がある。
「八幡」
「どうした?」
「……私が居ると嫌?」
留美が切なさそうな表情でこちらを見た。手を後ろで組んでいじらしそうに見上げてきた。小悪魔か己は。タイプすぎて直視出来ない。
「い、いや。そんなことはない」
我ながら見事なまでにキョドっている。
俺絶対今鼻の下伸びきってるだろうな。鏡を見なくても分かる。自分でもびっくりするくらいルミルミにデレデレだ。
「そっか。良かった」
留美は屈託のない年相応な可愛らしい笑顔で感情を表現した。
何この可愛い子。もう電話番号聞きたい。いやいや、何考えてんだ俺は。結衣に殺される。
「ねぇ、八幡」
「何だ?」
「夜は…居るの…?」
だからその聞き方はなんかこう変な気持ちになるから止めて!八幡心臓バックバクだから!
「お、おう。い、居るぞ」
「分かった。じゃあ、待ってて」
それだけ言うと留美は踵を返した。これまでになく強い言葉だった。
殺人的な笑顔だった。留美が居なくなったのを確認してからトイレに駆け込んで顔を洗った。
御手洗から帰ってきた後に、智佐吹さんにすごい剣幕で留美との関係を問い詰められた。芦間には二の句が告げないといった表情で冷ややかに見られたことは言うまでもない。
その後、留美は集団面接や個人面接を余裕で突破し、食事会に参加する運びとなった。
続く
ルミルミの成長した姿だけでご飯三杯はいける。
ルミ編はすでに書き終わっているのですが、想像以上にルミルミがメインヒロインになってしまったため、この作品大丈夫かなぁっとなっています。
原本の方は雪乃との浮気を書き始めているのですが、やはりゆきのんマジゆきのんなので多分大丈夫かなとは思います。
ここからはしばらく留美が中心となって話が進みます。
お楽しみにして頂ければ幸いです。
次回は5日後ぐらいの投稿を予定しておりますのでどうぞ宜しくお願いしますm(__)m