※この作品はR-18です。

雪の楽園   作:ホネ

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何話か前に達成していたのですが、総PVが100万を超えました。
本当にありがとうございますm(_ _)m

ノロノロな展開でそれなりにクセのある作品なのでそこまで閲覧数は伸びないと思っていたのですが、まさかここまでになるとは思ってもみなかったです(^_^;)

完結に向かってしっかりと頑張って参りますのでこれからもどうぞよろしくお願い致します。

では今回も.5話とはなっていますが実際、ほぼ三十三話のようなものなのでそう思って読んで頂ければと思います。




第三十二.五話 Part.B

-Side Hachiman-

 

会議を終えてようやく部屋で落ち着く時間を得ると時刻は既に夜の10時だった。時差ボケも相まってかなりの気怠さが身体に降りかかる。このラグが抜ける頃にはまた日本に帰国になるのだから面倒なことこの上ない。

「ふぅ、流石に身体に堪えるな…」

俺ももうすぐ三十路になる。 総武高校時代の平塚先生と同じ年齢になってしまっていた。流石に身体の衰えを節々に覚える歳になってきたがそう考えるとあの人この歳でよくあんなにもエネルギッシュに動けたよなぁ…。片や俺はというと、学生時代からあまり身体を動かすことをしてきていないが故に生活習慣病も心配される。

ん?通知がある。

スマホの新着メッセージを確認した。

『仕事大丈夫?もしかして、会えない?』

留美からだった。食事会で解散した後、会議もあって留美に返信出来ていなかった。そして今日も仲介企業との脈づくりに奔走していた。留美を随分と待たせてしまっている。部屋に着いて、服を着替える前にLINEを立ち上げて留美に返信した。

『すまん、ようやく仕事が落ち着いた。明日なら午後から時間が作れるがそっちの予定は?』

同じくして一色や結衣からのメッセージに返信をしようとしたその時スマホのバイブレーションが手に伝わる。

『うん大丈夫』

留美からだった。見るの早いな。

『そうか。どこで会うのが都合が良い?』

『八幡の泊まっているホテルの近くでいい』

『いいのか?』

『逆に私の大学の近くだと知り合いとかに会いそうだから』

『そうか』

確かに、あまり俺たちが公で会うのは好ましくないだろう。俺も一応既婚者ではあるのだし。

『ホテルの近くにカフェとかある?』

『直ぐそこにスタバがあった』

『じゃあそこにしよ』

『分かった。昼飯はどうする?』

『今日の夜の残りがある。こっちで食べてから行くから八幡も先に食べておいて』

『了解した。てか、留美は料理するのか?』

『外食だとお金がかかるから一人で食べる時はいつも作ってた。今は寮に住んでいるから作らないけど』

『偉いな』

『そうでもない。サラダだけで終わらせちゃうことが殆どだったよ。だからそんなにしっかりと主婦みたいな感じで料理するわけじゃない』

『そうか。それでも今時の女子は料理の“り”の字も知らないのが少なくないから勉強と両立させながらやっているのは中々出来ることじゃないぞ』

『うん、ありがとう』

褒めると素直に受け入れるあたり留美らしくもないと感じてしまう俺は捻くれているのだろうか。

『俺なんか一人で生活してた時は毎回コンビニ弁当だったわ』

『八幡不健康じゃん。奥さんは料理する人なの?』

『まぁ料理はするが、味は、うん、そうだな、最初は食えたものじゃなかった』

『今は大丈夫なの?今度何か作ってあげよっか?』

『機会があれば食ってみたい』

『なら明日は無理だけど、今度食べさせてあげる』

あれ?なんか二回目の約束もされた気がする。気のせいだよな?うん、きっとそうだ。

『話がそれてしまったから戻すけど、纏めるとスタバに二時とかでいいのか?』

『うん。それで私も大丈夫』

『おk、じゃあその予定で』

『ねぇ八幡』

『なんだ?』

『明日は長く一緒に居られる?』

え、何この可愛い女の子。思わずグッと来ちゃいましたよ。

『あぁ、明日は夜も空いているぞ』

『そっか』

翌々考えたらこの言い方もまずかった気がする。

『まぁ積もる話もお互いあるだろうから丁度良いんじゃないか?』

『うん。明日楽しみにしてる』

『おぅ、俺も楽しみだ』

『じゃあそろそろ寝るね。昨日遅くまで起きてたから』

『分かった。ゆっくり休め。あと、明日よろしくな』

『ありがと、おやすみ。あと、こちらこそ明日よろしく』

 

留美とのチャットを終えた俺は携帯を充電器に接続した。疲弊した身体をベッドの上に投げ出す。暖色の間接照明の光が目に入る。ベッド横の小机に置いてあるパッド端末を手に取った。最近はこれ一つでカーテンの開閉や電気の明るさの調節を行えるらしい。もはや動かずして寝る準備を出来るとは驚きだ。ゆくゆくは働かなくても済むような便利な世の中になればいい。流石に現代科学でも着替えやシャワーは自分でやらなければならないのでベッドの上を転がるようにして床に降り立った。

流石それなりに良いホテルだけあってベッドの感触も非常に良い。ただ一つ申したいことがあるとすれば枕が柔らかすぎる。そば殻とか固い方が俺にとっては寝やすい。このホテルに置かれていた物は最早枕というよりはクッションだった。

その時だった。スマートフォンが着信を告げる声をあげる。

画面には一色いろはと表示されていた。そういえば、毎晩電話するようにと半ば強引に約束させられていた気がする。

「はい、比企谷です」

一応、形式的な言葉で電話に応じた。

『…先輩、私の名前ちゃんと画面に表示されてましたよね?』

「まぁな。もしかしたら電話の相手が一色じゃない可能性もある」

『私は別に自分の携帯を人に渡したりしませんよ…』

そんなに他人行儀だったのが悪かったのだろうか。今になってこれくらいで起こられるような関係でもない気がするが。

 

『先輩は今一人ですか?』

「おぅ、今はホテルの部屋にいるからな」

『良かったです。智佐吹さんが部屋に押しかけてきてないか心配でしたが』

「まぁ、あの人もそこまではやらないだろ」

『そこまでは…?』

「あ、いや。別にそれ以外に何かあったわけじゃないぞ」

『ふーん。そうですか。本当に?』

しまった。こんな早々に墓穴を掘るとは思わなかった。

『せんぱーい?返事が聞こえないんですけど、もしかしてマイクとか切っちゃってます?』

端末越しに聴こえる一色の声は疑惑を含んでいた。間違いなく胡乱(うろん)な眼で受話器越しに俺を見ているに違いない。

「お、おぅ。悪い、流石に海外だからな。どうにも通信環境が良くないらしい」

『そういえば国際電話でしたもんねこれ。まぁ通話無料のアプリからの電話なんでお金かからないですけどね☆』

「まぁそうだな」

どうやら一色は納得したらしい。

『ふむふむ。まぁいいでしょう。それで、今日もまた忙しかったんですか?』

一色の声が大きく聴こえた。

「ま、まぁな。今日は会食だったからな。人に気を遣うってのはどうにも落ち着く時間がなくてしんどい」

『私も生徒会長やってた時はそんなことばっかりで正直うんざりでしたね。大学に入ってからはそういうのきっぱり止めたから今やれって言われると絶対顔に出ちゃいそうで…』

「お前は高校の時から顔に出てたぞ」

『え!?本当ですか!?自分では出来ているつもりだったのに…』

「いや、お前あれ隠す気なかっただろ」

『あ、やっぱりバレちゃいました?☆』

「何故ばれないと思った…」

『えへへ。そんなのバレると分かってやるネタじゃないですか〜。先輩だってそれ分かってて言ってるでしょ?』

「まぁな」

『話ちょっと変わるんですけど、昨日の就活のイベントって要は採用面接ですよね?私とも同僚になるかもって人になるわけで、誰か良さそうな人っていました?』

急に真面目な話になったな。

「良さそうってのはどういう意味だ?」

『うーんと、まぁ先輩や私と仲良く出来そうな人…かなぁ』

「そりゃあ稀有なやつを探さないといけないぞ。でも、良さそうな奴はいたな…」

『へぇ〜、それってどんな人ですか?仕事が出来る人って感じですか?それとも先輩の好みの女性って意味ですか』

後半一色の語気が強くなっていたのは気にしないようにしよう。

「凄く仕事ができそうって意味だな。というかお前も実は会ったことあるやつだぞ」

『え、そんな今就活やってるぐらいの年齢の子とわたし知り合いじゃないですよ?』

「まぁ知り合いっつーかちょっとだけ関わりがあるって言った方が良いかもしれん。ほら、覚えてるか?俺たちがクリスマスイベントを合同でやった時に小学生達と協力しただろ。その時に俺が一緒に折り紙折ってた奴」

『………。ゔぇ!?』

「おい、今女性ならざる声を上げてたが大丈夫か?」

『う………おぉぉぉ。あ”あ”あ”〜〜。だまぎざんのい”う”どおり”にぃぃぃ”ぃ”… 』

通信環境が悪いのか一色が壊れたのか分からないが、とにかくいろはすがヤバイことになっている。

「ちょ、ちょっと、一色さん?」

『歳下属性で被った…しかも、絶対美人…。私より歳下…』

ぶつぶつと一色が電話越しに呟く。

『因みにですけど、先輩。その子は先輩の事を覚えていたんですか!?』

一色の剣幕の凄みが声だけでも分かった。

「お、おぅ。覚えてたぞ」

『そう…ですか。はい。了解です』

今度は逆に機械的な回答だった。いろはすの情緒が著しく不安定なう。

『ち、因みにですけど、連絡先の交換とかしちゃった系ですか?』

因みにですけどが多いなお前…。

最終確認のように一色が問いかける。

「ま、まぁしたな。留美の方から聞いてきたから」

『”留美”…!ふむふむ。とりあえず一回処刑と…』

「ちょっと、何不審なメモを取り始めてるんですか、一色さん?」

『先輩。もう一個だけ聞きます。その子と会う予定はありますか?』

「あ、明日。スタバで久しぶりに二人で話さないかと言われ…」

『よし。もう十分です』

「え、何が?」

『先輩』

「はい」

しばしの沈黙が流れる。気味の悪い静寂が部屋全体を包み込んでいた。

『日本帰ってきたら覚悟しといて下さいね♪ではまた明日です☆』

通話が切れた。

表示される通話時間の表示がまるで死刑宣告書のように思えてしまう。

どうしよう、嫌な予感しかしない。ちょっと延長でこっちに滞在できる方法とか探したほうが良い気がする。

 

 

・・・。

 

 

———千葉県、とある会社のオフィスにて…

「なぁ、最近雪ノ下さん、元気なくないか?」

「ですよね…。比企谷さんが出向に来なくなってからあからさまに魂が抜けたような顔つきになってますよ」

昼の休憩時間に入って一息ついている社員達は顔を合わせて上司の様子を案じていた。二人は軽食をオフィスの机で取りながら雪乃を観察している。

雪乃の仕事に身が入っていないのは火を見るよりも明らかだった。彼女らしくもない凡ミスを連発し、業務中の溜息は倍近く増えていた。

雪乃は時折、小さな紙を財布から取り出してずっと眺めていた。それが何なのかは社員達からは見えなかったが、恐らく誰かの名刺であることは容易に予想がついた。

「雪乃ちゃ〜ん!いる〜?」

溌剌とした声と共に雪ノ下陽乃がオフィスにやって来た。ただでさえ顔色がすぐれない雪乃の表情に更に陰りが増した。

「…何かしら、姉さん」

雪乃は諦念のこもった声で答えた。避難するような雪乃の視線にもどこ吹く風の姉は陽気な表情を崩さない。

「う〜んちょっとね。可愛い妹の様子を見に来ただけだよ?」

「どうぞお引取り下さい、雪ノ下さん」

「もう、いけずぅ〜!今日もちゃんと話があって来たんだから」

「用も無いのに来る日が殆どじゃないの」

押し返そうとする雪乃を遮るようにして陽乃が制止した。

「…それで、何の用かしら?」

「そのことなんだけどね。ちょっと場所を変えない?」

陽乃は雪乃に移動するように促した。

「分かったわ」

雪乃は大人しく応じることにした。

 

 

雪乃が自動販売機の椅子の前に腰掛けると、陽乃が口火を切った。

「最近調子はどう?」

缶コーヒーを飲みながら雪乃の隣に座る。脚を組みながらリラックスした様子を見せていた。同じスーツ姿の姉妹の表情は全く逆のものだった。

「どうと言われても、別に私はいつもと変わらないのだけれど」

「本当に?」

陽乃が厭味ったらしく雪乃に詰め寄る。いつもよりも気が立っているのもあって雪乃は不快感を露にした。

「どういう意味よ?」

「そのまんまの意味」

陽乃は至って真面目に答えた。彼女がわざとらしく足を組み替える。それがまた、雪乃の神経を荒立てた。

「聞いたよ〜。比企谷くんが会社に来なくなってから、雪乃ちゃんの様子がおかしいって。社員の皆が噂しているみたいだけど」

「…っ!根も葉もない噂ね…」

雪乃は自分が激しく動揺しているのが分かった。言われたくない事実を突きつけられた。雪乃はその心の揺らぎを隠すことが出来るほど器用ではない。

「そっか。なら良いんだけどね」

コーヒーを伸びながらこの張り詰めた空気に相応しくないような明るい声で話す。

「そうだ!比企谷くん、今度ご飯にでも誘ってみよっかな〜♪」

「…どうしてかしら?」

「別に〜。もう仕事の関係も終わったことだし、久しぶりにプライベートで会ってみるのもいいかなぁって。私さ、比企谷くん好きだしさ〜」

陽乃は雪乃を見ながら言う。

「か、彼と今更何を話すことがあるのかしら?ましてや彼には奥さんがいるのだから、女性と二人でむやみに食事を取るとは思えないのだけれど。それに、姉さんは比企谷くんにあまり好かれていないのだから、彼が承諾する可能性はそもそもゼロに等しいのではないかと思うの。そういった事は冗談でも止めてもらえないかしら」

息継ぎも無く一度で言い終えた愛妹に長女は賛美の拍手を送った。

「ふふふ。比企谷くんの事となるとやけに饒舌になるね〜、雪乃ちゃんは♪」

「……」

完全に弄ばれていた。陽乃は雪乃の反応を分かっていて言葉を選んでいる。果たしてそれは雪乃を焚きつける為なのか、はたまた本心なのかは雪乃には分からなかった。

「姉さんが変なことを言い出すからでしょう?」

「ごめんごめん。そっか、()()()()()()のは駄目なんだ?」

「………っ!」

雪乃は自分の姉が何を言わんとしているのかを察した。

やめろ。

その言葉を口にするな。

目を背けていた事実を今更えぐり出そうとするな。

雪乃はそう告げる眼で姉を見た。

しかし彼女が止まるはずもない。分かっているはずがどうしてもそれが認められなかった。

 

 

「ガハマちゃんは良かったの?」

 

 

「何が言いたいの!」

 

雪乃は声を激しく荒立てた。誰もいない休憩所に悲痛の声が木霊した。

対して、陽乃は冷ややかに彼女を見つめる。

陽乃はまた脚を組みかえるとコーヒーを一口含んだ。

「それが今の雪乃ちゃんじゃない。ガハマちゃんに大人しく比企谷くんを渡して、都合良く利用されただけ。それなのに義理堅く彼女のためだと身を引いて、自分は何の得もしない。ようやく取り返しがつかなくなったことに気づいて、後悔に押しつぶされている。このアルミ缶みたいに空っぽで簡単に潰れちゃいそうな女の子♫」

中身のなくなった缶を揺らしながら雪乃を見上げていた。雪乃はその揺らぎをじっと見つめている。

「か…彼女は…由比ヶ浜さんは…。友達よ…!」

「そっか〜。それで、その()()()は雪乃ちゃんに何をしてくれたの?」

「……………それは」

陽乃はじりじりと雪乃ににじり寄る。

「結局、何か連絡でも取ったり、その後のケアでもしてあげてた?無かったよね〜。そりゃあそうだよ。雪乃ちゃんが一緒に居られなくなるのを分かっててやってるんだからさ」

「彼女は、、、そんなことする人じゃない……」

雪乃の声がか細くなる。陽乃に言われた一言は雪乃とて頭によぎったことが全く無いわけではなかったからだ。

「じゃあなんで雪乃ちゃんは今そんなに苦しそうなの?それは誰のせい?」

「………別に、私は。苦しく、、ない、、、わ」

「じゃあ比企谷君の名刺を毎日のように眺めているのはなんで?」

「…………!ど、どうして、それを…」

陽乃は知っていたわけではなかった。だが、オフィスに入る前、雪乃が熱心に名刺サイズの紙をじっと見つめていたのを見て、そうだろうと予測しただけだった。

「今にも泣きそうだったんだよ雪乃ちゃん。自分で分かってないのかな?」

「そ、、、、そんなことは…」

そんなはずはない。雪乃の最後の拠り所だった堤防に亀裂が入る。

「じゃあさ。今のままでいいの?」

「………っ。私は」

分かっている。今のままでは心が潰れてしまうことくらい。

「ガハマちゃんと比企谷くんの幸せそうな生活を遠くから眺める人生を一生送るつもり?」

「やめて…、姉さん………。お願いだから…」

雪乃は今にも崩れ落ちそうだった。首の皮一枚で繋ぎ止めていた自我が音を立てて崩れ落ちようとしている。

「ねぇ、雪乃ちゃん」

陽乃は立ち上がると震える妹を支えるように手を添えた。そして、用意していたカードを切るように雪乃の耳元で深奥に潜む闇をえぐり出す。

 

「…嫌なんでしょ?ガハマちゃんに比企谷くんを盗られたことが」

 

「!」

耳元で陽乃の声がまとわりつくように離れない。捨てたはずの感情がまたこみ上げてきた。愛憎に満ちた彼への想い。断ち切る事ができず未だに雪乃の心の奥底深くにゆっくりと根を伸ばしていたようだ。欲望と恋慕の本流が血液となって全身を駆け巡り雪乃の身体を熱くさせた。

「………私は」

苦しい。

手が届く場所にいたはずの彼の残像を、届かなくなった今も追い続けている自分が情けない。

 

 

————あたしが勝ったら全部貰う。

 

それでも構わないと想っていた。それが一番だと思っていた。

現実は違った。

比企谷八幡の隣で笑う親友の顔。

徐々に作られていく二人の空間。

そこに自分の居場所などはじめから存在していない。

三人で一緒になどと虫の良い話があるはずがない。

結果はやり直しの効かない大きな溝が自分の前に刻まれただけだった。

雪乃はただその溝が深くなるのを目の前でじっと眺めることしか許されなかった。

二人は自分のことを振り返ったか。

八幡は見てくれた。

でも彼女は一度とて振り向きもしなかった。

そして二人は溝を深くしたまま永遠の花園へとその姿を消していった。

 

ひどく後悔した。

やり直そうと花園に無断で踏み入り、高校の卒業式に彼に思いを告げた。

彼はそれを拒んだ。

分かっていたはずなのにひどく落ち込んだ夜だった。

どうして駄目だったのだろうか。

理由は明白だ。

雪乃が先に彼を拒んだからだ。

あの時、彼は手を差し伸べていた。

雪乃はその手を取らなかった。

変わらないという選択肢があると思っていた。

このままでいられるはずがない。

どうしてそんな簡単なことに気づかなかったのか。

どうして前へ進むことを躊躇ってしまったのか。

どうして彼女の方の手を取ってしまったのか。

雪ノ下雪乃はいつも遅すぎた。

雪ノ下雪乃はいつも誰かに答えを委ねすぎた。

 

「……………私は、、、」

 

雪ノ下雪乃が今一番欲しいものは何か。

 

それは明白だ。

そのためには何をすべきか。

そのためには何が必要か。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

「………………………私は、、、、、、」

 

雪ノ下雪乃は思案する。

由比ヶ浜結衣がどうして彼の隣に居るのだろう。

どうして隣に居るのが自分ではないのだろう。

制御のきかないエゴイズムが顔を出し始める。

果たして彼女は彼にふさわしいだろうか。

彼は彼女が隣に居ることで心の底から笑えているのだろうか。

 

決まっている。

 

それは否だ。

 

そうだ。

 

自分こそがふさわしい。

 

「………………………………私は、、、、、、、」

 

由比ヶ浜結衣は彼の伴侶として不適当だ。

ならば誰が相応しい?

 

愚問だ。

自分以外に誰が居るというのか?

 

彼を一番幸せにできるのは自分しか居ない。

 

 

欲しい。

 

彼が欲しい。

 

どうしようもなく比企谷八幡が欲しい。

 

彼を手に入れそして自分を彼のものにしてほしい。

 

雪ノ下雪乃の中に答えが生まれた。

 

 

全てを捨てででも欲しい本物。

偽物だろうと関係無い。

 

もう自分の気持ちに嘘はつかない。

 

 

「私は……比企谷くんの隣に居たい…」

 

 

続く

 




今まで使っていなかったのですが、多機能フォームを使ってあんまり見ない漢字や重要なセンテンスに傍点をふるといった事を今回になってようやく始めてみました。
圧倒的今更感……。

正直、何だよこの字って思われた時があったやもしれません(^_^;)
いやはや申し訳ないm(_ _)m

さて、次回の投稿も一応5日後を予定しております。
ルミルミ編に戻りますね^^
お楽しみにして頂ければ幸いです☆
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