眠りから覚めるとカーテンの隙間からLEDのようなまばゆい太陽光が差し込んでいた。どうやらもう一日の始まりを迎えたようだ。
気怠い朝だ。
肌寒い。こっちの朝は妙に冷え込む。気候でいうと地中海性気候に近い。一年通して極端な気温の変化というものは無く、殆ど衣替えをせずに過ごすことが出来るらしい。実際、芦間は一年中パーカーと長袖、シャツを組み合わせるだけで過ごしていたという。
「う・・・・ん。起きるか…」
ベッドの端に座り携帯を見る。時計は朝の九時を指していた。留美との待ち合わせまでには多少余裕があった。それでも一度外に出て気分を入れ替えなければ彼女に合わせる顔がないような気分だった。
一先ずうがいをした。口の中がさっぱりしていないとどうにも気持ち悪くて仕方がない。冷蔵庫の中に入れてあったオレンジジュースを手にとった。外国の飲み物は得体の知れない色の物が多くお味の方は全くもって信用ならないがオレンジジュースだけは裏切らない。さっぱりと舌味わいと口の中を浄化する柑橘系の香りがスイッチを入れる燃料になった。
歯磨きや着替えなどを終えてロビーへ降りてみた。イベントの買い出しで一人になったことはあったものの、こうして海外の土地を一人落ち着いて歩くというのはこれが初めてだった。
何処か歩いてみようと思い立って外に出てみたが、徒歩で行ける範囲など限られている。ましてやこの国は広大な国土故の車社会だ。ホテルの外に出た瞬間に出迎えられた大きなロータリーの存在を見て、既に部屋に帰ってゆっくりでもしていた方が良いんじゃないかという気持ちに傾きつつあった。
外出したの理由は集合場所の下見だ。実際に集まるとなって場所が分からないとなってあたふたしたくなかったのでとりあえず、身体を慣らすためにも歩いてみたかった。
高い建物が少ないな。道路沿いに構える店は軒並み一階建てだった。ピザ屋、靴屋、ガソリンスタンド。それらの間にふらっとガンショップがあるのが日本との大きな違いだろう。佇まいはコンクリートの大きな小屋のよう。何の違和感もなく普通に鎮座しているのがまた当たり前にあるような雰囲気を醸し出している。流石に鉄格子は店の窓ガラスにもしっかりと整備されてはいるが。上の看板がなければ一目で分からない。2ブロックほど歩いた先に件の待ち合わせ場所があった。席は15席程のこちらにしてはやや小さめの広さ。とはいえ、アメリカは日本のコンビニと同じくらいスタバが点在しているので、混雑はないのだろう。芦間に聞いた話だが、一日中コーヒーたった一杯で粘っても問題ないらしい。
留美が来るまであと2時間程あるな。それまで一度帰って部屋でゆっくりでもするか。
「あれ…」
後ろで聞き覚えのある声がする。日本語か?こんな場所で聞ける言語じゃないはずだが。
後ろを振り返って声の主を確かめる。
「な、なんでもう居るの…?」
留美だった。
何度確かめても留美だった。まごうことなきルミルミだった。
「は、早いな」
「八幡こそ。もしかして、私、待ち合わせ時間、間違えて教えた?」
「いや、二時に集合って話だったぞ」
「そう…」
留美は予想外だったのか咄嗟に髪を直している。先日会った時は違い、髪を下ろしている。服装は白いブラウスに、紺色のワンピース。昔のようにピンクのベレー帽をかぶっていた。
「もう。まだ全然セットしてないんだけど……」
「…すまん」
「いいよ。それで、何でこんな時間に来てるの?」
店の前で二人立って会話をする。入り口の前でバッタリ会ったので、邪魔にならないように袖に移動しながら留美は問いただした。
「その、集合場所を下見でもしとこうかなと思ってだな。てか、留美はどうしてこんなに早く来てるんだ?」
「午前中に勉強しておきたかったの。早めに来て課題とか終わらせようと思ったから。そしたら八幡がいた」
殊勝だな。こんな時も勉強とは。それだけこっちは大変ということか。
「そうか。なら俺は改めて来たほうが良さそうだな」
「待って」
踵を返そうとしたが、留美に袖を引っ張られた。留美はうつむきながら切なそうに声を漏らす。
「どうした留美?」
「……入ろ?」
その誤解を生むような可愛い発言なんとかなりませんかね。
店内にはパソコンを開いて資料を熱心に眺めている白人の男性が一人、本を読みながらまったりとしている黒人の女性が座っているだけだった。列に並びながらカウンター後ろのメニューを見る。
「サイズの表記はほぼ同じか」
こっちにはshortサイズの表記がないのか。ボードを見ると一番小さいのがtallサイズ、次いでgrande、venti。最後のはあんまり見たことはないが日本にもあるサイズだった気がする。どうやらshortもあることにはあるらしい。
「ventiよりも大きいtrentaっていうのもあるよ。1リットルぐらいの量の」
「マジか、そんなに飲むやつもいるんだな。…というか本当に良かったのか?課題やらなくても」
「再来週までのものだから問題ないよ。来週の分は全部終わってるから」
「優秀だな。こっちの勉強量は半端じゃないって聞いてたが」
「うん、結構多い。でもなんとか今は調整出来てる」
留美は満更でもなさそうだった。案外、素直に褒められると弱いのかもしれない。
そうこうしているうちに俺たちが会計の番になった。
若い男性の溌剌とした挨拶に
「八幡は何頼むの?」
「そうだな。苦いのはあんまり好きじゃないから出来れば甘いのが飲みたい」
「キャラメルマキアートとか?」
「それも良いかもしれん。因みにこっちだけで売ってる特別なメニューとかあったりするのか?」
「そんなのないと思う。日本にあるのと変わらないかな」
「じゃあ、留美と同じので」
「私、ブラックコーヒーだよ?」
「……キャラメルマキアートで」
「サイズは?」
「grandeで」
「じゃあ私もそうする」
ちょっとカッコつけて言ってみたらエライことになった。流石にブラックは未だに苦手意識がある。留美は流暢な英語で店員さんに注文していた。まるで目の前にいる女性が留美の人間に入った別の人格のように思えてしまうほどだった。
「やっぱ、こっちにいるとそれぐらいは喋れるようにはなるのか?」
「まぁ、ね。でも話せるようになるには、日本人と一緒に居すぎないようにするのが大事」
会計を終えて受け取り口の方へ移動しながら留美が首肯した。
「なるほどな」
「日本人と一緒に居すぎて結局遊んでるだけの人のことを遊学生って呼ぶの」
「留学生って言葉を文字って揶揄してるのな」
「うん。そうみたい」
「とはいえそれを避けるために、日本人とは誰とも話さないってのは違うよなぁ。留美はこっちで日本人の知り合いとかは居るのか?」
「何人かは話す仲だよ。親友って呼べる程じゃないけど。でも知らない日本人に話しかけられることは最近多いかな」
「あー…それ、めんどくさいな」
「うん。しかも男の人からとかだと何でいきなり馴れ馴れしくしてるんだろうってなる」
「留美目当てなんだろうな」
「興味無いって周りに言ってるんだけどね。ばっかみたい」
丁度、店員さんが俺たちが注文した飲み物が準備できたらしい。大きな声で“ルミ!”と呼ばれていた。こっちでは注文した物ではなく、名前で呼ばれるようだ。よく見たらもらったカップに名前と商品のコードがマジックで書かれていた。
カップは3つあった。どうやら一つは水のようだ。留美が頼んでいたのだろうか。
「はい、八幡の分」
俺のらしい。気が利く女性だ。というか水が入っているカップの大きさがよく見たらventiだった。店員さん、どんだけ豪快に渡すんだよ…。無料サービスのスケールが想像を越えてきた。
「あっちの奥空いてる」
「留美が指差した先に高めの机と椅子2つがあった。人通りの少なさそうな道がガラス越しにある。あまり人通りがなく落ち着いて静かに話すにはうってつけな席だった。俺たちはそこに腰掛けると、高さはあるが面積は小さな机の上に飲み物を置いて一息ついた。
「八幡の会社、受かったよ」
留美からの報告にそれ程驚きはしなかった。前日に聞いていたからということもあったが、何よりも面接を担当した二人の上司の彼女に対する評価が非情に高かったからだ。色眼鏡で見なかったとしても順当に合格すると踏んでいた。
「そうか。でも、他に受けてみるんだろ?11月にも大きなイベントあるみたいだが」
「うん。一応行くよ。でも今のところ八幡の会社が第一希望」
「うちに入るとしたら何処の部署になりそうなんだ?」
「会計とコンサル両方行けるから考え中。もしかしたら八幡の後輩になるかもね」
「げ、マジでそしたら本当に俺の班になるかもしれないな。智佐吹さん、留美のことを相当気にいってたし」
「あの髪の長い美人さんが?私、そんなに人に好かれるタイプじゃないと思うんだけど」
留美は照れくさそうに前髪をいじっている。時折、こちらの様子を見るようにちらと目があうのが心臓に悪い。私服の留美は本当に可愛かった。ビジネススーツからカジュアルな格好になった瞬間、見違えるほどに色香が増していた。肩の滑らかな曲線から腕にかけて伸びる細く白い腕。主張しすぎず、しかし、男を捕らえて逃さない抜群のプロポーション。長いまつげと吸い込まれるような澄んだ目。雪ノ下を彷彿とさせるような長く美しい黒髪に、添えられた可愛らしい帽子がギャップを見事に生み出している。カフェでコーヒーを待つ男たちが羨ましそうに俺の席を睨んでいる。その様子に否定できない優越感を感じる自分がいる。それ程の魔性の魅力を兼ね備えている女性が鶴見留美という女性だった。
「留美も相当な美人だと思うけどな」
「え」
いかん。思わず声に出てしまった。露骨に褒めすぎたかもしれない。
留美はというと顔を赤く染めてそっぽを向いていた。そのまま徐に口をひらくと「ありがと…」呟く彼女にこちらも赤面した。水の入った大きなカップを持ってストローを咥える。口に広がる水の冷たさが食堂を通過して胃に到達するのが分かった。
「八幡ってさ、いつもそうやって女の人を口説いてるの?」
唐突に留美が人聞きの悪いことを言い出した。
「失礼だな急に…。俺は別に口説いたりはしてない。大体、俺が口説いたところでその気になる女性がいるとは思えん」
「そんなこともないと思うけど…」
「あぁ、まぁあれだ。少なくとも結衣はそうだったかもしれん」
「八幡の奥さんって八幡が口説いたの?」
「その言い方だと語弊があるか。正確には、嫁からの猛アタックだった」
「でも最初は八幡が奥さんに気を引かせるようなことしたんじゃない?」
「身に覚えがない…といえば嘘になるな。入学前にあいつの飼っていた犬を助けたことがあった。当時はその義理もあって、話すようになったと思う」
今思い出せば懐かしい出来事だ。あの一件で、俺の高校生活のぼっちが確定したし、その流れで奉仕部にはいることになったんだからな。それが結果として結衣と結婚するまでになるのだから本当に人生は分からないものだ。
「へぇ〜。八幡にもそうやって男らしいことする時期があったんだ」
「こら、今はもうそんな根性が無いみたいな言い方するんじゃありません」
「根性もなければ甲斐性もなさそう。私のこと口説いてたし」
「ぐ…そ、それは。ほ、褒め言葉くらい、嫁相手じゃなくても言うだろ?」
「ふーん。じゃあ他の女の人にもあんなこといっぱい言ってるんだ…?」
途端に留美の表情から笑顔が消えた。コーヒーの入ったカップを口元に当てながら覗き見るようにこちらを睨んでいる。
「こ、言葉の綾だろ…。別に誰彼構わず言ってるわけじゃない。ちゃんと相手を選んでいるつもりだ」
「じゃあ今まで奥さん以外に誰に言ったことあるの?」
「こういうことをか?」
「うん、面と向かって言うなんて八幡の性格考えたらそうそう無いと思うんだけど」
「そうだなぁ…」
一色に言ったことは…。無いな。あいつが調子に乗ってしまうからそういう事は絶対に言わないようにしてたし。玉木さんは恥ずかしくて言えない。そもそも普通に話すのでも精一杯なのに言えるわけがない。智佐吹さんは最近まで、仕事上の会話しかしたことがない。雪ノ下…。う、うん。あ、あるな…。あと戸塚には会う度に言ってる。
というか…。
「なんで、そんな事言わなきゃならんのだ?」
いかんいかん。危うく答えそうになったぞ。別に言う必要は無いではないか。留美のペースにいつの間にか乗せられていた。
「……なんだ。八幡つまんない」
「ぶーたれても言わないからな…」
「じゃあ言ったことはあるんだ?」
「舌の根も乾かぬうちに誘導尋問始めないでくれませんかね…」
留美は意外と色恋沙汰に興味があるのだろうか。そういった話は毛嫌いしていそうなイメージがあるんだが。
「別に私、普段はこういう話しないよ?」
なんでお前も読心術が使えるんだ。芦間と玉木さんだけで十分だ。いや、玉木さんのはマインドスキャンだけど。
「あの黒髪の人でしょ?」
「……ノーコメントだ」
絶対アタリでしょとドヤ顔でいう留美の追及をゴリ押しで突破した。それはとてもデリケートな問題なので言及出来ません。
その後は留美のこちらでの生活の話を聞きながらゆったりとした時間が過ぎていった。
「八幡はいつ日本に帰るの?」
「三日後だな。明日は仕事で、明後日は自由時間になってる」
それを聴いて留美が身を乗り出してきた。
「そうなんだ。じゃ、じゃあさ。明後日私たちのイベントに来てみない?」
「イベント?」
そういえば留美は日本人会に所属していると言っていた。それ関連のものだろうか。
「なんかね。私が所属してる日本人会でクラブイベントやるみたいなんだけどさ。人はそこそこ集まってるんだけど…。わ、私、運営で暇になるから来て欲しい」
留美は控えめな声で言う。
「クラブってあのクラブか?」
「あのって、八幡がゴルフの道具を言ってるのか、カニを英語で言っているのか、部活関連の事を言っているのかよく分からないけど踊ったりするやつのクラブだよ」
「それだそれ。パリピのやつ」
「別にそれだけじゃないけどね」
まぁそんな感じと留美が同意した。
「運営って暇になるものなのか?」
「こ、こういうイベントって準備の方が大変で当日はそこまでやること無い、から」
「なるほど。要は留美の暇つぶしに付き合えと…?まぁ、特に他に予定も無いから構わんが」
「あ、あと。男の人が多分言い寄ってきて、嫌だから…」
後者が本当の理由か。
「日本人会の人間関係で嫌なことでもあったのか?」
「う、うん。会長に口説かれてるんだけど…。断れそうになくて。強引に一緒のシフトに組まれちゃった。それに、他にもいっぱい会うのが嫌な人が居て…」
「権力の悪用も甚だしいな」
留美の容姿ならモテない方がおかしい。盛っている大学生なのだから余計にだろう。
「じ、自由時間まで一緒に居ようとしてるから本当は休みたいんだけど、立場もあるし…。は、八幡が来るなら、大丈夫な気がする…」
「事情はなんとなく分かったが良いのか?俺と居るとそれはそれで悪目立ちしそうだが…」
「い、良いよ。八幡なら…」
留美は真っ赤になった顔で完璧な笑顔を見せた。何この可愛い子。守ってあげたくなる。
「そ、、、そうか。留美が良いなら俺は、大丈夫だ」
「うん、ありがと…」
え、何。この空気。恥ずかしい。
「八幡」
「何だ??」
「そ、その…。その時だけ…。恋人っぽくしてもいい?別に大胆にやる必要はない。。。から。その、手を握ったり、とか」
「あ、あぁ。分かった。男避けのため、だろ?」
「うん…」
やばい。俺の心臓が持ちそうにない。
「そ、そうだ留美。さっきの飲み物の代金、教えてくれ。渡してなかったろ?」
切り替えるように言ったせいか、言葉が相当駆け足になっていた。
「う、うん。いいよ。私が払いたかったから」
「そういうわけにもいかないだろ。ほれ、レシート見せてみろ」
手を出してレシートを見せるように留美を急かした。
「あ、ありがと…」
案外留美は大人しくレシートを手渡した。
「そういえば、何かこっちには割り勘とかが簡単に出来るアプリみたいになのがあるって言ってたな」
「Venmoのこと?」
「それだ。それどういうものなんだ?」
「カードを登録して自分のアカウントを作るんだけど、そのアカウント同士でお金のやり取りが出来るってアプリ。要は銀行口座の送金をネット上で銀行関係なく出来るっていう機能。自分のアカウントにお金が入ったりした時は口座に落とすっていうボタンがあってそれ一つで口座に移転出来るから便利」
「PayPalと似てるか」
「あれは会社への支払いとか買い物メインかな。こっちは個人間の送金を目的としてる。まぁVenmoってPayPalの子会社だから似てるのは当然なんだけど…」
「日本でもそういうのあった気がする」
「Paymoじゃない?」
「あぁそれだ」
「でもあれサービス終わるみたいだよ」
「そうなのか。他に似たようなサービスあるしなぁ。LINEとかも最近そんなん始めてたっけか」
「うん。あれは銀行支払や購入も出来るからPayPalに近いと思う」
「なるほど。でも日本は個人間は現金で終わらせる文化が根強いしなぁ」
「うん。そうだと思う」
「因みにVenmoってアカウント俺でも作れるのか?」
「出来なくもないけど、携帯の電話番号が必要だったかな。そのせいで昔、私や日本人会の会計の人とで団体用のアカウントを作ろうかと思ったんだけど、携帯の番号が無くて結局出来なかった。今はそれも作れるようになって番号も代表者の番号で代用出来るけどね」
「俺、こっちでは番号持ってないな…」
「アクセスコードの送信だけだから、一ヶ月のSimカードみたいな一時的なものでも作ろうと思えば出来るかも。でも、八幡ちょっとしかこっち居ないから要らないんじゃない?」
「確かにそこまでして作る必要もないな…」
俺は財布から10ドル札を取り出しながら留美に手渡した。
「これコーヒー代な、お釣りは要らない。そのまま貰ってくれ」
「え、でも…」
「学生だろ?こういう時はおとなしく奢られとけ」
「あ、ありがとう…」
留美は受け取った10ドル札を財布にしまうとウェットティッシュを取り出した。
「はい、八幡」
「サンキュ」
何も言わずとも留美は一枚くれた。気が利く。
「なんか八幡って昔と変わってないね」
「そう言われると成長してないみたいに聴こえるんですがそれは…」
「良い意味でだよ。なんだろう。実は高校の友達とか皆大学入ってから反りが合わなくなって、年齢重ねたら変わるものなのかなって…」
「本かテレビかで言ってた言葉だけど、『付き合う友達ってのも衣服と同じで衣替えしていくのが当たり前』だと。だから、それだけ留美が成長したってことじゃないのか?」
「ふふ何それ。じゃあ私だけ成長の仕方間違えたのかな」
「別にそういうことじゃないと思うぞ」
凄く美人に成長してるし。身体つきも…て俺は変態か。何で直ぐそういう方向に話が逸れるのか俺は。
「八幡ってさ、こういう服好き?」
ふと留美が今日のコーディネートについて聞いてきた。
「あぁ、良いと思うぞ」
「ロングスカートとかのほうが良い?」
「それも好きだが、ジーパンとかカッコ良く決めているのも嫌いじゃない」
「ショートパンツで脚出てるほうが良い?」
「ま、まぁ。脚は好きだ……。てこれ何の話だ?」
「八幡の好みの話」
「あ、いや。まぁそれはそうなんだろうけども」
「だって、クラブイベントってそれなりに着飾ったほうが良いのかなって…。行ったことないから…」
「俺も行ったことがないから分からんがそういうものなのか?」
「多分…」
「じゃあ俺もちゃんと正装で行くか」
「別にビジネスレベルのドレスコードじゃないとおもう。寧ろカジュアルで全然問題ないよ。でも靴は結構見られる印象ある。流石にスニーカーとかは控えたほうが良いかな」
「あぁ、なんとなく察しがついた。要は合コン用衣装ってことか」
「その例えじゃ、私分からないよ。行ったことないし」
「いや、実は俺もない」
「え、八幡行ったことあるみたいな雰囲気出してたのに行ったことないの?」
「だってほら。俺、彼女持ちだったし行く意味がないだろ」
「それはそうだけど、なんか鼻につく」
「なんでだよ……」
「ふふ。なんでもない」
留美が笑う。思わず目をそらしてしまった。
「なんだか俺の方は全然腑に落ちないんですが」
「いいの、八幡はそれで。ねぇ、ちょっと移動しよ」
「そうだな。結構長居しちまったな」
そう言うとお互い立って荷物を纏める。俺はトレイを持って飲みきったカップを捨てた。
「留美、それ飲んだのか?」
「うん、もう空だよ」
「じゃあ捨てとく」
「私もう子供じゃないんだけど」
「俺のほうが近いからってだけだよ。もう留美のことはちゃんと一人の大人として見ているぞ」
「変態」
「何故そうなる…」
結局留美は自分でカップをゴミ箱に入れていた。
外に出ると辺りはもうすっかり夕暮れになっていた。そんなに話し込んでいたのだろうか。時間も忘れて話し続けていたのは雪ノ下と飲んだ時以来だ。ショッピングモール向こうにある荒野が焼けたように赤く染まっていた。
「もうこんな時間だったんだ」
留美も時間を忘れて話していたらしい。それだけ楽しんでもらえたのなら良かった。
「どうする?明日もあるし、今日は一旦お開きにするか?」
「ねぇ、八幡って今日の夜はどうするの?」
確かにもう夕飯の時間だ。翌々考えてみれば、昼飯も全く食べずに留美と会話していたのか。
「今夜か?別に会社のメンバーで食べるような予定も入ってないからどっかで一人で済まそうかと」
「ごめん。昼ごはんも食べてないでしょ?」
「気にしなくていい。昼飯抜くなんざザラにある」
「慣れているとかそういうことじゃないでしょ?お腹空いてない?」
「まぁ、確かに腹は減ったな」
「何かこっちの食べ物を食べたいとかある?」
「いや、特に。それよか出来れば日本食の方が良いな。流石に米が恋しい」
海外に旅行してまで日本食のレストランに行っている旅行客をテレビで見た時に何をやっているんだと思っていたが、いざ自分がそうなると彼らの気持ちが良く分かった。ご飯食べたいわ。
「じゃ、じゃあ、さ、、、、」
そっと留美に袖を掴まれる。
留美はもじもじとさせながらこちらを見上げた。
「一緒に、何処か食べに行かない?」
彼女の顔は赤く染まっていた。それが紅潮に依るものなのか、夕日のせいなのかどちらにせよ。俺を惹きつけて離さないだけの魅力を十分過ぎる程に備えていた。
「お、おぅ…。じゃ、じゃあ行くか…?」
「うん」
留美がそっと横に寄り添う様に立つと同じ歩幅で近くの日本食のレストランへと歩みを進めた。
歩行者の居ない道をただ二人で進む。入り組んだ道路というのはほとんど無く京都の格子状の城下町に居ているのかもしれない。建物やちらほらと見かけるホームレスが居たりと全然風景は違うけれども。夜は危険なので日が沈む前に入りたい。
途中、留美がこちらを見ては手を伸ばしているのが見えた。
俺は知らぬふりをして黙って前に歩みを進めるだけだった。
続く
気がつけばまた一万字近くなってしまった。
留美編もようやく折り返しになってきたかなというところです。
ゆきのん編は結構反響がありまして驚きでした( ゚д゚)
もう少ししたらゆきのん出てくるので楽しみにして頂ければ幸いですm(_ _)m
次回の投稿も5日後を予定しております。
またよろしくおねがいします^^