※この作品はR-18です。

雪の楽園   作:ホネ

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そしてまた遅れる投稿…。
ここから月末まで休み無しなので一週間投稿にしようと思います。
よろしくおねがいしますm(_ _)m


第三十四話

「イベント会場ってここで合ってるよな?」

昨日の帰り際に留美に渡されたチケットを持って会場の前に立つ。

智佐吹さんに食事に誘われたが、それとなく理由を付けて断った。激しい追及にあったがなんとか強引に突破し、ここに至ったわけだ。

一文で割愛したけど凄い攻防だったんだぞ?おそらくこっちに来て一番頑張った大賞を受賞出来るほどだ。

その後何故か芦間にはLINEで『GOOD LUCK☆=b』とメッセージが来ていたが気にしないことにした。

会場はレストランのようだった。俺たちの会社が会食を行ったような場所と店内の構成が似ている。この会場は手前が食事用のテーブル席で、奥側がバーカウンターと踊るスペースがありそうな広めの空間が広がっていた。

入り口の方はまだ良い。問題は奥だ。

見慣れないネオンが降り注ぎ暗闇を照らす中、参加者達が何かスイッチが入ったように踊っていたり、男女の距離感が通常では考えられないような密接になっている。

ジャングルかここは。俺にはそれくらい未知のエリアに見える。

受付より中に入りたくない。というか受付近くの椅子に既に出来上がった生徒らしき者が数名グロッキー状態なんですけど。

「あ、参加者の方ですか?」

受付の男性に話しかけられた。ちょっと髪の毛に寝癖が付いているのが似た雰囲気を感じる。恐らく、背後の空気に馴染めずずっと運営を引き受けた口だろ。分かる。分かるなぁ〜。俺がもし君なら俺もそうする。

「チケット持ってますか?もし飛び入りの参加であれば$30になんですけど」

クラブイベントと聞いていたのでてっきり英語必須かと思っていたが、意外にも日本語応対だった。

「あー…えーっと…。チケットはここに…」

俺はチケットを受付の男性に見せた。

「ありがとうございます。あ、招待券ですね。誰からの、、、って…え?は?」

男性はチケットを確認すると凍りついたまま動かなくなった。

「どうしたんですか?」

「あ、いや。ちょ、、、、ちょっとすいません」

そう言うと受付の男性は一目散に走り出した。

そして後ろの方で「キタさん!キタさん!マルタイが来ました!!!」と叫んでいる。

「なんなんだ、一体…」

しばらく一人で突っ立っていると、

「八幡!」

奥から聞き覚えのある声がした。

留美が駆け寄ってくる。

「お、おう、留美。すまん、ちょっと遅れた」

「ううん。その、、、、嬉しい」

留美の格好は昨日とはまた違って短めの黒いタイトワンピースを着ていた。そのあまりの可憐さに心臓が飛び跳ねて挙動不審になってしまう。

「き、来てくれると思わなかったから」

「い、いや、流石にチケットまで渡されたら来るだろ。それよか俺の方がビックリしたわ。そんな格好するんだな」

「に、似合ってないかな…?」

留美は後ろで手を組んでいじらしそうに言葉を待っている。

「ど、どストライクだ」

「え」

「あ」

いかん。言葉に出てしまった。

「あ、ありがと…。ばか」

なんで罵倒されなきゃならんのだ。褒めたのに。

「思ったより人が居て驚いた」

「多かった?」

「バングラデシュもびっくりな人口密度だ」

まだ入り口に居るのだが、奥を見るとまともに歩くことが出来るスペースが少ない。更に奥を見るとアメリカらしく踊りに夢中な男女が見受けられた。果たして俺のような三十路前の男が参加して良い場所なのか。年齢層としては俺よりも5歳以上は下だろう。

「おい、留美ちゃんの隣にいるの誰だ?」

「え、留美ちゃんの彼氏?」

「嘘!?ていうか格好良い!!」

あっという間に注目の的になっていた。こんなんじゃとてもじゃないが二人でゆっくり出来るような状況じゃない。あと、最後のはちょっと嬉しい。

「八幡こっち来て」

留美に手を引かれるがまま後ろに続いた。人混みをかき分けて奥に進むのかと思いきや、留美に案内されたのはバーカウンターではなく、入口横の食事用のレストランテーブルだった。

「こっちの方が落ち着く」

「この店貸し切ってるのか?」

「うん。だからこっち側に居ても問題ない。本当は潰れた人の介抱とか、運営側の休憩室みたいな感じで使ってる場所なんだけどね」

「丁度後ろ見たら席の方見えるのな」

座席の後ろが窓ガラスになっていた。振り返ったらチラチラと俺たちの様子を窺う群衆が見えて非情に居心地悪く感じてしまうが。

「ごめんね。なんかこんな場所に呼んじゃって…」

「大丈夫だ。こういうのは最初だけだろ?それに俺たちが何話していてどんな顔しているのかは向こうには分からない」

「うん、そうだね」

留美は広い席を敢えて詰めて座った。身体のいろいろな箇所が密着している。

「ど、どうしたんだ急に?」

いきなり大胆な行動を取るようになった留美に呆気にとられた。予め恋人のように接するとは打ち合わせしていたものの、予想以上に最初から飛ばしてくる。

「これくらい普通でしょ?………恋人なんだから…」

最後の方声量が凄く低かったんですけど。留美も留美で緊張しているようだ。

「眼鏡かけてるんだね」

「普段も仕事の時はかけているぞ。裸眼の方が良かったか?」

「ううん。どっちの八幡も悪くない」

「そうか。なら良かった」

「でも八幡が眼鏡をかけていると他の人の視線が集まるから今度から外してほしい」

「なんだそりゃ?別に俺が眼鏡かけようがかけまいが大した差は無いと思うんだが」

「……結構違うよ。死んだ魚の眼じゃなくなるから」

「そりゃ大きな差だな」

え〜…まだ俺死んだ魚の眼してるの…。確かに、さっきからチラチラと女性の視線が刺さる。大方留美と一緒にいるよく分からない馬の骨の顔でも拝みに来たのだろう。期待に応えられず申し訳ない。

「あれ、ルミ。その人は誰?」

眼の前に紺色のジャケット着たアメリカ人が立っていた。なんともまぁ、米国版葉山のような爽やかさと戸部のようなチャラさが共生している風貌だ。こいつが留美が言っていた件の会長だろうか。

「あ、うん。この人は……。む、昔からお世話になっている人だよ」

留美は俺の顔を見ながらそう答えた。打ち合わせしていたものの、流石に人前で彼氏と公言するのは留美でも恥ずかしかったのか、当たり障りのない回答をしていた。いや、俺でもそういう答え方に落ち着きそうだけど。

「そうなんだ。始めまして!この団体の会長をやってます!どうぞ宜しく!」

そう言うと会長は流暢な日本語と共に握手を求めてきた。あー、うん。留美が苦手そうだなぁ。

「あ、ど、どうも…」

「来てくれてありがとう!まさか、ルミが集客に協力してくれるとは思わなかったよ」

そう言うと会長は流れるように留美の隣に座った。遠慮の無さというよりはそれが当然と思っている表現するべきか。こりゃ、留美が手を焼くわけだな…。自覚が無いタイプ。

「DJやっていたんじゃないの?」

留美が会長に問いかけた。ん?DJ?

「DJは他の人に変わってもらったよ。流石に俺にも自由時間がほしいからね」

「会長はダンスホールの方でDJをやってたの。Remixとか自分で編集してる」

横から留美が補足した。

「そいつはまた凄いな」

「またしばらくしたら戻らないといけないけどね。その間にルミと一緒に居られたらと思ったんだけど、どうやら先客がいたようだ」

挨拶代わりに毒を吐かれた。まともにやり合うのは性じゃないし、こいつにはあまり有効じゃなさそうだ。自尊心を上げておだてる方が御しやすい。

「それにしても滅茶苦茶日本語上手いけど何処かで勉強したのか?」

「あ〜。実は一年くらい日本に留学していたことがあってそれでかな。違和感なかった?」

「マジか。殆ど違和感無いわ。一年でそんなに上達するのな」

これは本心だった。多少なりともネイティブと差があるにしても十分過ぎるほどに聴き取れる日本語だった。

しばらく話してみると会長はまぁ普通に男からしてみれば話しやすい人物だった。

加えてカリスマ性もある。まさに会長って感じの人だな。だが、何処と無く本当にこいつがリーダーで大丈夫なのか心配になる一面も感じ取れた。

「玉縄に似ているかもな」

「誰その人?」

「ほら、あれだ。クリスマスイベントの時に指揮を取ってたくせっ毛の奴」

「あー、あの計画ばっかりで身がない事しか言わない人?うん、そんな感じ。そのせいで私とか後始末に追われちゃうし」

留美も雪ノ下並みに辛辣なことを言うようになったな。まぁ実際その通りだなと思ってしまった自分がいる。いや、この会長さんの事は本当に玉縄みたいなやつなのかどうかは知らんが。

それよりも問題なのはこの会長が来てから全く口を開かなくなった留美の方だ。

会長が話す度に留美の表情が死んでいっている。これ以上マイナスが無いだろうという地点から現在進行系で人間の感情というものが消滅した。冷ややかさはもうすぐで絶対零度に届きそうな勢いだが、本当に大丈夫なのだろうか。

「なぁルミ。この後良かったら二人で飲ま…」

「ごめん。私今日は八幡と一緒に過ごすから」

おい、会長これまでの会話の一体どこで手応えを得たんだ。時期尚早とかそんな問題じゃない。HP満タンで伝説のポケモンにモンスターボール投げてるようなもんだぞ。案の定、留美に最後まで言う間もなく断られてるし。

留美も留美で慣れていたような感じだった。こうやっていつも何か理由をつけて断っているんだろう。

「あ〜。いやいや、このイベントの後の話だよ。その後にでも打ち上げを運営のメンバーでやるからさ」

めげない会長ここにあり。なんという不屈の精神。二人で飲まないかって言いかけていたのに、直ぐに全員での打ち上げに路線変更するあたり、慣れているこの男は。確かに、俺は打ち上げに参加できるわけがないからな。うん、考えている。むしろここまで来ると感心すらしてしまう。

留美が誘いを躱すために誰か呼ぶことも折り込み済だったのだろうか。そんな邪推すら正解に思えた。

さて、全くもって失礼な発想ではあるが、留美がどう返すのか見ものだな。

「ううん、さっきのはイベントの後も八幡と二人きりで過ごすって意味だけど」

「「え」」

会長と合わせて俺まで声を漏らしてしまった。え、本当に何言ってるの?俺明日予定あるんだよ?いや、予定があったとしても今の発言は色々とヤバい…。

「る、ルミ…?君は自分が何を言っているのか分かってる?」

驚いた顔で俺の顔を見る会長。まぁ年の差がそこそこあるしな。左手の薬指を盗み見ていたのが分かった。危ない。念のために結婚指輪を外しておいて正解だった。なんか本格的に浮気している人間のやることのような気がするけど。

留美は毅然とした表情で真っ直ぐに会長を見つめていた。ただ、会長とは反対側、つまり俺側の方の手で俺の手を握っている。よく見たら耳が真っ赤になっていた。彼女もようやく自分が口にした言葉の重大さを把握したのだろう。

「…だ、だいじょう、ぶ。わ、わたしも覚悟してるから…」

「…………」

おい火に油を注ぐなァァァァ!

何やってんのこの子!?それ言っちゃったら完全に言い訳のしようが無いんですよ!?二人きりで過ごすとしても、こう飲んで過ごしますとか、勉強教えたりしますとか逃げ道いくらでもあったのに。

「ね、ね?八幡?」

留美が同意を求めるように身体を寄せる。脳内変換で誘惑されているようにしか思えない。露出の多い服を着ているのを始めて見たのもあって、これ以上無いほどに艶美な肉体を意識させられた。

「お、おぅ…。そう、だ、な」

逡巡する間も与えられずただ俺は首肯した。もたげた鎌首が欲望に逆らえず傀儡のように首を立てに振るまでの時間はほんの一瞬だった。周りの視線など既にどうでも良かった。

「そういうことだから。私を誘うの、もう止めてね」

留美がトドメの一撃を放った。流石に鈍感を貫き通した会長もここまではっきりと拒絶されてしまえばぐうの音も出ない。観念した会長はトボトボと会場へ戻っていった。敗戦の将とはこうも惨めなものか。

「…ねぇ八幡」

俺に寄り添ったまま留美が俺に顔を埋める。

「どうした留美?」

「……どうしよう。私、明日からこの団体の人に会えなくなっちゃうくらい恥ずかしい」

デスヨネー…。いや、ホント。俺もどうしよう。

結局、イベント終了の最後まで二人で手をつなぎながら座ったままだった。途中、あまりにも気まずくなったが、留美が普段仲良くしているという会計担当とクロと呼ばれている参謀が来て、会話を回してくれたおかげでなんとか乗り切ることが出来た。

 

運営の後片付けが終わるまで俺は店の外で立って待っていた。夜風が火照った顔を冷やすのに丁度良い。会長との会話での留美の爆弾発言も会長のアタックを避けるための口実と説明すれば留美への噂もそこまで広がることは無いだろう。

時計の針は既に深夜1時を指していた。流石にクラブイベントともなると時間帯も夜遅くになる。留美を家まで送ってからホテルに戻ることを考えると寝られるのは3時くらいになりそうだ。

「おまたせ、八幡」

片付けを終えて留美が店から出てくる。店の中から他の理事たちが興味深そうに観察されているのがなんとも息の苦しい状況だ。

「と、とりあえず。一緒の車に乗って家に送る形で大丈夫か?」

「そ…そのことなんだけど……」

留美に手を握られる。蠱惑的な視線で上を見上げると妖艶な少女はその整った口を開いた。

「もうさ…今夜は…一緒に…居よ?」

駄目だ。もう欲望に逆らえる気がしない。

 

 

続く





ようやくアメリカ編も大詰めです。
次回の投稿は一週間後を予定しています!お楽しみにm(_ _)m
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