※この作品はR-18です。

雪の楽園   作:ホネ

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圧倒的遅延()
連勤を終えて久しぶりにまとまった休みがとれたので投稿ですm(_ _)m
遅れてしまい申し訳ございません><

ではよろしくおねがいします!



第三十五話☆

「お、お邪魔します…」

「お、おぅ」

ルームキーでドアを開けて留美と共に入室した。数日間滞在したはずの空間が別の場所のように感じられる。普通のホテルのはずがどうにも淫猥な様相を呈している錯覚に陥っていた。床にある自分のスーツケースすら怪しく見える。

ドアの閉まる音がした。ガチャリという独特の音と共にオートロックがかかる。これでもうマスターキーでもない限り外から部屋の様子を窺うことは出来なくなった。留美と俺のこれからは二人だけの秘密になる。その秘匿が齎す背徳感が既に俺の首元まで迫っている。

部屋の証明を点けると暖色の光が降り注いだ。互いに紅潮した顔がよく見える。留美も何か意識しているのだろう。こちらの様子をチラと窺っては真っ赤になって俯くことを繰り返していた。そんな留美を見る度に身長差で留美の成長した胸元が眼に入って下半身が窮屈になった。触りたい。この清らかな身体を自分のものに出来たらという邪な欲望と罪悪感との葛藤が何時間も繰り返されている。

もしこの場で彼女を押し倒し、肉欲のままに腰を振ってしまえば二度と今の自分には戻れない。しかし、これ以上ない快楽と興奮が得られるのだろう。一色や智佐吹さんとの軽い情事とは比べ物にならない極上の悦楽。知りたいという知識欲にも駆られた。この手で彼女の衣を剥がしていき、一つ一つ留美の欲望をえぐり出して貪る。白いキャンパスを漆黒の欲望で染め上げ、穢れを知った彼女を淫蕩の渦へと引きずり込む。どれほどまでに気持ちが良いことか。

 

それが許されるはずがない。

何を考えているんだ俺は。それを自身で諌めることこそが自制心というものだ。このまま留美と一緒に居続けてしまえばその律する心が崩壊し留美を襲うのは時間の問題だった。

「留美、良かったらそこの椅子に座っていいぞ」

とりあえずお互い座らずに立っていたままというのはどうにも落ち着かない。留美に座るよう誘導した。

「うん、わ、分かった」

そう言うと留美は覚束ない足取りで歩みを進めると、控えめにベッドに腰掛けた。

そのまま『八幡は座らないの?』と言わんばかりの眼差しで見つめてくる。

………。

いや、椅子って言ったはずだよね俺。どうして今にも押し倒される準備万端のような感じで構えてるの?

留美は着ていたワンピースの紐を少しだけ緩めると靴を脱いだ。

「八幡、隣」

「はい」

妖艶な色香を放つ彼女の言葉に抗えず素直に隣に腰を下ろした。俺が着席したのを認めると留美が腕を絡めて頭を肩に乗せた。

「お、おい…留美」

「そのまま」

留美は反論を許さなかった。そしてしばらくの時間が経過した。

驚いたことに留美は何もしてこなかった。それどころか果たして意識があるのかどうかすら分からない程に彼女の存在感が希薄になっていった。

感触はある。そこに確かに留美はいる。不気味な静寂が空間を漂っていた。

横目で留美を見た。彼女は先程からピクリともしない。もしかして酒が回って眠気に襲われてしまったのだろうか。しかし、俺が見た限り、留美はクラブでは一滴も酒を飲んでいなかった。自分が来場する前にアルコールを口につけたという話はイベントの準備の段階から一緒に居た同僚の理事のクロや会計担当からも聞いていない。

理性の決壊の萌芽が着々と成長を遂げていく。留美が側にいるというだけで体内の血液から気泡が生じるかようのように熱い。今にも沸騰しそうだ。

口が開く。荒い息で酸素を求めた。壁にかけられた絵を眺めて心を鎮めようとした。波が収まることはなかった。目をそらせば逸らすほど留美の気配が伸びて身体に纏わりつくのが分かった。

「八幡、こっち見てよ…」

「い、今は無理だ」

「どうして…?」

 

その時違和感を感じた。留美の声が動揺を含んでいたような気がした。

それは間もなくして確信に変わった。

留美が震えていたのだ。華奢な身体から振動が伝わる。

正面に向き合うように移動した。

「お、おい。どうした留m…」

留美の顔を見て言葉が詰まる。

留美の眼が微かに潤んでいた。

「ねぇ、八幡って…もう、結婚してるんだよね…」

「…あぁ、そうだ」

「仮の、質問なんだけどさ…」

絞り出すように言葉を紡ぐ。自分を落ち着かせるように言葉を漏らした。

「もう結婚してる人にアプローチするのは駄目なことなのかな?」

その言葉の真意に分からない程鈍感な俺ではない。だがそれを俺に答えさせようとする留美も性格が悪いと言わざるを得ない。

「……俺には分からない」

「…そっか」

留美は一頻り逡巡した後、何か決心を固めたようにうんと頷いた。

「じゃあ確かめてみない?」

留美が首に腕を回す。耳元で留美の熱い吐息がかかると脈拍が結滞した。歯車が噛み合わなくなった機械のように運動を止める。

天井の幾何学的な模様をぼんやりと見つめた。

最高に自分好みの容姿を持った女性に言い寄られる悦楽と、優越感。妻に対する背徳の蜜が目の前に陳列されいつでも食すことが出来る状態。そんな状況に陥れば誰もがその蜜を口に含み、色欲の海へと足を踏み入れるだろう。

だが、こんな時に浮かぶのは眼の前にいる留美の顔でもなければ結衣の顔でもなかった。

 

雪ノ下だ。

夜の公園で見たあの切ない表情。

会社のエレベーター前で見送った時の無常さを帯びた表情。

出向先の食堂で眼の前に座って弁当を食べていた時の楽しそうな表情。

雪ノ下との記憶がプラネタリウムのように天井に星星となって散開した。

手を伸ばしても届かない。空虚になった心が彼女を求めて渇望した。どうして、今ここに彼女が居ないのだろうか。

留美を見る。

無意識に雪ノ下と重ねていた。

身体つきは違うが、顔立ちや目元は彼女にそっくりだ。おまけに長い黒髪まで同じと来た。

もし雪ノ下雪乃とこんな関係になることが出来たらどれほど満たされるのだろう。どんな楽園が待っているのだろう。

「あ、ひゃぅ!」

気がつくと彼女を押し倒していた。彼女はされるがままに身体を俺に預けると全身の力を抜いた。その美貌を余すこと無く見せつけるように仰臥した彼女の姿はまさに一つの芸術としてそこに存在していた。

肩を掴んで結び目を解いて強引に上から衣服を下げる。彼女の色く美しい肌が露出し艶美な曲線を描いていた。乱れたシーツの擦れる音が肉欲の足音を想起させる。

あの時、お前をこんなふうに犯すことが出来たらどれほど良かったか。

欲しい。今直ぐにでも確かめたい。

俺は彼女のワンピースをたくし上げると汚れのない恥丘の聖域に手を伸ばした。

肩を掴む手に力がこもる。純白の素肌を指で撫でながらその水々さを帯びた稜線を賞翫した。

「は、八幡、痛いよ…。急にどうしたの…?」

突然の声に意識を引き戻された。

「……っ!」

留美の声で我に返る。

登っていた血液が急激にその流れをなだらかに収めていく。

掴んでいたその手を静かに離した。喉の奥に詰まった鉛のような冷たい塊を嚥下する。鈍重な灰色の靄が胃の中でその重い腰を下ろした。

肩で息をしながらベッドから飛び退く。開放された留美は自身の衣服を整えながら怯えたような目でこちらを見ていた。

「…八幡」

「………俺は。ごめん、留美」

視界が歪む。壁の模様が奇怪に見える。いびつな牢屋に自分が投げ入れられたようだった。

胃の中の鉛は今も尚、そこに鎮座していた。気がつけば自分の身体が震えている。

最低の男だ。

留美を通して別の女性を見るだけに収まらず、人道に反する領域にまで脚を踏み入れた自分に対する怒りとやるせなさがこみ上げてきた。

今目の前に居るのは鶴見留美であって雪ノ下雪乃ではない。

いつの間にか理性のタガが外れていた。

かつて総武高校時代に“理性の化物”と呼ばれていた自分の片鱗は既に無かった。

この時になってようやく自覚した。

度重なる誘惑と後悔。

この数ヶ月で怒涛の日々が流れていた。

自分の精神がこんなにも摩耗していたことに気づかなかった。

 

「八幡、何があったの?」

留美が心配そうな声でベッドの上から問いかける。今しがた犯されかけた相手を気遣うなど真おかしな話だ。それでも留美は胸に手を当てて、自分のことのように痛みを分かち合うような仕草を見せた。

「八幡、苦しそう。私で良かったら話聞くよ?」

「………」

どうして彼女の言葉はこんなにも心に響くのだろうか。

「ほ、ほら。言葉にして吐き出せば少しは楽になれるかもしれないし」

留美はおずおずと歩み寄るように話す。

無償の愛に思えた。

それは確かに俺の心に確かに響いていた。自分にとって間違いなく霧が晴れていくような天の恵みだった。

その時何か自分の心にかかっていた錠前が壊れたような音がした。

鍵穴が無かった。

錆びて崩れ落ちるように何の前触れもなくそれは地面に落ちていた。

そして気づいてしまった。

ある事実を自覚してしまった。

秘密に出来ないほどにその感情は今にも喉を通り抜けて強引に言霊となって吐き出されようとしていた。

口にしなければ自分がどうにかなってしまいそうだった。

伝えるわけでも、決意を表すわけでもなくただ吐露したい。

「留美。その、長くなるけど良いか?」

留美になら全てを話すことが出来る気がした。それは今の俺を取り巻く環境から離れているが故に逆に話しやすかったからだ。

いや、当事者でなければ誰でも良いというわけではない。

留美でなければならない。

藁にもすがる思いだった。強がって独りよがりで作り上げてきた自分の殻にヒビが入った瞬間、こんなにも自分が脆い存在だと気付かされる。

「うん、じゃあここ座って」

留美は何もかもを受け入れるような深い慈愛の表情で快諾してくれた。

彼女の隣に導かれると俺は自分をさらけ出すかのようにこれまでの自分の足跡を留美に語り始めた。

 

 

続く

 




うん、まぁ読者の皆様の言いたいことは分かります、、、

ヤらんのかい!
…と。

正直かなり迷いました…が、最初にするのはやっぱりゆきのんじゃないとこの物語の根幹が崩壊しかねません(-_-;) 
勿論、留美とはしますが、ゆきのんの後というのが流れとしては適当だろうと考えました。
留美とゆきのんの容姿が似ているという点を利用して八幡が留美を雪乃と重ね合わせて自分の中に眠る強烈な感情を想起したという展開。現状、留美がただの当て馬になっておりますが、きちんと挽回させるつもりなのでご安心ください。



とりあえずまたしばらく働き詰めなので次回の投稿は二週間後とさせていただきます。
次回は納期守るので…m(_ _)m いや、ほんと遅れて申し訳ない…

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