静寂が包み込み唾を飲み込む音すら聞こえてきそうだった。
心臓の鼓動が深く激しくなる。時を刻む毎にその高鳴りは増す。
身体は軽かった。心臓の裏に跋扈していた黒い靄は晴れ、胃の中に鎮座していた鉛はもう居ない。眼に一切の曇は無い。浮遊していたような脚はしっかりと地面を踏みしめていた。
眼の前には一人の女性。
長い黒髪に余計な肉付きのないモデルすら嫉妬させるような美しい体型と寂寥を身に纏った妖艶さ。彼女が道を歩けば誰もが振り返り、何故話しかけなかったのかと後悔の海に沈むような誰もが羨む絶世の美女だった。
そんな女性にたった今俺は親愛の情を伝えた。
否、たった今ではない。
ずっと昔からそうだったのだ。
それに蓋をしていたのは自分だ。
幾重にも積もった後悔と恋慕を一言に込めて彼女に届けた。
これが俺の出した答えだった。
思えば初めからそれはそこにあったはずだ。
自分の過去の選択が間違いであったことを認めるのが怖かった。それを否定してしまえばこれまでに自分が積み上げてきた全てが霧散するように思えてしまったから。
間違えてしまったのならそれを認めて、また積み上げればいい。
今度こそ正しい道へと歩みを進めればいい。
自分にとって何が必要か。何をすべきか。何を捨てるべきか。
余計な思考など不要。
何より俺には彼女がいない人生が考えられなかった。
彼女、雪ノ下雪乃は震える身体を懸命に奮い立たせて俺の目を真っ直ぐに見つめていた。
その目には動揺が映し出されている。
無理も無い。告白された相手には妻がいるのだから。それもその妻とは自分にとってたった一人とも言える親密な友人。裏切れないという気持ちが無いはずがない。
雪ノ下は言葉を失っていた。
やがて動揺は確信へと変わり、眦から大粒の涙が滂沱として流れ落ちた。流れ落ちるそれを覆うように白い両の手で顔を隠した。
俺は雪ノ下に歩み寄った。しかし、目の前にいる彼女は触れてしまえば消えてしまいそうなほどに儚く小さな背中をしていた。身長差はそこまでないのに彼女の存在がとても小さく儚かった
その肩に手を添える。
思えば雪ノ下雪乃に自分から触れたのは初めてだったかもしれない。その身体は今も小刻みに震えて助けを求めているようだった。
思い知らされた。
雪ノ下雪乃はこんなにもか弱い身体でずっと一人で生きてきたのか。
俺はこんなにも健気で美しい女性を忘れようとしていたのか。
雪ノ下は一歩だけ前に出ると俺の胸元にすっぽりと収まった。
さめざめと泣いている。俺の衣服を強く掴みこぼれ落ちる雫を拭っていた。
それは初めて見る本当の雪ノ下雪乃だった。
覚束ない手で彼女の背中を抱きしめた。
雪ノ下は驚いたのか大きく息を呑んだ。間もなくして雪ノ下の白い腕が背中を回り俺の体躯が包まれた。温もりが胸の中に広がり、大きく空いていた心の大穴に命の水が注がれていく。
「比企谷くん」
「あぁ」
「本当に、、、良いの?」
「あぁ」
「私を…選んでくれるの?」
「あぁ」
「由比ヶ浜さんよりも私を好きでいてくれるの?」
「あぁ。雪ノ下雪乃が俺の一番だ」
「そう、なの、ね………」
雪ノ下は押し黙った。
俺は彼女の言葉を待つ。いくらでも待ってやる。何年も彼女を待たせてしまったのだから。
言いたいことは全て言った。
全てをなげうつ覚悟もした。
手に持っていた携帯をベンチに置いてコートの端を強く握った。
「嬉しい…」
彼女はそれだけ呟いた。
雪ノ下は俺から離れた。その眦からはもう涙は溢れていなかった。最後の一筋が頬に流れ落ちると。最高の笑みを見せてくれた。
「私も、貴方を愛しています。比企谷八幡が私の一番…んん!」
限界だった。
気がつけば俺は雪ノ下の唇を奪っていた。桃色の透き通る唇。誰にもまだ侵されたことのない神域を蹂躙した。
「んちゅ…ふ。んん!あっ…はむ…んん」
背中に手を回し強い力で二度と離れないように誓う。
欲望に任せて雪ノ下を貪った。
最初は勢いに飲まれただされるがままだった彼女も次第に自分から求めるように舌を絡め合った。
「れろ…じゅ、じゅ。んふぅ…。ちゅ、ちゅ、ひき、がや…くん」
雪ノ下の舌はとても柔らかかった。とろけてしまいそうなほどに甘美でずっと舐っていたくなるような中毒性がある。
夜風が冷たい時間なのにお互いに玉のような汗をかいていた。燃えるように熱い身体の境界線がなくなっていく。密着した身体から雪ノ下の鼓動が伝わった。
何年も募った想いを唇に込めて重ねた。
キスをする度に雪ノ下雪乃という女性がいかに自分にとって大きな存在であるかを自覚させられる。もし目の前から彼女が居なくなってしまえば自分の中のアイデンティティが軒並み全て存在意義を失ってしまうかのように思えた。
自身の脳が演算をした結果、これまでの自身の行動原理が全て雪ノ下雪乃という女性に起因すると導き出す。何度キスを繰り返して演算をやり直そうとも結論は変わらない。雪ノ下雪乃という女性はいつの間にか自分の一部になっていたのだ。
愛おしいなどという一瞬の気の迷いとも言える感情など何かのきっかけがあれば、塵として消えてなくなってしまう。そんな生易しい情などではない。
彼女は存在しなければならない。自分という器官がこの世界に存在し機能するために。
雪ノ下雪乃という女性は俺の人生を縛り、昇華させてくれる。虚飾に染められた自分の世界に本物を与えてくれるのだと。
最初激しかった接吻は徐々に優しいものへと変化していった。最後になるとそっと合わせるだけのキスをひたすら繰り返していた。
雪ノ下もそう思ってくれているのだろうか。
彼女もまた、飽きもせず唇を重ね続けた。何度も角度や力加減を変えて確かめるように愛を紡いだ。時に俺が上から蹂躙するように接吻をすれば、次になると雪ノ下が下から襲いかかるようにして吸い付いた。
雪ノ下の口を開けさせた。そして自身の舌を彼女の聖域に侵入させると口蓋を丁寧になぞる。
「はぁう!!!んん!ぁぁ…ちゅ、じゅる…」
思った通り、雪ノ下は感じていた。足に力がはいらなくなって生まれたての子鹿のようになる。それを嫌って必死に俺の身体にしがみついていた。
「あぁ…うぅ!ん……はぁ、はぁ…。ひ、きがや、、、くん。それ、だめ…」
人間、歯の裏側というのは敏感で特に上顎は舐め取られるだけでも強い快感が生じる。散々、結衣とのキスで試していたことだった。
今度は雪ノ下の舌を絡め取ると自身の舌を彼女の舌の付け根に潜り込ませ裏側の血管を刺激する。同時に唇で先を吸い出すと顔を前後に動かして奉仕した。
「ひ、ひきふぁや、く、、、、ん!じゅ、じゅ、じゅ…。あぁぁぁ!」
刹那、雪ノ下の全身から力が抜け、後方に倒れた。俺は両の腕でその軀をしっかりと支えるとそのまま弓なりになった彼女を陵辱した。
雪ノ下は首に回していた腕はだらりと下に垂れ、なすがままに口内を蹂躙される。おとがいをあげる体勢になったことで、雪ノ下の身体は快感を真っ直ぐに享受できる準備が整っていた。
「んん、ふぅ。はぁ。ちゅぱ、れろぉ。くちゅ、くちゅ…。じゅぼ、じゅ、じゅ」
愛玩人形となった彼女の口の中を貪る。何年間もお預けにされていた至極の馳走を前に出されて舌なめずりも珍重もしない人間が果たして居るのだろうか。俺は雪ノ下をベンチに座らせると正面に覆いかぶさってもう一度口蓋を舐り続けた。
雪ノ下は身体をビクビクと痙攣させながら両腕を俺の背中に巻き付ける。両足はだらしなく伸ばしていた。感じる度に付け根からつま先にかけて一直線に伸びる。身体が最大限に快楽を享受できるように人間の身体とはプログラムされているのだろう。雪ノ下は本能で最も気持ちよくなれる体勢を整えていた。今度はこちらからと言わんばかりに彼女の方から積極的に舌を差し入れてきた。それに応えるためにお互いの体勢を入れ替えて自分が下になった。ベンチと雪ノ下に挟まれた下半身は最早破裂寸前だった。
雪ノ下が妖艶な笑みでこちらを見下ろしている。
これからどうすれば良いか。
決まっている。
俺はただ黙って口を少しばかり開けて彼女の侵入を待つだけだ。
雪ノ下のあまりにも美麗な顔が近づく。
目を閉じて彼女を迎え入れる構えをとった。
口の中にドロッとしたものが流れ込む。とても甘美で永遠と飲み干したくなるような液体。薄っすらと目を開けると雪ノ下は潤った舌を外気に曝け出して、俺の口の中に唾液を流し込んでいた。粘性と艶身を帯びたそれは緩やかな速度で流れ落ちる。むしゃぶりつきたくなって顔を近づけようにも雪ノ下に頭を固定されているために、ただ黙ってそれが口の中に注がれるのを待つしかなかった。口を開けながらゴキュゴキュと喉だけを鳴らして器用に嚥下する。食道を通過し胃の中に到達すると得も言えぬ多幸感が全身に広がった。広大な快楽の海に全身から浸かり支配されたような屈服感。最早、この海に溺れてしまうことに何の抵抗も無かった。雪ノ下雪乃という女性とならどこまでも溺れていける。キスだけでそんな気持ちにさせられた。
「雪ノ下、もっと飲ませて欲しい」
そう嘆願すると彼女は驚いたような目でこちらを見た。しかし目をつむって口の中に唾液をひとしきり溜め込むと再び俺に覆いかぶさって、口の中に大量の体液が追加された。
「ひきふぁやくん。んくっ…。貴方って思った通り凄く変態なのね」
「ゴクン…。いきなり唾液を飲ませてくるやつに言われたくないんだけどな」
「美味しそうに飲んでいたじゃない」
「それとお前が俺に何の前置きもなしに注ぐのとは別の話だろ」
「し、仕方ないじゃない…。貴方は私の物だって思わせたかったのよ…。身体の中まで…」
少々おぞましくもある考え方を平気で吐露する雪ノ下に多かれ少なかれ面食らったものの、結局は自分も同じような独占欲を有しているので人のことは言えない。
俺はまた口を開けて雪ノ下の唾液を待つことにした。俺が力を抜いて身体を背もたれに預けたを見て雪ノ下はまた口を閉じて唾を作り始めた。そんなやり取りを何十分と続けていた。
しばらくしてようやく唾液が枯渇すると待ちに待っていた雪ノ下の蜜蛇が侵攻してきた。柔らかな感触が口内を蠢き、壁を求めて怪しく徘徊した。やがて歯茎にたどり着くとその形を確かめるように丁寧に外枠をなぞっていく。奥歯の生え際をマッサージするように具に圧迫する。同時に背中を細い指で優しくなで上げられた。
結衣の感覚とはまた違ったざわつくような快感に身悶えた。思わず雪ノ下の肉体を乱暴に抱きしめた。今度は雪ノ下の指が段々と首元に移動していき、敏感な襟首を執拗に愛撫された。触れられてもいない自分の下半身から体液が漏れる。怒張した肉棒を雪ノ下の身体に擦り付けた。
「っ…!ん…ふぅ…」
流石の彼女も理解したのだろう。雪ノ下は黙ってそれを受け入れてくれた。
そして長い時間をかけて俺はズボンも脱がないままに彼女の柔肌で軽く射精してしまった。
「んちゅ…、ちゅ。ねぇ、比企谷くん、もうこんな時間…」
気がつけばもう夜の九時になろうとしていた。人の気配は全く無い。時間を忘れてしまう程に雪ノ下に夢中になっていた。いつの間にか辺りは常闇に包まれ公園のが街灯が怪しく二人を照らし出している。
「お腹、空いてないかしら?」
雪ノ下が俺の上から降りて隣に座ると腹具合を聞いてきた。彼女の温もりが無くなったことを残念に思いながら、自分の腹時計がなっていることに今更気づく。
「そういえば、帰国してから何も食べていなかったからそう言われるとかなり腹が減ってきているな」
「そ、そう…。あ、あの…、えっと」
雪ノ下は何か言いたげにしていた。昔だったら気づかないふりでもしていたであろう俺達の関係はもうあの時とは違う。俺はその先の言葉が待ちきれなくなってそわそわと落ち着かない。
「よ、良かったら、、、私の家……きゃ!」
我慢の限界になった俺は雪ノ下の舌を求めた。雪ノ下は桃色の可愛らしい舌を出しすと、ぎこちない舌使いで絡めてきた。
「ちょ…と、ふぅ。んん!くちゅ、れろ…。まっ、、、て。んん!ぁぁ、れろ。ちゅ」
雪ノ下は口では抵抗するような発言をしつつも、身体は言葉とは裏腹に手を俺の頬に添えて逃さないようにしていた。こっちが恥ずかしくなって顔を逸らそうとしても雪ノ下がわざとその視線の先に回り込んで自分の均斉の取れた美しい顔立ちを見せつけてきた。
「もう…話そうとしているのだから邪魔しないでほしいのだけれど…」
ジト目でこちらを睨む。それがあまりにも可愛らしくて反省の意など微塵も湧いてこない。
「…悪い。我慢出来なかった」
「その、嫌とは言っていないでしょう…んん!」
また雪ノ下の唇を奪った。今度はバードキスと呼ばれるソフトなキスを何度も繰り返すキスをした。唇を重ねる度に細かく雪ノ下が「ん…」と、吐息を漏らす。
「はぁ…、はぁ…。もう一度…」
今度は雪ノ下から求めてきた。雪ノ下が俺の頬を固定すると貪るように唇に食らいついた。上下の唇を順番に吸われる。苦しくなって俺が酸素を求めようとすると雪ノ下の口がすぐさま覆い被さってそれを許さなかった。
朦朧とする中感覚が研ぎ澄まされていき、次第に唇を犯されることに快感を生じるようになってきた。
雪ノ下は舌を侵入させてこなかった。焦らされているのだろうか。俺が口を開けて彼女の口を受け入れる準備をしていても彼女の舌は一向に侵入してこなかった。ただ表面を永遠と挟まれてはスライドさせ、マシュマロを摩擦させるように優しく擦り合わせた。
やっとの事で開放されると雪ノ下は肩で息をしながら、熱い視線をこちらに向けた。
「はぁ、はぁ。。。その、良かったら…、私の家で食事でもどうかしら…?」
雪ノ下雪乃に自分の口に人差し指を当てられながらそんな誘惑をされてみろ。こんなことを言われて首を横にふる男が他に居たら教えて欲しい。
「ちょっと待ってくれ」
「どうしたの…?」
雪ノ下は俺に断られるのかと思って途端に切ない表情になった。今日はこれで終わりなのかと悲しそうだった。直ぐに安心させるように俺は理由を話す。
「会社の緊急の会議が延長して今日は遅くなるって結衣に連絡するんだよ」
「きゃう…」
俺はまた雪ノ下に覆いかぶさって、またじっくりと彼女を味わった。
雪ノ下の両腕が背中を包む。
俺達が雪ノ下の家へと移動したのはそれからしばらく後のことだった。
続く
皆様、大変お待たせいたしました。
ただそれだけです()
この作品を投稿し始めてもうすぐ一年という事実。ようやくここまで来られました。
次回もゆきのんです。お楽しみに!
(一応1週間後を予定してますが、もしかしたら早めるかも)