今回はゆきのんの家に凸です!
人目につかないよう細心の注意を払って雪ノ下のマンションの中へと入った。今更あんな公園で堂々と接吻を繰り返していた手前何を言っているのだろうかと思われるかもしれないが一応周りへの警戒心は怠っていない。
移動中のタクシーやエレベーターの中でもお互いに素知らぬ顔だった。形だけでも知り合いの体を装う。雪ノ下の自宅前に到着して、雪ノ下が鍵を開けるのを待った。雪ノ下が家の鍵が見つからずに焦っていたのが可愛い。自宅に入ってようやく緊張の糸が解けた俺達は靴も脱がないまま激しく唇を求めあった。
「ん…ちゅ…れろ。ちゅぱ、ちゅる…ちゅ、ちゅ」
スーツケースやボストンバッグを持っていたため、玄関だと流石に狭苦しい。仕方なく靴を脱いでリビングまで移動する。勿論キスは続けたままだった。途中、雪ノ下を壁に追いやってそのまま愚息を押し付けながら唇を貪った。雪ノ下も手に持っていた荷物を玄関に投げ出してお互いに背中に腕を回した。
リビングに移動するまで十分もかかってしまった。何時間もしていたせいで口周りの筋肉が明日傷んでしまいそうだ。
「夕食の準備をするから待っていてもらえる?」
俺はリビングのソファに座らされた。雪ノ下は唇を軽く重ねると、自室へ向かった。しばらくして、部屋着に着替えた彼女が戻ってきた。薄い肌色の長袖に紺色のパンツだった。ジーパンのような色をしながらも衣服と素肌の間には余裕があり、伸縮もある程度融通の効くもののようだ。上は熱い日なので肩を露出させているものを着ていた。正直それだけでもお腹いっぱいになるくらいには目の保養だ。
「昨日の残り物になってしまうのだけれどいいかしら?」
「問題ない。寧ろこうして食わせてもらうだけでもありがたいからな」
雪ノ下は流石の手早さだった。あっという間に数種類のおかずが食卓に並ぶ。品目は煮物におひたし、卵焼きと家庭的なものが多い。ご飯は予め予約で炊いていたのだろう。あっという間に炊きたてのものが用意されていた。
「どうぞ。貴方の口に合えばいいのだけれど」
「安心しろ。こんな事を言うのはあまりにも不謹慎だが、俺の嫁の料理の腕を考えてくれればすぐに分かる話だろ」
「本当に失礼な話過ぎて私もどう反応して良いものか困るわね…」
雪ノ下も頭を抱えていた。しかし、直ぐに気色ばんでこちらに避難の目を向ける。
「今は…由比ヶ浜さんの事は良いでしょう…?」
自分を蔑ろにされたことに対して怒っているのか。どうやら氷の女王様は他の女性の名前を出してしまうのだけでもNGらしい。
「その、悪かった」
「いえ…、その。し、仕方のないことだとは分かっているつもりよ…」
雪ノ下も直ぐに冷静になったのか、心なしか縮こまっていた。
「はぁ…意外だわ。私がこんなにもさもしい嫉妬心を持っているだなんて」
「ぶっちゃけ高校の頃からその気はあったぞ」
「…そうかもしれないわ」
「え、どうした本当に?」
しおらしい彼女を見て、らしくないなと思う。
「貴方が由比ヶ浜さんや一色さんと仲良くしているのを見るととても胸の中にもやもやとしたものがあったの。あの時は正直になれなかったけど、貴方だって気づいていたでしょう」
「あぁ。でもまさか雪ノ下みたいな美人にヤキモチ焼かれるなんて夢にも思わなかったから」
「そうね、私のような絶世の美女に好意を持たれるなどというイベントは貴方の人生では二度と起きないでしょうね」
雪ノ下は満足げだった。ただ、それが少しだけ鼻についたのでわざと彼女の嫉妬心を煽ってみたくなった。
「残念だったな。今の俺は女性人気が高いぞ」
「………」
雪ノ下の顔から笑顔が消える。そして一瞬にして切なそうな表情へと変わった。
「分かっているわよ…。私の会社に出向に来た時も貴方と仲良くなりたい女性社員が沢山いたもの。私が会った智佐吹さんも貴方のことが好きでしょうし。身体つきだって私のような身体よりもあの人達の大人っぽい色気を持っている方が比企谷くんは好みよね…」
「え、あの。いや、ちょっと…?」
雪ノ下が今にも泣きそうな顔になったので大混乱だ。どうやら、俺の知らない間に随分と彼女は不安定になっていたらしい。
「わ、悪かった。さ、さっきも言っただろ?雪ノ下が一番だって。事実として色んな女性からのアプローチはあったけど、俺が心を動かされたのは一人しかいなかったんだからな」
俺は雪ノ下のもとへ歩み寄ると震える肩をそっと抱いた。雪ノ下は安心したようで直ぐに落ち着きを取り戻した。
「ご、ごめんなさい。まだ実感が湧かなくて…。しばらくは何度も確かめないと安心出来そうにもないわ…」
「雪ノ下が安心出来るまで何度だって言っても良い」
「ありがとう」
俺はまた雪ノ下と舌を絡めあった。今度は雪ノ下の方から積極的に舌を求めてきた。
しかし、30秒と経たないうちに雪ノ下がそっと俺を突き放した。
「食べましょう、食事が冷めてしまうわ」
「そうだな、せっかく雪ノ下が作ってくれたしな」
早速席に着くと煮物から口をつけた。出汁の効いた優しい味が口の中いっぱいに広がる。出張のせいで長らく食べていなかった家庭の味だった。白出汁が味の深みに一役買っている。
「月並みの感想で申し訳ないが滅茶苦茶美味い」
「そう、良かった」
雪ノ下から笑みが溢れる。その笑顔だけで心を掴まれた。この笑顔を見るだけでも俺は彼女を選んだ甲斐があったと言えよう。自分一人だけが雪ノ下雪乃のこの笑顔を見ることを許されているという優越感。どのおかずを食べても美味いとしか言いようがない程に絶品だった。気づけば空腹も相まってあっという間に全てを平らげていった。
「ごちそうさま。美味かった」
「もう食べたの?」
「あぁ、いくらでも食えそうだ」
「それは何よりね」
「なぁ、雪ノ下のも食べていいか?」
「ええ。じゃあ、、、」
そう言うと雪ノ下は自分の焼き魚を器用に一口大に箸で取ると目の前に持ち上げた。
「は、はい…あーん」
なん…だと…?
雪ノ下のあーんなんてこの世に存在するのか。こんな可愛い女性が居て良いのだろうか。俺は流されるがままに口を開けてそれを受け入れた。
しっかりと味わって飲み込む。もう味とかどうでもいい。雪ノ下のあーんだけで人生最高の食事なのは間違いなかった。味も申し分ない。
「雪ノ下」
「な、なにかしら?」
「もう、残っている物全部あーんで食べさせてくれ」
俺があまりにも真っ直ぐな目で彼女を見つめていたために雪ノ下も困惑していたが直ぐに呆れられた。とはいえ、彼女も満更ではなさそうだ。
雪ノ下は次のおかずを箸ですくい上げると箸先の下に手を添えた。
「洗い物はこれで全部か?」
「ええ、ありがとう」
「食べさせてもらったんだから当然だ」
雪ノ下はダイニングテーブルで本を読んでいた。その姿はポスターに何の違和感もなく遣うことの出来る文学少女ぶりだった。
「さてと、そろそろ帰るか…」
「えぇ…由比ヶ浜さんに怪しまれてしまったらいけないもの」
時刻は夜の十時になっていた。終電にはまだ余裕があるが、流石に家に帰らないと結衣に勘ぐられてしまう。
「まぁ、帰国したその日にすぐ家に帰らない時点でおかしい気もするけどな」
「それを言ってしまったらお終いじゃない」
雪ノ下がそっぽを向く。そんな彼女が愛おしくなって後ろから抱きしめた。
「また近い内に会えるから、心配するな」
「比企谷くん、貴方は卑怯だわ…」
雪ノ下は俺の両手に手を添える。一頻り胸に手を当てるとこちらに振り返って口づけをした。
「一旦、家に着いたら連絡を入れる。恐らく来週には時間が作れると思うからまたその時にでもこうして会えたら…」
「ええ、ならまた来週…になるのね」
雪ノ下は俺から離れると物憂げな表情で下を見た。
「でも連絡は毎日取れるだろ」
彼女を元気づけようと声をかける。焼け石に水なのは百も承知だった。
「そうね。ありがとう、比企谷くん。さぁ、もう行って。これ以上居たら私が引き止めてしまうから…」
「分かった。また来週…だよな?」
「ええ、また来週」
俺は荷物を持ってそそくさと玄関へ向かった。かくいう俺もこれ以上雪ノ下と一緒に居てしまったら、未練がましくなって帰るに帰れなくなってしまいそうだった。あんな顔見てしまったら誘惑に負けてしまう。ようやくだ。何年ものすれ違いの果にようやく通じ合えたのにもかかわらず、帰らなければならない。そのなんというもどかしさ。あまりにも歯痒くて道中発散しなければやってられない程だ。
自分を落ち着けるためにも丁寧に靴紐を結ぶ。アメリカでのイベントなどでは当然革靴だったが、飛行機や空港での移動中はスニーカーを履いていた。
それにしても大荷物だな俺。スーツケースにボストンバッグ。海外出張だったのだから当然か。それら全てを抱え持って玄関のドアに手をかけようとしたその瞬間背後に温かな感触がぶつかった。
「うぉ!?」
思わずよろめいてしまう。その正体が何であるかは言うまでもないだろう。
「ど、どうしたんだ、雪ノ下…?」
「ひ、比企谷くん………」
雪ノ下の声は震えていた。
一時の空白を経て彼女は自らの思いを打ち明ける。
「ごめんなさい。お願い…。今日は帰らないで……。今夜だけでいいから、、、一緒に居て」
自分の中の鍵が音をたてて崩れ落ちる音がした。
そうだ、何を考えているんだ俺は…。
もう我慢しなくても良い。
もう彼女を離さない。
雪ノ下雪乃という女性に二度と寂しい思いをさせない。
そう決めたのだから…。
気がついたときには持っていた理性も荷物も全て投げ出して、色情魔のようにそこに居た雪ノ下雪乃の身体を乱暴に抱き寄せた。雪ノ下もまた俺の顔を両の手で捕まえると激しい口づけをした。
「んちゅ、ちゅ。じゅる…くちゅ。れろ、ちゅ、じゅ、じゅ…ん……ひき、、、ふぁ、やくん…」
かくして俺は秘密の花園へと脚を踏み入れることになる。
だがここで満足することなかれ。
それは帰り道もなければ道標もない無限に広がる快楽の迷宮へのほんの入り口でしかないのだから。
第三部 完
これにて第三部完!!です。
ですが、まだまだ続きます。
第四部は現在50000字ほどストックがありまして、順調に投稿できるかと思います。
基本的にはゆきのん中心のストーリーで展開する予定ですが、他のヒロインをどこまでメインに絡ませるべきか塩梅が非常に難しい…。他のヒロインを絡ませすぎるとゆきのんが立たなくなってしまうので、案外他のキャラがはいる余地は少ないのかなというのが第四部の序盤を書いてみた後の感想です。
ゆきのんメイン路線はこの作品を書き始めた当初通りのストーリーにはなっているので、軸がぶれていないということに関してはOKなのですが…。(一番筆が止まる原因になっているのがいろはすだったりします。彼女のポジションをどうするかが本当に困る)
一応、終わらせ方とクライマックスの展開は決めてあるのでそこに向かって上手く落とし込むことができれば良いなと思いつつ頑張ってまいりますのでこれからもどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
次回の投稿は一応5日後を予定しています!
お楽しみに!