この話を書いていた時は家に缶詰になってひたすら色んな欲に飢えていた時だったと思います。
では四十三話です。
-Side Hachiman-
東京駅から総武快速に乗って千葉のとある駅で降車した。途中、各駅停車の総武線に乗り換えて目的の駅まで移動する。
15分で到着した。
雑踏に紛れながら自分を殺して粛々と歩を進める。逸る気持ちをなんとか抑えながら目立たないように流れに合わせた。
南口から出て徒歩七分。歩道橋を渡って、コンビニエンスストアを右手に直進。青の銀行で右に曲がってすぐ見える焼き鳥屋の裏の通りを更に右に入る。その通りにある骨董屋の前の看板。そこが俺達の待ち合わせ場所だった。
不審がられないよう店頭に陳列された手芸作品を窓ガラス越しに見て過ごす。
ロシアのマトリョーシカだろうか。赤や黄色でカラフルに着色された人形がずらりと並んでいる。家に飾ればインテリアの一つにでもなるだろう。
窓ガラスに自分の姿が映った。髪の毛のはね具合やスーツの乱れがないか確認する。こんなところで身だしなみを整えるあたり、自分は年甲斐もなく初デート前の高校生のように浮足立っていた。
「お待たせ」
五分ほど経過してまもなく相手が到着した。
振り返ってその姿を瞳に映す。
最高の姿だ。美麗という言葉以外に適切な言葉が見つからなかった。
雪ノ下雪乃。
俺の不倫相手だ。妻とも親友の関係にあった人物。そんな女性と蜜月の関係に陥るとは自分も大層、危機管理能力に欠けている。そんな事は重々承知の上だ。それでも俺にとっては雪ノ下雪乃という女性と男女の関係を結ぶことを我慢するなんてことは無理だった。
スーツ姿の彼女はこの通りにあまりにも似つかわしくない気品さと華やかさを醸し出している。こんな女性がオフィスを歩いてたりしたら目が惹きつけられて仕事にならない。
「ごめんなさい。待ったかしら?」
「いいや。今来たところだ」
他愛のない挨拶のはずなのになぜか心が弾んでしまう。
「なんだか、初々しいカップルのようね」
彼女もまた同じようなことを考えたらしい。些細なシンクロに一喜した。
「まぁそんなもんだろ。付き合い始めてまだ一週間だからな」
俺たちはゆっくりと歩き始める。束の間のデートだ。合図もなく自然とお互いに歩幅を合わせていた。
「見方を変えればそうかも知れないけど、そんな年齢でもないでしょう?」
「今だけは高校の頃に戻ってるだろ?」
そう言うと俺は雪ノ下の手を握った。
「ひ、人前なのだから今はだめ…。それに高校の頃はこんな関係ではなかったでしょう?」
雪ノ下にそっと手を離される。少しだけ傷ついた。
「…そんな顔しないで。あ、、、後でいくらでも握れるじゃない…」
俺の残念がる顔を見たのか、雪ノ下がそっぽを向きながら顔を真赤にして答えた。
「お、ぉう…。悪かった」
「だから、、、謝る必要はないのだけれど」
そんな事を言いながら雪ノ下はそっと腕を絡めてきた。あの、さっきよりも目立ちませんかそれ?彼女らしからぬ大胆な行動にどぎまぎしてしまう。
「ゆ、ゆきの、した、さん?」
「その、は、早く入りましょう…。そ、その、み。密会なわけなのだから、あまり人目につくのもどうかと思うのだけれど」
「そ、そうだな」
そう言いながらも人目につく事してるのお前なんだけどな…。滅茶苦茶嬉しいから良いけど。裏の通りからもう1ブロック先に行って左手にある建物。こんな夕暮れ時から怪しい光を放ちながら色欲に目覚めた者たちを誘惑している。俺たちはそこに吸い込まれるように入っていった。
駐車場を抜けながら入り口へと向かう。見ると既にいくつかの車両が停まっていた。こんな時間から車で来るとは一体どんなカップルなのだろうと想像してしまう。いや、果たしてカップルと言えるのだろうか。いかん、今のは完全にブーメラン発言だった。野党もびっくりだ。
エントランスを抜けると、大きなモニターに幾つかの部屋のレイアウトが表示されていた。光っているパネルが今利用できる部屋だ。スタンダードな一室から、ベッドがウォーターベッドになっている部屋。道具がたくさん置かれた少々過激な部屋まで幅広く用意されている。
「何処にする?」
とりあえず隣にいる雪ノ下に聞いてみる。彼女はこの場所の雰囲気になれていないのか非情に動揺していた。周りをキョロキョロとずっと見ながら落ち着かない様子だ。
「そ、その、、、ここの勝手が分からないのだけれど…」
「そうか。雪ノ下はこういう場所は初めてか」
「あ、当たり前じゃない。一緒に来る人も居ないのだから」
その言葉を聴いてホッとする。俺との空白の数年間に男性と関係を持っていたんじゃないかととても不安だったからだ。それが杞憂だと分かって心の底から胸をなでおろしている自分がいる。
「気に入った部屋のパネルをタッチするんだよ。そんで部屋に入る」
「お、お金は何処で払うのかしら?」
「基本的に部屋の中で精算するぞ。フリータイムならまだしも、時間で増えていくタイプのホテルもあるからな。受付で精算するタイプもあるけども最近はこっちが主流だ」
「やけに詳しいのね貴方」
雪ノ下がじっと睨む。
「まぁ結衣と一緒に来てたからな。断っておくが、別に他の女とは来たことはないぞ」
「どうかしらね」
氷の女王様はまだ俺のことを信用出来ていない御様子。これから行われる行為のためにもこのわだかまりを解いておかなければ。
「そういえばもう一人だけ…結衣以外にも居たな」
「…へぇ、そう…‥んむぅ!」
そのまま雪ノ下の口を奪った。エントランスでいつ誰に見られるか、否、実は監視カメラにはバッチリと映っているのだがそんな事も気にせずに雪ノ下の肩から力が抜けるまで激しく舌を絡めた。やばい。気持ちいい。誰とも分からないやつに見られながらするキスは快感だ。カメラに見せつけるように雪ノ下と接吻を交わした。どうだ、最高にいい女だろ。そう自慢したかった。
「…ん…ちゅ。あ…ん。いや…」
1分ほどして雪ノ下を開放した。荒い呼吸で息を整えながら雪ノ下はこちらを見る。
「結衣以外にもう一人、これから増える」
「はぁ…はぁ…。だからといっていつ来るかも分からないのに…」
「悪い。したかった」
「謝って許されるものではないのだけれど」
そう言いながらもまた腕を絡める雪ノ下が可愛くて仕方ない。ここでもっと虐めたくなったが、流石にこれ以上は人の目や監視カメラの眼が気になってしまうので俺も真剣に部屋選びを始める。
「最初だし普通の部屋にするか?」
「普通の部屋というと、他には変わったものとかもあるのかしら?」
「あぁ、コレとか」
そう言いながら俺は保健室をモチーフにした部屋を指差した。
「これだと保健室であれこれするっていうシチュエーションで楽しめる」
「そんな形式の行為を好む人もいるのね」
「わりとこういうロールプレイでヤるのは嫌いじゃないけどな俺は」
「貴方、性癖まで捻くれているの?」
「わ…悪かったな…。こういう性格なんだよ」
「だから別に嫌とは言っていないでしょう?」
雪ノ下は手を握ってきた。
「わ、私だって、そういう欲の一つや二つあるのだから…‥」
え、何それ。超見たい。雪ノ下の性癖とかそんなもの見られるのか。いや、今から見られるじゃないか、何を言っているんだ俺は。
「それで、変態谷くんはどんな場所でしてみたいの?」
「そうだなぁ…って自分の変態は棚上げか」
「何のことかしら?」
いつもの調子を取り戻した雪ノ下に煽られながらも俺は逡巡する。保健室、和室、電車、色々候補があるから悩んでしまう、正直全部試したい。雪ノ下とここの施設の部屋をローラーしたい。
その時一つ自分の興味を強く惹く一室を見つけた。幸いにも空室で今入ることが出来るらしい。
「なぁ、雪ノ下。ここにしてみないか?」
「っえ……?」
俺はその部屋を指差す。予想だにしなかったのだろうか、雪ノ下は言葉を失っていた。
「あ、貴方正気なの?」
「大真面目だ」
「思考回路を疑うわね。は…初めてのデートなのよ?」
初めてのデートがホテルデートな時点で察しだろと喉まで出かかっていたが、流石に飲み込んだ。
「いや、あの。普通の部屋がいいなら俺はそれでも全然構わないんだけどな」
「わかったわ」
「え」
「何貴方が驚いているのよ?」
「いや、まさか受け入れてくれるとは思ってもみなかったので」
「受け入れてはいないわ。諦めたのよ」
雪ノ下は大きなため息を漏らした。
「貴方に“普通”を期待した私が馬鹿だったわね…」
雪ノ下がその部屋のパネルをポンとタッチする。そしてそそくさとエレベーターに向かうと上の階に向かうボタンを押下した。
エレベーターは一階にあったのか扉がすぐ開いた。
「何号室だったかしら?」
「403だな」
「そう、なら四階ね」
雪ノ下は儀礼的な口調で四階のボタンを押す。直ぐに扉が閉まると重厚な音を立てて機体が上昇を始めた。
「な、なぁ雪ノ下…」
「何かしら?」
「怒ってない…?」
「怒ってないわよ」
いや、怒ってるじゃねーか。完全に表情と言葉が矛盾しているんですけど。
四階に到着した。
ドアが開いて薄明るい廊下が広がる。
幸いドアの前には誰も居なかった。雪ノ下は俺を置いて足早に部屋の前へと向かった。そして急に部屋の前で立ち止まってこちらを見ている。
俺はわざとゆっくりと歩いてやった。
「は、早く来なさい…」
「良いだろ?別に誰も居ないんだから」
「……お、覚えていなさい」
「というか一回開けたら二度目は金払わないと開かないってなんでお前知ってるんだ?」
「…!た、たまたま、打ち上げで会社の人がそういう話をしていたのを小耳に挟んだのよ」
飲み会に参加もしない雪ノ下がそんな話を聴くわけがないんだけどな。それにそんなピンポイントな会話を覚えている方が不自然だ。
「まぁわかった。ならここで立っているのもなんだし、さっさと入るぞ」
「あ、貴方全然納得していないでしょ」
「そこ立っていると入れないだろ」
「きゃ…」
雪ノ下を腕を引きながら背中を抱くような形で入室する。雪ノ下の髪からとてもいい匂いがした。
こういった建物特有の狭苦しい玄関で順番に靴を脱いだ。洗面室を左手にメインルールの扉を開けるとそこには一階のモニターで見た通りの風景がそこには広がっていた。
「流石にそこまで広くはないな」
「当たり前でしょう。その、これからすることにそこまでスペースは要らないのだから…」
胸の中で雪ノ下が顔を赤らめながら声を漏らす。
「ほ、本当にここでするの?」
「そうみたいだな。ベッドはあるのかと思ったが」
「じゃ、じゃあ…」
「机の上でヤるしかないな」
二人の前にあったのは。四組の木製の机と椅子。部屋の奥に窓ガラス。極めつけは一番奥に目立つようにおかれた黒板。それが明るい色の木の床に置かれていた。黒板の隣には丁寧に時間割が書かれた紙が貼られている。
そういうことだ。
とどのつまり、俺達が行為の場に選んだのは教室だった。
続く
はい、またエロですね。今回から本格的にゆきのんと不倫します。
次回の投稿は一応1周間後です。
場面が今回と地続きなので早めになるかもしれません。