※この作品はR-18です。

雪の楽園   作:ホネ

58 / 91
私の中で1週間は8日ということにしました(投稿遅れて申し訳ございません)


では今回もよろしくお願いいたしますm(__)m



第四十九話

とある線のホームで電車を待っていた。人混みを避けるために端の方で待つ。階段側を見るとベンチに腰掛けた女性が目に入った。革物のハンドバッグを膝の上に乗せてスマホを弄っていた。ネイルもしっかりと仕上げていて容姿に余念が無い。とはいえ男性と会うような感じではなさそうだ。友人と食事会にでも行くのだろうか。

通勤ラッシュの時間ではないおかげで比較的ホームは空いている。

昼下がりのこの駅の周辺は閑散としていた。夜になるとその姿を変えて賑やかになる。ただし今はホームの塀の向こう側から除くキャバレーの光も消えており、廃墟のように鳴りを潜めていた。明かりがついているのは学習塾ぐらいだった。

手荷物は財布だけだった。他には何も持っていない。

ただ心はずっと朝から浮いたままだった。

予備の携帯を確認すると雪乃からLINEが来ていた。『今日はどういう予定?』という内容のメッセージだった。

『今日はちょっと人に会いに行くぞ』

『誰かしら?』

『会社の付き合いだ』

俺はお茶を濁した。ただ、あながち嘘では無かった。

『…女の人なのね』

何故バレる。

『そうですね、はい』

正直に答えることにした。ここで変に嘘をついてしまえばかえって雪乃の反感を買ってしまう。

『一色さん?』

『いや、別の奴だ。雪乃が覚えているかどうかは分からんが、総武高校の時に千葉村で会った小学生分かるか?そいつが今大学生になってうちの会社に就職しようとしてるんだよ』

そう、俺はこれから学期が終わって一時帰国している留美に会いに行くのだった。アメリカで最後に会ってから毎日連絡は取っていたものの、会うのは久方ぶりだ。留美の方から予定が空いたら一度二人で会いたいとメッセージが来たので会うことにしたのだった。

『……それって、もしかしなくてもアメリカでのことよね。八幡、どうしてそんなことを今まで黙っていたのかしら?』

駄目だった。雪乃との関係が始まってから1ヶ月以上経過している。それなのに彼女に隠し事をしていたような形になってしまったことに対して女王様は非常におかんむりである。

『いや、その。だな』

『……。貴方、まさか彼女とも関係を持ったの?』

『そんなわけあるか。まだ大学生だぞ』

『その言い方だと社会人として独り立ちしたらする予定だと言っているようにも聞こえるのだけれど』

悲報。比企谷氏、つつがなく墓穴を彫り抜く。

『ちょっと、雪乃さん。こちらの言い分も聞いていただけると嬉しいのですが』

『色情魔谷くんは一度、お灸をすえたほうが良さそうね』

さっきから雪乃にペースを握られているのがなんだか癪だ。ここはちょっと嫌がらせをしてみる。

『そんなに言うなら今から留美に甘えて癒やされてくる』

・・・・・・。

あれ?返信が来なくなったぞ。

そして直ぐに携帯が鳴った。着信音だ。雪乃からか。こっちの予備の方はネット環境が無いと基本的につながらないので今はメインの携帯電話のデザリングを使っているのだが、通話したら滅茶苦茶通信料金かかるではないか。とはいえ、雪乃からの電話を無視するなどという選択肢は存在しないので直ぐに応答した。

「どうした?」

『は、八幡…』

雪乃は今にも泣きそうな声だった。

「え、ちょ、ちょっと雪乃さん?」

『あ、甘えるなら私がいるじゃない…』

「え」

ちょ、滅茶苦茶効いてるじゃねーか。というか、想像以上に雪乃が堪えてしまっていた。額から別の嫌な汗が流れ落ちた。

「そ、そのだな。別にそんなつもりはないぞ。俺が悪かったから話を聴いてくれ」

罪悪感が半端じゃない。いつの間にかこんなにも雪乃が俺にベッタリになってしまっていたとは思わなかった。

『ええ。わかったわ…』

「その、全部話すけどいいか?」

『それはどういうことかしら?』

「ちょっと、お前にとってはキツイ話になるかもしれん」

『それでも聞きたいと思うわ』

「わかった………」

 

 

俺は雪乃に留美との経緯を始終説明することにした。留美とキャリアイベントで再会したこと、プライベートで一度会っていい雰囲気になったこと、雪乃との関係を相談したこと、その時留美と親密になって男女の関係になりかけたことまで全てだ。

 

雪乃には隠し事をしないほうがいいように思えた。だからこそ彼女に全てを打ち明けた。

多くの時間を要した。眼の前で何本もの電車が通り過ぎていった。

 

雪乃は俺が話し終わるまでただ黙ってその話を聴いていた。途中、俺と留美が関係は持っていないにしても口づけを交わしたことを告げた時には、虚しさと悲しさで吐息が漏れていた。だが、自分が俺を突き放した事も一因になっていると分かっていたからなのか俺を責めるようなことは決して言わなかった。雪乃は俺が話し終えるたのを認めるとただ一言、“そう”と呟いた。

『……八幡、そんなに苦しんでいたのね…。本当にごめんなさい…』

「どうして雪乃が謝るんだ?」

『そんなに貴方が思いつめているなんて思わなかったから』

雪乃は本当に申し訳なさそうだった。 

「それはこっちの台詞だろ。俺なんて何年も雪乃を苦しめてきたんだぞ」

『べ…別にこの数年間ずっと貴方のことで苦しんできたわけではないわ…という言い方は貴方を思っていない時期があるように聞こえてしまうけど決してそういうことではなくて…』

雪乃も混乱していた。まぁ急な話でいきなり理解をしろというのも酷な話ではある。

『その、つ、鶴見さんは私達のことを知っているのよね?一色さんとはまた違った立ち位置を保っているみたいだけど、本当に大丈夫なのかしら?』

「留美は個人的には一番信用できると思うぞ」

『そう、基本人間不信の貴方が言うのであれば間違いはないでしょうね』

一言余計なのは相変わらずだが、雪乃は珍しく食い下がらなかった。

「良いのか?」

『私だって、不倫である以上、貴方にも優先されるべき人間関係があることぐらいは承知の上よ』

の割にはかなり独占欲が強いようにも見えるんですけどね。

「そう思ってくれるのは助かる」

『でも偶には私が独り占めしたいわ』

「分かってる。そういう時間は必ず作るようにする」

『ありがとう…、あと鶴見さんによろしく伝えておいてくれるかしら』

「それは別に構わないが急にどうしたんだ?」

『貴方と私が今こうして居られるのは少なからず彼女のおかげなのでしょう?なら一言お礼を言わない理由はないと思うのだけれど』

それはご尤もである。留美が居なければ雪乃とは平行線のままだっただろう。

「わかった。そう言っておく」

『でもまっすぐにありがとうなんて言わないで。彼女からしたら私はただの恋敵になのだから……』

「おいおい…、ならどう言ったら良いんだ?」

『それを上手く伝えるのが貴方の仕事でしょう』

いいように言い包められた気がする。これから彼女に会うまでになんとかしてプレゼンテーションを完成させなければならない。

「…わかった。上手く伝えておく」

『ええ。ならそろそろ切るわね』

「あぁ、流石に時間がヤバい」

思った以上に話しこんでしまった。このままだと遅刻をしてしまって彼女を待たせてしまうことになりそうだ。予め集合時間にはかなり早く着くように家を出ておいたのが偶々救いになった。

「じゃあ、また来週にでも一度会おう」

『ええ、そうしましょう。今度はまた私の家でご飯でもどう?』

「魅力的なお誘いだ。是非お願いしたい」

『楽しみにしてるわね』

「おぅ。じゃあな」

『ええ、また』

俺は通話を終えるとちょうど目の前にやってきた電車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「遅い」

遅刻をしたわけではない。それなのに集合場所に到着して早々に留美に叱られた。とはいえ彼女を待たせてしまったことには変わりないので素直に謝罪する。

「…八幡なら早く来ると思ってたのに」

どうやら留美はアメリカで会った時のように集合時刻に相当早く到着するものだと考えていたようだ。俺も当初はそのつもりだったのだが、雪乃との電話があったこともあって、予定が変わってしまった。俺がアメリカで留美に会った時は待ち合わせ時間の2時間以上前には集合場所に来ていた。それを考えてみて、もしかすると彼女を2時間以上も待たせてしまったことにならないだろうか…。

「本当にすまん。まさかそんなに早く来ているとは思わなくてな…。というかもしかして、留美、滅茶苦茶待ったか?」

「別に、30分位しか待ってないよ」

「そうなのか。それでも申し訳ない」

「……ホントは2時間だけど」

「ん?どうした?」

「…何でもないよ。行こ、八幡」

そう言うと留美は俺の手を取って歩き始めた。先ほどとは違った焦燥感が全身を走った。留美の方から積極的に人前で距離を縮めてくるのが想定外だった。

無論、歳下の女性に手を引かれるなど人生で一度も無い(一色にからかわれてというのを含めるとその限りではないが)。だが、俺が彼女に心を奪われてしまった理由はそれだけではなかった。

取引先に向かうサラリーマンや休日を楽しむ女子大生の群衆を掻き分けて、俺の手を引くその女性は誰よりも輝いていた。ビルの窓から覗かせるカフェの風景や銀行、洋服店の看板が囲むスクランブル交差点に出た。その中心で一人の可憐な少女が光芒を放つかのように今という時間を謳歌していた。それなのに周りの群衆は俺たち二人の姿など目にも止めていない。他人の様子など自分が思っている以上に人は気にしないということか。今彼らが気にしているは信号機の色がいつ変わるのか、それだけだろう。

「なぁ、留美。これから何処へ行くんだ?このスピードは早くないか?三十路を迎えるおっさんにはちょっとキツイんですけど」

肩で息をしながら小さな背中に話しかける。少女は決して背が低いわけではない。寧ろ、それなりに高い方なのだが。

「今日は私に付き合ってね」

留美はわざとらしく答えなかった。ただ振り返って最高の惚れ惚れする笑顔を見せただけ。何度俺を籠絡させれば気が済むのだろうか。

「いや、その、答えに、、、なっていないんですがそれは…」

「ふふふ。遅れた罰だよ」

いや、俺は時間通りに来ただろう。そう言い返す気力はデスクワークを続けていた俺にはもう残っていなかった。

 

 

 

続く

 





久しぶりのルミルミです。吹っ切れてアプローチに全力になった彼女に言い寄られたら絶対落ちると思う。

さて、今回はちょっとだけ補足を。
前半部分での雪乃との電話のシーン。八幡はアメリカで留美を押し倒して雪乃との姿を重ねた場面等から雪乃への強い恋慕を抱えて苦悩していたことを自覚した八幡の葛藤を雪乃自身へ打ち明けます。

アメリカ編を長く書いたのは雪乃への思いを募らせる八幡の描写を出来るだけしっかりと書いて雪乃との不倫で爆発させるためでした。また、留美の存在が二人に大きく影響し、今があるということを雪乃に理解させるために今回のシーンを入れております。なぜ入れたのかと聞かれると多分こっちのほうが後々面白くなるという自分のお遊びです()

とはいえ、二人が直接会うという予定は無いのですが(寧ろ会わない方が色々面白そう)。


あとがきが長くなりましたが、今回はこれで終わりたいと思います!
次会の投稿はまた1週間"前後"を予定しております()

それではm(__)m
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。