大変お待たせいたしました。
やっと帰ってきたぞ、、、、、
というわけで早速前回の続き(八幡がルミルミの家に行ったところから)です!
だいぶ前になってしまっているので忘れられているかもしれませんが、、、汗
それではよろしくおねがいします。
「八幡ってさ、奥さんといる時は何してるの?」
二人で皿洗いをしながら留美が素朴な疑問を口にした。俺が進んで買って出たのだが、留美は一緒に洗うと頑なだったために俺の方が折れたのだった。俺が軽く水で流してスポンジで汚れを落とした食器を留美に渡して、彼女が水を切りながら食洗機に入れていった。
「普段か?特段変わったことはしていないけどなぁ。一緒にドラマ見たり、お互いが好きなことしたり」
「好きなことって?」
「結衣なら高校や大学の友達と買い物に出かけたり、俺だったら家で本をよんだりゲームをしたりだな」
「八幡、基本家なんだね」
「自宅警備員って副業が忙しいから仕方ない」
「それって収入あるの?」
最後の食器を受け取った留美が怪訝な顔でこちらを見ていた。
「いや、ボランティアだな。収入は無いから2つの収入源があるわけでもないし、確定申告の必要も無い」
流れ出るシンクの水を止めて、タオルで濡れた手を拭きながらドヤ顔で留美を見下ろした。
「八幡って時々変な方向にスイッチが入るよね」
「そういう真面目な表情で言われると一番傷つくんですがそれは…」
「傷つくように言ってるから」
留美は俺からタオルを奪い取った。
「やっぱり確信犯か」
「八幡だって悪気しかないのに悪戯とかよくやってるじゃん」
「俺は良いんだよ俺は」
「ダブルスタンダードってやつ?ずるいなぁ、八幡は」
「違う。二重規範だ」
「同じ意味じゃんそれ」
留美は呆れ返っていた。
俺たちはリビングに移動した。彼女の実家に置いてある大学の授業の教科書を見せてもらいながら留美の留学生活について色々と見てもらった。
「これは?」
「『Brave New World』…日本語だと“すばらしい新世界”って本」
オルダス・ハクスリーのディストピア小説。人間が「製造」「選別」された現代常識の通用しない世界を描いた作品でSF小説の中でも人気の高い作品だ。
「留美が買って読んだのか?」
「ううん。英語の授業で課題として読まされた。7冊位ある中から選べたんだけどね」
「敢えてこれにしたのか?」
「うん。なんとなく自分が読まないジャンルっぽかったし」
「それって不安でもなかったか?海外の大学だとGPAも高く保つ必要もあるんだろ?」
「まぁね。特に日本人は英語はとても不利だから苦労した」
よくやるわ。俺だったら絶対に楽単を目指してる。
「それにAはとれる自信はあったからさ」
「大したもんだわ」
「ふふん」
「この教科書は…っと、よく見たら表紙に思いっきりタイトル書いてあったわ。Psychology…心理学だな」
「うん、一般教養でとった。5つくらい自由に取れるし」
「なんか真ん中のページ開いたら、脳が描いてある。これは部位か?」
「うん、それも全部覚えたりした」
「過去形なのな」
「クウォーター制ってあっという間に学期終わっちゃうから一長一短なんだよね。嫌な授業は早く終わるけど、もっと学びたいって学問もそれで終了になっちゃうから」
「クウォーターって言うと4学期制か。日本の大学は基本2学期制だしな」
「勿論、2学期制の大学もあるよ。偶々、私の通っている大学がそうだったってだけで」
「じゃあこの心理学の授業の内容とかはもうあんまり覚えていないのか?」
「教授が面白かったから結構印象に残ってるよ。授業中に色々な心理テストとかやらされたし」
「実のなる木を描くとかか?」
「それ、“バウムテスト”ってやつでしょ?うん、やったよ。他にも線対称に近いインクの染みを見せて何に見えるか言語化してもらうテストとか」
「ロールシャッハテストだな」
「知ってるの?」
「古畑のオープニングトークでやってた」
「古畑って?」
「あぁ、もう世代じゃないよな」
というか放送されていた時期的に俺よりも前の年代がハマってるドラマだよなあれ。流石に留美が知っているわけがない。
「ジェネレーションギャップだから気にしなくても良い」
「そう言われると余計に気になるんだけど」
「俺がおじさんだったってだけのことだ」
「ふふふ。そうだね。八幡はおじさん」
「改めて言うなし」
「私、その言い方嫌い」
留美がそっぽを向いた。この言い回しに何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
「ねぇ、八幡ってさ…心理テストとかって信じる方?」
「半信半疑ぐらいだな。占いよりかは余程信憑性は高いとは思うが」
結衣がそういうのが結構好きで付き合わされたことがよくあった。その御蔭で色々と誤解されて難癖つけられたりもしたけど。
「じゃあさ、面白いテストがあるから今から1個やってみない?」
「授業でやったやつか?」
「そうだね。結構当たってるかもって結果だったから。八幡もどう?」
「まぁ、構わないぞ。その、最初にことわりを入れておくがあくまで心理テストだからな?うん」
そう、心理テストであって真理ではないのだ。そう思いたい。ってこんな事考えている時点で俺も結構ハマってるじゃないか。いつの間にか結衣の影響をモロに受けているな。
「うん、大丈夫。でもこういうのって意外に楽しいし、八幡ってあまり自分のうちに秘めた感情とかって出さない人だからやってみたいかも」
「俺は結構わかりやすいって周りに言われるけどな」
非常に癪だけど。
「それはそうだね。私でも八幡が何考えてるかだいたい分かるし」
留美にもバレバレなのか…ってそうじゃない方が今となってはおかしい気もする。
「なら試す必要は無いんじゃないか?」
「でも八幡って肝心な部分は顔に出すどころか絶対に話題に出さない人だから周りの人からしたら結構とっかかりづらいんだと思うよ」
確かに留美の言うとおりかもしれない。というか留美は普段人が隠している内面を的確に言い当てる事が多い。いつもなら気色ばむところだが、留美に言われると不思議とすんなりと心の中に入り込む。それもまた彼女の魅力であり、長所なのだろう。
「そこまで言うならやってやらないこともない」
「さっきまで普通に良いよって感じだったのになんで急に上から目線?」
「ほっとけ。はよ始めてくれ」
「変な八幡」
くすっと笑う留美の顔はこの上なく蠱惑的で溢れんばかりの魅力に満ち足りていた。
「じゃあ……ね」
———貴方は今、美しい森の中に居ます。輝く太陽の下、気持ちの良い風が吹き抜けています。さて、ここからが質問です。
Q1:誰と一緒に歩いていますか?
「誰と?…か。それって必ず誰か名前を挙げないといけないのか?」
「…もしかして、一人で歩いているって感じだった?」
「まぁ、最初の導入が俺が一人で森の中に居るような言い方だったからって理由だけだ」
「それは私の言い方が悪かったかも…」
「因みに歩いている相手が居るとしたら最初に浮かんだのは雪乃だな」
「雪乃……。へー。なるほど」
「どうしたんだ?」
「上手くいったみたいだね」
留美は本当に察しが良い。
「おかげさまでな」
「まぁ最初に会った時になんとなく分かってたけど」
また顔に出てたのか俺は。いい加減、赤の他人にもバレるんじゃないかと危機感が出てきたぞ。
「なんか話が逸れちゃったけどじゃあ次の質問ね」
「え、これ複数答えないといけないのか?」
「全部で7つくらい」
「中々の量じゃねーか」
———貴方は誰かと一緒に森の中を歩き続けているとある動物に出会います。
「おい、いきなり始めるなよ」
「八幡こうなると長くなるから」
「よく分かってるじゃないですかー。やだー」
Q2:その動物は一体何ですか?
「聞く耳をお持ちでない」
「八幡のちゃちゃ入れに逐一答えてたら終わらなさそうだったから」
「俺は株主総会でやたら質問する迷惑な株主か」
「もしかしたらその方がまだ可愛げがあるかもね。八幡は時々フォローのしようがないくらい面倒な時あるし」
「やめろ、その一言は俺に効く…」
「それで質問の答えは?」
にべもない。それもまた留美だ。
「象だな」
「象…ね。それじゃあ次」
———さらに森の中を深く進むと、空き地に出ました。その中心には一軒家があります。
Q3:見つけた家はどれくらいの大きさですか?また、その家にフェンスはありますか?
「…なんか妙な質問だな」
「心理テストの背景設定にいちゃもんつけたら駄目だよ」
「確かに元も子もないな」
心理テストやらにリアリティを求める方がおかしい。それこそ本末転倒だ。
「…家は2階建ての一般的なサイズで、フェンスはしっかりと四方を囲んでる。結構頑丈なやつな」
「オッケー。じゃあ次ね」
———家へ近づいていくと、ドアが少し開いていることに貴方は気づきます。そっと中へ入ると、そこにはテーブルがありました。
Q4:テーブルの上には何がありますか?
「家に勝手に入るとか無いだろってコメントは無しだよ」
「釘を刺された…」
「絶対八幡なら言いそうだって思ったから」
「もうここまで来ると言う流れになってないか?」
「別に言ってもいいけど私は流すよ?」
「流される前提なこと事前に言われたらもう言えねーじゃねーか」
「でも八幡ってこういう扱いの方が喜ぶかなって」
「俺はMだと思われてるんだな」
「そういうことじゃないけどさ…って八幡の変態」
「え、これ俺が悪いのか?半分くらい留美が言わせようとしたからだろ?」
「じゃあSなの?」
「中間という発想は無いのか…」
「両極どっちかだと思ってるからね」
「テーブルの上には花が生けてある」
「あ、はぐらかした」
「ほれ。次の質問行くぞ」
「もう。調子いいんだから」
———貴方は家の中を見て、裏口から外に出ます。そこには芝生が広がっており、中心には庭があります。そこで貴方はマグカップを見つけます。
Q5:マグカップは何で出来ていますか?
「マグカップの材質ってことか?」
「うん。そうだね。硬いとか、柔らかいとかそんな感じ」
「金属製かな。結構丈夫なやつ」
「因みにその中に飲み物ってどれくらい入ってる?」
「半分くらいだな」
「うんうん。じゃああと2つだね」
———庭を進み続けると貴方は水の中にいることが分かります。
Q6:それはどのくらいの広さですか?湖ですか?川ですか?池ですか?
「いきなり水の中か」
「うん。そのくらいの水の量というか広さをイメージしたかを答えてくれたらいいよ」
「最初に思い浮かべた水は…海だな。太平洋くらいの」
「え」
「おいなんだ今の“え”は」
「ううん。なんでもない。じゃあ最後の質問ね」
——家に帰るためにはその水の中を渡りきらなければなりません
Q7:どのくらい濡れましたか?
「そりゃあ海なんだから全身ずぶ濡れだろ」
「……うん。了解」
「…おい、何だ今の間は。あと、なんで途中から露骨に俺から距離を取るようになったんだ」
「別にそんなことはないよ。じゃあ、とりあえず最初から順番に何を示していたか発表しよっか」
「なんか滅茶苦茶緊張してきたぞ」
何故か背中に冷たいものが走った。これから留美からどんな結果を告げられるのか固唾をのんでいた。
「えーっと…」
留美は持っていた教科書のページを開き直した。
「最初の『森の中を誰と歩いているか?』って質問だけど、この質問で答えた相手っていうのが、、、、」
「いうのが、、、、?」
留美は一呼吸置いてからその可愛らしい口をそっと開いた。
「“貴方が人生で一番大切だと思う人”」
「……お、ぉう…」
思いっきり雪乃って言っちゃったよ。結婚相手違うのに。
初っ端から嫌な予感しかしないんだけど大丈夫かこれ?
「八幡?」
「あ、いや。大丈夫だ。単純にフリーズしていただけだ。まさかいきなり核心をついてくるような展開になるとは思ってもみなかったからな」
「じゃあ最初の質問は八幡的には当たってるの?」
「それを今言うのはちょっと怖いぞ…」
「わかった。じゃあ7つ全部テストの答えを教えてから聞くね」
死の宣告を先延ばしにしただけな気がする。しかもその命のロウソクは長く持たない。
「2つ目の質問…『森の中で出会った動物は一体何ですか?』って質問の真意はであった動物の大きさが重要で“動物の大きさが貴方が今抱えている問題の大きさ”です」
「めっちゃデカイ動物の名前を言ったんですけど」
象だよ象。現実世界だともうキリンとかクジラくらいしか居ないよ?象よりも大きい動物なんて。
「そうだね。八幡が抱えている問題はとっても大きいのかも」
「まぁ、お察しだよな」
「あと、さっき言った動物が警戒心が強く、近寄りがたいものであれば、積極的な人。逆にのんびりとしている平和的な動物であれば受け身な人だって」
「警戒心が強い動物ってのはだいたい皆そうな気もするが…」
「まぁ象だから、どちらかと言えば受け身っぽいよね」
「そうだな」
問題ってのをここまで引き伸ばしてるんだから積極的ってのはないか。
「3つ目の『森のなかで見つけた一軒家の大きさ』は“貴方の野心の強さ”を表してます。そして『フェンスがあるか無いか』は“貴方が開放的な性格かどうか”を示しています」
「この質問、留美もフェンス建てただろ」
「うん、とびっきり頑丈なのを四方に」
「だろうな。フェンス置かない奴居るのか?」
「私も居ないと思う」
俺たちは小さく笑う。
「野心が強いってのは家がどれくらいだとそうなるんだろうか?」
「結構曖昧だよね」
「一軒家って言ってる時点でそこから通常の想像を越えて巨大化させるって発想に中々ならなさそうなんだよな」
「アメリカだと一軒家って一階建てで横に広いのもあるから国ごとに違いが凄く出てくるかも」
「それでお国柄が分かるって統計も取れそうだな」
「それ、もう目的が変わってきてるよね」
「俺らも3つ目の質問の回答の時点で心理テストの問題の出し方や意義についてあれこれ言い始めてるから逸れてると思うが」
「八幡って遊びとか新しいゲームの説明を受けた時にルールの矛盾とかグレーゾーンを探すタイプでしょ」
「まぁ、勝つためには重要なことだろ」
それで昔反則負けになったことがあるが。
「だよね〜。私もそういう考え方をするタイプだけど」
留美は教科書をちらと見ながら次の回答に目を移した。
「4つ目の『テーブルの上に何が置いてあるか』という質問に対して、食べ物や人、または花があると答えた人は“今を幸せと感じている可能性が高いです”だって」
「俺なんて答えたっけか?」
「花が生けてあるって言ってたよ。はぐらかすように答えてたけど」
「俺は今幸せなのか」
「なんでちょっと疑問系なの…」
「今の俺の状況考えたらそうならないか?」
「うん…まぁ、ね」
「これ留美は当時なんて答えたんだ?」
「“何も置いてない”って答えたと思う」
「ぉぉう…」
「でも今ならちょっと違う答え方しかもね」
「それってどういう意味だ??」
「秘密」
「そこ隠すのか」
「八幡には絶対言わなーい」
留美は舌を出しながらいじらしく微笑む。心臓が跳ねる。可愛いな、本当に。
「マグカップの材質が…どれほど丈夫かに依って“森の中を一緒に歩いていく人との関係の強さ”が分かります」
「ほぅ」
「……なんでそんなに嬉しそうなの?」
「い、いや。別に…」
なんだかんだ俺も心理テストにハマってないか?さっきから滅茶苦茶一喜一憂してるぞ。
「プラスチックとかガラスだったら面白かったのに」
「そう言ったら留美はどうしてたんだ?」
「ほくそ笑んでたかな」
「あまり深くは聞かないほうが良さそうだ」
「自分のためにも?」
「そうだな」
「ヘタレ」
「ほっとけ」
そう言いつつも留美は俺の肩に頭を乗せていた。俺もそれに抵抗せず静かに留美の言葉を待っている。この距離感がとても心地よい…って俺はクズ野郎じゃないか。
「ホント、ヘタレのクズだよね。八幡」
「だから心を読まないでくれ」
「自覚はあるんだ」
「無かったら本当に人でなしだ」
「ある方が人でなしだと思うのは私だけ?」
「いや、俺もそう思う」
「なんで私こんな人に惚れちゃったんだろう…」
留美は大きなため息を吐いた。その言葉を面と向かって言われると、なんて言葉をかけたら良いものなのか非常に困る。
「とりあえず残り2つの質問を先に言っちゃおっか」
「そ、そうだな」
気を紛らわすように俺たちは残された質問の答えにすがりつくように話題を変えた。
「『水の中にいる』って質問ってその水がどのくらいの広さなのかが重要でさ、、、“広さ=性欲”なんだって」
「なっ!?」
「八幡は性欲の化物ってことだね」
「したこともないのに偏見が過ぎるぞ」
「じゃあそうじゃないの?」
「なら試してみるか?」
「うん」
「ゑ?」
「………」
「つ…、次の質問行くぞ」
「……ヘタレ」
留美はふてくされながら最後の質問の答えに目を落とした。
「『貴方がどのくらい濡れたか』によって“貴方がセックスをどれほど重要視しているか”が分かります」
「……トドメを刺されたような気分だ」
「ご愁傷様」
「ほっとけ」
「愛よりも身体の相性?」
「さぁな。だけどもし俺が体の相性から愛が生まれるって言ったらどう思う?」
「よく分からない。いきなり毛嫌いするのもまた違うと思うし。でも、それだけを表に全面に出している男の人は流石に仲良く出来ないけど」
「まぁ言うて俺もよく分かってないってのが本心だな」
それが分かっていたらこんなことにはなっていない。ほら、これほど説得力のある言葉は無いだろう?…自分で言ってて悲しくなってきた。
「というか、経験が無い私にそれ聞くの?」
「へー留美は経験が無いのか」
「…変態」
「なぁこれ俺が悪いのか?いや、俺が悪いな」
「八幡が貰ってくれる?」
「え」
「なーんてね」
「笑えない冗談だな」
「冗談…かもね」
「おい、何だその含みのある言い方は」
「ヘタレ」
「ほっとけ」
くそ、滅茶苦茶グッときました。正直理性が崩壊しかけました。
その後は留美と大学生活の話やお互いの愚痴を言い合いながら時が流れていった。気がつけばもう帰る時間になっていた。
「———さて、そろそろ行くわ。次はいつ空いてるんだ?」
「来週の土曜日なら空いてるんだけど八幡は?」
「来週か…。ちょっと予定があるな」
「雪ノ下さん?」
「……まぁ、な」
「そっか。なら仕方ないか」
留美はあっさりと身を引いた。
「ねぇ、八幡。雪ノ下さんに私のことは話したの?」
ここぞというタイミングで彼女は核心を切り出してくる。
「あぁ。ここに来る途中で電話で」
「それで遅かったんだ……」
留美はどことなく安堵した様子だった。
「ん?どうした?」
「なんでもない」
留美はおもむろに俺の肩に頭を置くと猫のように頭を擦りつけて甘えてきた。
「あの人…なんて言ってた?」
「雪乃か?まぁ、なんだ…その」
言い淀む。雪乃に上手く伝えるように言付かって来たのに、結局適切な言葉が見つからなかった。
「…そっか。なら私からも宜しく伝えておいて。私も雪ノ下さんには感謝してるから」
今ので全て察したのか。本当に留美には頭が上がらない。俺なんかにはとてもじゃないがもったいなくて。それでも欲しくてたまらなくなる。
「留美…」
「まだ駄目だよ」
俺が留美の肩に手をかけようとしたその時、留美がそれを峻拒した。
「まだ、けじめ、ついてないでしょ?」
「…あぁ。そうだな」
もう留美の虜だった。頭がどうにかなりそうだ。
「ねぇ八幡。1個だけワガママ聞いてもらってもいい?」
「なんだ?」
「その…。さ、最後まではまだ駄目だけど…き、キスしてもいい?今は私はそれだけで待てるから」
「……良いのか?」
「うん。お願い」
留美の肩にもう一度手を添えて強く抱き寄せた。そして、彼女の整った顔に付いている薄い桃色の唇をゆっくりと覆った。
「ん…」
彼女が首の後ろに手を回してきた。アメリカで二人きりでホテルに居た時と同じようにお互いの境界線がなくなるまで舌を絡めあった。彼女を味わうたびに理性の臨海線が徐々にその位置を変えていくのが分かる。気づけばいつの間にか俺は彼女の双丘に手をかけていた。
「ぁ…だ、だめ…はち、まん……」
留美が咄嗟に俺の手を掴む。しかし、その手に力は籠もっておらず添えるように持っていただけだった。
「…このくらいにしておこう」
「…うん」
留美は名残惜しそうに俺から離れた。
後1秒長く触れていたらどうなっているか分からなかった。脳裏に浮かんだ雪乃と結衣の姿が自我を取り戻させていた。とはいえ手にはまだ彼女の柔らかい感触が残っている。結衣ほどではないがかなり大きな方だった。
留美は立ったまま動かない。
「どうしたんだ留美?」
「そ、、、その」
胸をかばうようにしてこちらを見る。
「もしかして…感じたのか?」
「う…うるさい。は、恥ずかしすぎるから…」
あまりにもいじらしすぎてもっと触りたかったがこれ以上は留美の機嫌を損ねてしまうので止めておいた。案の定と言うべきか、留美は俺が靴を履いて家を出る直前まで口を利かなかった。
「駅までの道は分かる?」
「まぁ、大通りを道なりに進めば着くから迷わないだろ」
「そうだね。あと、来週は無理なんだよね…?」
「あぁ。再来週か。まぁ平日の仕事終わりも可能っちゃ可能だが」
「そうなんだ。なら、仕事終わったら連絡頂戴。私も空いてたら一緒にご飯食べよ」
「おぅ。いいぞ」
「うん」
留美の機嫌はすっかり戻っていた。だが、未だなにか言いたげな表情をしている。
「ねえ、八幡」
「どうした?」
家の扉を開けたところで留美に呼び止められた。
「さっきの心理テストなんだけど…」
留美が意味ありげな笑みを浮かべる。
「一つだけ答えを教えていない質問があったんだよね」
「ん?そんなのあったっけか?」
「うん。覚えてない?コップにどれくらいの水が入っていたかって質問」
「あぁ。そういえばあったな」
確か、5つ目の質問だったか?マグカップの材質に加えて中にどれくらいの液体が入っているか聞かれた気がする。それについては留美は答えていなかったな。
「それがどうかしたのか?」
「実はあれも別のことが分かる質問だったんだよ」
「そうなのか」
「それでね…あの質問から分かることってね……」
わざとらしく間をおいてから留美は口を開いた。
「“貴方が一人の人間に対して注ぐことが出来る愛の量”なんだよ」
「………っ」
俺はあの時なんて答えた?
「あの時、八幡は『半分』って答えたの」
「…半分だとどうなるんだ?」
「分かってて言ってるでしょ。でもいいよ。説明してあげる」
留美が蠱惑的な笑みでこちらに詰め寄ると白く透き通った手を俺の胸に添えた。
玄関の段差の影響で彼女の女性の象徴が眼前に広がって心をざわつかせる。
「コップいっぱいが全体量。あと、愛情なんてものを数量化するなんてって言うのは野暮だよ」
人差し指で胸の周りをなぞる。その後、釘を指すように指先で2,3回小突かれた。
右頬に冷えた汗が流れ落ちた。
「ねぇ、八幡。“あと一人”は誰にするのかな?」
扉が閉まった。
家の内側から鍵のかかる音がしない。覗き穴越しに俺の顔を見て楽しんでいるのだろうか。
まとわりつくような視線が穴から延びているようだ。一刻も早くこの場から離れなければならないと分かっていても、足がしばらく床に貼り付いて動かなかった。
あと一人。
今俺が注いでいる人間が誰で、そして誰に愛情を注いでいないのか。残酷にそれを告げた彼女の本気を垣間見たような気がした。
続く
まずは約二ヶ月ぶりの投稿になってしまって申し訳ありませんでした><
ひとまずプライベートが落ち着いたのでこれからまたいつものペースで一週間間隔での投稿でやっていきたいと思っているのでまた改めてよろしくお願いいたします!
今回も読んでくださってありがとうございました!
それではまた次週よろしくおねがいします^^