今回もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
「———さて、準備は出来た?」
チェックインカウンター前で智佐吹さんが朝礼のように周りへ呼びかける。またこれがやって来たのか。憂鬱になりそうだ。いや、もう既になっている。
「今回は長旅だぞ〜。寧ろ旅行気分で行かないとな」
「前回のでも結構クタクタだったんですがそれは…」
「逆に2回目となればなれが出てくるかもしれませんよ?」
「そうなるといいんですけどね…。島田さんはもう慣れました?」
「渡航初日は下痢します」
「駄目だこりゃ」
何故また俺は空港に居るのか…。
そう。出張である。またもやアメリカである。今度はロスからニューヨークまで。アメリカ横断ウルトラクイズのように西から東。このネタわかるの智佐吹さんと島田さんだけだろうけど。
「なんか私の年齢ネタ想像してない?」
エスパーかあんた。ってこれ何回言えばいいんだ…。
「東海岸ってボスキャリでしか行ったこと無かったから楽しみだ〜」
「なんだ、芦間。留学中に行かなかったのか?」
「ベガスとかは行ったけどさ。東の方は機会がなくてね〜」
「なんか色々違うのか?」
「それなりには。日本だって九州と関東でもぜんぜん違うだろ?一番違うのは気候だろうな。ニューヨークはそれなりに北に位置してるから」
「え、防寒とかしっかりしないといけないのか」
「そうやで。まぁ、ミネソタやシカゴに寄らないだけマシだけどな。あそこらへんはもう寒すぎて日本人にはキッツイ」
「もしかしてそこも…」
「うん。行ったこと無い。そこから来た友達からの情報」
芦間はあっけらかんと答えた。伝聞をこうも説得力を持たせて語るのはこいつの才能かもしれない。
搭乗ゲートまで歩きながらこれまでのことをぼんやりと顧みる。
雪乃との不倫が始まって幾分と時間が経過した。関係は相変わらず良好で今も続いている。あれからいろいろな場所で逢瀬を繰り返した。結衣の様子は恐ろしいほどに変化がなく不気味さは拭えないものの、今の所不穏な足音は身の回りに起こっていない。
留美とも何度か会った。彼女の家に食事を食べに行って以降留美の方から積極的なアプローチが来ることは無くなった。女友達かのように何処かに一緒に遊びに行って帰るだけ。これまでとは距離が出来たのにもかかわらず居心地は非常に良かった。それでも留美ともっと親密になりたいという欲望も捨てきれないのだが。
留美は敢えてそういった感情を伏せているようにも見受けられた。あくまで俺の方から距離を詰めない限りは彼女はもうそれ以上は踏み込まない。駆け引きを強いられているのだと理解したのは3回目の時だった。
別れ際の度に挑発的な視線をこちらにやりながら帰る。その様は映画のワンシーンを切り取ったかのように映えていた。
そしてのらりくらりとしたデートを繰り返した後、留美がアメリカに戻る前最後に会った時に彼女に言われた一言がまだ耳に残っていた。
「−−−私が待てるのは後少しだけだよ?」
その言葉の真意は理解している。次に会うであろうボスキャリで答えを出せということ。なんとも絶妙なタイミングだと思う。俺が答えをはぐらかすことが出来ず、自分という存在を最大限までアピールできるギリギリのラインを心得ている。いつの間に男を手のひらで転がす術を覚えたのか。
「おい、比企谷。行くぞ〜」
ゲート前で芦間に呼ばれた。気がつけばもう搭乗時刻になっていたようだ。慌ててパスポートと搭乗券を取り出す。航空機までの通路を進みながら心の帯を締め直した。
「……集合場所ってここだったよな?」
「おぅ。鶴見さんのメールだとメインの通りにあるクマの銅像前で待ち合わせって言ってたぞ」
アメリカに到着した俺達はボスキャリに向けての第一面接として、留美が通っている大学を直接訪れていた。そもそもの話になるのだが、俺達の今回の目的は前回同様新卒採用である。日本人留学生の採用は大体年に一回、秋に行われるボストンキャリアフォーラムと呼ばれるイベントで一気に採用するものだが、一部企業はボストンで行う前にいくつかの有名大学をまわって予め、優秀な生徒たちと面接や交流を行うことで他の企業よりも心象を良くしておくといったことを行う。勿論、その場で採用という場合もあり、彼ら学生にとっても就活を有利に進められるようメリットが相互に存在する形となっている。
そんなわけで最初に俺たちはボストンでのイベントが行われるよりも前に渡米し、各地の名門大学を訪ねているのだった。
アメリカの大学のキャンパスに足を運ぶのは俺にとっては勿論初の試みとなる。日本の大学しか知らない俺からしてみれば何もかもが新鮮だった。多様な人種、美術館のような外観を持った図書館、何のためなのか分からないアンケートや募金の呼びかけをするおっちゃん。キリスト教に関する演説を繰り広げる活動家(?)。とにかく何でもだ。
異世界転生でもしたかのような気分だ。
留美が集合場所に指定した場所は大学のマスコットキャラにもなっているクマの銅像がある場所…ネットや雑誌の地図でもこの場所にあると表示されていたのだが…。
「何故か本来あるべき場所の周りに大きな黒板というか板があるぞ……」
そう、身長を大きく越す銅像がさらにそれよりも大きな板で四方をきっちりと囲まれていたのである。シンボルともいえる銅像様を拝めずにいた。
「あーこれね…。確かにちょうどその季節だな」
芦間が納得したような表情を見せた。
「これはだな、比企谷。ライバル校との対戦が近いってことだ」
「ん?どういうことだ?」
「こっちって大学スポーツの認知度が滅茶苦茶高くてさ。特にアメフトともなるとNBAやメジャーリーグの決勝戦よりも視聴率取るわけね。それで今って大学アメフトのシーズン中でおそらく近いうちに近隣の大学とこの大学のアメフトチームが試合するんだと思う」
「早慶戦みたいなもんか」
「そうそうそれ。お、ここに日本語でAV女優の名前が書いてあるぞ。絶対日本人留学生だな」
「日本語ならバレないとか思ったのかね…」
「多分、他の国の言葉でも色々書いてあるんだろうな。何が書いてあるのか調べたら面白そうだ」
「完全に無法地帯だな」
それでお互いの銅像やらに落書きしたり色々起こるから黒板で囲んでいるのか…。よく見ると日本語とか書いてある。文字のサラダボウル。まさに路地裏の壁状態だ。いや、それの方が秩序があるかもしれない。
「それで皆血気盛んになってるってのか?ヨーロッパや南米のサッカーファンがたまに事件起こしたりするよな」
「あ〜…。まぁ、負けたら選手に対して殺人未遂が発生するとかいうあそこまで殺伐としたことは基本起こらないけども…」
芦間は黒板を撫でながらボヤいていた。「たまにNFLは見てたんだけどな〜」と、どこか遠い目をしていた。
「なんか大学来てからちょっと元気が無いように見えるけど気のせいか?」
「ゔぇ!?やっぱそう見える?」
「いつも嘘くさい表情してるくせに今日はやけにマジ顔だからな」
「…俺も結構顔に出るのな」
芦間が照れ隠しするように取り繕った。
「あぁ。人のことは言えない」
「比企谷に言われると癪だけどな。でもお前に言われるのが一番救われるかもしれん」
「それ褒めてるのか?」
「そりゃあもう。俺にしては最上の賛辞だぞ」
芦間はジャケットの内ポケットからカラーのマジックペンを取り出すと黒板に英語で落書きをし始めた。
「比企谷君、トシに何か言ったの?」
智佐吹さんが隣で訝しげに俺たちを見つめている。
「いや、特に変わったことは言ってないですよ。いつも通りの会話をしただけです」
「そうだとしても、もしうちのオフィスに居る時もトシがああなってたら比企谷君のせいだからね~」
「そんな殺生な」
「ふふ。冗談♫」
智佐吹さんが背中を軽く叩くと島田さんの方に行って何やら打ち合わせを行っていた。
「何か智佐吹さんと話してたのか?」
丁度そのタイミングで葦間が戻ってきた。
「別になんでもないぞ」
「そっか。それよりも見てみろよ、比企谷。あそこにYahoo知恵袋のリンクのQRコードを手書きしておいた」
「なんでまたそんなものを…。というかQRコードってそんな素早く手書きできるものでもないだろ」
「ほんなら、実際に読み取ってみ?」
「いや、別にいい。因みに何に繋がるんだ?」
「“さ○なくんに寄生されている下の人ってもう助からないのでしょうか?”って質問のページに飛ぶようにしておいた」
「なんだそのブラックジョーク…」
「いや、これ別にブラックジョークでもないだろ…」
乗ってやったら何故か逆に葦間にツッコまれた。しばらくして、島田さんが楽しそうな顔で『比企谷君、QRコードを試しに読み取ってみたら日本語のサイトに行きましたよ』とスマホを見せてきたので愛想笑いをしておいた。因みに智佐吹さんは『この人にはスタイルで勝ってるな』と掘り下げるにはおぞましい発言をしていたので悟られぬようにそっと距離を取った。
「お待たせいたしました」
背後から馴染みのある声が聴こえてきた。彼女の声だ。
「お久しぶりです皆さん」
留美は公の場でのルールを遵守して丁寧な対応で俺たちを出迎えた。彼女の後ろには何名かの日本人会の理事が立っていた。その中に俺がかつてこの大学の日本人会のクラブイベントに参加した時に少しの間だけ話したクロという人物の姿が目に入った。確か留美の後輩で彼女が気兼ねなく話すことの出来る数少ない人物だったはずだ。
彼はこちらの姿を認めると改めて俺個人に対して軽く会釈をした。俺もそれに倣って分かる人にだけ分かるような軽い挨拶を返した。
「こんにちは鶴見さん。この度はお世話になります」
島田さんが深々と頭を下げる。気がつけば互いの代表者が挨拶を交わしていた。普段見ない留美の全く違った一面を目の当たりにする。それはいつも俺が見ているあどけなさと可愛らしさを微塵も感じさせない瀟洒な女性という印象だ。おそらく大学や日本人会での彼女の顔はこちらなのだろう。もしかするとこちらの方が彼女の本当の顔ではなかろうかと思えてしまうほど自然体で話しているようにも思える。そんなことはありえないということは勿論この俺が一番知っているのではあるが。
今回のイベントの流れはまず始めに企業説明会を一時間、その後個人面接とパートナー面接を段階的に行っていく。所要時間としては3~4時間を予定している。面接希望者の人数によって時間が大幅にずれ込む可能性だってありうる。
説明会会場へ移動する最中留美は葦間や智佐吹さんと話していた。意図的になのか留美は俺の方に一度も目を合わせようとはしなかった。俺はクロや他の理事のメンバーの質問に答えたり、雑談を交わしながら会場へと足を進めていた。
また、理事の一人に非常に可愛らしい女性がおり運良く自分と話してくれていた。こんなところでぼっちになるところだったので良かった………が、彼女と会話が弾むたびにある一定の方向から非常に背筋の凍る視線が向けられているような感覚がして会話の内容は殆ど覚えていなかった。
説明会会場は教室の一室だった。クロ曰く各団体には週一でミーティング用の教室が割り振られており、その権限を利用して俺たち企業のための説明会会場に充てているらしい。
会場について俺がパソコンや資料の準備をしていると先程話していた理事の女生徒が手を貸してくれた。詳しい話を聞いてみると、どうやら彼女も弊社志望らしい。肩にかかる程度の長さの髪をかきあげながら溌剌と答える。それを聞いた瞬間、内申点稼ぎかこれはと邪推してしまったが、そうだとしたら一番下っ端の俺なんぞに話しかける必要もないよなぁと直ぐに考えを改めた。
ではどうして俺に彼女は話しかけてくれているのだろうか?先程からやたらと距離が近いのも気になる。いきなりの質問ではぐらかされるかとは思ったが思い切って聞いてみた。
「だって留美が自分の恋人のように貴方のことを話すからずっと私も気になってたんですよ。それでちょっと話してみたら直ぐに分かりました。あ、この人凄く良い人なんだって」
笑顔で彼女はそう答えた。どうやらこの人は留美と親しい存在なのだろう。良くも悪くもはっきりと物を言うタイプに見える。こういう人間のほうが案外留美にとっては相性が良いのは俺も納得がいった。
「そうか?人間少し話しただけじゃ中々人間性なんてわからないもんだと思うぞ」
「そんなもんですかね~?というより、比企谷さんも最初の一言目で自分に合うかどうか決めちゃうタイプじゃないかなぁって思ったんですけど」
「それが出来るのは女性だけだ。女の勘なんてものは男は持ってない」
「それ、褒めてます?」
「そのつもりだが」
「じゃあ素直に受け取ります」
彼女は深く頭を下げた。
「……変わってるって言われないか?」
「結構ど直球に聞いてきますね……。まぁよく言われます」
「俺は別に変わってるとは思ってないけどな」
「え、本当ですか?あぁ、自分の方が捻くれてるからですか?」
「なぁ、もしかしてさっきのちょっと怒らせたか?」
「ふふふ。全然です。寧ろ比企谷さんと話すのすごく楽しいですよ」
「前言撤回だ。やっぱり変わってるわ」
「最大の賛辞ですね」
「ぉ、ぉう…」
なんというか俺、この人には頭が上がらない気がする。
「………比企谷さんって分かりづらい人だけど分かりやすい人なのかも」
何やら彼女がぶつぶつと独り言を呟いている。何を言っているのかまではよく聴こえなかった。と、その時、、、
「茜…こっち手伝って」
彼女の背後で氷の女王様二世が冷ややかな目で俺達を見ていた。絶対零度の視線で人を睨み殺すだけの眼力を誇っている。普通であればその剣幕に押されてしまうところだが、呼ばれた女性……茜さんとやらはというと、
「はいよ~留美。あと、そんな目で睨んじゃだめだよ?―――愛しの比企谷さんに嫌われちゃうぞぉ……?」
「ふぇ!?あ……そ、その。違う……」
たった一言で留美を言いくるめていた。凄いな。あんなにも留美が一方的に言い負けてるの初めて見た。彼女が何を言ったのかはこちらからはギリギリ聞き取れなかった。一体何を吹き込んだのか、あの留美が真っ赤になって俯いていた。
「比企谷さん、やりますねぇ~」
パソコンをケーブルでプロジェクターに繋ぎながらクロが意味ありげな視線をこちらに投げていた。このプロジェクターは俺たちが準備したものではなく彼らが備品として所持しているものを持ってきてもらっていたのでセッティングは彼らに任せているのである。
「君のポジションはいつもそんな感じなのか?」
「いんや。あんまりこの団体のメンバーとは俺は折り合い悪いですよ。だからこんなテンションで絡んだら間違いなく嫌われますね~」
「あ、いや。そっちじゃなくて仕事の話だ」
クロのちゃちゃ入れをさらりと流しながら俺は予てからの疑問を口にした。クロは進んで地味な作業や裏方業務を担当していた。クラビングイベントの時も彼はひたすら雑務を一人でこなしていたのが印象に残っていたからだ。
「あぁ、そっちのことですね。単純に自分があんまり人前が好きじゃないっていうのと他の理事じゃ仕事に信用がないっていう理由とか……」
あぁ、これ後者が本当の理由なんだろうなぁ。全ての仕事や責任を自分で抱えようとして自爆しなければ良いのだが、こういうのは一回大きな失敗をしたり溜まりすぎてパンクしないと止まらないから敢えて今のままではマズイとかそういった助言をするのは止めておいた。とはいえ流石に何も言わないのは自分としても嫌だったので差し障りのないように他に頼れる人間は居ないのかと聞いてみたが、留美や茜のように今年就活を控えている理事にこれ以上の仕事は押し付けられないと答えていた。というかさっきの質問の仕方でその答え方となると留美や茜以外に本当に頼れる人が居ないんだろうなと心底同情してしまった。
「―――さて、それではそろそろ説明会の方を初めたいと思っておりますので皆様ご着席いただくようお願いいたします」
島田さんの一言で葦間や智佐吹さんと話していた生徒たちが速やかに席に着いた。俺も生徒たちの邪魔にならないように会場の後方に静かに着席した。
弊社の説明会には30人近く集まっていた。これは後にクロから聴いた話だが、普段こういったイベントを開催すると集客は20人行けば良い方らしい。つまり弊社はそれなりに生徒からの興味を集めていたことになる。もしくは留美が集客をFacebookのイベント告知で頑張ってくれていたのだろう。
説明会は智佐吹さんが手動となって行われていた。内容は弊社で行うようなものと特に変化は無い。企業理念から事業紹介といった企業の自己紹介をかいつまんで説明している。
途中生徒からの質問に答えつつ終盤に入ったところで今回の採用面接の方針を生徒たちに話す。今回の採用で取るのは2~3人かと漠然としたことを考えていた。
因みに留美は既に内定を貰っているので内定をもらった人の代表者として新卒の挨拶兼弊社の簡単な紹介を行っていた。島田さんあたりが頼んだのだろうか。
説明会が予定通り、1時間で終了した。この後は採用面接の時間になる。どうやらこの後は場所を移動するようだ。
「面接会場は図書館のグループ学習室を3部屋予約しておきました」
留美が俺にも聞こえるように少しだけ大きな声で智佐吹さんにそう話していた。勿論、事前に留美のメールで当日の予定表は文書で受け取ってはいたのだが、こういう彼女のちょっとした気遣いが社会では評価になるものだ。
グループ学習室はガラス張りの6畳間ほどの部屋だった。防音はしっかりとしているようで声は外に漏れない仕様になっている。3部屋は連続して隣り合っており、その端には丁度良く待機している生徒が座ることが出来る広めのスペースが確保されていた。次に面接を控える生徒はここで待機してもらう運びになっている。
「じゃあ奥の二部屋で面接をするから、トシは一番手前の部屋でさっき言った作業をよろしくね」
「承知しました~」
葦間は飄々とした声で答えた。それで俺は何をすれば良いんだ?
「比企谷君はお話相手ね」
人選ミスとはこの事を言う。そこはどう考えても逆だろ。なんで俺を事務に回さなかったんだ。横で小さな声で葦間に「敢えてらしいぞ」と言われる。まぁどうせそんなことだろうとは思っていましたよ、はい。
弊社側他の三人が持ち場につく。俺はというと歳下の生徒に囲まれながら放置である。
「八幡はこっち」
留美が俺を椅子に誘導した。あの、ナチュラルに俺のこと名前で呼ぶのはどうかと思うんですよ本当に。恥ずかしいから……。ほら、貴方のお友達がにこやかにこっちを見ていらっしゃいますよ。
留美はそそくさと俺の隣に腰を下ろした。
「あの、何かあったのか?」
「ん?何が?」
恐る恐る留美に話しかけるも彼女は特に変わったことは無いと言わんばかりに普段の表情を見せた。それが逆に恐怖心を煽るのだが。
「…というか他に言うことあるんじゃないの?」
顔には出していないがへそは曲げているようだ。そういえば、二度目のアメリカに来てから初めての留美との会話がこれだった。
「悪い。久しぶりだな、留美」
「うん。久しぶり」
留美がようやく笑顔を見せた。こうしてよく話すようになってから彼女は喜怒哀楽を頻繁に見せるようになった。勿論、それはいい意味でだ。
「……留美がこんなにも自然な笑顔を出すところ初めて見たよ…‥…」
「本当ですね。今ここに俺ら以外の人が居なくてセーフでしたよ。これ他の人いたら絶対噂になってましたね」
茜さんが珍しいものを見たと感嘆の声を漏らした。隣にいるクロも今自分の前で繰り広げられている光景が信じられないといった様子だ。
「私そんなにいつもと違う?」
留美が不思議そうに首をかしげた。そこに関しては俺も留美と同意見だった。いつもの留美はこんな感じだ。逆に他の人と話しているところを見たことがないというのもあるが、クロ達と話すときの留美は感情をそこまで表に出さないのだろうか。
「ぉう…。なぁクロッピー、こりゃあ重症と違いますかね?」
「そうですな姐さん。医者が匙を投げるやつです」
二人が頭を抱えていた。留美が「意外に仲良いよね二人って」と声をかけたが正直このタイミングでのその発言は留美のポンコツ具合が更に悪く二人に受け取られてしまうだけだろうと嘆息した。
「ねぇ八幡。私変なこと言った?」
「お前らしくもないな」
「…もしかして八幡も二人の方に付くの?」
「そういうことじゃないんだけどなぁ……」
「比企谷さん、今の留美に説明しても貴方が自爆する未来しか見えないですよ」
茜さんが半ば呆れたような声色でボヤいた。クロが「自分もそう思います」とそれに続く。
「別にこいつの保護者ってわけでもないんだが、これからも留美をよろしく頼む」
「いえいえ。それはこちらの台詞ですよ」
「3人とも私のこと子供扱いしてる……」
その後しばらく留美が拗ねていたが面接が終わる頃には留美はまた俺の隣に戻ってきて俺達の会話に加わっていたのだった。
さて、少し時間が飛んでまたアメリカ編。
雪乃との浮気を一回挟んでも良かったかなとは思いましたが、それをしてしまうと少し話がだれてしまうような気がしたので早めに展開を進める方針にしました。
アメリカ編は今回の渡航でラストになりますね。流石に前回ほど長く行う予定ではないです^^;
次回の投稿も一週間後を予定しております!
それではまたよろしくお願いいたします^^