「――――それにしても、先輩とこうして二人で飲むのって随分と久しぶりじゃないですか?」
仄暗いカウンターの上に置かれたソルティドッグをくるくると回しながら、一色は流し目でこちらを見た。仕事場にいる時にしているまとめ髪は既に下ろしており、昔よりもずっと長くなった亜麻色の髪を怪しく靡かせている。バーの店員や他の男客達が揃って思わず二度見してしまうほどの妖艶さだった。そんな視線や男たちの『一緒に飲みませんか?』アピールに見向きもせず一色はこちらから目を離さない。
「言われてみれば…確かにそうかもな…」
そう言いながら俺は、カルーアミルクを少しばかり口に含んだ。
「最後に飲んだのって先輩が海外の長期出張から帰ってきて直ぐの頃とかだった気がします。そう考えたら、先輩はわたしのことをあまりにも放置しすぎだと思いません?かれこれ1クール以上ほったらかしですよ?」
「それについては申し訳ないと思ってる…。だからこうして時間を作っているわけで」
その言葉を聞いて一色は気色ばんだ。
「あのですね、わたしに誘われたから時間を作ったなんて、ケアでもなんでもないんですけど?むしろ印象超最悪です。先輩から誘ってくれない限り、マイナスであることには変わりないんですよ?」
「う…」
それはごもっともだ。だからといって今更一色を誘うなんてどうしたら良いのかわからないし、どう誘えば良いのかわから...
「あの、わたし、先輩が誘ってくれるんだったら、たとえその日に他の予定が入ってたとしても無理矢理に時間作りますよ?それぐらいガードなんてあってないようなものなんですよ?」
当たり前のように思考を先読みしないでほしい。バツが悪くなってもう一度カルーアミルクを一口飲んだ。
「そう言われてもなぁ。いつもお前の方から誘ってくれてたからだな…」
「それは先輩が一切誘わないからじゃないですか。正直大学の頃から一度でも先輩の方から声かけてくれたらなぁって期待してたのに今まで綺麗サッパリ一度たりとも無いなんて…。こんなクソ野郎に惚れたと思うと自分が情けないですよ」
酷い言われようだが、正鵠を射ているので返しのしようがない。
「おい、一気飲みするなよ…。いくら飲めるとはいっても、体に悪いだろ?」
「このくらいで体壊すなら、今頃わたしは先輩に女として見てもらえないストレスで100回ぐらい胃潰瘍で倒れてる自信ありますけど」
「あ、いや……それは…。し、仕方ないだろ……」
「そうですね。先輩は結婚してますし。”わたし”なんかじゃ物足りないですよね?あ、マスター、スクリュードライバーお願いします☆」
「物騒な名前の酒を頼むなよ、背筋凍るんですけど」
「先輩も2杯目飲みましょ?」
「俺はカルーアミルク半分以上残ってる。まだ大丈夫だ……っておい」
「ぷはっ……めっちゃ甘いですね…」
俺からコップを取り上げて一気飲みしやがった。しかもわざと俺が口をつけたところに飲み口をしっかり合わせてから見せつけるように。
「じゃあマスター。このスケコマシにスレッジハンマーをお願いします☆」
「やめて。そんなの飲んだらハチマン死んじゃう」
それ確か、度数かなり高かったはず。いや、酒豪からしたらそうでもないのかもしれないけど俺からしたらヤバイやつ。
「冗談ですよ~安心して下さい。ごめんなさい、マスター。さっきのは無しで。それで、この女たらしにはレッドアイで」
「お前、俺がトマト嫌いなの知っててそれ頼んだな……あと一々バリエーション変えて俺をディスらないで下さい。これでも結構傷つくんだぞ」
「それを言うなら先輩がわたしにつけた傷の方が何万倍もあるのに、それについてはどうお考えですか?おかげで傷物なんですよ?あと、レッドアイはわたしが口移しで飲ませてあげますから、それなら飲めますよね?」
「いや、余計に飲めなくなるわ」
「むぅ……」
「頬を膨らませても変更は無しだ」
「ケチ。減るもんじゃないのに」
「俺の中の理性とか確実に減るだろ」
「それはもう無くしちゃって結構です」
帰りたい……。
こんな会話を目の前で聴いてるマスターのことを思うと俺は恥ずかしくて一刻も早くここから立ち去りたい。一色に店を選ばせるんじゃなかった。
「というかさっきのわたしの発言、後半部分しか答えてないじゃないですか。前半の答えはどうしたんですか?」
「げ、めざといな、ついでにあざとい」
「は?」
「ごめんなさい、反省しています。……ていうかお前の告白はもう何回も断ってるだろ。その回数以上に俺は高校時代にお前に振られてたような気がするが」
そう言うと一色は目を丸くした。刹那、悲痛に歪む表情でこちらを睨む。
「冗談と本気を一緒にしないで下さい…。………そ、そうやって逃げられると……ほ……本当に泣きそうに……なります……」
「あ、いや…。あ…。あの、だな」
一色がマジで泣きそうな表情になっていたので流石にまずい。だからといって、今の彼女に優しくしてしまえば余計に彼女を傷つけるだけじゃないのか。いつまでもこうして思わせぶりな態度を取り続けた事が彼女にとって重荷になっていたはずなのに。
「……先輩。躊躇わないで下さい……。そんな優しさ見せられると……余計に傷ついて、先輩の事が好きで好きでたまらなくなります…」
「あ、その……だから……」
ど、どうしよう。凄く可愛い。いや、違う違う。一色みたいな見た目超可愛い女の子泣かせたとなると自分の中の罪悪感は勿論、周りからの冷ややかな目に耐えられる自信がない。だからといって、妻がいる俺が別の女性に優しくするのも…。いや、慰めるくらいなら大丈夫だとは思うけど、いやいや、それよか二人で夜のバーとかいう根本的な問題があるわけで。というか、そんなことはどうでも良くて、今は一色の精神状態を安定させること、安心させることの方が急務であって……。さっきから言葉遣いおかしくなってるし。明らかに俺氏、動揺してる。お客様の中に、泣きそうになっている女の子の扱い方を知っている方がいらっしゃいましたら速やかに八幡に耳打ちして下さい。
そもそも言い加減彼女にきちんと答えを言うべきなのは間違いないのだ。だからこそきちんと一色いろはという女性との向き合い方も考えないといけない。ストーカー気質なところがあるとはいえ、何年間も俺なんかのことを想ってくれていることは疑いの余地が無い。
俺は彼女とどうなりたいのだろうか…。
「なーんちゃって!☆」
「ゑ?」
今までの緊張を一気に吹き飛ばすかのようにあまりにもこの雰囲気にふさわしくない明るい調子で一色が声をあげる。
「どーでした先輩?今のは結構罪悪感を刺激されて本当にわたしのこと考えてくれましたよね?ここ最近ずっと作戦練ってて、一番先輩がグラっと来る確率高いのを選んだんですよ。いや~、いい顔見れましたね!隠しカメラでも仕込んでおけばよかったぐらいでしたよ~。ねぇ先輩。わたし的には結構手応え感じてるんですけどどうですか~……?」
「え、あ?へ?うん?」
あまりの展開に思考がついていけていない。俺はからかわれていたのか?
「なーに狐につままれたような顔してるんですか先輩?この後はもう、愛しの後輩と仲良く楽しくお話する時間ですよ~?ほーらぁ、ちゃんと聴いてますか〜?」
頬をつんつんと突かれながらいじらしく笑う彼女。そうか、嘘……だったのか。
それはそれで、少しショックに感じてしまう。
「……え。本当にどうしたんですか先輩?いつにもまして気持ち悪さが出てますね?」
ショックに感じる……か。
そうか、俺はそう思ってしまうのか。
気づいてしまったというよりは、腑に落ちた、見ようとしていなかったことを自覚したというか。そんな気持ちだ。
俺は今、小悪魔な一色の顔を直視できない。
それは照れているからとか、からかわれて恥ずかしいからとか、そんな男のプライドじみた理由ではない。
それは言葉にすると至極単純な理由で、自分の愚鈍さと浅ましさに呆れてしまうような事実。
一色いろはがあまりにも魅力的すぎるから。
この一言で全てが片付いてしまう。
ちゃんと聴いているかだって?
聴いているに決まってる。
でも今の俺にはお前と楽しく話して、また明日って。それだけで終わる自信が無い。
総武高校を卒業してからずっとだ。どれだけお前のアプローチを冗談めかしてかわしてきたと思ってる。今更、お前と正面から向き合うのがどれだけ勇気のいることで、罪深いことだと思ってる。今までどんな思いでお前の誘惑をこらえてきたと思ってる。
今の一色の色っぽさは異常だ。この会社に彼女が俺を追いかけるように入社した時からずっと、毎日顔を合わせる度に、どんどんと垢抜けていって、儚げな艶めかしさと大人らしさを身にまとっていった。そんな女性としての魔性の魅力の中に、彼女本来の子供のようなあざとさが共存するようになった。年齢を重ねる度にそのギャップが洗練されていく。惑わされないわけがないだろ。これまで、彼女がアプローチを掛けてくる度に、なけなしの理性と冗談で逃げてきた。今までの距離感を壊したくなかった。
だがそれもそろそろ限界なんじゃないかと最近は危機感を抱いていた。そんな時にこんなドッキリをされて、こんなにも魅力的な一色を目の前で見せられて……。それで彼女を意識しないわけがない。
何よりも、結衣や雪乃との溝が出来てしまった今、俺に最も近い場所に、側に居てくれる女性を、ただの後輩としてだけで見るだけなんてことが出来るはずがない。
それでも俺にその手を取ることは許されない。もし手を取ってしまえば今度は結衣だけじゃない。雪乃に対してもひどい裏切りになってしまう。それだけは絶対に出来ない。それはこんな畜生に残されたなけなしの意地だった。
それでも少しなら、近づいても良いんじゃないか。
そう思った時にどうしてお前はまた、いつもの距離感に戻そうとするんだよ。わかっててやっているんだろ?俺が距離を詰めようとしたらわざと逃げやがった。そんなことをされたら怒りと愛情でお前のことしか考えられなくなる……。
「……バレたんでしょ?結衣さんに」
「な……!?」
項垂れる俺の耳元で小悪魔が囁いた。それは俺が目を逸らそうとしていたもう一つの真実を目の前にえぐり出す残酷な言葉だった。
「先輩わかり易すぎです。あんなんじゃ浮気初日に結衣さんにバレちゃいますよ」
くすくすとあざ笑うように一色は蠱惑的な笑みで俺を見下ろした。わざとらしく着崩したことでチラと見える白い胸元が煩悩を呼び起こさせる。
「二人共嘘が下手なのに、結衣さんを騙せる訳ないのに。仕事や休憩の合間にあんなにも雪乃さんを思うような切ない目しちゃってて……本当可愛いなぁ」
「……い、今更なんでそんなことを言うんだよ」
一色は明らかにこちらを挑発していた。そしてその目論見は成功している。一色に相談したことでもあったと同時に、一番下手に触れてほしくない話題だったから。それを一番理解しているのは一色であるのにも関わらず、彼女は俺の期待をことごとく裏切るかのように傷口を深くえぐり取る。
「なんでって?だって相談したところで、どうしようもなくないですか?もうバレちゃったんですし」
「それは……そうだが……」
「答えを出すみたいな口ぶりしておいて、結局先輩って現状維持でいたいなぁって本心が見え見えなんですよ。だから答えなんてものが見つかるはずもないし、悩んでる自分ってなんか良いよね~みたいなそんなダサい状態になってるんじゃないですか」
「…お前、本当遠慮がないな」
「今先輩に気を遣ったところで、何の解決にもならないし、私との関係が進展するわけでもないですからね~。こんなヘタレクソ野郎はさっさと地獄に落ちるべきって気持ちは昔も今も変わらないわけで」
「…そうだな。雪乃や結衣だけじゃない。一色には一番迷惑かけたのかもな」
「っ!そうですよ……未だに名前で呼んでくれないし……わたしが誰よりも一番先輩に傷つけられて迷惑をかけられて……それなのに、一番にしてもらえなくて…」
一色の声が段々と小さくなる。
「あぁ。そうだな」
「もっとはっきり言って下さい。『わたしは大切じゃない』って……」
「言えるかよ。俺は……お前のことを大事に思ってる」
「~~~~~!本当クズ!バカ!ヘタレ!女たらし!」
肩を叩かれる。
すぐにボロが出た。
さっきの威勢はどうしたんだ……。どうせ俺のために敢えてヒールを演じて分かりやすく立ち直らせようとしてたのはわかってたが、最後まで演じきれないところがまたお人好しだった。
本当に良いやつだよなぁ。こんないい女がなんで俺にずっと執着しているのかが全くわからない。
マスターが何も言っていないのにお水を差し出してきた。いや、本当にすいません。
「ねぇ先輩。先輩がどんな事になっても、どんな選択をしても、わたしは先輩の味方ですよ?」
今度は甘えるように自分の頭を肩に乗せてすりすりと体も寄せてくる。いつもと香水の臭いが少し違う。
「そんなことしてお前に何の得があるんだよ?こんなことしたって先はないだろ…」
「そうですね~。こんな偽善者の肩を持ったところでお先真っ暗ですし、だからといって新しい人生を今更探そうなんて思わないですよ」
「まだ若いのに悟り開きすぎなんじゃないか?」
「悟りとは真逆でしょ。煩悩の塊みたいなことしてますからねわたし。理想と欲望に引っ張られっぱなしのダメな人生ですね。誰かさんのせいで〜。あーあ、こんなはずじゃなかったのになぁ~」
「高校の卒業式で告白を断ったはずの誰かさんが、大学に追いかけるように入ってきて、まさか会社にまでついてくるなんて誰が予想したと思うか?」
「だ、だって本当に好きなんだもん……」
「っ」
え、何この可愛い後輩。滅茶苦茶ドキッとしたんですけど。アルコールはいってるのもあって、心臓の鼓動が大変なことになっている。
「……今のはどうでした?」
「それを聞かなかったら結構落ちてた」
「そ、それは非常に残念です」
一色がふくれっ面でコップに口をつける。
「大体、お前なら一々聞かなくたって俺がどう思ってるかぐらいわかるだろ?」
「まぁ、大体は。表情というか朝挨拶しただけで昨日は何があったのかとかは察せられるぐらいには」
「実例があるからマジに聞こえる」
「大マジですよ。先輩マジで顔に出すぎです。今や的中率100%だと思います。正直聞かなくてもわかるんですけど、それでもやっぱり先輩に褒めてもらいたいし、優しい言葉をかけてもらいたいから我慢できなくて聞いちゃうんですよ」
「俺なんかの言葉をか?」
「そうですよ。先輩なんかの言葉がわたしにとってはたまらないんですよ。わたしがどれだけ先輩の一言二言で一喜一憂してるか、先輩には想像つかないでしょうねえ~」
一色は既に3杯目を注文していた。序盤のペースが早すぎたのか、今はカシスオレンジにしている。体勢は相変わらず俺にもたれかかったままだ。それ即ち、周囲の男たちの視線がずっと突き刺さったままであるということでもある。マスターの目の前の席だからこそ今は大丈夫だが、針のむしろであることに変わりはない。
「なぁ一色、俺は…どうしたら良いと思う?」
なんとなく今の雰囲気に耐えられなくなってわかりきった質問を彼女に振ることしか出来ない。一色もそれを認めた上でこちらを色艶に満ちた扇情的な目で一瞥した。
「わたしにそれ聞きます?わたし、自慢じゃないですけど先輩のことをもっと困らせるようなことしか言わないですよ?」
腕を絡めてぎゅっと締めてくる。
答えになっていないのにそれが一番真っ直ぐな答えになっていた。
本当に都合が良くて、それでいて俺の為にいくらでも捧げてくれる女。そんな女に俺はただ、甘えてしまっている。
「今のお前になら……もしかしたらコロッと行くかもしれないな」
「え?え?ゑ?」
あ。
「あ、いや……。悪い、聞き流してくれ……、自分で言っててあまりにも軽率すぎたわ」
クズっぷりに拍車がかかる。そんなことを口から何のためらいもなく漏らしてしまった自分の堕落の進行度に寒気がした。
「え?嘘?本当?まじ?聞き間違い?脈アリ?先輩が?あの面倒くさいひねくれ堅物が?」
隣ではいろはすが今までにないくらい動揺している。俺の一言二言で一喜一憂というのが、まさに現在進行形で証明中だ。あと、最後のは流石に聞き流せないぞ。そんな風にお前にみなされていたと思うと結構ショックなんだが。
「……え~と、先輩?」
「……なんだよ」
一色はもじもじとしながらこちらをちらと見上げた。
「この後ホテル行きません?」
「行かねーよ!?いや、どうしてそうなった……」
昼飯の時に結衣に連絡したっていったばっかりじゃねーか。これホテル行って朝帰りしようものならどう考えても感づかれるに決まってる。逆に想像しない手段を思いつく方が難しい。
「ごめんなさい…さっきの一言でわたし、めっちゃ濡れちゃってます……」
「余計な報告はしなくても良い」
「今すぐにでも先輩に抱かれないと、家に帰ったら、わたし朝まで自分で慰める自信があります」
「お前の性欲が意外に強い事実なんてもっと知りたくなかったわ……」
「そうですか?わたし、飲み会で会社の部長さんとかに”いろはちゃんってめっちゃ性欲強そうだよね~”って結構言われますよ」
「いや待て。今のは、よく言われるとかじゃなくて、セクハラ以外の何物でもない所業を犯した男共の言動を問うべきだ」
「う~ん……。話しかけられても挨拶オンリーで二度と会話しないだけだと不十分ですか?先輩的には”俺の女に失礼極まりないことしやがって……二度とシャバを歩けないようにしてやる…!”ぐらいの仕打ちをご所望ですか?」
「脚色が半端ないがまぁニュアンスとしては合ってる」
「ですよね~。わたしは先輩の女ですもんね~♪」
「え、そっち?」
何故前半を抜き出したんだ。というか本当にさっきの俺の一言で一色の機嫌がすこぶる良くなってる。もしかしなくてもこいつって結構チョロいんじゃと勘違いしちゃうぞ……。他の男からしてみれば一色は玉木さんと並んで会社の中でも最難関に違いないのだが。
「そっかそっか~。先輩ってばそんなにもわたしのこと心配してくれるんですね~☆というわけで今からホテル行きませんか?」
「行かねーわ!お前本当にさっきからどうしたんだ……浮かれすぎだろ……」
「浮かれないほうがおかしいですよ。10年近く粘って粘って粘りまくってようやく初めて”好きな人”がガード緩めてくれたんですよ?こんな歴史的快挙が浮かれずにいられますか?」
一色はグビグビとカクテルを飲み干していく。先程頼んでいたカシスオレンジからもう既に追加で2杯は完飲している。俺はというと未だにレッドアイが半分以上残っていた。あとナチュラルに好きな人とか言わないでくれ。恥ずかしすぎて頭が沸騰する。
「先輩、まだそれ飲み終わらないんですか?」
「お前のペースが早すぎるんだよなぁ。そんなんで潰れても知らないぞ?」
「潰れたら先輩が介抱する羽目になって、合法的にホテルに行くことが出来るじゃないですか。なんでそこまで頭回らないのかなぁ~…」
「そういう事態を起こしたくないからに決まってるだろ。ほれ、次は水を飲め」
「先輩の口移しなら飲みます」
「この期に及んでお前はまだそんなことを…」
「ほ~ら先輩。ん~~」
「く、口を開けるな口を」
やめて!本当にキスしたくなっちゃうから。八幡マジで限界ギリギリなんですけど…。
「……しょーがないなぁ…じゃあ間接キスで我慢するんでその水一口飲んで下さい」
「そうやって宣言されてから、じゃあ飲みますにはならないだろ……」
そんな事を言いながら最悪のケースを免れたい俺は渋々グラスに口をつけているわけだが。一色はニヤニヤと笑いながら今か今かとそれを見つめている。もうこうなったら全部飲み干してやろうか。いや、それはどう考えても逆効果だ。大人しく軽く口に含む程度で収めてから一色にグラスを渡した。
「……ったく。ほれ、これで良いのか?」
「……まぁ今日のところはそれで良しとします。じゃあ遠慮なく♪」
観念したかのように大人しくグラスを受け取った一色を見てそっと胸を撫で下ろした。これ以上彼女からのアプローチを受け続けていたら心がどうにかなってしまいそうだった。
「う……流石に飲みすぎたかも……。先輩マジで冗談抜きで介抱してほしいです…」
「お前なぁ~…」
「うぷ……大丈夫です……。とりあえず落ち着くまでここに居て自力でなんとか帰るつもりではあるので……、ぉぇ」
「いや、流石に心配だからちゃんと送るつもりだったんだけど良いのか?」
「え?先輩をお持ち帰りして良いんですか?先に言っときますけど、朝まで返しませんよ?」
「男が普通言うやつだろそれ……」
その後1時間程して体調が元通りになった一色をタクシーに突っ込んで俺も帰宅した。そこまで飲んだわけでもないのに帰宅した瞬間にどっと疲れが出た。
結衣はもう寝ていた。彼女を起こさないようにそっとベッドの中に入って静かに眠りについた。
続く
次回は金曜日予定です!