祖父母が実家に来たので中々編集の方の時間が取れなくなると思うため、次回から投稿の間隔が開くと思われますm(__)m 申し訳ありません。
では第4話です。よろしくお願いいたします。
変事や事故というものは突然起こるものである。
その言葉を知っていながら、それに対して備える者は決して多くないだろう。
そして不幸なことに突然やって来たそれは、己が想定していた物とは形も大きさも遥かに異なる事が多い。
つまり何が言いたいかというと大事なのは起こった時にどう対応するかということなのだ。
今の俺のように…
さて、状況を整理しよう。有事の際にはまず現状確認だ。
自分は今、応接室の椅子に座り、客人を迎えている。理由は勿論、この会社にやってきた依頼人の応対だ。
隣には上司の智佐吹さんがおり、基本的な商談の進行を取っていた。
そして長机を挟んで、目の前に居るのが、今回俺が担当することになる企業の代表だ。
最早、挨拶や名刺の交換の記憶が殆ど無い。あまりにも頭が真っ白になっていたせいか、先程までの出来事であったはずなのに自分でも驚くほど覚えていない。
先方の手前、仕事の会議中に他所を向くことは流石にマズいので顔を上げて前を見た。
目の前にはいかにも仕事ができそうな男が一人と、一見非の打ち所のない絶世の麗女が一名。
置いてある来客用の水の入ったペットボトルをわざと端において、目の前のスペースを広く取っていた。先程渡した名刺をわざとらしく目の前に並べてあるのがまたいやらしい。
開放的に見せることによって、丸腰で小細工も無しに真正面からやって来たことを主張しているのか。それとも無防備を装って男を誘い込むように隙を見せているのか。どちらにしろ、こちらの出方を窺う意図には大差なかった。
願わくば二度と会いたくない人物の一人だった。
とは言え、全く予想だにしていなかったわけではない。
「・・・・・の件についてですが・・・」
智佐吹さんの説明が遠く聞こえる。
目の前に居る女性・・・雪ノ下陽乃さんは資料に目をやりながらチラチラとこちらを見てくる。黒のビジネススーツが扇情的な身体のラインを強調させており、昔と変わらないセミロングの黒髪とナチュラルメイクが文句無しの調和を演出している。お世辞抜きで男が喉から手が出るほど欲しがる女だ。自分は遠慮しておく。
彼女が髪を靡かせる度に、控えめだが存在を際立たせる香水の香りが伸びてきた。神経を直接撫でられているようなざわざわとした感覚に陥った。
さて、一言で現状を要約すると、『一刻も早くここから立ち去りたい』である。
もう居心地が悪くて仕方がない。
すると、突然右足に強い痛みを感じた。
足を踏まれたか、小突かれたか。
角度から考えて智佐吹さんだろう。どうやら、呆けて本業を忘れてしまっている自分に激しく釘を刺されたかのようだった。
智佐吹さんはこちらに目を向けず淡々と商談を進めている。担当であるのだから勿論自分もしっかりと会話を耳に入れて反芻する必要がある。
仕事についてだが、一人で全てを行うということはなく、基本的には上司である智佐吹さんと組んで仕事に取り組むのが通例になっている。
一秒ほど自戒して素早く切り替えると手元にある資料に目を落とした。
会議の説明をかいつまんで解釈すると、どうやら俺の担当企業は雪ノ下さんの父親の建設会社を大元とした子会社であることが分かった。どうりで雪ノ下さんがいるわけだな・・・。
依頼内容は純粋に経営方針に関する相談だった。雪ノ下さんがいながら組織が上手く回らないなんてことがあるのだろうかとも考えたが、ビジネスともなるとそうもいかないのだろうか。
いや、やろうと思えば造作も無いが本人のやる気がないのだろう。
よくよく考えてみれば、この人は忖度は出来るが斟酌はまずしない。
それに依頼内容自体には怪しさは勿論ないのだが、この会議そのものにきな臭さをおぼえた。本当の狙いは別のところにあるような気がする。
先方の社長さんの話を借りるのであれば、あくまで彼女は現場にはおらず実際の仕事場の指揮は別の人間が取っているということだった。
英断だ。雪ノ下さんを現場に送り込むのは愚にも付かない。現場にいたとしたら、ハンター協会の副会長並に厄介なこと、この上ない。
またもや足に鈍い痛みが走った。
今度は正面からか。雪ノ下さんがジト目でこちらを睨んでいた。何、俺ってそんなに分かり易いの…?
「では、その方針でよろしいでしょうか?」
横では智佐吹さんが話のまとめに取り掛かっている。気づけば佳境もとっくに通り過ぎていた。一応、話の概要は聴いてはいるのだが、終わった後に智佐吹さんに抜き打ちテストでもされたらすぐにボロが出る。
三人が席を立った。
頭の中が纏まらない内に話し合いが終わってしまった。
自分もそれに倣い、慌てて席を立つと背後に人影を感じた。
「ひゃっはろー!比企谷君、久しぶりだね」
いつの間に後ろを取られていた。有無を言わさせない勢いを感じる。
「…ご無沙汰しております」
出来れば二度と会いたくなかったが。
「本当に久しぶりだね。連絡先教えたんだから連絡してくれると思ってたのに」
想像に反してかなりフランクな話し方だった。こちらの本拠地だろうと関係無いと言ったところか。
「連絡先を頂いた記憶が無いですね」
「あ〜ひどーい!昔、ちゃんとLINEのID書いた紙渡したでしょ〜?」
そうだったような気もするが定かではない。
「なんだ比企谷。君は雪ノ下様とお知り合いだったのか?」
会話に割って入ったのは智佐吹さんだった。会話を終わらせてくれるのかと思いきや、話に水をやるという。なんとも余計なことを…。
「そうなんです。私の妹と同級生でして、大変懇意にさせて頂いておりました」
雪ノ下さんが代わりに答えた。
「妹?そうか、妹さんと…」
智佐吹さんが意味ありげに呟く。何か思う所があるのだろうか。
「そうですね。その節は大変お世話になりました」
その節は・・・と言って良いものなのか。ともかく本当に世話になったのは事実ではある。
「雪乃ちゃんの事は聞かないの?」
またこの人は・・・。
「その、今は伺うべきではないかと」
「
その一言はいらないだろう。
「その、、、妹様の事は大切な知己である事に変わりはございませんので」
自分で言っておきながら吐き気がする物言いだ。
雪ノ下さんは納得したような、悪事を思いついたような顔をしている。
「ねぇ、雪乃ちゃんは君に会いたがっているよ。今でも君のことを…」
「どうですかね。自分をフッて逃げるように消えたやつに会いたいだなんて。彼女の中にある感情はもっと別のものだと思いますが」
制するように口を挟んだ。
客観的に見ても自分が今、明らかに激しく動揺しているのが分かる。
「・・・まぁ今はそういうことにしといてあげる」
一瞬、気色ばんだように見えたが、この場で追求する気はないようだ。
とはいえ、一見矛を収めたように見えるが実際は、それと同時に機会はいつでもあるぞ、と首元に刃物を突きけられている。現状は悪化していると言ってもいい。
完全に雪ノ下さんのペースだな。
周りの様子を窺おうとチラと横を見たが、上司のお二人さんは静観と言ったところか。ことの成り行きを見守るつもりなのが見てとれた。
すると雪ノ下さんが一枚の紙を取り出した。
「はいこれ、私の名刺ね。個人の連絡先付き♡」
レア物だからね〜っと自慢げに渡された。さっき会議前に名刺交換しただろ…。昔、連絡先を渡したと自分で言っておきながらまた渡してくるのか。まぁ、自分が登録していないのをわかってる上でだろう。
雪ノ下さんの直筆の連絡先、メル●リで売ったら相当な値打ちになるな。勿論、個人情報の悪用は御法度だ。
「連絡待ってるね」
「仕事の進展がございましたらご連絡いたします」
「そうじゃなくて、プライベートで」
「私には家内がおりますので」
「お硬いなぁ。比企谷君モテるでしょ?いつもそうやって断ってるの?」
あくまで形を崩さない俺に対し、興ざめしつつも雪ノ下さんは砂の山をスプーンで少しずつ崩していくように内心をえぐる。
「いえ、そういった話を受けたことは一度も・・・」
「えー…。比企谷君の連絡先欲しいって思っている女の子は多いと思うけどなぁ〜」
雪ノ下さんは意味ありげに辺りを見渡した。
気がつくと雪ノ下さんは髪をかきあげて下から覗き込むようにこちらを見ていた。
透き通るような眼と艶味のかかった黒髪。
あどけなさと妖艶さが共存した鼻筋。潤った唇。
均斉の取れた顔立ちに思わず彼女の姿と重ねてしまう自分がいた。
心臓から送られてくる血液が全身を駆け巡る感覚が大きくなっている。脈打つ胸の鼓動が、忘れ去ろうとした彼女の記憶を思い起こさせるように促す。
彼女は今どこで何をしているのだろう?
ゆき・・・の・・・し・・t
「はる、、、雪ノ下様。そろそろ」
智佐吹さんが雪ノ下さんを呼ぶ。
その声が幸いにも虚妄の世界に沈んでいた自らの意識を引き戻す事に一役買ってくれた。
「えぇ、そうですね」
そう言うと雪ノ下さん達は軽く会釈をして出口の方へと向かった。
応接室を出ると、受付のカウンターで一色が心配そうにこちらを見ている。
問題ないとの意味を込めて軽くカウンターの机をトンと叩くと、一色はそっと胸を撫で下ろしていた。
二人がエレベーターの中に入る。
「本日は誠にありがとうございました」
代表の男性が深々と頭を下げた。雪ノ下さんもこちらを一瞬見て微笑を浮かべると右に倣った。
扉が閉まり機体が動くまでこちらも深くお辞儀をし続け、客人達を見送った。
そうしてやっとのことで息の詰まるような接客の時間から解放された。
「はぁ〜」
思わず、大きな溜息がこぼれた。受付のカウンターの方でも同じような嘆息が漏れる音が聞こえる。間違いなく一色だろう。
「まったく・・・。君は集中していなさ過ぎだぞ」
智佐吹さんが横目で睨んでいる。
「その…申し訳ございませんでした」
本心から頭を下げた。自己評価でも及第点とはお世辞にも言えない程に仕事に打ち込んでいなかった。
「まぁ、いいよ。深い事情ってやつなんでしょ? でも次からは私情を挟まないように」
ネチネチとしつこく叱るわけでもなく、一度だけズバッと言って終わりというのが智佐吹さんの指導のやり方だ。厳しい一面もあるが、内外問わず素直に尊敬できる人間たる所以(ゆえん)とも言える。
「しかし、君がフッた女性の姉ねぇ。雪ノ下さんの妹さんともなると、さぞ綺麗な方なんじゃない?」
不思議な事に智佐吹さんの興味は俺の恋愛遍歴に向いているようだった。
あまりそこは触れられたくない話題だったので、こちらも気になっていた疑問をぶつけてみる。
「智佐吹さんも雪ノ下さんとお知り合いなんですか?」
智佐吹さんは一瞬、面食らったような顔をしたが、直ぐに表情を元に戻した。
「…まぁ、大学同じなのよ。私が四年か院生だった時に新一年生として入ってきたのが陽乃」
手を首に当ててゴキゴキと鳴らしながら呟いた。
思わぬところで繋がりがあった。とはいえ、見た感じそこまで仲の良いといった関係ではないように思える。
この人、少年漫画や胸熱アニメが好きとかいう点を除いたら性格が平塚先生に結構、似ているからお察しなところはまぁあるな。いや、別に三十路超えて独り身だという共通点については何も言っていない、うん。
思ったが、少年漫画成分無くなった平塚先生って平塚先生じゃない気が・・・。それはもうメガネが無い志村●八だ。
智佐吹さんは興を削がれたのかこれ以上俺と雪ノ下さんに関する情報を聞き出そうとはしなかった。それとも、こちらの話を聞く代わりに自分の大学時代の話を尋ねられることを拒んだからだろうか。どちらにしろ、ありがたいことに変わりはなかった。
「疲れたな」と智佐吹さんが小さく声を漏らすと先にオフィスの中へ入っていった。こちらに振り向かずに「少し休むよ。10分後に私のデスクに来てほしい」と聞こえる。
気を回したのかどうなのか分からないが、とりあえずさっきからずっとこちらを見ている張本人の元へそそくさと向かった。
「・・・先輩」
「別に何も無かったぞ。そんな辛気臭い顔しなくてもいい」
何もなかった言えば嘘になってしまうが、彼女を落ち着かせるためにもここは一つ平静を装うことにした。
「…そうですか」
一色は一瞬黙り込んでから返事を返した。思い詰めたような表情のままじっとこちらを見ている。
「じゃあ行くわ」
これ以上一緒に居ると取り繕うのが困難になるので、早めに話を切り上げて持ち場に戻ろう。
「先輩!」
大きな声で一色が自分を呼んだ。
「ん、何だ?」
「ファイトですよ!」
一色がいつもの決めポーズを披露した。いい歳になったのだから、いい加減ピースしてウインクから卒業したらどうだろう。
しかしながら、いつもなら鬱陶しく思う仕草が、この時だけは平常心を取り戻すためのいい薬になった。
「おう。サンキューな」
一色に別れを告げて、忙しない戦場と化した仕事場へと戻った。
肉体的にも精神的にも長い戦いに備えて今日三本目のマッカンを飲もうと思ったが、そういえば手持ちは二本だけだったな。
仕方なく途中にある自動販売機でエメマンを購入した。
その後、芦間に「お?ついにマッカン卒業か?」と重箱の隅をつつかれた事は言うまでもない。
続く
メインヒロインが出てこない……(;^ω^)
一応、弁明として筆者が一番好きなキャラはゆきのんです(;´д`)トホホ…
前書きにも書きましたとおり、次回から更新の速度が遅くなると思いますが楽しみにしていただければ幸いですm(_ _)m
今回も読んでくださってありがとうございました!
それではまた次回もよろしくお願いいたします^^