※この作品はR-18です。

雪の楽園   作:ホネ

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今回もよろしくお願い致します。
今週はちょっと短いです。


第六十一話

 

-Side Hachiman-

 

「昨日は結構遅かったよね~。もしかしていろはちゃん結構飲んじゃってた?」

朝食の支度をしながら結衣が話しかける。どうやら起こさないように気を使ったものの、彼女は起きてしまっていたらしい。もしくは寝たフリをしていてずっと起きていたのかもしれない。

「悪い。うるさかったか?」

「そんなの気にしてないよ。それよりも今日も仕事なのに八幡大丈夫かなぁって心配になっただけ。勿論いろはちゃんもだけど」

「店で落ち着くまでは一緒に居たし、ちゃんとタクシーで行き先を自分で伝えるのを確認してから俺も帰ったから問題ない」

「え~!?送ってあげなかったの!?ヒッキー意外と冷たいね……」

「いや、送ったりしたら一色に無理やり家に連れ込まれちゃうだろ」

「そんなこと……。うん、いろはちゃんならやりかねないね」

あいつ、結衣にもそう思われているのか。なんというか、日頃の行いって大切なんだなと一色に教えてもらった気がする。いや、この言葉も俺に刺さる。

そんな会話をしながら結衣の機嫌を伺うのが最近の俺のモーニングルーティンになっていた。

 

 

 

「それじゃあ、そろそろ行ってくるわ」

「うん!気をつけてね!八幡!」

結衣が大きく手を振る。それに応えるように手を振り返すと俺は静かに扉を閉めた。

エレベーターの中でぼんやりと考え込む。それはあまりにも短い時間で自分の状況を整理する時間にさえならない。

この4ヶ月間。ずっと心臓の奥深くにどす黒いモヤモヤとした感情が渦巻き続けていた。

 

 

あれから歪なことに、結衣は変わらず最低でも週に一度は俺を求めてきた。俺も彼女の愛に応えるようにしていた。それはまるで最初から雪乃とのことが、雪乃の存在が無かったことになっているような錯覚さえ起こしてしまう。そんな危ういバランスの上に今の家庭は成り立っている。雪乃と交わってからというものの、皮肉にも結衣との夜が気持ち良くてたまらなくなっていた。このような形で何年も味わってきた妻の中の気持ちよさを再認識することになるとは。あまりにも自分の節操と甲斐性のなさにほとほと呆れる。それもこれも結衣がベッドの上では雪乃の話題を出してくるからだ。

『ゆきのんの中はどうだった?』

『ゆきのんってどこが弱いの?』

『ゆきのんはどんなふうにヒッキーのここを気持ちよくするの?』

そんなことを腰を振りながらずっと聞いてくる。その度に、二人に対する裏切りの罪悪感が出てきてしまうのに、身体はこれでもかというくらいに悦びを得て砲身から精を放っていた。意識が飛びそうになる絶頂を終えるといつも結衣は愛おしそうに俺の顔をじっと見てキスの雨を降らせてきた。

 

そんなある日の夜のことだった。

『この浮気者……』

行為を終えて、俺の上に倒れ込んだ彼女はいつもそう言って俺を糾弾した。お互いに何度も何度も頂点に達して息も絶え絶えになっていた。お互いの身体に付着した体液がそれを物語っている。

『ゆきのん……帰ってきてくれるかな……?』

『やっぱり結衣は雪乃に帰ってきてほしいのか?』

『うん……。だってあたし、ゆきのんのこと本当に好きなんだもん。あ、勿論ヒッキーに対する好きとは別だよ?』

『それは……分かってる』

『ヒッキーもゆきのんに戻ってきてほしいでしょ?』

『誘導尋問か?』

『ううん。単純に気になっただけ』

結衣はもぞもぞと動いている。そのまま果てたばかりの俺の愚息をそっと握り直した。

『……戻ってきてほしいと思ってる』

『節操ないなぁヒッキーって』

ポカポカと胸を叩かれる。同時に子種袋をぎゅっと握られた。

『いっ……!わ、悪い……』

『まぁでもね、、、そんなふうにヒッキーを追い詰めちゃったのはあたしだからさ……』

俺の胸に顔を擦り付けて甘えてくる。

『だからさ……許すも許さないも違うんだと思う。あたしは、ヒッキーの側に要られてこうして愛してくれるだけで、、、ワガママを叶えてくれるだけで嬉しいんだよ?』

『いや、ワガママを聞いてもらってるのはいつも俺……』

『ヒッキーは一度もあたしにワガママを言ったことなんて無いよ。だから……今回が初めて。最初はやっぱりかぁって思ったけどさ。それでもなんだろう。今までのヒッキーって、ちょっとどこか無理してる感じがしてたから。そういう意味ではちゃんと自分の気持ち表に出してくれるようになったんだよなぁって前向きに捉えられた』

『そんなわけあるか。ただの酷いやつだろ。自分の奥さん裏切っただけの』

『だ~か~ら~。なんですぐ悪ぶっちゃうかなぁ~…。そりゃああたし、めっちゃ泣いたけどさ……ヒッキーに浮気された時』

『それについては返す言葉もない……』

『あ、いや。ごめんね。別にそういうことじゃなくて、あ、いや、そういうことなんだけどさ……なんて言ったらいいんだろ…?』

結衣は慎重に言葉を選んでいる。

『浮気しても良いよってことではないんだけどさ……ゆきのんに盗られるのは仕方ないのかなぁって思ったり思わなかったり……。これも違うかなぁ。いや、そうなんだけどうーん……』

どうにかして俺を安心させる一言をひねり出そうとして結局自分が納得できないループに何度も陥っていた。

『とにかくあたしはゆきのんと仲直りがしたい!……ってことなんだと思う……』

『それは……それだけはよく分かる……』

『だよね~、だからヒッキーはあたしに隠れてゆきのんとイチャイチャしたんだもんね』

『痛ァ!だ、、、だから、、、そこを握らないで……下さい』

『ふふ……。やっぱりヒッキーは。喘いでる時が一番可愛いね』

優しく頬をなでながら結衣はもう一度唇を重ねてきた。

『一人で抱えないでよ…。ヒッキーがゆきのんのこと本当に大事に思ってるのよく分かってるから……』

『………』

『あ、でも離婚はする気ないよ?だってあたしヒッキーのことは絶対に譲らないし』

『それは……俺だって……そうだぞ……』

『うーん……説得力ないなぁ……』

『しょ……正直……弱ってる時に他の女に誘惑されたら、そのまま流される自信はなくもない……』

『ヒッキーも男の子だもんね~…』

『あ、いや。本当ごめんなさい』

『またすぐしおらしくなる……。まぁ”二度と浮気なんてしません”って言われる方が信用ならないからいいけどね』

『俺また浮気するって思われてる?』

『うん。すると思うし、次に誰とするのかも予想できるかな』

何という信用のNASA。いや、そりゃそうだろうけど…。

『だからといって公認もしないけどね……。まぁそうなったら仕方ないかぁって。ヒッキーだし』

『俺ってそんなに浮気っぽいところあった?』

『ヒッキーみたいな責任おばけはね……、最初の壁はすっごく高いんだけど、一度やってしまったら二度目のハードルが凄く低くなるタイプなんだよ?』

『再犯率が髙いってことか……』

性犯罪者と同じじゃねーか……。

『そう。だからヒッキー、もしいろはちゃんとそういう関係になったら、あたしはいいけどゆきのんは大変なことになるから絶対にゆきのんにバレないようにね』

『おい、なんでそこで一色の名前が出てくるんだ』

『だって、総武高校の卒業式でいろはちゃんに言われたもん。”先輩のことを本気で奪うつもりなので先に了解を得ておきたいです”って。まさか、職場まで同じにするなんて思わなかったからさ〜……。その時から流石に、いろはちゃんの粘り勝ちが頭にはっきりと浮かんだよ……』

あいつそんなことしてたのか。確かに俺と結衣が結婚した後も粘着するってすごい執念としか言いようがない。そして、籠絡されそうになってるからぐうの音も出ない。

『それに、ゆきのんとは別に、いろはちゃんのこともあたしは大好きだから……。いろはちゃんが悲しむところは見たくないかなぁ~って』

『それがもしお前にとって悲しい結果を引き起こすことになるとしてもか?』

『ヒッキーが家に…、あたしのところに戻ってきてくれるなら、それ以上は望まないよ。だって、本当ならこの場所に居たのはあたしじゃなくてゆきのんだから…』

『………っ』

『もう、少しは否定してほしかったのになぁ……』

『………悪い』

『良いよ。もうずっと前から分かってる。ヒッキーだって分かってたでしょ?それでもあたしのことも大事にしてくれてありがとう…。おかげであたしは……救われた…』

結衣の目から涙が溢れる。

『なぁ……これが本当にお前が望んだものなのか?』

『ちょっと違う……よ。でもね……それでも良いの。あたしには…どうしても欲しい”もの”があるから。今は、ゆきのんの答えを待ちたい……』

『……分かった』

結衣がそう言った以上、俺はもう何も言えなかった。

 

…………。

 

 

気がつけばもう会社に着いてしまっていた。

エントランスで玉木さんに挨拶をする。彼女はいつものように明るく手を振って俺に微笑みかけてくれた。最初はどぎまぎとしていたものの、今ではそれなりに手を振り返すくらいには慣れてきている。とはいえ、手に触れてきたり肩をポンと叩いたりとスキンシップが入るようになってきたので、また童貞男子の反応に逆戻りしたのだが。

一色はいなかった。こんな状態で今一番会いたいと思った相手が一色だった。それなのに、俺が求めた時に、彼女は側にいなかった。

 

でもこれは逆に本当に都合が良い。もし出会ってしまっていたら歯止めが効かなかったかもしれないから。

彼女が俺に側にいて欲しいと思った時には一度たりとも居たことがないのにな。

あんないい女を都合の良い女扱いして。

バチが当たらないはずがない。

甘ったれた自分を戒めた。それがほんの5分さえももたない稚拙な覚悟であることに目を瞑って。

 

「おはようございます」

誰にかけたかもわからない挨拶が室内に木霊した。

今日もまた、気怠い空虚な一日が始まろうとしていた。

 

 

 

続く






次回の投稿も1週間後を予定しております!


原本の方ではラブコメの修羅場(?)っぽいシーンを書いてます。泥沼ビンタ合戦とかでは全然ないやつです。お披露目はスケジュール的におそらく年明け以降かと思いますが楽しみにして頂ければ幸いですm(_ _)m
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