しばらくはいろはすとのデート編です。
-Side Iroha-
あああああああああああああ!もう。どうしよう……!本当にどうしよう……!
完全に予想外だ。
まさか先輩がこんなにも早く迫ってくるなんて……。
思ってた以上に先輩は精神的に追い詰められていたのか。それとも先輩がようやくわたしの魅力に気づいてくれたのか。後者だったら凄く嬉しいけど。
足が速くなる。止まってしまったら、先輩のもとに走っていってしまいそうになる。
嬉しすぎて今すぐにでも先輩に抱きつきたい。思いっきりキスしたい。もし、キスしちゃったら脇目も振らず何時間も続ける自信がある。
心臓が苦しい。
破裂しそうなくらいバクバク言ってる……。
今までだって、先輩のことを好きで好きでたまらなかったはずなのに、、、、もっともっと上があるなんて知らなかった。
こんなのつらすぎるよ……。
あぁ、もう。
どうしようもないくらい、先輩のことが好きなんだわたし……。
頭が一杯になって、自分を制御しきれないくらいの感情があるなんて……。
先輩が……先輩がわたしの事を本気で口説いてくれる……!
本当は落ちちゃってるのに。とっくの昔に口説き落とされているのに。
先輩に口説かれたくて強がってしまった。
思わせぶりなこと言って、先輩を挑発してしまった。
だって……口説いてほしいんだもん。
わたしのこと好きなんだよって表現してほしかったんだもん。
どんな態度で、どんな言葉で伝えてくれるのか楽しみで仕方がないんだもん。
嬉しい。
ダメだ……。笑顔が堪えきれない。
わたしは先輩に口説かれる、いい女でいなくちゃいけないのに。
この幸せな時間が終わってしまわないように。
ずっと先輩がわたしのことを追いかけてくれたら良いのに。
捕まえて欲しい。
早く捕まえてわたしを強く求めて欲しい。
でも終わってほしくない。
終わってしまったら先輩が追いかけてくれなくなってしまう。
でも早く先輩と繋がりたい。
そんな贅沢な時間がこれから始まる。
結衣さん、雪乃さん。ごめんなさい………。
貴方達の先輩を奪うことを許して下さい。
貴方達の先輩を壊してしまうことを許して下さい。
でも、わたしだって貴方達に負けないくらい本気なんです。
だって10年近くも我慢したんだから。
こんな日が来ることをずっと待っていたんだから。
貴方達が幸福に満ち足りた時間を送っている時に、貴方達には想像もつかないであろう量の苦汁を舐めてきた。
悔しくて。眠れなくて。何度も泣いて。何度も諦めかけて。
やっとわたしはスタート地点に立つことが出来たんです。
感謝は勿論しているんです。
わたしよりもちょっと早く先輩と知り合って、先輩の心を開いてくれて。
かけがえのない居場所を作ってくれて……。
わたしは後からやってきた泥棒猫だってこともわかっているんです。
あの輪の中には入ることが出来ないこともわかっているんです。
………。
それでも……。
少し遅かったからってだけで……諦められるはずがない。
この気持ちを無かったことにして生きていくなんて出来るはずがない。
こんな人に二度と会えるとも思えない。
この人だけなんです。
わたしにはこの人しか居ない。
この人だけが……。わたしの全部を受け入れてくれる…。
だからもう遠慮はしない。
絶対に奪ってやる……。
わたしが一番になってやる。
貴方達2人に対する罪悪感に苛まれながら、わたしに溺れさせてやる。
もう誰にも渡さない。
お二人にも、留美ちゃんにも、智佐吹さんにも、玉木さんにも……。
先輩の足音が大きくなってきた。わたしを追いかけてきてくれているんだ……。
こんな些細なことだけでも嬉しくて心が弾んでしまう。
足取りが軽くなる。
ちょっとだけ走るように先を急いで先輩から逃げるように……。
そしたら先輩はまた追ってきてくれる。
えへへ……。
楽しい。
大好きな先輩。
わたしって凄く面倒くさいですよ?
もっと知って、もっと面倒くさく思って下さい。
まだまだこんなものじゃありませんよ。
だから……。
わたしは後ろを振り返って先輩に微笑んだ。
「ほら、早くしてください先輩♡」
「いきなり逃げるなよ……」
「そんなことはありませんよ?」
「そうかよ。じゃあほら」
そう言うと先輩は右手を差し出してきた。
「……お前が逃げないように。ちゃんと手綱握っておかないとな」
「……っそ……そうですか…」
もう。なんで握ってくれないんですか!?そこは男らしくがっと手をとっちゃえばいいのに。だって、デートなんですよ?わたし随分と前から先輩のこと好きって言ってるんですよ?どうしてここまで来て、勘違い予防線張ろうとするのかなぁ。本当めんどくさい。
……って思いながらも滅茶苦茶嬉しいから喜んで握っちゃうんだけど。
「~~~♪」
「手を握っただけで上機嫌になってくれたのか?」
「そんなわけないじゃないですか~☆この程度ではわたしは落ちませんよ?」
それにただ握っただけで恋人つなぎじゃないし。先輩から指を絡めてきてくれたらなおよし……。まぁ望み薄なのは重々承知。
「とりあえず、最初は映画行くか?」
「うーん、そうですね。それ見てから卓球の流れでしたっけ?」
「あぁ、その後にラーメンだな」
「ふふ。なんだか懐かしいですね」
「そうだな。そういえば、あの時もデートを採点されていたっけか」
「ですね。葉山先輩とのデートの予行練習として先輩を利用していた頃ですね☆」
「そうだったな」
「あ、今もしかして、葉山先輩にちょっと嫉妬しちゃいました?」
「……多少な」
「~~~~!」
な、なんなんだこの先輩は……。わたしが知ってる先輩じゃない。びっくりするくらい素直で従順なんですけど!?…というかわかってるくせに。本当は利用した相手と本命は逆だってこと。やば。からかうの面白すぎ。
可愛いって言ってあげたい。けど、それは先輩にスキを許してしまうから言えない。だから、早くもっと口説きに来て。
「今日の映画は何を見る?」
「最近の映画情報って全然仕入れていないんですよね〜。先輩は何か候補を抑えてきてくれたりしてますか?」
「まぁ、2つほど候補を見繕ってきた」
なんとまぁ。歩く受動態の肩書を持つあの先輩が。映画候補を相手のために用意してくるなんて。なんか若干親の気持ちみたいなものが湧いてきてしまう。
「へ〜。そうなんですね。ちなみにどれとどれですか?」
「海外発のミステリーか、こっちのノンフィクションの邦画だな」
「なん……ですと……」
そんなバカな。普通に良さそうなの持ってきたんだけどこの人。てっきりアニメ映画とか特撮をチョイスしていきたと思ってたのに。しかも、このミステリー物、わたしが来週1人で観に行こうかなあって計画してたやつ。
「え〜と…。じゃあこっちのミステリーの方見ましょう」
「わかった。俺もそっちを見たかったから丁度良いな」
「は、はい……」
優しい……。
いやいやいや!わたし落ちるの早すぎでしょ!こんなもので満足してる訳にはいかない……!だって、先輩にもっと線を踏み越えてもらわないといけないんだから……!
「チケット取ってくるから待っててくれ」
「あ、はい…」
先輩は何も言わずにテキパキと事を進めていく。手際が良いのは知ってはいるけれど、こうして先輩主導で進行することが珍しいので正直どうしようって気持ちが大きい。
凄くわたしのことを思ってくれているのは伝わっているし、好感度も順調に上がっている。点数だって今の所加点要素しかない。
無理してないのかなぁ。でも先輩って面倒見が良いからこれくらい当たり前のようにやるんだよね……。お米ちゃんに対してもこんな感じだし。というかお米ちゃんって今の先輩の状態知ってるのかなぁ。
しばらくして先輩が駆け足で戻ってきた。時間に余裕はあるのに急ぐあたり、先輩らしさが出ていてほっこりする。
「真ん中ちょっと後ろの席が取れた」
「お、良いですね!ありがとうございます!」
先輩からチケットを受け取る。わたしがそれをしまったのを確認すると先輩はまた手を出してきた。だから許可取らなくて、いきなり握ってほしいんですけど。まぁ手を出してきた瞬間に握ったんだけどね。
「9時から上映するみたいだぞ」
「もう入っちゃいます?ちょっと早い気もしますが」
「別にいいんじゃないか?特に他に回るところもないみたいだから」
「じゃあ行きましょう!」
暗いところだとドキドキするし。先輩とそういう場所に1分1秒でも長く居たいからわたしとしては寧ろ好都合だ。
会場は思ったよりも空いているみたいだ。わたし達が当日の予約で良い位置の座席を確保できたあたり、そこまで混み合うこともないはず。
先輩の方をちらっと見て様子を窺う。どこかそわそわしているような気もするけど、いつものことと言われてしまえばその通りなのであまり気にしないことにした。
スタッフにチケットを渡して半券を返してもらう。座席を確認するとあまり見慣れない座席番号が記載してある事にここでようやく気づいた。
「………?」
「どうかしたか?一色」
「あ、いえ。別に大したことではないんですけど……」
「席の場所がわからないのか?」
「それは先輩と一緒に行くわけですし、問題ないでしょ」
「………それもそうだな」
………なんだか要領を得ない言動だなぁ。これもしかして、何か仕掛けてたりするのかな?考えすぎ?
………。
……………………。
なんてことはなかった。
思ったとおり、先輩はしでかしていた。
目の前にある座席。
座席の肘掛けに表示されている番号とチケットに書かれてある番号とは一致している。
それはいい。
問題はその座席の仕様だ。
ふかふかとしたマットのような座席。
明らかに一人用ではない面積。
その両脇にある肘掛け。どう見ても両手が届く距離ではない。
真ん中ちょい後ろと言っていたけど真ん中ほぼ最後列。
そんな座席が横に5つほど並んでいる。
「………先輩。これって……」
えええええええええええええええええええええええ!?
カップルシートじゃねーか!!
この人とんでもないタイミングでぶっこんできたんですけど……!まさか、デート序盤でいきなり攻めてこようとは……。というか絶対予約してたでしょ…。何が運良く取れただよ!見え見えの嘘つかれたことの方に腹立ってきたわ!わたしがミステリー物選ぶって決め打ちしていたのか、それとも両方ともの映画でカップルシートの予約を取っていたのかはわからない。というかこの際どうでもいい……。でも先輩なら両方予約して万事心配ないようにするんじゃないかな。この人妙なところでリスクヘッジするし。
動揺が表情に出ていたのか先輩が怪訝な顔でこちらを見ている。
「もしかして、一色。こういう席は初めてか?まぁ俺もなんだけど……」
もしかしなくても初めてだわ!
いや、あんた知ってるだろ!こちとらあんたに青春期全部費やしてるっていうのに!
そりゃあわたしも大学生の頃先輩と映画に行った時に、こういう選択肢を頭に入れなかったわけじゃない。それでも、結衣さんに申し訳ないから我慢してたんですよ!?それを、今!相手からされて、頭の中てんやわんやだよ!
こういうわかってて聞いてくるところ結構ムカつく……!先輩の嫌いなところランキング上位入賞。
なのに、先輩の方からカップルっぽいことをしてくれた喜びのほうが勝って、言い返せない。我ながらなんて単純な女なんだろう。
「右と左どっちが良い?」
どっちでも良いわ!こっちはそれどころじゃねーよ!めちゃめちゃ変に意識しちゃって、こちとら今まで当たり前のように座っていた先輩の隣を確保することに躊躇が生まれてしまっているんだよ!なんで昨日までのわたし、これが普通に出来てたんだ……!相手好きな人ぞ?相手めっちゃ好きな人ぞ!?わかってておるのか一色いろは!?ヤバい、混乱しすぎて口調訳わかんなくなってる。顔だってめっちゃ赤くなってるだろうし、恥ずかしい……!早く照明暗くなってくださいお願いします。
「じゃ……じゃあ左で」
答えちゃったよォわたしィィ!普通に回答してしまった…!そのままちょこんと腰掛けてしまった……!
マズイ。完全に先輩のペースだ。こんなの一日どころか午前中に落とされる…。今それくらいグラっと来てる。このまま周りが暗くなったら、もう妄想が止まらなくなるんですけど…。
……え、ちょ!先輩、密着し過ぎでは!?肩からお尻まで全部くっついてません!?心臓が……心臓が意味分かんない速度でバクバクしてる……!
しかもこの状態で何故肩を抱いてこない……!?そこだけ変にヘタレを残すなよ!抱いて!思いっきり力強く引き寄せて!そしたらもうトドメだから!わたしそのまま首に手を回すから!映画見ないで2時間先輩のこと見てるから!
『NO MORE!! 映画泥棒!!』
タイミング悪!!
今めっちゃいい雰囲気だったのに、運営にぶち壊しにされてるじゃん!ほら、先輩も若干気まずそうな顔してるし……。
……ぎゅ。
ここで肩抱くのかよ!?カメラ男が取り押さえられているときと同時に同じようなことしてきたよこの人。
でも、わたしもつられて腰に手を回しちゃったよ…!頭も肩に乗せちゃったよ…!あぁ……もうヤバい!先輩の首……がこんなに近くに…!舐めたい。キスしたい。腕だけじゃなくて足も絡ませたい。
こうなってしまったら、近日公開予定の映画の予告情報は勿論、本編なんてまるで頭に入ってくるわけがない。
…………。
結局、上映が終わるまで、腕の組み方を変えたり、手を握ったり、足を絡めたり……そんなわたしの一方的なじゃれ合いで映画館の部は終了してしまった。先輩はというと終始わたしに合わせてくれていた。じんわりと広がる幸福と快感が染み渡るように全身に広がって、映画館を出る頃には何も言わず腕を組んで、密着するように次の目的地へと足を運んでいた。
映画の内容?そんな物何も覚えていない。
記憶にあるのはお互いの熱い吐息と絡み合う時の衣擦れの音だけ。他はいらない。
整う気配のない呼吸をし続けながらわたしはじっと上を見上げていた。
続く
この作品のメインヒロインはいろはす(?)
今回も読んでくださって、ありがとうございました!
次回の投稿も一週間後を予定しております。