繁忙期やらモンハンやらで浮上しておりませんでした(後者については本当に申し訳ないと思っている………)
ちょっと今回は箸休め回みたいな感じです。
いろはが集合場所に指定した店はいつも俺たち2人が行くような場所とは全く異なる雰囲気をまとった料亭だった。
路地裏にひっそりと佇んでおり、一見さんを寄せ付けない入り口。
一本隣の道路では二次会へ向かおうとするサラリーマンとOLのグループが店を見ながら次の場所を選んでいる。そんな世界から隔絶されたように今回の店は存在している。
これだけで今日の幹事は彼女ではなく玉木さんだということが良く分かる。あの人いつもこんなところに行っているのだろうか。
2人は店内に居るのだろうか。人目を避けるという理由で現地集合の形をとったは良いものの現地というのが店の中なのか、店の前なのかまでは自分が聞いていなかった。結果として、入口の前で右往左往する不審者になってしまっている。
携帯を取り出して、いろはにメッセージを飛ばす。『集合場所に到着した』という端的なメッセージを送れば『これは入るべきなのか、それとも玉木さんを待つべきなのか?一人だと滅茶滅茶怖いから早く来てくれ』という裏のメッセージまできちんと読み取ってくれるだろう。それを理解した上で俺に嫌がらせしてきそうだからいろはすは怖い。でもそういうところが凄く可愛い。
いろはからは『わたしももうすぐ着くので店の前で待っていてください!玉木さんのことだから一人だと滅茶苦茶入りづらいお店選んでる可能性が高いです!』と返信が来た。全くもってその通りだいろはす。俺は今サービスカウンターに迷子として自ら名乗り出てしまいそうなくらい迷走している。
「お疲れ様、比企谷君」
そんな俺をなだめるかのような落ち着き払った透き通る声。声がする方へ振り返ると、セミロング気味のボブカットをした背の高い女性がこちらに歩いてきている。玉木さんだった。出社している時にいつも着ているベージュ色のカットソーがよく映える。仕事場では見られない少しだけ着崩したジャケットがやけに扇情的で目が離せない。どうして、ただ着崩しているだけでこんなにも色気を放っているのか。やっぱりこの人の容姿は会社の中でも群を抜いている。
「お疲れ様です、会社の時とだいぶ雰囲気が違いますね」
「そうかな?でも、それは比企谷君もだと思うよ。ちょっと気怠げで部活終わりの高校生みたい」
「それはイジられているのか、好意的に見てもらっているのか微妙だな…」
この人何考えているのかさっぱりわからないし。
「そんなに勘ぐらなくても普通に後者で見てくれて大丈夫なんだけどなぁ」
「そ、そうですか」
玉木さんはくすくすと笑っていた。彼女のように大人びて、麗しさすら覚える女性が急に見せてくる子供のような無邪気な笑顔は反則だと思う。可愛いだけを売りにしている女性が逆立ちしても敵わない。昔のいろはだったら、絶対対抗意識燃やしまくってただろうなぁ。もしかしたら、今もそうなのかもしれんが。
「仕事場では毎日話しているのに、こうやって勤務外で話すのは案外初めてだね」
「確かにそうですね」
一応、この会社に入って数年は経過しているものの振り返ってみると玉木さんと仕事場以外の場所で話すのは初だった。俺の平日は玉木さんへの挨拶で毎朝始まるのに。
「一度くらいご飯に誘ってくれても良かったのになぁ…。これでも私待ってたんだよ?」
玉木さんが一歩近づく。甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「それは、まぁ。家内も居ますし。正直玉木さんとは一度こうした機会は設けたいなとは常々思っていましたが」
「ふふ。そういうフォローの仕方を教えてくれたのはいろはちゃんかな?」
「そんなことはないですよ。あいつが教えてくれるのは自分の機嫌のとり方だけで玉木さんのトリセツは無かったですね」
「私って家電とか地雷女みたいに思われてるの!?そんなに難しい性格してないっていう自己評価なんだけどなぁ」
玉木さんは頬をポリポリとかきつつこちらをじっと見上げた。なにそれ、めっちゃきれいな人がそれやるとクソ可愛いんですけど。
「玉木さんは掴みづらいキャラクターをしているというのが俺の貴方に対する評価ですかねぇ」
「え~、ショックだなぁ…。せいぜい、パンフレットのぐらいの厚さのトリセツだよ?」
「え、六法全書のほうがまだ薄いんじゃないですか?」
「言うね~比企谷君。仕事の時とは別人みたい」
ちょっとした皮肉すら彼女は楽しんでいるように見える。やはり一筋縄ではいかなさそうである。いや、別に彼女と勝負をしているわけでもなんでもないのだが。小声で『まぁいろはちゃんの方が分厚いよね』と言っていたのはスルーすることにした。
「そんなに変わってますか?別に自分は仕事のときもオフのときもインドアで皮肉屋な雰囲気を出していると思ってますけどね…」
「それはうん、なんか私と同じ匂いがする」
「それ本気で言ってます?俺みたいな陰キャオタクの波動は感じないですが」
こういう店を選んでいる時点で俺とは趣味嗜好がまるっきり違うような印象を受けてしまう。どうにも信じられん。
「そうだよ~。だって私、学生の頃は授業がない時はひたすらアニメだったもん!」
「え、本当に?」
「だってあんまり仕事場では表に出していないけど、今使ってるクリアファイル、これだよ」
「渋!」
玉木さんは嬉しそうにカバンからクリアファイルを取り出した。確かに、それは一昔某漫画雑誌で連載されていた漫画作品のものだ。しかも、ダーク寄りのものだし当時の他の連載作品と比べてもかなりコアなのは言うまでもない。
それにしてもまさか玉木さんが隠れオタクだったとは思いもよらなかった。こんな近くに同士がいようとは。
「これは普通に今年一番のサプライズニュースかもしれないです」
「あはは。そんなに驚くことでもないと思ったんだけどなぁ。そんなに意外だった?」
「はい。全くそんな感じがしませんでしたから」
「隠れキリシタンみたいなものだね。私、ちーちゃんにすらこういう一面は見せないようにしているから」
俺は思わず目を丸くした。
「え、流石に智佐吹さんは知っていると思ってたけど違うんですね」
「うん。これをリアルの人間関係の人に言ったのは比企谷君が初めてだよ」
玉木さんはウインクした。いろはがやったらあざとく見えるのにこの人がやると写真集の1ページに思えてしまう。
「その辺の話、ちょっと詳しく聞いてみたいですね。正直自分も趣味の話が出来る知人がほとんど居ないので」
結衣は俺が家で一人楽しそうにしているのを後ろから生温かく(?)見守ってるだけだし、比企谷家では見守るも無しに放置だったし。趣味を共有できるコミュニティってマジでなかったんだよなぁ。材木座は除く。
「私も是非、比企谷君とは熱く語り合いたいと思ってるよ~!でも、今日それをやっちゃったらいろはちゃんが拗ねちゃうからまた今度になりそうだけどね」
「それは言えてますね」
絶対嫉妬して後日どえらいことになるのが目に見えている。そして、今の口振りからして玉木さんは俺といろはの関係性については察しがついているのかもしれない。この人の洞察力は常軌を逸している。
「それにしても、どうして智佐吹さんにすら言っていない自分の趣味の話を俺なんかにしてくれたんですか?」
「ん?どうしてって…言わないと分からないの?」
玉木さんは甘えるような猫なで声で俺を見上げてきた。ほとんど身長差のない俺達なので、自然とその綺麗な顔が眼前に迫ってきて思わず後ろに引いてしまう。
「そ、その秘密を共有したことで脅されるとか?」
「比企谷君…。冗談でもそれはないんじゃないかな」
「す、すいません…」
「まぁ、信頼の証ということで。ね?」
「無理やり背負わされた気もしますが…」
「そうとも言う!」
クレしんみたいな言い切り方したぞこの人。
「いや、自信満々に言うところじゃないでしょ」
「いろはちゃんみたいに先出しして事後承諾を得る戦法が比企谷君には有効だなと」
「それ反則技ですよ。分析合っているとは思いますが」
「そう言いながらも受け入れちゃうから比企谷くんは可愛いんだよなぁ…」
いたずらが出来たといじらしく微笑む彼女。その子供のような純真さに思わず惹かれてしまう。
「可愛いと言われて喜ぶ男はそう多くないので気をつけたほうが良いですよ」
「比企谷君は言われると喜ぶタイプ?」
「自分はショックを受けるタイプですね」
「男として見られていないって感じちゃうから?」
「そうですね。完全に別カテゴリに入れられた認定って感じがします」
こんな話を総武高校の時にいろはと話した記憶がある。
「あ、それなら安心して。逆に私の中では『可愛い』って伝えるのが恋愛対象ですよ認定みたいなものだから」
「そ、それは素直に喜んでも良いんですか?」
「比企谷君が私のことを愛人にしたいって思っているなら喜んで良いんじゃない?」
「な!?」
「あはは。冗談だよ~。ちょっとからかっただけ」
玉木さんはつんつんと俺の頬を人差し指でつついてきた。この人と話し続けていると一生手玉に取られる気がする。
「でもさ、実際のところ私は候補としてはどうかな?」
「そ、それもさっきの冗談の延長ですか?」
「秘密。だから比企谷君の好きに答えてくれて良いよ」
玉木さんは若干緊張しているような顔つきでこちらをじっと見た。その表情から俺も真面目に答えなければならないという雰囲気を鈍感ながらに感じ取った。いや、もしかしたら自分の勘違いかもしれない。
「正直、知り合ってからかなりの時間は経過しているものの、今日初めてこうして踏み込んだ話をしたばかりですし、なんとも言えないって感じですかね。でも、趣味の話が出来そうなのでもっと仲良くなりたいというのは本当です」
「そっか。それは、本当に良かった」
玉木さんは胸をなでおろした。
「どういうことですか?」
「ん?私が比企谷君に毎日のようにアピールしてたのも無駄じゃなかったなぁって」
「っ!」
それはそういう意味で受け取ってしまっても良いものなのだろうか。曖昧なので良く分からない。それに聞いたとしても煙に巻かれる未来しか見えない。
「別にいきなりお近づきになりたいとかまでは思ってないけどね。でもこうして、偶には二人で話すのも悪くないと思いませんか?ってアピールは今日の三人での飲み会で思ってもらえたら嬉しいなって」
「まだ始まってすらいないのに、随分と攻めてきますね」
「あんなに毎朝話しかけてるのに今更って感じじゃないかな?」
「それは、確かに…」
玉木さんが少なからず好意的に俺のことを見てくれているのは随分と前から感じていたことだ。
「それに有耶無耶にするよりも『そのつもりです』って最初から言ったほうが意識してくれるかなって思ったから」
俺の逃げ道を塞ぎたかったということだろう。本当にこの人は俺のことをよく理解している。
「とりあえず玉木さんだけは絶対に敵に回したくないですね…」
「じゃあ手篭めにする?」
「それもそれで膝に爆弾抱えてるスポーツ選手みたいな状態になりそうでありますが」
「ふふ。なにそれ。でも、自覚はあるなぁ」
「まぁ、こういう皮肉も受け止めてくれるところは凄くやりやすくて楽しいですよ」
「ありがと。もうすぐいろはちゃん来るかもだね。彼女には集合時間5分だけ遅く伝えておいたから」
「え」
「嘘。冗談だよ♫」
俺が怖いって言っているのは、そういう事さらっと言うところだよ玉木さん…。
「あ、今のうちに連絡先教えてくれない?」
「え、一色から聞いていないんですか?」
「いや、いろはちゃんってば比企谷君の連絡先だけは頑なに教えてくれないんだよね…」
「あぁ……」
いや、気持ちは分からなくはないんだけど流石に強情を張るのも違うと思うぞいろはすよ…。それにこういう結果になることは目に見えていただろうに。
「じゃあこれ、自分のLINEのQRコードです」
「これはいつも使う用?それとも愛人との連絡用?」
「…ご想像にお任せします」
「あ、愛人居るんだね、比企谷君」
「え」
え、これって言質取られたの?回答ミスったの?
「そこは持っているのは一つだけって言わないと…」
「…す、すいません」
「はい言質取った」
「え」
「謝っちゃったら確定じゃん。さっきのはまだ全然グレーだったのに。うふふ。可愛いなぁ本当…」
もうやだこの人。
「メッセージ送ったから確認してね」
「は、はい」
気を落としながら、雪乃や留美と連絡を取る用の携帯を取り出してメッセージを確認する。確かに、玉木さんと思わしきアカウントからスタンプと写真が送られてきていた。
「玉木さん、アカウント名は『Maki』なんですね」
「本名がたまきまきだからね~。まきまきとかでも好きに変えてくれちゃって大丈夫だよ」
「そ、それでもし俺が本当に玉木さんの表示名『まきまき』に変えたらどうするんですか?」
「それはそれで面白いし、比企谷君への好感度が爆上がりするね」
「まじか」
「まじです。だから、一緒に画面見るから今ここで変えてほしいなぁ」
「ちょ!ち、近いです…」
胸とか肩とかとにかく全部あたってる。しかも滅茶滅茶柔らかくていい匂いがする…。
「変えてくれないと離れないよ?それとも、比企谷君的にはこのまま変えないでこの状態を楽しむ方が良いかな?」
「か、変えるので一旦離れてください…」
仕方なく俺は速攻で玉木さんの登録名を『まきまき』に変更した。その画面を見せると玉木さんは満足したように俺から2歩ほど下がった。
「抜き打ちチェックするからね?もし変えてたら、いろはちゃんに有る事無い事言いつけちゃうから」
「それ、卑怯じゃないですか?」
「嘘。冗談♫」
玉木さんはくすくすと笑っていた。
続く
アンケート引き続き回答募集中です。まだの方はぜひ!
オリキャラメインは本当に久々ですね。2年ぶりとかのレベルか(・∀・;)
次回からまたあざとかわいいいろはす(そういえば誕生日アンド14.5巻発売おめでとう)のターンです。メインヒロイン様のターンです()
では次回もまたよろしくおねがいします。
総合UA100万記念で書いてほしいキャラ
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ガハママ