喰種対策局総議長――和修常吉は、自宅で一人佇みながら己の衰えを感じていた。
それは身体的な理由ではなく、精神的な意味合いでだ。
若い頃ならば看破出来たであろう何者かの策略に、和修常吉は嵌められたのである。
「焼きが回ったか……」
外務省や各省庁、警察庁警備局公安課からの抗議、大使館や総領事館、人権団体などの抗議で本局はパンク寸前なのか、通話しようとしても繋がらない状態だ。
警察庁警務局があった
現役喰種捜査官が在留外国人に攻撃した事実や、搬送先の病院で死者が出た事、国連兵士の戦闘停止命令無視など隠蔽は不可能だ。
――耄碌したものだ。
ある二人組を息子が増援として潜入捜査へねじ込んだ時か、12区に固執した捜査官へ許可を出した時か、ヒトの恨みというものを甘く見すぎていたか、あるいはツテの政敵か、様々な者達が浮かんでは消える。常吉が浮かべた想像は、どれもが合っているようで、全て違うように思えてくる。
しかし、日本政府が我々を裏切るとは考えにくい。ならば警察官僚の誰かだろうか。職業柄恨みを買う事はあるが、ヒトに恨みを買う事は無かったはずだ。
恨まれるとしても、それは喰種であって、
人々を守る喰種対策局が、ヒトに嵌められるなど、あってはならない。あるはずがない。
であれば外部からの線は薄い。WHOの調査団が12区へ入っていた情報を止めたのは――
「身内……か」
常吉は一族の者達の誰かが、意図的に情報を封鎖した可能性を考える。
息子達がまさか、自分を嵌めるとは考えにくい。
考えにくいが、そういった可能性も考慮しなければならない。
それにVの者達が動いているとは、誰が指示を出したのだ。連絡が付いた
やはり外国の線が一番怪しい。喰種という分野の先進国としてドイツと共に繁栄したツケかもしれない。多少やり方が強引だったかもしれないと、常吉は改めて考える。
怪しいのは赤舌連討伐の為に捜査員を派遣した際、討伐した喰種の所有権で多少揉めたあの国か、それとも中東、あるいは国際的に日本より立場は強いが喰種対策に遅れをとる国か。
だが何の目的で――
「いや……」
今は犯人探しに躍起になる場合ではない。まず厄介な
それに責任を果たさなければならない。喰種対策局の長としての重責が、老いた双肩にのしかかる。
総議長――和修常吉は覚悟を決める。
「――――」
まるで部屋の空気が震えるように、張り詰めた雰囲気が広がっていく。
とある貿易商が所有するビルに和修常吉は、連絡を入れ向かった。案内された部屋は、東京湾の景観を見晴らすことができるほど立派な場所であった。
常吉は来客用のソファーに座らず、立ったまま月がうつる水面を眺めながら相手を待つ。静寂を破るように扉の開く音が聞こえる。
「何用かな、喰種対策局総議長殿」
「……お主の力でなんとかできんかね」
「はて、何に対してでござろう」
相手は貿易会社の
「諸外国を黙らせて欲しい」
「無理でござろうなぁ、無茶な要求というのはわかっていよう――」
耄碌したか。かつて鬼常と呼ばれた男へ静かに貿易商は語りかける。
いくら貿易商とはいえ、彼に様々な国を黙らせる権力はないだろう。12区を黙らせろという頼みに他ならない。
「……無理かね」
「拙者の息のかかった者達までなら、何とかなるだろうが」
他の者達が黙っているはずがない。
12区はそもそも三つの勢力が拮抗した状態が何十年も続いている。一勢力を黙らせたところで、どうにかなる話でもない。
火種は元々燻っていた。アオギリの樹という組織に馴染めない者達、誰かの指図など受ける気の無い者達、そういった者達だけが、喰種達だけが住民ではない。大半がヒトなのだ。
喰種産業と裏で呼ばれている、性ビジネスや、戦争ビジネス、それらの中心でもある
ビジネスの匂いに誘われたのか、裏社会の住民達が目を付けるのはすぐだった。様々な人種、国籍の者達が集まったのは偶然ではない。このまま推移していけば、その総数はあと数年で百万を越えると思われる。
あの街には喰種対策局に、あるいは喰種に対する軍隊に家族を奪われた者達だって居る。恋人が、友達が、子供が、夫が、妻が喰種だったヒトの行き着く場所でもあったのだ。
社会的弱者。普通の街に住めば指差され、
他の者達を黙らせる?
一度粗相を許した、こちら側の面子が立たない。自分も含め無理だと貿易商は鼻で笑う。
「話はそれだけでござるか」
貿易商はあきれた声色を吐き出し、部屋から退室しようとする。
「いや――ケジメをつける」
「……ほう」
退室しようとした貿易商が歩みを止める。
貿易商を含め、12区に存在する裏社会を纏める者達の面子を潰された今回の事件。12区と喰種対策局や日本政府とは不可侵の協定を結んでいた。見返りに12区からは、火種を街から出させないように、裏から管理してきたのが三つの勢力。
しかしソレは破られた。内乱、紛争、あるいは戦争が始まってもおかしくはない。貿易商は他勢力を率いている者達の顔を浮かべる。生半可なケジメでは誰も納得しない、老いぼれの首一つでは12区の火種を止めることは出来ない。
和修常吉からの提案に、貿易商は怪訝な表情を浮かべ、蔑むような笑顔に変わる。
「……身内を売るか」
淡々と貿易商は呟く。
「いや、それだけではない――」
――総議長の座を降りる。
提示できるカードを出す常吉。これ以上の譲歩は無いと、持ってきていた一振りの刀の鍔を握り締め、決意をひめた瞳で貿易商へ鋭い視線を向ける。
――その選民思想が、事態を引き起こした起因だというのに、アホウな奴よ。
貿易商は表に出さないが、心底あきれた様子で和修常吉を見遣る。
貿易商は同情じみた視線を常吉になげかけ、笑いかける。常吉にしてみれば最大限譲歩した提案だったが、貿易商――裏社会の重鎮からしてみれば、その決意はあきれるモノだったのか、それは違う。ケジメと言いながら、
何者かに嵌められ、逆境になろうとも、それを利用してやろうという気概、瞳を見ればわかる。老いてなお、鬼は死んでいなかった。悪くは無い、悪くないが――足りぬ。
覚悟をみせる常吉に、貿易商が別れの言葉を告げようとしたその時、貿易商の携帯が鳴る。
「何用か」
『至急報告したい事が――』
12区に住んでいる
部下の知らせに、やはり、お館様とあの街に住むヒトビトは面白いと、貿易商は笑いをこらえきれず、声を漏らしてしまう。
――ああ、愛しや、愛しや。
「何か愉快な事でもあったのかね」
常吉は断りもせず、通話に出た事にも、こちらが頼み込んでいるというのに、楽しそうに笑う眼前の貿易商へ少々苛立っていた。
「いや、なに――」
ヒトというのは
◇◇◇
11区を根城にする
千代田区、
――捜査官は見つけ次第犯せッ!
ヒトビトの怒号が喰種対策局本局に鳴り響く。本局の自動ドアはブルドーザーでこじ開けられ、そこから祭りでもあるのかというくらい沢山のヒトビトが、続々と入ってくる。
受付嬢やCCG職員の女性達が、同じ種族である人間達に性的暴行――まるで性玩具のように扱われていた。いたるところから、肉と肉がぶつかり合うような音と、粘着質な水音が響き渡る。
『あぐっ……あっ……』
『もっと鳴けやァ! 締まり悪いぞクソビッチ!』
一見普通の学生に見える者がCCGの女性職員に暴言を吐きながら、なぶるように犯している。
『くっ……くるし、た……たすけ……』
『信仰を侮辱せし異教徒共に教えてやるのです!』
聖職者が着るような法衣を纏いながら、受付嬢へ暴力を振るいつつ服を破り捨て裸へひん剥き、何かから改宗させるように、こちらも性的暴行をくわえている。
警察へ連絡しようと受話器を握り締める女性職員も居たが、それはすぐに阻止される。
『サツにも聞かせてやれよ……お前の子宮の音をよ!』
『あがっ……』
何を思ったのか受話器を奪い、女性職員の膣へ受話器を突っ込む。下腹部から血が滲んでいる女性職員に対して、襲撃者は喜びもせず、ただ淡々と、逃げようとする女性職員の腕を掴みながら110番を押す。
『ほら、110番してやったぞ。子宮から声出せ!』
すると警察官のような者達が騒ぎを聞きつけて到着したのか、本局内へと突入して来るが――
『応援に駆けつけました!』
『おせーぞ! 俺の股間のピストルもう撃っちまったぞ』
『本官らも射撃体勢に移行します!』
そう言いながら自分達のイチモツを取り出し、握り締めしごきながら勃起させ、白濁液まみれになり空ろな瞳で倒れている女性職員達を犯しはじめる。そして犯しながら無線で応援を呼び始めた。
『子宮に応援を求めます! 場所は千代田区、
無線相手から了解という元気な声が返ってくる。
――襲撃者達は警察官すら抱きこんでいるのか。
110番しようとした女性職員が、その光景を目の当たりにし、絶望を浮かべるような顔をしながら崩れ落ちる。そもそも通報してすぐ警官がやって来るはずがない。彼らは警官といっても12区住民の者で、まともな警察官ではない。
他にも日本語でない言語やカタコトの日本語で職員達に罵声を浴びせながら、性的暴行をくわえる外国人も多数存在する。
12区から
襲撃者全てが怒りの感情をあらわにし、性的に暴発した彼らは最早警察ですら止めることは困難だろう。
それはかつてどこかであった異端への討伐軍のように、異教徒への聖絶を――征服をするかのように、12区に住まう
清掃業者のような格好をした者達や、サラリーマンのように背広を着ている者、日雇いの工事現場で働くような作業着を着た者、様々な格好をした者達が、様々な人種の者達が好き勝手に喰種対策局本局で行う
数えるのが馬鹿らしくなるほどの人数が押し寄せ、局内はヒトで埋め尽くされている。数少なく居たCCG男性職員はなすすべなく倒れるか、男色を嗜む者達の慰み者になっている。
――性は何者も差別無く手を差し伸べる。
男だろうが女だろうが見境なく、彼らは襲い続ける。
ここまで人数が違えば、個々の戦闘能力なぞ関係ない。訓練を受けていない者達でも、訓練を受けたCCG職員を圧倒する事ができるほどに、数が違う。各々がテーブルやら椅子やら、本局に置いてある備品を手にし、おおよそ喰種が使う武器ではないモノで襲ってくるのだ。
CCG職員は当初、Rcゲートを次々と通ってくる者達が暴れだした事に困惑し、ゲートの故障を疑う。喰種達が襲ってきたモノとして対処していたが、様子がおかしい。攻撃をくわえても誰も赫眼にならない。血を流し、まるで人間のように倒れていく。襲っている側が叫ぶ、こいつらもただのヒト殺しじゃねえかという声に、対処していたCCG職員達はたじろぐ。
その隙を突くように、彼らは持っている武器で殴打したり、馬乗りになって女性職員も男性職員も平等に彼らは強姦する。1人に対して5.6人以上で常に襲ってくる人間達に、CCG職員達は何が起きているのか、何もわからないまま犯され続ける。
何事かと、上の階層からやって来た職員達も喰種の敵襲かと思えば、相手が人間ということに戸惑いを隠せない。その戸惑いは戦場において命取りになる。川の流れに逆らえないように、流れ込むヒトの波はまるで津波のようで、本局にある全てのモノを巻き込む。
11区掃討作戦に出ている職員達や警官隊を合わせた数が、千人と発表があったが、今ここに存在するヒトビトの数はそれに匹敵、あるいはそれ以上に増え続けている。
なんとかまだ戦えている古参職員達は、眼前に広がる惨状を苦々しい表情で見つめ、衝突が起こってしまった事を嘆く。
CCG職員達の悪夢が蘇る。12区浄化作戦時の悲劇が――
あの時は
襲撃者達の血走った目と職員達にあびせる罵声が、容赦ない
外へ逃げることさえ出来ればあるいは――そう考えた職員が喰種対策局本局の建物から出れば、待ち構えるように周囲全てが、怒りをあらわにし本局の建物に近付いてくるヒトビト。逃げ場が無い。絶望しながら職員は崩れ落ちる。
『これが俺達の
頬をぶたれたら相手を犯せという雄叫びのような声を聞き、見渡せば老若男女問わず、本局近くに居た住民達も襲われており、果ては犬や猫までも強姦する対象となっていた。中には喰種対策局職員が逃走に使用しようとした車が壊されていたり、車のマフラーに性器を突っ込んでいる襲撃者すら居る始末。
列を成すようにヒトビトが集まる。ちらほら存在するピエロ面をした者達が、彼らを誘導しているようにもみえる。もしかしたらピエロが扇動したのかもしれない。ビデオ撮影しているピエロ面も居る始末。この惨劇は新興宗教の者達やピエロなど様々な者達の思惑が交錯し、起こった悲劇の一つに過ぎないのかもしれない。
同時刻、
居残りで第一、第二の問題児達が集められ補習を受けていたが、大半の生徒や職員は帰っている時間帯。まるで強盗犯のような目と口元以外を隠すようなマスクを覆い、軍人が着ているような服を纏う者達がアカデミーを突如襲う。
警備員や講師達を殴り倒し、アカデミー内に残る者を逃がさないように出入り口を封鎖する手際は、まるで映画に出てくる特殊部隊のように洗練されている。
悲鳴や叫び声が聞こえる。
アカデミー生である米林才子はサボって寝ている所を起こされた。
同じく補習を受けていた六月透が才子を起こす。明らかに異常事態であり、寝ている場合ではないと机で寝そべっている彼女を揺さぶる。
「あの……」
「……お?」
揺さぶられ意識が微妙に覚醒したものの、寝ぼけているのかまた再び寝始める。六月は気が気ではない。教室の外から聞こえてくる小さい戦闘音、悲鳴や叫び声、何かが起こっている。
寝た子を起こすのは後回しにし、外の様子を見ようとドアへ近付いた時、ドアが開かれる。
「――ッ!?」
ドアの外に強盗のような覆面をし、軍服のような服を着た者が一人佇んでいた。覆面をした者は、背から触手のような
「……」
無言で背中から触手を出している襲撃者は、突如ズボンを脱ぎだす。露になった下半身からは、勃起した肉棒がはち切れんばかりに隆起し、おぞましい肉欲がうかがえる。
ある事情により
授業で講師があまり教えたがらない様子で教えていた喰種に、該当する喰種が居る。とても忌々しげに講師が語った喰種、通称
もし将来出会ってしまったら逃げろ、女性が絶対に戦ってはならない喰種であると、人間の尊厳を陵辱し尽す悪魔のような存在だと、人類が築き上げた伝統的な道徳性を破壊し否定するような、最悪な喰種だと講師は語っていた。
今では海外で活動している喰種なので、出会う事もないだろう。ただ現役捜査官は口にする事すらタブーだから、先輩に聞いて返事が返って来ないからと言って、問い詰めて精神的に追い詰めるなよ、など語っていたが――
今、六月の眼前に居る存在は、その禁忌だろう。
「――――ッ!」
口を触手で塞がれ、声にならない悲鳴をあげる六月。触手に身体を拘束され、服の合間を這うように細長い何かが、粘着質な液体を垂らしつつ胸に触れる。六月の肢体へ毒々しい触手が1本1本それぞれ別の生き物のように蠢く。
縛り上げられた姿は服を破かれはしていないものの、六月透という
「なるほど……」
六月に視線を向け、何かを呟く強姦魔。
覆面で隠された顔から表情はうかがえないが、何かを考えているような仕草だ。
六月に興味が無くなったのか、今だ机に伏し寝そべっている米林才子へと視線を移す。
「ああ……」
何かを思い出したかのように納得する素振りをみせる強姦魔。彼は突如、背中から生やしている触手の
粘着質な音と共に様々な形の触手が、部屋を包み込む。
強姦魔は六月にやっているように触手を才子へと這わせる。
触手に才子の服を捲らせる。すると、だらしのない腹が露になる。
「これはまさか――至高のイカ腹……」
子供のように腹筋が未発達なせいで内臓が下がり、まるでイカを彷彿とさせるような、ぽっこりとしたお腹。いわゆる幼児体型というモノだ。才子が魅せる肢体は強姦魔にとって激しい感情をかきたてるモノで、出している触手と露出している股間が興奮しているように脈打つ。
「素晴らしい……」
胸に余計な脂肪が無ければ完璧だったと小さく零す。
そう言いながらも、覆面から覗かせる瞳を輝かせながら才子へと近付き、触手で持ち上げる。
そして強姦魔は才子の腹に舌を這わせた。
餅のように柔らかい白い肌、健康的でしっかりと肉の付いている脚、まるで幼児のようなイカ腹、世のペドフィリアやエフェボフィリアが見れば100人中100人が男と同じ言葉を発するだろう。
今だ眠り続ける才子を起こす為なのか、はたまたイカ腹の味を愉しんでいるのかはわからないが、触手で持ち上げながら彼女のだらしのないお腹を堪能している。
舌で舐められ、くすぐったいというように才子の身体がよじれる。そんな才子の仕草ひとつひとつが男の情欲を掻き立てる。ついには才子のイカ腹へ自身の肉棒を擦り付けだした。肉棒からしたたる先走り汁がローションの代わりをはたし、才子のだらしのない肢体で腹コキをおこなっている。
「お菓子……金の……」
「?」
「自堕落……」
突如喋りだした才子に、やっと起きたのかと思えば寝言のようだ。このような状況でありながらも眠り続ける米林才子という少女は、ある意味肝が据わっていると言えよう。普段から徹夜でゲームなど娯楽にふける才子は、単純に眠たいから眠っているだけなのだが、強姦魔にとって、その仕草は
このままロリビッチに負ける訳にはいかない。しかしこの至高のイカ腹の魅力に抗えるのか、答えは否である。男は悔しそうに口元を歪めつつ、腹コキを続ける。
だらりと下がった健康的な足を手に取り、靴や靴下を脱がし、腹コキをしつつ臭いを味わう。
少し笑っているような仕草をしつつ眠り続ける才子へ、闘志を燃やすような瞳で男は彼女の魅力と戦い続ける。幼児のような腹と男が誇る唯一無二の
時折くすぐったそうに身体をよじる為、はからずとも腹コキの助けをしている才子。それは無垢な少女が自然と行う、熟練者を思い浮かばせる動きで、流石の男でもコントロールを見誤り、欲望を吐き出してしまった。
だらしのない腹へ施す白い化粧。男はふと、何かを誤魔化すよう視線を才子から外す。窓があるはずの場所へと視線を変え見つめる。触手部屋になっており外の様子は見る事叶わないが、季節は冬――もしかしたら外でも雪が降っており、景色を白く染めているかもしれない。
それは醜悪でグロテスクな部屋とゾッとするような触手の一団で彩られた、
再び視線を才子の腹へと戻す男。
「美しい……」
だらしのない腹にしたたる自身のセイエキが、重力に逆らえず落ちていくさまを眺めながら彼は小さく零す。眠りながらセイエキをしたたらせる少女の姿は、どこか退廃的で――道徳を蹂躙する喰種、強姦魔にとってその姿は感じ入るモノがあるのだろう。
今だ眠り続ける才子の姿は、触手の茨で囚われた眠り姫のようだ。
一戦目は才子が眠りながら勝利したが、二戦目はそうはいかない。イカ腹の眠り姫を眠りから目覚めさせ、肉棒で子宮口に熱い口付けをしてやろう。決意をひめた瞳で、男は彼女の下着をずらし、蜜壷へと指を這わせ、イカ腹の眠り姫に宣戦布告する。
蜜壷を刺激する男の指はどこか優しげでいて、寝ている子供を起こすために身体を揺するような動きに似ている。先ほどまではくすぐったそうに身体をよじっていただけだった才子だが、穏やかに手淫を施され、頬をわずかながらも赤くする。寝言も様相が変わり淫らな夢でも見ているのか、いやらしい声を漏らす。
「んぅ……んっ……」
才子の蜜壷が何かを求めるように伸縮する。しかし男は手の動きを激しくしたりはしない。子供をあやすようにあくまで穏やかにクリトリスをこねくり回す。だんだんと湿っていく才子の蜜壷。
男は手を離し、才子の身体を固定するように様々な触手で縛り、クリトリスへと、まるでキスをするよう顔を近付け、少量だけ漏れ出した蜜を舌で舐めとるような仕草をする。味わう蜜の味は至高なのか、とても満足そうな表情が覆面の下で見え隠れする。
「ん……んんっ……えっ!?」
眠り姫がクリトリスへのキスで目を覚ます。
目をぱちくりと開き、辺りを見回す才子。
起きた才子の様子を見る為か蜜壷から舌を離し、才子に向き合うように視線を合わせる。
「……新マップ実装?」
「おはようございます」
「まさかゲームの中に入り込めた? 開幕触手型ボス……?」
「?」
今だ夢の中と勘違いしているのか、
才子が何を言っているのかわからない強姦魔は、首を傾げつつ蜜壷へ肉棒を宛がうように擦り付ける。一度欲望を吐き出した肉棒だが、衰える気配は無い。戦闘態勢は万全と言いたげに脈打つ。
「は、っひ……」
「
「お、おたすけ……」
元気な子を産むのは自分だったのかと、夢の続きを語っているのか、男にとってよくわからない言葉を才子は話す。そんな才子を世界は見捨てなかったのか、この悪夢のような部屋に乱入者が現れる。その乱入者は部屋の光景を目の当たりにし、身を震わせる。この身の震えは、怒りからくるものなのか、それとも――
「アカデミーの様子がおかしいと思って来てみれば……」
教室一面を覆う触手を掻き分けながら、ある男がやって来る。
鍛えられた身体がスーツの下からでも確認でき、鋭い眼光が眼鏡の奥から見え、髪を後ろに流す偉丈夫――和修政。いかにも強者オーラを漂わせる乱入者が向ける視線の先は、縛られ意識を失っている六月から強姦魔の逞しい
「ドイツ以来だな……」
「
強姦魔はとても嫌そうな声色で和修政の言葉に反応する。その吐き出された言葉は才子らに対してなのか、いつのまにか消えている共に来ていた者達に対してなのだろうか。
そして彼らには過去に因縁のようなモノでもあるのだろう。強姦魔は嫌そうな態度を隠さず、政へ敵意の篭った視線を向ける。
一方、和修政の方はと言えば、思いがけない
「フッ……どうやら貴様とは――」
――ひかれ合う運命のようだ。
そんな言葉に対して強姦魔は、無言で触手を政へと向ける。
政は何かに納得するような仕草をしながら、自身に襲い掛かる触手を避ける。
忌々しい相手へ向けるような瞳を隠そうとしない強姦魔、彼がこの世で唯一敵視する存在かもしれない。強姦魔と和修政の因縁は、政が10年ほど前に留学したドイツからはじまる。
ブレーメンのとある屋敷で強姦魔と遭遇し、交戦状態に入り喰種捜査官で唯一、強姦魔を退ける事に成功した事がある捜査官なのだ。政が参加した、とある作戦はそれ自体有耶無耶になり失敗に終わったものの、ドイツでは英雄扱いだった男、それが――和修政。
「……」
「フン……だんまりか」
対する強姦魔の股間が萎れ始めている。触手で縛られた才子は何が何だかわからない様子で、これもイベントの一種かと思いながらボーっと眺めている。
強姦魔が動き出す。触手を畳み始め、教室の窓を壊し、六月や才子を触手で抱えながら逃げ出す。
――今度は逃がさない。
そう言っているようで、けして普通の人間では追いつけない速度で走る強姦魔を猛追する政は、逃げながらも攻撃してくる触手を紙一重でかわす。男性器のようなグロテスクな触手群を物ともしない、服に絡もうが服が破られようが、ただ眼前にある目標に向かい走る。
全ては避けきれないのか、何本か触手が政の身体に叩き付けられるがものともせず、寧ろこれが戦いと言うものだと言わんばかりに、恍惚とした笑みを浮かべながら追いかけ続けるのだ。
政の鋭い視線の先には何が見えているのだろうか。それは彼自身にしかわからない。ほぼ全裸になりながら気迫の篭った熱い視線を強姦魔に向け、全力疾走する様は――はたから見ると、とても恐ろしい。才子はやっぱゲームだわこれと、静かに納得する。
触手のバケモノと褌一丁でガタイの良い男が追いかけっこしているのだ。現実味が無い。しかしこれは現実で、才子の思うようなゲームの中などではない。不敵に笑いながら強姦魔へと迫る政。そして追いつくか否かという瀬戸際、強姦魔はやむを得ないという感じで触手で抱えていた片割れ、六月を政へと投げる。
「おっと」
慌てて受け止める政。だが――
「なんだ女か」
そう小さく零した後、六月を道端に放置し、再び逃げる強姦魔を追いかけ出す。強姦魔の逃走劇はまだ続くようだ。
◇◇◇
11区アオギリの樹のアジトと思わしき場所で、銃撃戦を繰り広げている丸手特等捜査官率いる喰種捜査官達は苦戦を強いられていた。
「なんで撃ち合いになってんだ」
「11区支局からパクられた奴ですよ……」
そんな事わかってると、丸手は側に居た捜査官に愚痴を零す。
アオギリの樹にスコープと呼ばれる、傭兵業を営む喰種が他の喰種達へ銃などの武器の扱いを教えたが故に起きた銃撃戦。その射撃の腕前は訓練を受けた喰種捜査官達ですら、舌を巻く腕前で、一種の膠着状態が続いている。
そんな膠着状態を打破しようとしているのか、丸手の指揮する部下の一人、鈴屋什造という若い捜査官が丸手の乗ってきた愛車のバイクに跨る。什造が乗っているバイクが自分の愛車だと気付いた丸手は叫ぶ。
「おい! ちょっと待て、おい!」
借りまーすという言葉と共に風になる什造。丸手の静止を振り切り、階段をバイクで走りフェンスを越え、現状を打破しようと無理矢理乗り込もうとするのだが――
――いい的だ。
スコープの射撃の腕を舐めてはいけない。バイクはすぐさま蜂の巣にされ、とっさに爆発から逃れる為、什造はバイクから仕方なく飛び降りる。爆発した丸手の愛車は飛び散り、燃えカスが捜査官達の頭上で雪のようにふりそそぐ灰になった。
「俺の愛車ァアアアアアアアアア!?」
丸手特等捜査官の悲しい悲鳴が辺りに響き渡る。
「上手くいくと思ったんですけどォ……失敗しちゃいました」
今にも什造にとびかかりそうな丸手を、同じく作戦に参加している篠原が抑える。あまり悪びれていない什造の様子に、丸手の血管は破裂寸前だ。
「……マル、良いローン紹介するよ」
肩に手をおいてくる篠原に対し、対策局じゃねえかと吠える丸手の叫びが空しく響き渡る。
「スコープさんパネェ!」
「よくバイクで突っ込んでくるなんて思いましたね」
「追い詰められた少年兵がする行動に似てたからな、中東じゃよくある」
「マジかよ中東パネェ……」
丸手の愛車を破壊したスコープはと言えば、周りに居る喰種達から賞賛されている。しかしスコープと呼ばれる傭兵喰種の表情は曇ったままだ。
「……そろそろ潮時だな」
「えっ? まだ戦えてますよ?」
「そうですよ、次また来てもスコープさんがシュンシュンシュンって全部撃ち落せば大丈夫ですって」
疑問を浮かべる周りの喰種に対してスコープと呼ばれる傭兵は静かに語る。
「今はまだ上を気にしないでいいからな」
相手は警官隊と合同でやっている。特殊部隊がヘリを飛ばして来るのも時間の問題だろう。そう逸る新兵を諭すように淡々と自分の意見を述べる。
「スコープさん、アンタどれだけ先が見えてんだ……」
周囲に居た喰種の一人が感心するように頷きながら、スコープに疑問を投げかける。どれだけ先を見ているのかと、スコープが見ている先は何なのかと。
「フッ……」
問いかけられた疑問に少しだけ笑いながら、俺にも見えないモノがあると、何処か遠くを見ているような眼差しを喰種捜査官達に向けながら呟き、再び射撃位置へと戻る。
喰種捜査官達と11区アオギリの樹の構成員達の戦いはまだまだ続きそうだ。
一方23区では、別働隊と思われる
目標は達成できた。だけど不思議だ。と、白髪で赤いマスクをしている青年が、建物屋上から景色を見遣りながら呟く。
「離れてても繋がってるモノなのかな双子って」
ねぇエト。と、横で佇む包帯に身を包む小さな喰種に語りかける。
「兄さんが何を考えてるかなんて――」
生まれてこの方わかった事が無い。エトと呼ばれた小さな喰種が小さく言葉を返す。
彼女の兄は同じ双子とは思えないほど、
本局方面を見張らせて居た部下からの報告、それは衝撃的で、まるでエト達の動きと連動しているかのような騒動だった。
「タタラさん」
「……何?」
タタラと呼ばれた青年が視線をエトへと向ける。
タタラに視線は向けず、ただ、眼下に広がる景色を眺めながらエトは呟く。
「……兄さんにあいたい」
様々な感情が内包している消え入りそうな声。
そんなエトの様子をみかねてか、タタラはさっき入った情報なんだけど、と前置きしながら話しだす。
「居場所わかったよ、お兄さんの」
「ほんと!?」
居場所がわかったという言葉にエトはタタラへ勢い良く振り向く。
あるマンションへ頻繁に出入りしているとタタラの部下が掴んだ。その情報にエトは心底嬉しそうにはしゃぎだす。
「……」
エトを見つめるタタラは、ふと、自分が感じる感情に疑問を持つ。
何故彼女を見て酷く羨ましいと思ったのだろう。
ぽっかりと空いた心の何かは、彼女を羨ましいと感じる。はしゃいでいるエトに優しげな視線を向けつつタタラは、自分の感じる、この胸を締め付け、痛みを与えてくる何かを不思議に思う。
その痛みは、消えない澱のようにタタラの心へ沈殿していく。