一人の嫋やかな少女が、電車内で痴漢されている。
揺れる電車内で
何故狙われたのか?
空いている席があるにも関わらず、ドアの側に居る為だ。これは心理的に、他人が近くに居る事を嫌うタイプに多い行動。そして内向的な性格でもあるのだろう。
つまりは余程派手にやらない限り、痴漢され放題でも我慢してしまうタイプな訳だ。知り合いや友達が側に居るという事も無い。痴漢してくれと言わんばかりの条件が揃い過ぎていた。
「……ッ!」
男は少女のスカートやら服に手を突っ込み、下着越しに彼女の秘部を指で弄くりまわしたり、尻を撫でたりしている。ちょうどイイ感じの小ぶりのおっぱいが誘おうものなら、その乳首を慣れた手つきでブラジャー越しに弄り回す。
触られている少女は気が気ではない。周りの客は気が付いていないのか、見て見ぬ振りなのかはわからないが我関せず。少女にとってここは陸の孤島。
「……やめて……っ……くだ……さい」
彼女は最初やり過ごそうとした。だがあまりにもしつこい。後ろを振り向いて文句を言おうとすると、フードを被った顔の見えない小柄な人物がずっと自分の秘部を弄っていた。
少女が振り向き小さい声ながらも、しっかりと拒絶したのにも関わらず、その小柄な人物はやめようともしない。まるで気にしていない。
周りに助けを求めようにも、誰も彼もが見て見ぬ振り。否、見る暇が無いと言った方が正しいのだろうか。少女が男に弄られつつ、よくよく辺りを見渡せば、女性の乗客全員が変な男共に痴漢されている。どおりで誰も助けてくれないはずだと少女は落胆した。
異常すぎるこの光景。夢なのだろう。悪夢からはやく醒めたい。少女は現実逃避しつつも、今だ感じる他人の指の感触と嫌悪感、恐怖に苛まれる。
辺りなどお構い無しに、男はまるで信号点検をしているように、彼女の乳首を弄り続ける。気付けば彼女はショーツからじんわりとにじみ出る己の蜜の存在に、最悪な目にあっているにも関わらず感じている、自分にも嫌悪感を感じていた。
「おい。手でしごけ」
そんな自己嫌悪に陥っている少女へ追い討ちをかけるように、彼は肉棒をさらけ出し、少女にしごけと命令するのだ。ガチガチと震えながら、彼女は男の肉棒を、慣れない手つきでこすりはじめる。肉棒から段々と透明だが粘着質な液体が、少量ながらにじみ出てくる。ヌチャヌチャといやらしい音を立てながら、少女は目を瞑りながら、心底嫌そうに肉棒をしごいている。
「おう。まあまあだな。褒美に、また下を弄ってやるよ」
「ひぁんっ……い……や……」
再び男は彼女の秘部を弄りだす。下着越しじゃあお前もイけないよな、そう言いながら直に触り始めた。少女はビクっとしながらも、拒絶の意志をはっきり言葉で返したのだが、男はまるで意に介さない。
少女の花を愛でるように、彼は様々な言葉を囁きながら弄り続ける。そしてとうとう、少女は痙攣するかのように震え始める。周辺の乗客達も、それに合わせるかのように淫徳なダンスを踊る。
まるで痴漢専用の列車である。あたりから様々な嬌声が聞こえる。下品な言葉が、車内の揺れと共に響き渡る。少女にとって悪夢のような時間が過ぎていく。
車内の雰囲気に少女は飲まれてしまったのか、しごく手の震えは、いつしか止まっていた。車内の揺れも収まる。駅に着いたのである。
「ふぅ……不完全燃焼ですが、着いてしまいましたか。ではまた、機会があれば」
少女を弄っていた男は、まるでスイッチを切り替えるように、口調を変え、そそくさと何事も無かったかのように肉棒をしまい、少女を放置して車内から出て行く。
残された少女の手のひらには、白い液体が少々こびり付いている。呆然と、手に付いた男の欲望の跡を眺めながら、正気に戻った少女。手にこびり付いている汚れを、取り出したハンカチで拭いながら、憎悪に滲んだ表情で、男の後を追いかける。だが――
「おっと、嬢ちゃんごめんよ」
「アァ?」
改札口を通っているフードの人物を見つけ、完全に
すぐさま仲間を呼び、あの痴漢してきた男を捕らえ、誰を痴漢していたのかその身に恐怖を刻んでやる。痛めつけて恐怖と絶望を与えてから喰ってやろう。そうしなければ気がすまない少女は気が立っていた。
少女はスカルマスクと呼ばれる、13区で活動している喰種集団のリーダー的存在だ。男に秘部や胸を触られていた際の身の震えは、前半は演技で、後半は怒りで震えていたに過ぎない。演技していたのは、常日頃の狩りのやり方でもあるからだ。
けして感じてしまった訳ではないと、少女は自己暗示をかけるように、憎悪をフードの人物に向け、今にも飛び掛りそうだ。だが、待ったをかける、ぶつかってきた男。
「悪い事は言わねぇ。あの人に手を出すのはやめときな」
「何? 痴漢仲間だから庇う訳?」
「いや、よく見ろ」
「ア?」
男に言われるがまま、電車から続々と降りて来る客を見る。
――それは非日常的な光景だった。
上半身裸で、車内で奪った女性用下着を被りながら、己の股間をしごきつつ歩いている、プロレスラーのような男。痴漢に使ったピンクローターを、煙草のように咥えながら、ニヒルを気取っているエセ紳士。奪ったセーラー服を着ながら、自分の乳首を弄るサムライヘアーの男。様々な
「そう言えば……なんなの……あいつら……」
「あの人の配下だろうよ」
「は? 配下? そう言えばいつもと違って、車内が血の匂いで充満していたような……というかあのフード何者なの?」
「12区の王と言えばわかるか?」
「12区……ッ! まさか」
「そのまさかだよ嬢ちゃん。犬にでも噛まれたと思って諦めな」
「……」
ぶつかってきた男の話を聞きながら、少女はため息をつく。
13区もそれなりに凶悪な喰種が、ひしめきあっている危険な場所なのだが、11区や12区と比べると数段劣る。12区は13区の喰種ですら気楽に立ち入れない。否、13区には強者が上に立つという流儀があるからこそ、13区の者はあそこへ遊び半分に近寄らない。
13区でも強者の部類である彼女は、あの区の者達の、異常性を熟知していた。
「
少女はやるせない表情で、改札口を我が物顔で歩いていく変質者達を見守る。ぶつかってきた男に感謝するほどには、彼女は危ないモノに手を出さずにすんだと、ほっともしている。
話が本当なら、アレらに手を出すのは自殺行為にしかならない。ふざけた出で立ちの者達だが、12区の王に付き従う彼ら一人一人が、少女よりも数段上のレート認定されているバケモノだ。
怒りを沈め、何とも言えない表情になった彼女は、ふと、ぶつかってきた男に疑問を持つ。匂いが喰種ではない、目の前のコイツは何者なのだろうかと。
「で、何? 人間でしょアンタ。喰種捜査官?」
「オレは穏便に事を運ぶ為のネゴシエーター的存在で、それ以上でも、それ以下でも無い」
「うわぁ……アンタもか……」
よくよく見れば、ネゴシエーターと名乗る男の手には、まるでボクシンググローブのように、オナホールがぴっちりとくっついていた。常時フィストファックしていなければ、気がすまない彼も変質者の仲間だった。
「あの人に着いて行けばおこぼれがあるし、何より自分を偽らなくていい。これでも、分をわきまえてるつもりだ。メインは
「……死ねよ害虫共。女の敵」
爽やかな笑顔で、自慢げにオナホがくっついた拳を掲げる彼も、
おい、フィストファッカー置いていくぞ。変質者達からの言葉に、彼もその列へと戻っていく。
――背徳の
◇◇◇
20区には彼と深い因縁のある喰種が喫茶店を営んでいる。その喰種と出会うとめんどくさい事になる為、彼が好き好んで行く場所では無い。
彼が住んでいる12区とは違い比較的温厚な喰種達が住む区。片っ端から人間や喰種の少女をレイプしようものなら、その因縁深い喰種の手勢に嗅ぎ付けられ、瞬く間に連行されるかもしれない。
そういった危険を伴う場所なのだが、彼は本能的に、この場所へ来なければならないという強い使命感を感じ、目的の少女の声や匂いを辿る。
「こちらの方角から聞こえたのですが……空耳なのでしょうか。雨が急に……ついていない」
男は不思議そうに首を傾げながら街を歩いている。彼を窘めるような驟雨に、火照った身体を冷やされ、意気消沈している。マンションから飛び出した時のような熱意は失せていた。
『お母さんが……助けて!』
『えっ……ヒナミちゃん?』
そんな失意で雨に濡れる彼の耳から、街の雑踏と共に少女の声が聞こえてくる。彼に搭載されている、少女センサーが警鐘を鳴らす。
「なるほど……この雨は……いかんせん古い記憶ですので、確証は持てませんでしたが」
彼は急に走り出す。それは車がフルスロットルのスピードで走る如く。
何かに間に合うように――そして。
「フンッ。辞世の句でも聞いてやろうか?」
喰種捜査官二人と女喰種が居る場所へと彼は辿り付く。彼は何の目的を持って、この場へ急行したのだろうか。何やらやせこけた喰種捜査官が、女喰種をいたぶりながら話している。そんな場所へ彼は躊躇無く乱入した。
「なんとも儚げな――傷付いた姿も美しい。まるで冬に舞い降りた蝶」
「貴様……まさか……」
「お前……喰種か?」
突如現れた覆面の小柄な何か。下半身のソレは臨戦態勢のように隆起している。その異様な出で立ちに、喰種捜査官である亜門鋼太朗は、一瞬子供が迷い込んだのかと錯覚したが、その小柄な身体から、無数に触手のような赫子が出ていた。それは喰種である事の証左に他ならない。攻撃準備をしつつ喰種かと問う。
そんな亜門にやせこけた喰種捜査官、真戸呉緒は待ったをかける。
「亜門くん待ちたまえ! そいつはダメだ! 今の我々の装備では到底
「なっ! しかし!」
「そいつはSSレート
「まさか……こんな小柄な喰種が?」
突然現れた喰種へ攻撃をしかけようとした亜門。しかし真戸は冷や汗を流しながら、後輩捜査官である亜門を必死に制止する。
「おやおや可哀想に。怯えていらっしゃる。そんな怯えた姿も美しい。貴女がもう少し熟す前なら、惚れていたかもしれませんね」
突如現れた喰種、
「チッ……亜門くん。よく聞きたまえ、きみもアカデミーで習っただろう。主席で卒業したきみなら尚更だ。12区浄化作戦を」
「……ええ。たった2匹の喰種に全ての捜査官が無力化されたあげく……その……」
「細かい事はどうでもいい。死傷者は0だったが、大量の捜査官が再起不能に追いやられた……私も妻と共に、その作戦に参加していた」
「……」
喰種捜査官になるために通うアカデミー。そこで捜査官の卵達は習う。
凶悪な喰種の実態を、様々な喰種を事細かく教わる、そのアカデミーで誰も好き好んで教えたがらない、ある種タブーとなっている喰種を。
「男性捜査官は玉をもぎ取られ、女性捜査官は女性としての尊厳を奪われ……皆辞めて行った。私の妻もその一人だっ!」
「なっ……」
「あの喜劇のような……クソみたいな惨劇を起こした原因の片割れが、目の前の奴だ……けして装備が万全ではない状態で、一人で挑むんじゃない……」
悲痛な表情で真戸呉緒は憎悪を叫ぶ。彼の妻も喰種捜査官だった。あの作戦に参加するまでは。
そんなパニックの最中、おこぼれを貰うように、ナッツクラッカーと呼ばれる喰種が、喰種人間問わず女を伴いながら、全ての男性捜査官の睾丸をもぎとった。喜劇めいてクソのような惨劇。トラウマになっている捜査官は多い。
12区浄化作戦と言われる作戦に参加した後、彼の妻は喰種捜査官を辞職する。それもこれも目の前の喰種のせいだ。
「試しに聞くが……その
憎悪の篭った目で、触手のような赫子を持つ喰種を見る真戸呉緒。その彼の憎悪を代弁するかのように、亜門は眼前の喰種に問いかける。
「特に関係はありませんよ。しいて言うなら、人間、喰種を問わず、全ての美しい
「……狂ってる」
「亜門くん。喰種に常識を当て嵌めちゃいけない。奴らに常識は無い」
「ほう。女性の顔に傷を付ける御仁が、常識をいっぱしに語るとは……とても可笑しい。面白かったです。実は貴方、名のある芸人なのでは?」
「チッ……」
おどけたように、喰種捜査官二人に語り掛ける触手の喰種。呆れた表情で亜門は狂っていると、目の前の喰種を表現した。
だが、本当に狂っているのは何なのだろうか。
笛口リョーコは殺し殺されの、喰種と人との関係に疲れていた。そう、夫に先立たれた彼女は悲しみを隠しながらも娘を育て、そして疲れ果てていたのだ。
夫を喰種捜査官に殺され、自分も捜査官の手によって死ぬなら、仕方ないと諦めるほどに。そんなリョーコの前に救世主は現れた。救世主と言っても正義のヒーローでもなければ、悪の大魔王でもない。ただの変質的な喰種だが。
「あ、あの……」
「何ですか?」
リョーコは言葉をかける。目の前の命綱のような人物に。
「助けてください……まだ、死にたくない。娘を……ヒナミを置いて死にたくないっ!」
傷付いた女喰種の悲痛な叫びが木霊する。
「娘を置いて死にたくない? クク……虫唾が走るよ。貴様ら
真戸呉緒は憎悪やら侮蔑の混じった複雑な表情で、彼女の悲痛な叫びを批難する。人間にとって喰種とは駆逐すべき対象で、それ以上でもそれ以下でもない。この世界はそういった常識でまわっているのだ。例外はあるが。
自身の叫びを馬鹿にするような発言を聞いた、傷付いた喰種、笛口リョーコは真戸呉緒に怯えながらも、触手の喰種へ懇願する。だが、彼はどこ吹く風。何かを探しているかのような様子で、辺りをキョロキョロ見回している。
「そうだ、取引をしないか
「ほう」
「その女喰種は貴様とは何も関係が無いのだろう? 悪い話ではないと思うが」
あまり戦う意志の無さそうな、眼前の喰種へ真戸呉緒は、冷や汗をかきながらも取引をもちかける。無論真戸は約束した事なんて、微塵も守る気など無いが、少しでも隙を見せてくれれば、儲けモノだと考えている。
少し考えるような仕草をする触手の喰種。そんな喰種に危機感を抱いたのか、路地に隠れていた一人の少女が飛び出し叫ぶ。
「お母さんを助けて!!」
「なっ……まだ居たのか」
「……しまった」
ヒナミちゃん! と人間らしき少年が、飛び出した喰種の少女を隠れていた場所へ戻そうとするが、もう遅い。
亜門は飛び出してきた少女の喰種に驚き、真戸呉緒はまずいという表情で、その少女の喰種、その声を聞いてしまった。何を警戒しているのか。
「最悪だ……」
真戸呉緒が呟く。亜門鋼太朗と真戸呉緒、捜査官達は動けずに居た。そう、目の前の喰種の様子がおかしいのだ。真戸呉緒が警戒している事が起ころうとしている。
「ああ……無垢な少女がワタシに助けを乞うている。応えなければ……ワタシの
先ほどまでただの触手しか出していなかった、小柄な喰種の姿が変わる。
――そう、
ヒトガタを辞め、バケモノのような姿へ。顔なのだろうか、額の所にある目が、禍々しいほどに充血している。ある者が見れば、とある喰種の
喰種の中でも一握りの者しか到達できない変化。
だが、その似ている喰種の赫者とは、違うモノがある。背中から生えている無数の触手が、その触手から、無数の白い液体が撒き散らされるその様。そして股間から、これでもかというくらい怒張している、巨大なイチモツが語るように、自身の存在が、唯一無二だとアピールしている。
見るもの全てをおぞましさで襲う。これが彼の
――背徳の王。
「アア、犯シタイ」
こうなった彼に会話は意味を成さない。ただ可愛い無垢な少女の声以外は届かない。彼は彼の性欲にのみ忠実。後に残るのは喜劇のような、性による暴力によって起こる蹂躙劇のみ。それを真戸呉緒は熟知していた。
「チッ……撤退だ亜門くん」
「真戸さん……」
「……有馬特等がこの場に居れば、どうにかなったかもしれないが、無いモノねだりをしても仕方が無い」
忌々しそうな表情で、この場を後にする喰種捜査官の二人。彼らの無念は計り知れないだろう。
喰種捜査官は去っていく。無垢な叫びを彼に放ったヒナミは母の元へ。
「ヒナミッ!」
「お母さん!」
そんな母と娘の抱き合う様子を眺めながら、本来の目的を思い出し、ヒトガタに戻る
「ふむ。久々に変化してみましたが、前より湧き出る力が上がっているような……これも少女を愛でるワタシの日々の賜物か……」
そんな様子を困ったような笑顔でほっとしている、金木研という少年が電柱の横で、腰を抜かしながら見ていたそうな。
ヒナミちゃんにお願いされたら赫者になるのはしゃーない
(未亡人戦に)切り替えていく