荷物をまとめ、笛口親子は男のマンションへと向かう。
道中様々なバリケードやら、看板が置いてあり、まず、普通の者は近寄らないだろう場所。12区、
笛口ヒナミは知らないが、笛口リョーコは知っている。この地区は、おぞましいバケモノ達が巣食う、女性にとって、東京で、否、世界で一番危険な場所だと。
ヒナミは今日の出来事に疲れたのか、リョーコにおんぶされ、眠っている。良かった。娘に、この
『オラァ! 気持ちいいだろ! 鳴けやメス豚ァ!』
『あんっ、んんっ、アアンッ!』
まるで歩いている自分達に見せ付けるように、この区の人間や喰種達は、誰かが通ろうが構わず、野外で男女の営みを育んでいる。
道中、伝言板のようなものがあり、野外苺、中ありお肉持ちの方、プチサポ募、割り切り、上町@2など、リョーコにはわからない文字の羅列。
『プチならどこまでいいの?』
『プチで手コキまでならいいです』
『本番は?』
『3倍は出してもらわないと……』
『出す出す! おじさん3倍出しちゃうよー!』
路地裏では、清楚そうな女学生が、酔っ払いで顔が赤い中年男性と、小声で相談していた。
リョーコは不思議な文字列だと思っていたが、聞こえてくる声のおかげで、伝言板に書かれていた文字の意味がわかり、顔を赤面させながら、
色とりどりなアールデコ調の、建物や店が立ち並んでいるが、店内も大概だ。
ファーストフード店内で談笑している女子高生は、スク水ニーソ、ルーズソックス。テーブルの上に何故か寝かされている、男性店員の肉棒を、ストローでもすすっているかのように吸っている。風紀が乱れているというレベルではない。
突如店の紙袋を被り、注射器を片手に、裸で
それだけではない。自分達のように、道行く人々も大概おかしい。ある女子高生は、ブレザーを上だけ纏い、下半身は何時でも誰かとまぐわれるよう、ニーソしか装着していないのが、さも当たり前のよう。彼女達はサンバでも踊るように道を練り歩く。サラリーマン風の男達は、何時でも誰かを犯せるようにか、裸にネクタイという、クール・ビズ過ぎる格好で列をなして歩く。
車道を見れば、ヘルメット以外は、何も付けていない男共が、拳銃を空へと発砲しながらバイクで風になっている。風を追いかけるように、やって来た白バイの警察官も、自分に手錠をかけて、下半身だけは裸で、バイクシートへ直に座り、悶えながら運転している。
信号待ちで止まっている車は、怪しい揺れ方を常にしていて、中を確認するまでもなく、車内で何をしているかは、だいたい想像がつく。揺れている車のマフラーに、己のナニを突っ込もうとする、チャレンジャーも居る様だ。
『お願いします! イかせてください!』
『喰種捜査官なのに、喰種の下着を見ながら懇願するのかい?』
『攻撃しようとしたのは謝ります! 二度としません! ですから出させてください! はちきれそうです!』
喰種捜査官が、妖艶な
リョーコは思わず目を背ける。
12区の住民達が奏でる
駄目だ、この雰囲気に飲み込まれては。自分が飲み込まれてはいけない。誰が娘を守るというのだ。彼女はかぶりを振る。
冷静になって考えてみると、ふと疑問に思う。人種の坩堝と呼ばれる国のように、様々な人々が住んでいる。町並みは、まるでラテン系の外国のよう。少なくとも日本で見られる町並みではない。ここは本当に日本なのか? そして、彼らはけして、歩いている自分達に近付いてこない。何故なのだろう。リョーコには、よくわからなかった。
12区に住んでいない者にはわからないだろうが、ここには、ここの
――
ここは彼や、彼が引き連れている者の迷惑にならないのなら、何をしても良い。彼は別に出会っても、挨拶を強要したりしないし、命令もしない。楽しく気ままに営めば良い。喰種捜査官を足コキしようが、警官から銃を奪って鬼ごっこしようが、知ったことではない。
他の地区から来た人間や喰種が驚くのは、喰種と人間が共に襲ってくる所もそうなのだが、人間の死亡事件よりも、性犯罪の方が多い所だろう。性犯罪の件数は東京、否、日本どころか世界でワースト1位という有様。
故に人間喰種問わず、普通の女性は、ここに立ち寄る事はあまり無い。それでも他の地域や、海外からやって来る、
定期的に差し入れの如く、
古参の住民達が、彼らの邪魔にならない程度に、娯楽施設を誘致したり、食糧や様々なモノを与え管理する。まるで、些事は任せろと言わんばかりに。
そういった事情がある為、閉鎖的な空間にも関わらず、食料にも、娯楽にも困ったりする事が無い。人間を生きたまま喰いたい喰種は、それこそ
彼らの流儀など知らない笛口リョーコは、不思議に思いつつも、眠っている娘を背負いながら、彼に付いて行く。先を行く男は、時折そんな街の喧騒を、微笑ましいとでも言いたげな目で見ている。
12区の中心部まで行くと、先ほどまでの喧騒が嘘のように、閑静な住宅街が並ぶ。前を歩く男が立ち止まる。どうやら知り合いのようだ。
「おや、戻っていらしたのですね」
「野暮用でねぇ……おやまぁ、ナッツちゃんが居るのに、罪作りな男だねぇ、えぇ? 可愛い奥さんとお嬢ちゃん。また、さらって来たのかい?」
「……人聞きの悪い。合法ですよ合法。やましい事なんてしてません」
「どうだかねぇ……そっちの奥さん、良かったねぇ。どういった経緯で、この人に着いて来たのか知らないけれど、この人の側が、世界で一番安心出来る場所だよ」
ヒナミを背負ったリョーコに話しかけてくる、先ほどまで男と話していた、顔が丸い老婆、村松キエ。通称アップルヘッドと呼ばれる、17区で主に活動していた喰種。17区に置ける捕食殺害事件の大半は、穏やかそうな彼女の仕業だった。大人しそうな老婆だが、そんな喰種界での武勇伝を持っていたりするから、この区に住まう者達は侮れない。
そんなこととは露知らず、リョーコは話しかけてくる丸顔の老婆に、安心したような愛想笑いを返す。良かった、まともそうな人も住んでいるんだなと。
男と老婆が他愛の無い話をして別れる。思ったよりもいい人なのかもしれない。リョーコは少々心を許しそうになり、ふと冷静に考えながら、違うと、彼はいい人ではないと、油断するなと己を戒める。
いい人が、賭けをしましょうと、突然ペニスを出して、手段は問わずリョーコが男を射精させたら、娘を諦める。そんな賭けなど、間違っても言い出したりしない。
娘の身代わりを言い出したのは、リョーコ自身なので、彼を責める事はできない。それでも
結局あんていくでは
それでも、それでも彼女は期待してしまうのだ。夫を亡くし、失意の中、捜査官から自分達を守ってくれた存在に。
喰種捜査官に顔を見られてしまった笛口親子。あんていくには迷惑をかけられない。20区に最早、自分達の居場所は無いのだ。
夫の代わりになって欲しいとは言わない。ただ、後ろ盾になって欲しいと。背徳の王と呼ばれる彼に。娘が健やかに過ごせるように、彼女は祈るような気持ちで居た。
「さて、着きました。どうぞ中へ」
「ええ、お邪魔します……」
期待と不安で揺れるリョーコは、彼に言われるがまま、マンションの一室へと入っていく。
部屋に入ると、鼻腔を突くような、性の臭いが充満していて、リョーコは顔を顰める。男に案内され、眠っているヒナミを寝室へと運び終え、彼女は彼に付いて行く。
プレイルームに辿りついた男とリョーコ。男は覆面を外して、服を脱ぐ。リョーコは、ただ黙って彼を見ていた。
「ふむ。誰かがベッドメイクしてくれたようですね。では、再開しますか」
「……ええ」
男はセイエキや、アイエキまみれになっていたはずのベッドを見て、首を傾げる。シーツが取り替えられ、綺麗になっているベッドに、多少疑問に思いながらも、思い当たる節があったのか納得する。
やはり、やらなければならないのか。リョーコは納得いかない表情だが、まだ幼い娘にやらせる訳にはいかない。自分が身代わりになれば済む事だ。そう言い聞かせ、彼女は彼の待っているベッドへと向かう。
亡くなった夫に、心の中で詫びながら、彼女は再び立ち向かう。男の容姿に不釣合いな、萎えていても大きく、グロテスクな肉棒へと。
例え、未亡人や人妻好きでも無い男だろうとも、誘われれば、喜んで飛び込むような容姿をもっている笛口リョーコ。
男性の欲望を、優しく包み込んでくれそうな雰囲気。不安で彩られつつも、澄んだ瞳が征服感を掻き立てる。茶色の長く美しい髪が、清楚さを感じさせ、雪のように白い肌と、時折見せる儚げな表情を、性に乱れ狂う様相へと変えたいと、彼女の表情に儚い
再び手淫を彼に施すリョーコ。だが、男の肉棒はあんていくに居た時と同じく、萎えたままだ。
そう言えばと、視覚や触覚でも楽しませなければ、男の人は勃起しなかったかな。そう考えた彼女は服を脱ぐ。彼との勝負に勝たなければならない。形振り構っていられないのだ。
染み一つ無い、美しい肌ですね。綺麗ですと、彼はリョーコの身体を褒める。経産婦でありながらも、プロポーションは若い者にも負けないほどに引き締まっている。肌も絹のようにやわらかで、触り心地は最高だろう。
リョーコは彼に、自分の身体に触れても良いと許可するが、彼は触らない。肉棒も萎えたまま。自分に女としての魅力が無いのだろうかと、リョーコは不安になる。そんなリョーコの不安げな表情が、彼に伝わったのだろうか。彼はリョーコへ、優しく言葉をかける。
「違いますよ。綺麗ですし、触ってみたいとも思います。ですが、勝負の方法は、貴女がワタシを射精させる事ができるか、できないかです。ワタシが貴女に触れても、ね」
「でも……」
彼は、突然勝負に無関係な事を提案しはじめたリョーコが、12区の住民達の様子を見て、久々に身体が火照っているのだろうかと、考えていた。
冬だと閉じている桜の蕾が、いつかまた、やってくるであろう春に備えて、生命力を蓄えているように。彼女も、今は冬で、
確かに彼女は綺麗で、美しい。だが好みの女かと、誰かに問われれば、彼は黙ってしまうだろう。
黙っている男に、不安げな様子で上目遣いをするリョーコ。そんな彼女に、何かを思いついたのか、男が悪戯っ子のように笑う。
「じゃあ、勝負方法を変えますか? 互いに触れ合って、先にイった方が負けという事で」
「……はい」
「そうだ、貴女に良い物を差し上げます」
「?」
突然彼はプレイルームから出て行く。すぐに戻ってきた彼の手には、リョーコでも着る事の出来るサイズの、包装された新品の園児服があった。
「貴女の肌は見てて飽きませんが、ひと工夫欲しい。これを着てください。ワタシの好みの服です。きっと貴女に似合うはず」
「私に合うサイズの園児服……」
「ああ、
「……わかりました」
意をけっしたように、リョーコは渡された園児服を、素肌の上から羽織る。ついでにと、黄色い園児帽子も渡され、言われるがまま帽子をかぶる。
退廃的な美しさと、幼さを残す、儚げな彼女にアンバランスな服が、より彼女の魅力を引き立てる。少し丈の短い園児服から覗かせる、艶かしい太もも、すらりとした脚が情欲を誘う。
裸で本能の赴くまま性を貪るのも良い。しかし、ひと工夫加える事によって得られる、視覚によるリビドーを刺激させるプレイも、彼が好むシュチュエーションなのだ。
頬を赤く染めながら、少々恥ずかしいのか、リョーコは照れているように笑っている。とんでもない提案をした男に、呆れているような、それでいて新鮮な気分なのだろうか、初めてのコスプレプレイに彼女は興奮し始める。
「よくお似合いですよ」
「馬鹿にしているんですか?」
「とんでもない! ほら見てください」
「あっ……少し元気に」
男に言われるがまま、彼の指差すモノを見る。そう。しごいても、しごいても元気にならなかった、彼の肉棒が少しだけ勃起している。所謂半勃起状態。
なるほど、確かに効果はあるようだ。うんともすんとも言わなかった彼の肉棒が、彼女に興味を持つほどには。
「上に跨ってくれますか?」
貴女の秘部を弄りやすいように、逆さまになって重なり合いましょう。ベッドで寝そべる男は、リョーコへと優しく語りかける。
リョーコは少々ムッとした顔で男へと跨る。自分がここまでしても勃たない、ある意味、自分の魅力を否定しているかのような、彼へ機嫌を損ねるように。それでもやめないのは、娘を守ろうとする意思と、女であるという意地だ。
そんなリョーコの態度に、微笑ましいモノを見るような様子の男。あまり気乗りしていないのか、彼にしては、ゆったりと優しく女性に触る。まるで、捜査官に傷付けられた彼女を、マッサージで癒すかのように、太ももの感触を楽しんでいる。
リョーコは不思議に思いながらも、太ももを触られつつ、彼の肉棒を刺激し始める。
少しだけ硬くなった彼の肉棒を、まじまじと、眼前にあるモノを見ながら優しくしごく。リョーコから漏れる、少し音が大きくなった鼻息が肉棒に当たり、その感触はさながら心地よい春風。
まだまだ余裕そうな肉棒に、痺れを切らしたのか、彼女は彼のモノを口に咥え込む。
「はむっ、ん゛っ、んんむっ……」
半勃起状態でも大きい彼の肉棒を、彼女は唾液で包み込むように、優しく舌を絡ませながら、上下運動するように刺激する。いやらしい音が、小さくだが部屋に響く。
気付けば彼女の蜜壷から、甘そうな蜜がにじみ出ていた。控えめな密林からしたたる、孀婦の雫。眼前の園児服、スモックが揺れ動く度に、彼女から雫が顔に落ちてくる。
「ワタシの肉棒が気に入りましたか?」
男は嬉しそうに、太ももを触るのをやめ、雫がこぼれてきそうな、彼女の蜜壷へと視線を向ける。
「ん゛っ、んん゛っ」
肉棒をしゃぶりながら、こんなにも濡れてしまうだなんて、そんなに欲求不満だったのですか。男の言葉に、イヤイヤと、嫌がる仕草のように、リョーコは肉棒を咥えながらも首を横に振る。肉棒が頬に当たる感触が、程よい気持ち良さなのか、少しずつ、少しずつとだが、肉棒が硬くなる。
もどかしいのだろう。触って欲しいのだろう。ヒクヒクと蠢く彼女の蜜壷。だが、男は何かを待っているかのように、けして、彼女の秘部を触ろうとはしない。
「……お願い……触って」
そんな男にか細い音で、小さくお願いする声。
リョーコはついに自分から、せがむように彼へ懇願してしまう。彼は、にやつきながら、良いですよと、彼女に、マッサージを施すついでのような気軽さで、蜜壷を触り始めた。
「あっ、んんっ。んむっ、あんっ……じゅるじゅる、んん゛っ」
時折口内から肉棒を離しては、甘えるような嬌声をあげ、再び咥えこむリョーコ。彼女は下品な音を立てながら、男からもたらされる快楽に酔い痴れる。そこに娘を想う母の姿は無く、快楽に溺れる一人の女が居た。
「気持ちいいですか?」
「んぐっ、あむっ、じゅっ、じゅる、じゅる、んむっ」
男の声に応えるように、肉棒を咥え込むリョーコ。男はリョーコの行動に、嬉しく思ったのか、激しく蜜壷を指で刺激し始めた。
「ん、あっ……あんっ、あっ、あんっ!」
ついには肉棒を口から離してしまったリョーコ。これでは勝負になりませんよと、男はリョーコに語りながらも、彼女の感じる快楽の波を緩める事は無い。
「ああっ、イッ……イク……あんっ、やっ、んんっ、ああっ、んっ、ああんっ!!」
そんなに大きな声をあげると、隣の部屋で眠っているヒナミちゃんが起きますよと、男はリョーコに注意を促すのだが、彼女には聞こえていないようで、完全に勝負を忘れて、彼からもたらされる快楽に身を委ねている。
まるでピアノを弾いているかのような、丁寧でいて、時には激しく、時には優しく、強弱をつけながら、しっかりと彼女の感じるポイントを、的確に刺激する男の手マン。時折、ベッドのシーツへ飛び散る蜜が画く染みすら、今の彼には愛おしく感じるのだろう。微笑んでいる。
それは
男からもたらされる、快楽の旋律。ついにはリョーコの蜜壷から、篠突く雨のように蜜があふれ出す。顔にふりそそぐ雨に濡れながら、男は
「先にイってしまいましたか。明日またやりましょう」
「はぁ、はぁ……えっ?」
リョーコは絶頂した後、正気に戻り、顔が真っ青になったが、男から出される助け舟に、少し疑問を感じながらも承諾する。今日はもう遅いですし、寝てくださいと。
ヒナミが寝ているであろう寝室へと向かい、今にして思えば、男は自分を堕とす為に、あえて自分から手を動かさなかったのだろうかと、考える。
リョーコが自分から触ってくれと、懇願する。その行動を、心理を。快楽を欲する、身体の欲求不満を、満たしてやろうとでも言いたげな、男の不可解な行動。
どんどんと、深みに嵌っている感覚へと陥るが、かぶりを振り、ヒナミの待つ寝室へ。
すっかり熟睡しているように、可愛い寝顔をみせるヒナミ。この子の笑顔を守らなければ。
おやすみと小さく声をかけ、リョーコも眠りにつく。好きでも無い男に絶頂させられ、亡き夫への罪悪感に苛まれながらも、娘を守る為に頑張り、疲れ果てて眠る。そんな母を、寝返りをうつかのようにして見つめる、小さな視線に気付かずに。