※この作品はR-18です。

アズールエロローン   作:キサラギ職員

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君の名は(Z46)

 生まれはブレーメン。終局の土地も、ブレーメン。戦場で息絶えたのではなく、転用されたのでもなく、戦局の悪化により解体処分された。姉たちが次々と連合国と戦うために海へと出てついには戻らなかった、それをただドックという箱庭の中で眺め続けた。一発の砲も打たず、錨を上げることさえなく、名前さえ仮のまま終わったZ級駆逐艦。航空機が主力になりつつある海戦に対抗するために防空能力を高められた新鋭艦。その名を――。

 

『いつかZ46ではなく、本当の名前で呼んでいただきたい』

 

 

 

「愛が恐れているのは愛の破滅よりもむしろ愛の変化である」

「どうしたんだ突然……」

 

 指揮官たる男は唐突にとある偉人が残した言葉を諳んじてみせる少女に対し、疑問の言葉を投げかけていた。軍事に関することは知っているつもりでも、ほかの知識と言えば精々文学であるが、生憎哲学書は畑違いもいいところだった。

 セイレーンとの戦争があった。人類はセイレーンの技術を解析して、人の形をした船を作った。それが彼女たち艦船少女――艦娘とも呼ばれる存在である。悲しいかな人類はレッドアクシズとアズールレーンの二大勢力に分かれて戦争を始めてしまい、当初の目的であるセイレーン打倒はいまだならないままであるが。

 人の形をした兵器であるということは、兵器そのものであることとイコールではない。正確には兵器としてもふるまえる人であるというべきか、つまるところものを食べ、眠り、愛を語らうこともできるのだ。そして机で執務に励む男の横で仕事の補佐をしている少女もまた、そうしたいのだった。

 

「困難を乗り越える度、人はより強くなることができる」

「大丈夫か。悪いものを食べたとか」

「私の食生活において食中毒が起こるようなものを口にすることはありえない」

「そうか」

 

 男が仕事の手を止めてZ46―――フィーゼの額に手を置くと熱を測り始めた。風邪をひいているわけでもなさそうだがと男が顔を覗き込めば覗き込むほど頬の赤みが増していく。

 少女はついにドックから出ることがなかった箱入り娘であるがため、本が友人のようなものだった。最新鋭技術の結晶であったことを反映してかまるで王女か何かのように英才教育を受けていた。だからこそ愛はまるで羅針盤もない六分儀もないまま航海をするようなもので、指輪を受け取りプロポーズまでこぎつけたのはもはや奇跡か何かであったに違いないと少女は思っていた。男は自分を愛しているし、自分も男を愛している。証拠もある。けれど見たいのはごくごく一般的な願いだった。

 Z46はこちらを覗き込んでくる精悍な顔立ちを、小さじ一杯程度の不満を浮かべた顔で見つめていた。

 

 

 

「ということなのだが、いかにすれば情事に及ぶことができるのかを教えて頂きたい」

「………」

 

 唖然とする一人もとい一艦と、それを前に質問を投げる一艦。

 子だくさん家族の一女、クリーブランド級のネームシップことクリーブランドはマントを口元まで引き上げて硬直していた。

 

「男性はやはり起伏に満ち溢れた女性的な体型を好むと聞く。私のような小柄では最適解とは言い難い。長女たるあなたならば様々な情報を得ているはず。教授願いたい」

「あ、え、えと、そ、その……そ、そういう話は私じゃなくて……え~~~~っと、あっ雪風! ちょっと話があるんだ!」

 

「それは高貴なる雪風さまのものなのだー! 返すのだぁぁぁ! へ? クリーブランド? うわっ!?」

 

 艦隊一番の幸運娘こと雪風が金ブリがブランコのようなものに乗って飛んでいく後を追いかけながら現れた。急に声をかけられたので転びそうになりかけたが、たまたまの偶然に間に挟まった(滑り込んできた)アークロイヤルがクッションになり頭を強打しなくて済んだ。

 

「うぐ!?」

「大丈夫かな、雪風ちゃん!」

「おやこんなところに害虫が転がっていることに気が付きませんでした」

 

 きらんと目を輝かせ雪風に手を伸ばそうとするアークロイヤルはしかし物陰から出てきたシェフィールドに素早い手刀を食らいがっくりと項垂れたのだった。

 

「お騒がせしました。それではオソウジに戻らさせていただきますので」

 

 シェフィールドは優雅にスカートを指でつまんで持ち上げる古風な挨拶をしてみせると、アークロイヤルの上着を掴んで引っ張っていった。

 

「おそろしく速い手刀……綾波じゃなきゃ見逃しちゃうね、です」

 

 『やや波』なるゆるいシャツを着た綾波がその様子を見て呟いた。あたりを伺っているあたり誰からか逃げてきたようだった。

 

「う、うぅ……ひどい目にあったのだ……はっ!? あの金ぴかドリルはどこに消えたのだ!?」

「不明。ブリ姉妹を補足することはもはや不可能である。質問があるが、構わないだろうか」

「ふっふっふ……この高貴で偉大でグレイトでプリティーで……えーっとえーとグレイトで高貴な雪風様に質問があるだとぅ? いいのだ。特別に聞いてあげるのだ!」

 

 雪風がつい今しがた起こったことは考えないようにしたのか、胸を張り尊大にも腕を組んで見せた。

 

「殿方と情を重ねるためにはどのようにすればよろしいのか?」

「へ? はえ?」

「……セッ」

「ふえぇぇぇぇぇぇ雪風様はなんにも聞いてないのだあああああっ!」

 

 ぼんっ、という効果音が聞こえてきそうな程に変化は劇的であった。両手で顔を覆った雪風がすたこらさっさと逃げていく。

 

「クリーブランド。質問が」

「ししししししし知らないぞ! 公共の場でする話じゃないから!」

「公共の場でなければよいと」

「う、ぐぐ……」

 

 結局誰に聞いても知らないと言われるかはぐらかされるだけで答えはついに得られなかった。

 唯一プリンツ・オイゲンだけは『夜指揮官の部屋に行ってみたら? 可愛いネグリジェ着ていくといいことがあるかもしれないわ。シャワー浴びて香水をつけておくことときわどい下着もわ・す・れ・ず・に』とアドバイスをもらったが、よくわからないというのが本音だった。ネグリジェは準備したが他のものはそもそも持ち合わせがなかった。

 

「……私は人の機微に疎いところがある。今まで蓄積してきた知識が当てにならぬならば、答えを聞いてみるほかにない」

 

 Z46は寝床で一人決心していた。ふわふわとした白と薄ピンクのネグリジェに身を包み、かすかにシャンプーの甘い香りを漂わせていた。二の足は簡素なスリッパに通されていた。ボリューミーな髪の毛はわずかに湿り気を帯びて垂れ下がっていた。

 しんと静まり返った彼女専用の部屋と、指揮官が寝ている部屋はごくごく近くにあった。基本的に夜間は外出禁止であるが、警備の人間の目をかいくぐることなど造作もないことだった。

 スリッパを足にひっかけると、扉を薄く開けて警備員が巡回していないかを確認する。誰もいないようだ。ぺたぺたと足音をさせて灯りの落ちた廊下を歩いていく。ほどなくして指揮官の私室が現れた。自分にだけ渡されている合鍵で扉を開くと、中に身を滑り込ませる。

 

「誰だ? お前か。こんな時間になにかあったのか」

 

 制服を脱ぎラフな私服に着替えた男がいた。彼は安楽椅子に深く腰掛けて、蒸留酒らしき褐色の液体を注いだ容器を横に、手には分厚い書籍を持っていた。

Z46が好むのは哲学書や技術書の類であり、男が手に持っているような文学書は余り読まなかった。二人とも読書家であることは確かだが、その方向性が異なっていた。

 名を持たぬ娘は、とてとてとスリッパで歩いていくと、指揮官たる男のすぐ隣にやってきて、その腕に手を乗せた。指にはエンゲージリングがかかっていた。

 

「……愛しき人よ。結ばれた我らは男女であるからに、男女としての契りを行うことはごく自然なことではないか」

「藪から棒にどうしたんだ?」

 

 どちらかと言えば不愛想な方である男の静かな口調からは、少女の訴えかけをまるで聞いてすらいないようなあっさりとしたものだったが、結ばれるまで付き合ってきた少女には男がきちんと聞いた上で返していることを理解していた。

 

「おいで。本でも読もう」

「腿の上に座りたい。許可を」

「………今日はくっつきたがりの日か。誰に吹き込まれた? そうだな……鉄血の駆逐艦じゃないな。センチメンタリストな大型艦じゃこうもせんだろう。ヒッパーはああ見えて初心だ。大方オイゲンあたりに何か言われたんだろう。まあ、いいとも。おいで」

 

 Z46がよく観察しなければわからない程度に不機嫌そうに眉間に皺をよせていた。最初の目的は達成したので、おとなしく男の腿の上に乗る格好で腰掛ける。ちょうど背後から男が手をまわしてくると、今しがた読んでいた本を広げた。

 口調や性格こそ大人びているものの、Z46は小さい少女の姿をした船に過ぎない。鉄血の制服を脱ぎ、儀礼用のサーベルも置き、もこもことした温かそうなネグリジェに身を包んでいる姿で男の腿に腰掛けていると、まるで兄弟姉妹のようにも見えることだろう。

 

「何を読んでいたのか教えて頂きたい」

「お前はあまり読まないだろうけど、文学だよ。児童文学。名作でな、今でもたまに読み返すことがある。フィーゼ、お前もたまには読んだらどうなんだ。面白いぞ。心が躍る」

「……哲学書であるならば熟読している」

「哲学書はからきしだな。学校じゃ暇さえ見つけては文学文学だった。で、本の虫の可愛いお姫様は俺の膝に腰掛けてどうされたいんだったか」

 

 男が本を閉じると急に少女の耳朶に唇を寄せた。

 

「………」

 

 少女の頬が山が色づくように春を帯び始める。薄い胸板の奥で心臓が暴れ始めていた。冷静さを欠くことなどないという自負があったが、その常識はあっさりと塗りつぶされる。言葉にならないという言葉の意味がよくわかった。最適な言葉を検索することができなくなる状態なのだと。

 

「なにゆえ震えているのかと聞いてくるのかと思ったんだが……驚かせたか」

「驚愕はしているが、予想はしていた。男女の営みの知識は学習済みである」

「ほうほう。じゃこれから先のことも予習済みと考えていいんだな?」

 

 男が意地悪っぽく少女の耳朶を唇に挟んで弄ぶ。音を立てて外側を舐め上げて、こめかみあたりにキスを落とす。かすかな甘い香りを吸い込みながら、手は平たい胸元にかかっていた。

 

「……本当のことを白状するとな躊躇してたんだ。艦船少女は人間の尺度に当てはまらないからといっても……えーっとだな……なんというか……侮辱するつもりはないんだ。君のことが好きで指輪を渡したんだから」

 

 男がごくんと幼過ぎて犯罪の香りがするという言葉を呑み込んだ。アークロイヤルがケッコンの時に鼻血を流しながら羨ましがってきたことが脳裏を過ぎる。

 

「外見的な幼さであるならば致し方なかろう。しかし、私は大人である。よって躊躇は無用なことである」

 

 口調こそ平坦だったが、つっけどんな言葉選びからして子供に見られたくないという気持ちの表れであることは明らかだった。

 男の指がネグリジェのボタンを解いていく。ぷつりぷつりと拘束が解かれると、シンプルさを極めたような白い肌着が広がっていた。上の下着はつけていないらしく、うっすらと肌色が透けている。男の手が遠慮なく胸元を覆いつくすと、下から上に撫で上げては、指で突起を締め付けていく。

 

「……つけてないのか。つけたほうがいいんじゃないのか。女の下着事情は知らないが」

「必要がない。ヒッパーも必要ないけど見栄を張ってつけているなどとオイゲンが言っていたが……」

「要らない情報だぞそれは……あぁくそ可愛いなあ」

 

 男の指が一際強く先端を締め付ける。ぴくんと少女の上体がわずかに反れた。

 

「っん……続けて欲しい」

「口、出して」

 

 男が少女の顎を取ると強引に口付けた。するりと肌着を肩から落として、ネグリジェの上を取り去る。黒い簡素なショーツのかかっているすべすべの太腿を愛撫しながら、壊れてしまいそうな華奢なつくりの唇を貪っていく。

 

「あ むぅ……ちゅっ、ぷあぁ……」

「鼻で息をする感じで……そう、いい子だ」

「子供扱いは……~~っひあ」

「してない。俺だけのお姫様に色々教えてあげようと思ってな」

 

 反論の声をかき消すように、男が少女の唇を占領していく。舌を撫で、唾液を絡めながら深く口づけながら、手はいつのまにか服を取り払っていて、素肌を思う存分に弄り倒していた。胸元をくすぐる一方で、股座をいやらしい手つきで撫で上げる。体毛一本もない秘所の一口を指で刺激しつつ、呼吸もさせぬと言わんばかりに口を吸う。

 Z46は濃密な行為に目を白黒させながらも、どこかで聞いたことがある内容を反芻していた。

 

(キスはレモン味……? 酒の味とにおいがする。愛しい人のかおりも)

 

 レモン味はしなかった。アルコールと男の香りが混じった独特な感覚が広がってきているのだった。

 するりと男の指が移動して、かすかに湿り気を帯びた亀裂を確かめるように撫でた。淫核を指の腹で探り捏ねくりまわしながら、水気を全体に行き渡らせるようにする。

 

「ぷあ んぁ、はぁっ……いとしいひと、最後までしてほしい……」

「無理しなくても」

「これは私の願いである。叶えて欲しい」

「そうか」

 

 少女の声がらしくなく高揚していた。初めては大抵苦痛を伴うもの。途中で止めるべきだろうと考えていた男はしかし願いを聞き入れることにした。被弾しようが中破しようが顔色一つ変えぬ強靭な精神力の持ち主であるZ46の言葉を信じてみようと思ったのだ。せめて十分慣らすべきだろうと、自分の口で指を濡らし、慎重に挿入する。

 

「するなら……っあ、っぅ………男性、器で」

「男性器か……お堅い言い方よりもむしろ」

「?」

「なんでもない。わかった任せろ」

 

 男は少女の頭部に浮かんだ疑問符には返答を返さないようにした。もっと砕けた淫らな言い方を教えると何かろくなことにならない気がしたからだ。

 

「ちゅ、ちゅ、んっ、んぅ、ふぁ」

 

 口を吸い上げる。夢中で吸い付いてくる小柄がいとおしくて、丁度すべすべの腿の内側からそそり立たんと膨張するものを懸命にこらえる。

 入れるだけで極端に苦痛を覚える人もいれば、そうでもない人もいる。少女は後者だったのか少なくとも指を入れても痛みは覚えていないようだった。指を入れる。出す。ねっとりした唾液とも愛液ともつかぬ液で指がぬらぬらと光り出すころ、男はズボンをずらしてそれを解き放った。液で滑りの良くなっている腿と腿の合間で脈を打ち震えていた。

 それがぴとりと一口にあてがわれると、Z46は男の腕に手を置いた。

 

「くぅぅぅ…………!! 問題はない………つながる、それは、すなわち、我らの愛の証である故に……」

「動いてもいいか?」

「動く……?」

 

 男は頷くと、自身を小さく強く締めあげてくる膣の奥底へと先端を埋めていく。気を抜けば搾り取られてしまいそうな圧力を半ば強引に力任せに突破していき、完全に奥へと導く。

 

「ひあっ……はぁっ……ぅ、あっ………苦痛よりむしろ、陶酔に近い感覚を覚える……」

 

 Z46は天井を仰いだ背筋をそらした姿勢にて、どこか酔ったようなろれつの回っていない声をあげていた。

 

「痛いなら痛いと言ってほしい。お前ったら我慢する癖があるだろ」

「我慢ではない」

「ふーん?」

 

 あくまでも我慢していないと言い張る少女に対し、むくむくと嗜虐心が頭をもたげる。被弾してもうめき声ひとつあげない少女は、性行為の痛みにも苦痛の声を上げないだろうかという好奇心と、好意を向けるものに対する意地悪心である。

 少女の足の付け根を指でじらすようになで上げながら腰を掴み半ば強引に下方から突き上げる。一息に奥に到達させるや、引き抜かんばかりに持ち上げ、再び貫く。

 

「きっつ……」

 

 一部の隙間も無く肉を詰め込んだ袋に自身を出し入れしているかのような締め付けに、気を抜けば根こそぎ持っていかれそうになる。歯を食いしばりながらも、それもまたいいかなどと思いながら突き上げる。

 

「ひんっ!? んっ! ぁ、ゃあッ!? ンぅ、っあ、ひあッ!?」

 

 苦痛を覚えているとしか思えぬ悲鳴にも似た嬌声があがる。髪の毛を振り乱し行為という嵐にさらされる小柄はどこまでも頼りなかった。

 いい加減場所が行為には不適切なことに不満な男は、つながったまま室内備え付けのベッドへと少女を抱えていくと、上半身を投げ出すようにさせて、背後から猛然とのしかかり突きまくった。なんてこった。これじゃまるで犯罪じゃないかと男は思ったが、考えるのをやめた。合意の上であるから問題なかろうと結論付けて。

 

「あんっ! ふぁ! あぁぁあ、っくぅ……!」

「くそッ……出る!」

 

 枕に顔の下半分を埋める格好で性玩具かなにかのように突かれていた少女目掛け男の下腹部から大量の精液が放たれた。どくんどくんと脈を打ちながら狭すぎる蜜壷を占領し、愛液と交じり合って亀裂から染み出してシーツを汚す。

 男がはっと我に帰り自身を引き抜くと、汗まみれの少女の額を手でぬぐってやる。

 

「………すまん。やりすぎたな」

「…………痛かった」

 

 本心を余り直接的には語らない、語っても詩的表現や比喩表現を多用する少女からすれば、余りに簡単な表現にて先ほどまでの行為が総合された。

 

「………が、快楽を覚えたのも事実である」

「マゾの気でもあるのかもな……」

「まぞ? それはマゾヒスムスのことであろうか……最初に概念を提唱したのは」

 

 男は放っておくと講義が始まりそうだったので、慌てて話をさえぎった。肩を掴むと、反対にひっくり返して唾液やらで汚れた顔をシーツで拭って綺麗にする。

 

「………む。私は子供ではない。自分の身なりくらいは、自分で整えることができる」

「ああそうだな。子供じゃなくて、大人の女性として扱ってるとも」

「行為とは痛いものだが、同時に快楽も覚えるものであるという知見を得た。愛する人よ。慣れが進行するに従い、苦痛は消えようか?」

 

 紅潮した頬、浅く呼吸するたびに上下する胸、いずれも男の性欲を誘うには十分過ぎる要素だったが、本人が明白に苦痛と表現した以上は二回戦をするべきではないと判断するしかなかった。乱れた髪の毛を指で直してやる。前髪を掻き分けてスペースを作ると、口付けを落とした。

 

「消えるとも」

「……よかった。愛しい人。今宵は私と共に居て頂きたい。そして、かなうならば、本を読んでほしい。我が興奮が冷めるまで」

「そうだなぁ……お気に入りの一冊があるんだ。その前に風呂行かないとな」

 

 二人は湯浴みをした。それから男が読み聞かせる形で夜を過ごした。部屋の明かりが消えたのはしばらくたってからのことだった。

 

 

 

 

「最近、あの子雰囲気変わったわね」

 

 不敗の提督から名前を取ったアドミラル・ヒッパーがカフェテラスでタピオカ入りジュースをちゅーちゅーしながら言った。窓際では一人黙々と本を読むZ46がいた。対面には妹であるプリンツ・オイゲンがコーヒーを嗜んでいた。

 

「口紅も付けるようになったみたいだし。ませちゃって」

「……恋を知り愛を知って結ばれて。ふふっ」

 

 にやりとオイゲンが笑った。

 あからさまなからかい笑いにヒッパーがむっとして腕を組む。

 

「ちょっとオイゲン。なに笑ってるのよ? 普段ぴくりとも笑わない癖に」

「察しが悪いなあって思っただけよ。ケッコンして女性が綺麗になったなら何か思うことがあるんじゃないかしら?」

 

 そんな喧騒はZ46にはまるで耳に入っていなかった。最近読み始めた哲学書でも技術書でも論文でもない、一般文学の内容に夢中だったからだ。一通り読むと、残りは指揮官に読んで貰おうと席を立つ。からかうオイゲンと、キーキー声をあげるヒッパーを尻目に、カフェテリアから自室へ。ネグリジェに着替えて本を抱えて指揮官の部屋へ。ノックすると、どうぞの声が聞こえてきたので、中に入る。

 

「今日も読み聞かせってことね。嬉しいよ」

「私もあなたと共にいれて嬉しく思う」

 

 時間帯は既に深夜近く。体が幼い少女のZ46には少々眠気が厳しい頃合であった。指揮官たる男が自分の腿を叩くと、ホワイトアッシュの髪の毛を丁寧に櫛で撫で付けたZ46が腰掛ける。

 

「今日はここから読み聞かせて頂きたい」

「おう。じゃあここから……」

 

 その本は男が好きな児童文学の名作だった。Z46が疑問点や感想を述べると、男がそれに対して言葉を返す。

 

「指輪は目に見える形で存在する。大切なものは目には見えないのではないか」

「確かに。しかし、大切なものはこのなかに入ってるなにかじゃないかなと俺は思う。さ、今日はこの辺にして寝よう」

 

 二人は本を閉じ、身支度をして一つの布団の中に入った。暗い天井を見つめながら男が唐突に言った。

 

「君に付ける名前を決めた」

 

 Z46という少女は何も言わず、傍らの男の手を握った。

 

「君の名は………」

 

 その言葉を聞いた時、ドックから出ることなく生涯を終えたZ46という艦はこの世界から消えてなくなり、「 」という少女が誕生した。

 

「……愛しい人よ。ありがとう。その名前……どうか私の名をいつも考えていておいておくれ」

 

 Z46だった少女はそう言うと、少しの間隔を明けて健やかな寝息を立て始めたのだった。




元ネタ:ニーチェ 星の王子さま
本当は5000字くらいでまとめるつもりでした

読みたいキャラ

  • 不知火をもっと書け
  • エンプラさん
  • ジャン・バール
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