※この作品はR-18です。

アズールエロローン   作:キサラギ職員

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夜這いじゃないからと言い張るぬいぬいのおはなしです


あひみての 後の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり(不知火 その2)

 夏である。

 蝉しぐれも夜になれば休止符が挟まれるかと思っていた。そう願っていた。夏の季語でもある蝉も一日中鳴かれてはうるさくてたまらない。夜くらいは演奏を中止して欲しいと願っていたが、余りに気温が高いせいか、恋曲をやめてはくれなかった。

 男は布団を敷いた一室で寝転がっていた。白シャツとパンツのみを身に纏い、腹に布団をかけて寝ていた。文明の利器であるクーラーは可能な限り付けたくないのだが、こうも暑いと付けるしかないと考えた。しかし、リモコンは遥か遠くの壁にかかっている。

 

「………」

 

 なんとめんどくさいのだろう。たかが数mが千里にも感じられた。

 ついに男は我慢の限界を迎え、クーラーを付けに腰を上げた。リモコンを取ると冷房を付けて布団を被り直す。冷風が吹き出てきた。男はほっと頬を緩めると、まどろみに落ちた。

 

 ……ひた、ひた、ひた、と音がする。眠りに落ちた男の眦が震えた。

 ひんやりとした冷気に満ちた部屋の平安を乱すものがいるようだった。そしてそれは、徐々に近寄ってきているようだった。男の意識はいまだぬるま湯のようなまどろみのなかにあった。

 

 ひた、ひた、ひた。

 

 音が止まった。男の枕元に黒い影が立ち尽くしていた。照明の落ちた室内であるためか、輪郭線だけがぼんやりと闇に浮き出ていた。

 暗闇に、一対の赤い瞳が浮かんでいた。その傍らにはぼんやりとした火の玉が漂っていた。

 

 するり、するり。

 

 その影はうなされる男の布団をはぐと、ゆっくりと上にのしかかっていった。

 闇に浮かび上がったそれは、冷気を纏っているようだった。触媒を使い人工的に発生させている冷気とは異なり、まるでそうあるのが当たり前であるかのような、身の毛もよだつ冷気であった。心地よいクーラーの冷気に目を閉じていた男は、その鳥肌を誘う冷たさに思わず鳥肌を立てていた。

 影が、ゆっくりと男に顔を寄せていく。赤く爛々と輝く瞳がぱちりと瞬いた。

 

 

 うらめしや………。

 

 

 男は、自分の体が動かせないことを自覚しながらも意識だけが覚醒していくのを感じた。得体の知れないものがのしかかっていた。悲鳴を上げることもできない。しかし、指だけはなんとか動いた。そこで、その装置を使うことにした。

 ピッ。電子音と共に照明が付く。リモコン式の蛍光灯が薄ガラスを小突くような音と共に眩い光を放った。

 男は、ようやく、黒い長襦袢を纏った新妻が己にのしかかっている様を目にすることができた。

 

「………」

「………」

 

 長い沈黙があり、新妻――事情によりアズールレーン陣営に属することになった重桜の駆逐艦『不知火』が腰を上げようとした。

 

「まあ待て待て」

「あう」

 

 男がすかさず手を捕まえると、布団に倒す。改造を受けて美しい女性に成長したとはいえ、小柄で細身な女であることに変わりはない。艤装をつけているならばまだしも、つけていなければ普通の女性と変わりない。

 

「おばけが金縛りを起こして圧し掛かっているというのに明かりをつけるなど……無粋でございます。やはり“おやくそく”のわからぬ大うつけでございます……」

 

 男の手であっさり倒された不知火は、不満そうにそういった。暗闇で輝いていた瞳はいまはなく、ここではないどこかを見つめているような虚ろな瞳だけがあった。

 

「お前、こすぷれって言ってたよな……金縛り、できるのか……」

 

 男が疑問を投げかける。不知火は自身をおばけと自称する一方、火の玉を引き連れてみたり、幽霊のようにふわふわと飛んでみたりする。コスプレではこうもなるまい。

 

「はあ、ご想像にお任せしますが………それでは、これにて、妾はお暇(いとま)を……」

「まあ、待て待て。肌が冷えた。温めてくれ」

 

 指揮官としての任についている男がそういうと、向かい合う格好で寝転がっている不知火の頭を撫でた。

 

「そういやなんで金縛りしかけにきたんだ」

「夏の風物詩というものを肌で感じて頂こうかと……」

「嘘だな。本当のことを言ってみ」

 

 男は瞬時に看破した。一筋縄いかぬ我が妻のことである。裏の裏の裏を読み解かねば真意は掴めない。

 

「ですから、暑苦しい夜を涼しくすごして頂こうかと……電気代の節約もかねまして……冷暖房は控えめにして頂かなくてはと……23度は少々“おいた”が過ぎているのでは?」

 

 湿りすぎてキノコでも生えそうな目つきで睨まれて、男はハッとリモコンを手に取り頭をかいた。不知火は、金の管理に厳密である。家事をしながら秘書艦をしながらさらに店をやるという殺人的な忙しさにもかかわらず、男が少し無駄使いしただけで即座に看破してくる鋭さはカミソリのように鋭く、鉈のように容赦がなかった。

 男はさっと正座を組むと頭を垂れた。金の管理に関してこの女には絶対に勝てないとわかっているのだ。

 

「すまない……」

「わかればよし。それでは……ひゅーどろどろ……」

「待て待て」

「あう」

 

 不知火がおもむろに火の玉を浮かべて、それどころか自分も浮いて逃げようとしたので、また布団に引き倒す。今度は不知火を下に敷く。暗がりであればわからなかったであろう薔薇のように染まった頬があった。

 男が不知火の頭を撫でると、髪の毛にキスを落とす。

 

「っ……何を。まさかこのような夜更けに盛りがついているのでございますか……はぁ、まるで犬畜生のようですね」

 

 どろりと濁ったここではないどこかを見ているような瞳が、ぱちくりした。

 

「犬だからなぁ……ペロペロしたくなるときもあるんだ」

「明日も仕事がありましょう…………ほどほどに」

「善処する」

 

 不知火がわずかに上体を起こすと、男の喉に食らいつく。もとい唇を付けた。

 

 

 

「今宵、おばけが極楽浄土へ導き………なんでもありませぬ」

 

 匂いたつような女体が闇に浮かんでいた。月明かりがカーテンから差し込み部屋を薄明かりに沈めている。暗がりがいいとかたくなに主張する不知火の意見が取り入れられた結果だった。

 

「恥ずかしかったんだな」

「違いますが? そのようなことありましょうか……」

 

 顔をそらす不知火は一糸纏わぬ生まれたままの姿だった。男の上に陣取り、男の手を手綱かなにかのように握り締めている。髪飾りもなく、艤装も付けず、素肌を晒して跨る様に、男自身が瞬く間に膨張して、不知火の腹に触れるかたちで脈打ち始める。

 不知火はそれを手に絡めると緩やかに上下にしごき始めた。ただでさえ張り詰めていた箇所がたちまち爆発寸前にまで膨張していく。

 

「んっ、ふぁ」

 

 ぴとりと不知火が自分自身の手で男を導き、腰を下ろす。濡れそぼった花弁が雄と結合した悦びに震えていた。

 

「なるほどね」

「何がでございますか」

 

 男は一人納得し、意地悪に責めあげようかと思った。わざわざ夜這いをかけにきたのだから、欲求がたまっていたのだろうと推測する。意固地になっている時の不知火は何をやろうと口を割らない。ならば、そのままこちら側の欲求も発散させてもらおうと思ったのだ。

 発散、もとい一緒に高めあうの方が響きがよろしいと男は思った。ケッコンして日が浅いがこの女には日常頭が上がらないのはよくわかっているので、夜では勝ってみたいなどと思ってもいた。

 膣内(うちがわ)は濡れてぐちゅぐちゅになっていた。馴らす必要もない。腰を沈めてくるのにあわせ、腰を掴んでせり上げる。体を重ねた回数は少ないが、この娘の弱いところは、からだが知っている。

 下腹部をくねらせるように腰を使いながら、下方から突き上げていく。

 

「――――ぃ、ひあ、あっ」

 

 不知火の堪えがちな嬌声が漏れ始める。不知火は初夜はともかく、普段は声を堪えることが多い。商売女よろしくあんあん鳴かれてはそれはそれでもいいものかもしれないが、あくまで声は抑えるものであるという不知火のあり方のほうが“そそった”。

 

「んっんぅ……はぁぁ…………! はっ、ふぅ……今宵は一段と……闇が強く、匂いましょう……?」

 

 闇に輝く瞳が男を見つめていた。男は、その瞳に魅入られそうになる感覚を覚えるも、既に魅入られているのだから抵抗するまでもないと思った。もとより幽霊染みた女である。目が光ろうが浮こうが驚きには値しない。

 不知火が身をかがめると、上体を寝かせてきた。唇と唇が重なり合い、ややあって離れると銀色の橋がかかっていた。

 

「ぁ ぅ、んぅ……妾(わらわ)が動きます故……旦那様は動かずそのままに……はぁっ……! や、ぁンっ!」

 

 体をつけたまま、不知火が腰を使う。掴めば折れてしまいそうな腰をくねらせ、息を切らせながら動いている。月明かりだけがうっすら差し込む室内とはいえ、男の目も闇に慣れ、快楽に頬を緩ませ顎に一筋涎を伝わして乱れる妻の姿は認識できた。

 不知火は確かに体力があるほうだろうが、こと運動に関してはとことん苦手である。引きこもるのが好きなどと言いながら徒競走でもしようものなら一番を取る綾波などを尻目に一人体調不良を理由に茶を飲んで見学しているような駆逐艦である。『熱が』『傷口が』『すくりゅーの調子が芳しくなく』など様々な理由を挟むのは運動が苦手な証拠であり。つまり上下に体を揺する運動により、あっという間に息が上がってしまったのだった。

 ぽたり、と男の顔に汗の滴が垂れる。不知火の体の表面には汗の小さな球が染み出していた。

 見ていられないと男は姿勢を切り替えようとする。息ぜいぜいの小柄を抱え込むと、逆に押し倒しにかかる。ぱたりと倒れた体に覆いかぶさって、ぴったりと腰をくっつける。みっちり詰まった肉は、例えようも無く甘美な刺激を下腹部から伝えてくる。ねっとりとした液が染み出しているのが、肌から伝わってきた。

 

「……今宵は妾が動くと申し伝えたはずでは」

「うん。わかってるぞ。体力仕事は男のもんだからな。それに今日疲労でぶっ倒れられると明日の味噌汁を作るやつがいなくなるだろ」

 

 男は、料理が苦手だった。勉強と練習はしているが不知火のそれには遠く及ばず、いまだにそれをネタに不知火にグチグチと虐められる始末だった。

 闇の中で不知火がはあとため息を吐いた。興奮しているのか、ため息が震えていたが。

 

「やはり妾がいないとだめなようで……」

「当たり前だろ」

 

 男は言うと不知火の人間としての耳に口付けて、猛然と怒張を動かし始めた。既に洪水と化している箇所はしかし締め付けによって滑らかに動くことはできない。

 

「ひんっ!? はぁっ、ぁぁぁぁあっ! ………ッ、っ、ぅ、あっ」

「不知火! 不知火っ!」

 

 男は、唇をかみ締めて己の背中に手を回す女の体を味わうべく、全力をこめて腰を使った。

 

「あっ、あっ、あぁ、う、あっ、すきぃ……お慕いしてます……、ゃあぁんっ!」

「不知火!」

 

 唇をかみ締めることをやめた不知火が言葉を発する。男の背中に爪を立てて、喉から甲高い音を上げた。

 男も、もはや名前を呼ぶことしか考えが廻らない程に余裕が無い。腰を激しく打ちつけながら不知火の細い首筋に噛み付くように口付け、さらに唇を貪る。

 絶頂へと駆け上る二人が口を離したのはほぼ同時。獣のように吼え、猛る。睦言などという生易しい会話ではなく、愛を叫んでいた。

 

「ぷはっ……不知火!」

「はぁっ、んっ、もっと、つよく、ふかく………あ、あぁぁぁぁぁぁ! ん、ん~~~~~~ッ! んっ、んっ、あ………」

 

 果てる。

 男がぎゅっと小柄を抱きしめ精を放った。どくんどくんと動脈を傷つけたような勢いをもって白濁液が噴出する。奥底を染め上げんばかりの量だった。

 

「すき………」

 

 男の背を抱きしめ不知火が闇にそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「勘違いしていたのにゃ!」

「はあ、左様でございますか」

 

 不知火は茶を飲みながら明石が小難しい文章をタブレットに表示するのを見ていた。見ろと言わんばかりの勢いで渡してくるので受け取ってみてみるが、なにやら難しい文章とグラフが並んでいるだけで理解できそうに無い。タブレットを押しやると、また茶を飲む作業に戻る。

 きっかけは訓練中に急に吐き気に襲われたことだった。近頃体がだるく、思うように動けないことも出てきた。艤装が思うように反応しない、ということもあった。元々、『大戦』では最前線で戦っていたようだが、こちらでは後方における対潜水艦戦闘(ハンターキラー)と哨戒任務が主であるので、一時的に退いてもほかの艦で埋め合わせることができる。とはいえ戦闘のために生まれたのに戦闘ができないのはどうにもしっくりこなかった。

 明石と不知火の仲はそこまでよろしくない。といっても不知火が勝手に商売敵認定している節があるので、明石がどう思っているのかは誰もわからないことであるが。

 明石は艦隊における整備補給を担当している。健康診断という名前の定期整備もやっていたのだ。今回の検査では不知火が引っかかったのだ。

 

(船体にひびでも見つかったのでしょうか……)

 

 不知火は船体が裂けるという大怪我を負ったことがある。その修理もとい治療の影響で、いまも額から頬にかけては縫合のあとがあるし、艤装にもヒビの修復痕がある。またドック行きになるのかと、半ばあきらめ染みたため息を吐きつつ、茶の菓子として用意しておいた鰹節をさくさくと食べ始める。

 

「かつおぶし……にゃ? 明石のために持ってきたかにゃ!?」

 

 だらだらと涎を垂らす明石に不知火はふっと嫌味な笑みを浮かべた。

 

「違いますが?」

「にゃー……」

 

 明石ががっくりと地面に屈んだ。猫じゃないといいながら猫でしかない明石にとって、鰹節がお預けになるのは相当つらいできごとだったらしい。

 なぜだかわからないが無性に鰹節が食べたくなり買ってきたのだ。いままでこんなことはなかったというのに。艤装をうまく扱えないことと体調不良。どうやら疲れがたまっているようだと不知火は思った。

 明石が頭を振りつつ立ち上がると、不知火に接近してきた。不知火が座っていた椅子の位置を遠ざける。

 

「勘違いしていたにゃ! 艦む……艦船少女用の調査と機材だったからだめなんだにゃ! “人間用の”機材ならよかったんだにゃ!!」

「その“ねた”はおやめなさい」

「ごめんにゃ」

「で、続きがあるのでしょう。説明をされては……?」

 

 鼻息荒くそんなことを言う明石に、不知火は不思議そうに小首を傾げた。

 そんなときに扉が急に開くと、指揮官が入ってきた。座っている不知火の背後から抱きしめるような格好で腕を回す。

 

「体調が悪いんだって!? 大丈夫か!?」

「く、くるしい……」

「すまん!!」

 

 デジャブというのだろうか。どこかで見たような展開だと不知火は思いつつ、首に手をやりながらつい今しがた入ってきた男を睨み付ける。

 すると明石は指揮官の方に椅子を運んでくると、座れとその袖を引っ張っていた。

 

「指揮官丁度よかったにゃ! まさかこんなことになるなんて……このアカシ一生の不覚! このアカシの目をもってしても見抜けぬとは! にゃ。座るにゃ。結論から言うと不知火は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 指揮官たる男が、味噌汁を作った。

 横合いから不知火が出てくると小皿にとり味を見て頷く。

 

「料理の腕があがったようですね……」

「うん、いつまでもお前ばかりに任せてはいられないからな」

「左様で。子供が親元から離れていくというのはこういう感覚なのでしょうか……もっとも、ほかの料理は中学生の調理実習並といったところでしょうが……上達速度は亀のよう………」

「俺は子供じゃないぞ」

「存じておりますとも……」

 

 むすっとした顔をする男に対し、不知火は唇に笑みをたたえてみせた。

 

「まこと、大うつけでございますね……」

 

 男はううと呻いた。丁度、キャベツの千切りを作ろうとして指を切ったところだった。

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