猫耳和奏ちゃん、本当可愛い。付き合う前に付けさせられててもいいし、その後でつけてにゃんにゃんしてもまた可愛い。
★罰ゲーム(和奏・サノバウィッチ)
ハロウィンを終えたあとのライブハウス、三人の音は前よりその重なりを心地よいものに進化させながら今もなお練習を続ける。喉が治った仮屋は、思った以上にあの日の後悔を引きずっているようで、見かねたオレたちは半ば強引にバンドの再結成を持ちかけた。
「そんな、アタシのためなんて」
「いいからいいから、久しぶりにドラムやって楽しかったし、柊史だってこんな機会がなけりゃ楽器なんて練習しなかっただろ」
直近の目標は次の文化祭。時間はまだたっぷりあるし、間に合わせ程度にしか練習できなかったオレも、リベンジしたい気持ちがないといえば嘘になる。それに、仮屋から伝わるこの薬のような味が、彼女自身もこの誘いを断り切れない事を如実に表していた。
強引な勧誘が功を奏したのか、またこうやってベースを握ることになった。一度練習したところまではすぐ戻ってきたけれども、やはりそれから更に上手くなるのには時間がかかりそうだ。一方の仮屋はというと、やはりというべきか、前の演奏に輪をかけてうまくなっていた。
「こりゃ、柊史は結構重症だな」
「前と同じぐらいには弾けてると思ってたけど」
「せっかく二度も舞台に立つんだから、同じじゃ観客ががっかりしちまうぞ」
好き勝手言われているが、たしかに二人の力量差を埋めるにはもう少し本気になる必要がありそうだ。これは自主練の頻度をもう少し増やす必要があるだろうか、そんな事を考えながら試行錯誤しつつ、また次のフレーズに食らいつく。二人に置いていかれないよう、ひたすら指を動かし続けた。
三人での合わせ練習はすぐに時間が過ぎ、荷物をまとめライブハウスから出る。部活を休んで早めに練習を始めたからか、まだ夕方と言っていいぐらいには明るい。このまま真っ直ぐ帰るのも何だとちょっと思っていたところで、後ろからゴソゴソとカバンを漁る音が聞こえた。
「ま、練習は置いといて、今日はこれやってみようぜ」
「あっ、それアタシも欲しかったやつ。しかも学校に持ってきてるなんて」
「佳苗ちゃんみたいなこと言うなよ、せっかくだし、偶にはこう言うので遊んでみるのも悪くないだろ」
街道が取り出したのは今流行のゲーム機。となればそれをプレイする場所だが、今日は運良く親父が家を空けている。自然と、三人揃ってうちのリビングに集まることになった。
「よっしゃ、せっかくだから対戦しようぜ」
「そんなこと言って、経験者は海道だけでしょ」
「柊史だって初心者だから、それにこれならテクニックよりも運のほうが大事だからな。あっ、負けたら罰ゲームなんてどうだ」
すっかり乗り気の海道に、半ば押されるようにコントローラーを握る。練習で少し煮詰まっていたオレには丁度いい気晴らしになりそうだと思いながら、三人でプレイを始めた。細かいルールの説明は海道に任せたが、基本的なところはすぐに飲み込め、いつしか時間を忘れて熱中してしまう。
「これなら……っ!」
「うわっ、マジかよ。柊史そんなの持ってたのか。しかも和奏ちゃんまで俺を狙うのかよ」
「罰ゲームなんて言われたら、アタシも負けられないじゃん」
しばらく続く一進一退の攻防、お互いに足を引っ張り合うそのゲーム性で、それでもなお海道の豪運は尽きる気配がない。経験値の差ではなく、ただ純粋な運の差で負けてしまうあたりがオレらしいのか、ようやく決着がついた時、なんとか二位に滑り込めただけ幸運だった。
「よっしゃー、俺の勝ちだな」
「アタシは……って、保科にちょっと負けてる」
「それじゃ罰ゲームは和奏ちゃんに決定だな」
不服そうな仮屋だが、海道が決めたルールとはいえ案外あっさり従うみたいだ。一方、罰ゲームを考えている海道は実に楽しそう。負けなかった事を幸運に思うしかなさそうだ。
「そうだな……罰ゲームは来週の練習のときまでに用意しとく」
「ちょっと、そんな大掛かりなもの用意するの?」
「いいからいいから、それに学校でやれなんて言う気はないから。せっかくだしそのときに再戦してもいいかもな」
あたりはもう暗くなっていて、その場は一旦お開きに。その翌週にやってくる彼女にとっての悪夢の時間は、このときは想像できそうにもなかった。
「……って、こんなの聞いてないって!」
「おやおや、和奏ちゃんは罰ゲームなら何でも従うって言ってたよね」
「うっ、それを言われると……。わかった、ちょっと保科の部屋借りるね」
海道が仮屋に仕掛けた罰ゲーム、その詳細はオレも全く聞かされていない。それに海道は今日再戦して、負けたらそいつが罰ゲームだなんて言っていた。できることなら早く知りたいけれど、今振り向いてその中身を知ったら負けのような気がして、知らないフリをしておいた。
しばらくしてドアが開く。そこに立っているのは、猫耳のカチューシャをつけた仮屋、
しっかり尻尾もついていて、その姿はまるで可愛い子猫のようだった。あまりのその衝撃に、一瞬固まっていると、仮屋から途端に甘く酸っぱいなにかが口の中を満たすように伝わってきた。
「……どう?」
「可愛い……」
「やっぱり和奏ちゃんなら似合うと思ってたんだよ」
むしろそんなものをどこで手に入れたんだ、なんてツッコミはこの際野暮だ。今はただ、目の前で猫のふりをしてみせる仮屋をただ見つめるしかできない。
「にゃ、にゃぁ……じゃなくて! そもそも、海道はどうしてこんなの持ってたのさ」
「前に押し付けられて、俺がつけるわけにも行かないからとしまい込んでた」
「だからって、そんな」
彼女が動くたびに、フリフリとそのしっぽが動く。おそらくは腰に巻いたベルトのような形なのだろうが、動きに合わせて揺れ動くそれはちょっと刺激的にも見える。しかもそれがスカートを少し捲るようにツンと上を向いて立っているのだから、ちょっと姿勢を変えればすぐに見えてしまいそうなその危うさがまた艶かしい。
「ほ、保科はどう……かな」
「うん、すごく似合ってると思う」
「そうだよな、柊史ならわかってくれるよな」
恥ずかしそうに悶える彼女から、口の中を満たすような酸っぱさ。そして遅れてやってくる砂糖を煮詰めたような味。喜んでいるような、それでいて羞恥に耐えるような、その様子は眺めていて飽きそうになかった。
「アタシ、これいつまでつけてなきゃいけないの」
「そうだな……次の負けが決まるまで和奏ちゃんはこのままで」
「いっそ、バイトもこのまま行けば」
「それはないって!」
彼女の必死の抵抗もあり、すぐに二戦目が始まる。一度痛い目に遭わされた仮屋は手堅く進め、一方のオレはそんな彼女を蹴落とそうと必死になった。海道はというと、早々に点数を稼いですでに逃げ切りの体制だった。
「だぁーっ、保科に勝った!」
「なん、だと」
「よっしゃ、罰ゲームは保科だな」
コントローラーを地面に置き、ガッツポーズをする仮屋。猫耳が揺れ、尻尾も大きく揺れる。着衣が乱れるのも気にせず、全身で喜びを表す彼女と後ろでニヤニヤした顔を崩そうとしない海道。一方のオレは地面に手を付き、まさかの敗北に悔しさを感じるより先に、この後に待ち受ける罰ゲームに身震いした。
「それじゃ、罰ゲームはこれだよな」
「そうだよ、アタシだけこんな恥ずかしい真似して、良いわけないじゃん!」
かくして、彼女がつけていた猫耳と尻尾はオレの体にピッタリとハマった。その時の嬉しそうな海道と、そして仮屋の表情は当分忘れられそうになかった。