最初は手記みたいに、もう少しチャレンジングな文を書いてみたかったけれども、ちょっと難易度が高いですねぇ......
R-18シーン当然なし、前提は和奏ルート後な点はご理解をば。彼みたいな良い男友達は欲しいモノですねぇ
仕事から帰ったある日の夜、DM程度しか来ないポストの中に封筒が投函されていた。中身は結婚式の招待状。この前会った時、柊史から結婚式がどうのなんて聞いてはいたけれども、いざ招待状が来るとなると現実味が湧かないものだな。とりあえず部屋に入って、中身を見ていると電話が鳴る。
「もしもし」
「海道、久しぶり……ってほどでもないか」
「なんだ柊史かよ。ちょうど今、お前からの招待状が届いた所だよ」
「それなら話が早い、結婚式のスピーチ、お前にお願いしていいか?」
「おま、いきなりこのタイミングで言うなよ……良いよ、お前と和奏ちゃんのためにひと肌脱いでやるか」
「ありがとう、また色々連絡するわ」
「おう、頼んだぜ」
電話を切る。それにしても、あの柊史と和奏ちゃんが結婚だなんてやっぱり実感が湧かない。あの入学当初の、死んだ魚のような目をした柊史でも結婚なんてできるんだな。まぁ、和奏ちゃん側からしたらある意味当然の結末ぐらいに思ってそうだけども。そんなことを考えつつ、スピーチの原稿のために昔のことを思い出すことにした。
中学の時つるんでいたグループの連中と別の高校に行ったおかげで、ロクに知り合いがいない状態からスタートした。周りを見ると軒並み知り合いで固まって、俺の入るところなんてどこにもなさそうだって思っていたとき。柊史はそのクラスの中で珍しくまともに浮いていた。最初は俺と同じように知り合いがいないタイプかと思ったがそうではない。こいつは単に人付き合いを意図的に避けるような感じだった。表面的には接しやすく、悪いイメージはないのに、本質的には人と話すのを避けている。そんな、人と一歩距離を置いたような奴。俺はそんな柊史に妙な興味が湧いて、結局それから付け回していた。別に何か悪いことをしたわけじゃない。単に、こいつがどんな奴なのか知りたくて昼飯を一緒に食べてみたり、一緒に帰れるときは帰り、寄り道をしてみただけだ。
そんなことを続けて1月ほど経ったころ、今度は和奏ちゃんが柊史に話しかけてきた。当然、俺も柊史もあのときは驚いたさ。だって、突然面識のない女子から、いきなり好意的に話しかけられるなんて経験、まず真っ先に何か裏があるって疑いたくもなる。とはいえ、結局そんなことはなく、気づいたら俺たち三人でいつも行動するようになっていた。今思えば、あの時から和奏ちゃんは柊史のことが気になっていたのかもしれない。
2年に進級しても、俺たちのクラスは離れずに済んだ。もともと柊史を中心に集まった俺たちだったが、あるとき柊史が風邪を引いて休んだとき和奏ちゃんと二人で帰ることがあった。当時の俺は、元カノに振られたばかりで割と傷心だったっけな。
「和奏ちゃんと俺だけ、って珍しいな」
「そういえば、そうかな」
「それにしても、和奏ちゃんって元々柊史の知り合いだったの?」
「えっ?あぁ……うん。でも、保科は覚えてないみたいだけどね」
一瞬暗い顔をしたが、すぐに元に戻る。その意味が気になって、問い直そうとしたら、次の言葉は和奏ちゃんに遮られた。
「それより、海道はどうなのさ。保科に話しかけようなんて、アタシが言うのも何だけど中々思いつかなさそうなのに」
「俺か?俺は……単に知り合いがいなくて、あいつを見た時話しかけやすそうって思ったからだが」
「保科のこと、話しかけやすいって言う人初めてみたかも」
「えっ、そうなのか?」
「だって、あの死んだ魚のような目をした、なんてアタシたちすら言ってるぐらいなのに、それで話しかけやすい?」
ちょっと考え、返事に困る。確かに、柊史は結果的には話しかけやすかった。ただ、俺があいつに話しかけたとき、柊史の顔には明らかな困惑が浮かんでいた。ただ、あの表情は俺の知ってる、一般的な困惑ではなく、どちらかといえば知らないことに遭遇したときに感じた表情。和奏ちゃんと初めて話したときも、柊史は同じ顔をしていた。俺たち以外には向けたことのないあの表情、今になってその理由がわからず頭を悩ませることになってしまった。
「確かに、言われてみれば……でもさ、俺が話しかけたときも、和奏ちゃんが話しかけたときも柊史は遠慮する感じはなかっただろ」
「確かに……それって、どういう意味?」
「あいつ、基本的に他の人とは一線を置きたがるのに俺たち相手にはあんまりそういうことがない。しかもそれが初対面のときから」
和奏ちゃんも頭を悩ませ始めたようで、お互いに無言になる。まるで俺たちとそれ以外に何か差があるかのような、あいつが感じている差って何だろうな。もしかして、和奏ちゃんは……いや、そういう疑問は野暮だ。やめておこう。そう質問を飲み込んで次の言葉に困っていると、和奏ちゃんから一言。
「保科って、結構人の顔色伺ってることあるよね。そういうことなのかな」
「そういうことって、つまり?」
「アタシたちが、保科に話しかけて来たときの様子が他の人とは違ったのかも」
「柊史がねぇ……まぁ、あいつに心配ことしたことはあっても、悪い感情なんて抱いたことはないな」
「それはアタシも同じ。なんでも引き受けちゃうのは悪い癖だと思ってるけど、アタシたちが保科のことを悪く思うことなんてめったにないよね」
そんな感じで、その日は柊史と仲良くなったきっかけについてずっと話していた。そして別れ際、和奏ちゃんから思いがけぬ質問が飛んできた。
「そういえばさ、海道って彼女とか居たことあるの?」
「げっ、その質問は」
「へぇ……もしかして、彼女いない歴イコール年齢とか?
「逆だよ、この前別れたばかりで今は傷心」
「ごめん……」
「良いよ、それとも和奏ちゃんが俺の彼女になってくれても良いんだけど?」
「何言ってんのさ、冗談でもそんなことは言わないよ」
「その言葉結構傷つくんですけど!」
冗談にしてもちょっと凹んだ。とはいえ、和奏ちゃんとはそういう感じではない、というのは俺だって分かっている。逆に言えば、ちょっとでもチャンスがあると思ってるならこんな話し方はしないだろうしな。
「あはは、ごめんごめん。でも、海道もそういうのやっぱりあるんだね」
「そりゃな。所で和奏ちゃんは?」
「わ、アタシは……そういうのはあんまり興味ない、かな」
「ふーん。ま、先輩からの忠告だ。好きな気持ちだけは大切にしろよ。恋愛ってのは、好きな気持ちをお互い持ち続けてないと継続しないものだからな」
「海道が偉そうなの、なんかムカつく。でも、ありがと」
その後はいつものように、くだらない話をして帰路を進んだ。結局、この答え合わせはハロウィンのときまで先延ばしになったわけだけれども。
今思えば、あの時和奏ちゃんが言っていたことが腑に落ちる。そりゃ、和奏ちゃんはあの頃からずっと柊史のことが好きだったんだから。ストーカーとかならともかく、普通な恋愛感情を向けられて嫌と思う奴なんてそうそういないだろう。ましてや相手はあの和奏ちゃん。もう柊史の奥さんになるとはいえ、俺だってちょっとは興味があったからな。もし柊史が他の女の子と仲良くなってたなら、俺にもチャンスは回ってきてたモノなのか。まぁ、そんなことを今頃聞いた所で意味がないどころか、柊史に殴られても文句が言えない。
それから数日後、仕事終わりにちょっとだけ柊史と飲みに行くことにした。和奏ちゃんも来るかと思ったが、どうやらあっちはあっちで色々忙しいらしい。
「ホント、スピーチとかもっと前もっておしえてくれよ」
「ごめん、でも海道なら3日ぐらいでスラスラと喋れそうだと思って」
「そういう問題じゃねぇよ!」
この日はスピーチのお礼を兼ねて、柊史の全額負担だそうだ。というわけで容赦なく飲み物も食い物も注文していく。
「それにしても、お前らもついに結婚かぁ……正直、いつかはお前ら付き合うだろって思ってたけれども」
「……それって?」
「和奏ちゃん、あれどう見ても柊史に片思いしてただろ」
「えっ」
驚きの表情を見せる柊史。今更だが、こいつはホントに気づいてなかったんだな。まぁ、俺も確証を持ってたわけじゃないが。いっそこの話、スピーチの中に入れてやろうか。
「まぁ、結果的にはお前らが結婚するようで安心してるよ。これでお前が別の女の子引っ掛けてたらどうなってたことか」
「オレが別の女の子って……逆に誰がいたと思う?」
「綾地さんとか?」
「あれは……いや、なんでもない。そういえば招待状は出したけど、来るのかな」
「さぁな、でも、あの部活の様子だと皆来てくれそうなものだけどな」
一瞬の間に、何を隠しているのか気になりはするが黙っておこう。まぁ、オレはあくまで部外者だ。この話には変に首を突っ込むもんじゃない。その後は普段の飲み会よろしく、お互いの仕事の話から、くだらない話、そして趣味など。色々話しているうちに夜は更けていった。
そして、式当日。俺のスピーチは大好評。自分で言うのも何だが、過去最高のウケを取れたみたいで一安心だ。柊史、そして和奏ちゃん。幸せになれよ。
3人のほのぼの空間をひたすら書く、というのも選択肢にはあったものの難易度の高さよ...
あと個人的には手記風に、海道の回想録みたいにしたかったところはありますが読みにくくなりそうなので、この形式で良かったかな。
感想など、お待ちしております