新刊を読んでも読まなくても、単体で楽しめるようにはなっています。
過去に戻ることを恐れる寧々のひとり語りで話が進行します。
これがどう本編とつながるのか......続きは新刊で!
「そんな……柊史君、嘘ですよね、嘘って言ってください」
「……ごめん」
暗転、そして静寂。夢だと分かっていても、幾度も見せられる残酷な光景を前に、私の神経はすり減らされていく。契約は果たされ、私があれだけ願った、過去をやり直すチャンスをもらえたというのにどうしてこんな悪夢にうなされているのだろうか。
過去の自分が恨めしい、今からやり直すならむしろ、あの時願ってしまった私の行動の方かもしれないなんて思ってしまう。契約の破棄なんて、そんな危ない橋を渡るわけにも行かないと本能で知っている。七緒に少しだけ提案してみたことはあったが、そのときに見せた表情からして、おそらくはひどい副作用か、あるいは……。
「私は、どうすれば……」
思えば、私の自分勝手で人に迷惑をかけ続けた人生だった。両親に一人暮らしを許可され、更にはこんな広い家まで用意してもらった。お父さんは、私がお義母さんと馴染めていないことを知っていたから負い目とかもあったのかもしれないけれど。だとしても私のわがままなのは事実だ。
そして、今度は過去の私が結んだ契約が、自分と柊史君を引き離そうとしてくる。因果応報という言葉が今は重くのしかかった。本当は、私なんかに柊史君を好きになる資格なんてなかったのかもしれない。こんな苦しい思いをするくらいなら……しかしその考えもひどく自己弁護じみていて、きっと柊史君なら「それでも寧々に逢えてよかった」なんて言ってくれると思う。そのことがまた私を苦しめる。
「……あれ、こんな時間に」
携帯をちらりと見ると、こんな時間なのにメールが来ていた。明日の朝に見ると思って送ったのだろうか、送り主は柊史君だった。きっと今日の帰りに、このことが引っかかっていたのが元気なさげに見えてしまったのかもしれない。心配を書けてしまって申し訳ないと思う反面、それだけ大切に思われている事実が嬉しかった。
まだ柊史君にはこのことを伝えていない。でも、いつかは伝えなければということは私も痛いほど理解している。それなのに、伝える勇気がない。柊史君は優しいから、きっとこんなことを隠していた私のことを許してくれるかもしれない。それでも私は私を許せなくて、苦しくて。
メールの中身自体は当たり障りのないものだった。ただ、元気がなさそうだったから大丈夫かと心配してくれているだけのもの。だが、そんなメールですら私の心は大きく揺さぶられた。やっぱり、柊史君はいじわるで、優しくて、隠し事なんてできないんだと。こんな私のことをこんなに心配してくれて。だからこそ、隠し続けていることが難しい。
「……いよいよ、ですね」
深夜のベッドの中で、明日こそは柊史君に契約のこと、そしてこれからのことを話そうと決心した。七緒と相談して、もう契約をどうにかすることは出来ないと知っている。それでも、柊史君と一緒なら何か出来ると信じて。