続編的にえっちなのも書くかもです。
ちらりと時計を見る。予定の時刻にはまだ早く、もう少しかかるだろうというのに、もうすぐ逢える彼女のことを考えると、不安はつきない。電話で相談を受けたときはびっくりしたけれど、その時刻が刻一刻と迫る今となってはその判断をちょっとだけ後悔しないでもない。
「……ふぅ、まだ早いんだけどな」
芳乃が一人でやってくるなんて言い出して止まらないと連絡を受けたのがつい先日。できる限り休みのたびに帰っていたつもりだったけれど、それでも彼女にとって、俺の住んでいるところを見てみたいという気持ちは抑えきれなかった。
「もうすぐ来るはずだけど、一人でここまで来れるかな」
同い年の恋人に向けた言葉にしては、あまりに信頼が無いのではと思うけれど、それでも彼女にとって外の世界は何もかも初めて。まるで初めてのお使いを見守る親のような、そんな気持ちにもなる。
「ちょ、ちょっと、将臣さんは一体私をいくつだと思ってるんですか」
「うわっ、びっくりした。結構端のほうだったけど見つかっちゃった」
「それは……将臣さんの姿ならどこだって見失ったりしないですから」
伏し目がちな芳乃からの言葉、なんだか恥ずかしくて直視できない。久しぶりの恋人との時間だというのに、どこか恥ずかしさが邪魔してしまった。
流れる人混みが少し落ち着いたところで、彼女の手を引いて歩き出す。せっかくだからと今日は芳乃が行きたいところに連れて行こうと思っていたけれど、とりあえずはこの人波から離れることが先決だ。
「海って、こんなに広いんですね」
「穂織の中だとこんなところはないからね」
改めて行きたいところを聞いて、彼女を海辺の公園まで連れて行く。改めて驚くようなものではないと自分では思っていても、芳乃にとっては何もかも初めての経験。教科書の中で読んだことはもちろんあるのに、それでも実際に見てみるのでは意味が違う。
「なんだか、本当に異世界に来てしまったみたいです」
「むしろ観光客の人達は、穂織が異世界みたいに思っているみたいだけどね」
「ええっ、そうなんですか」
生まれ育ったところゆえのバイアスは中々取り除けないし、無理になくす必要もない。とはいえ、芳乃がこんな景色を見られる日が来て本当に良かった。そんなことをぼんやりと思っていると、また彼女がクイと裾を引く。
「あと、ええと……そこのスイーツのお店はいかがでしょうか」
「この前テレビで見たかな、行ってみよう」
ぱあっと顔が明るくなる。遠慮なんてしなくていいのにと言ってはいても、本当にそうなるまでもう少し時間はかかるか。自分では普通の女の子らしくない、なんて思ってそうだけれど、こんなところは相変わらずで、そしてたまらなく可愛い。
せっかくの旅行なのだから、どこかでホテルでも取ればと提案してきたのは安晴さんだったか。俺もそれには同意だったけれども、とうの芳乃がそれに大反対だった。遠慮なんてする必要ないのにと俺達は言うけれど、電話越しに聞こえるえらく楽しげな常陸さんの声と、時折聞こえるひそひそ話の芳乃の様子に、こっちが折れるしかなかった。
「本当、もっと広いところに泊まってよかったのに」
「いえ、私が希望したことですから」
一応、彼女を迎え入れると決まってから掃除はかなり念入りにした。隙間ができて倒れかけた本にはブックエンドを買ってきて、番号がぐちゃぐちゃなのは並べ直し。お風呂やキッチンの汚れも洗剤を使ってきっちりお掃除をする。さほど散らかさない生活をしていた方だと思っていたけれど、久々に会う好きな人を前に、少しでもだらしないところは見せたくなかった。
「なんだか、ちょっと整頓されすぎてて生活感がないですね」
「ぐっ……それは、まぁ」
「将臣さんの私生活、ちょっとぐらい見てみたかったです」
彼女の反応は意外なもので、なんだか悪いことをしたような気がしてくる。確かに彼女の家に居候していた頃は、あくまで自分は借りているだけという意識がつきまとって、自分のものもできる限り隅に固めていたとは思う。もっとも常陸さんが毎日掃除してくれるから、それのためというのもあったけれど。
「……私、決めました。今日から一週間、ここに泊まります。将臣さんの私生活を丸裸にするまで、帰らないことにしました」
「えっ、それはちょっと」
「いいですよね」
「バイトで少し家を空けるかもしれないけど、それでいいなら」
突然の宣言に面食らいながらも、断る理由なんてないからすぐにうなずく。とはいえ着替えもそんな長い期間に耐えられるほど持ってきてないとは思うが、まぁ買いに行けばいいだろうか。とりあえずは安晴さんに連絡して……と思ったが、とりあえずはようやくやってきた二人きりの時間を楽しむ。