あやせはあのコロコロと変わる感じの表情が好きですね。いわゆるツンデレキャラとはまた違った感じの毒づき方が結構癖になるというか、なんというか。
「だから、愛する彼女のためを思って……おねがい?」
「その最後に星でもついてそうな言いっぷりはなんなんだ」
「たまにはこういうのがお望みかもって思っただけよ。それで、もともと警備は出すつもりだったんでしょ」
「まぁな。変にお互いが牽制し合うよりは、俺をパイプにして相互に連絡を取ったほうが安心だ」
昼休み、生徒会室であやせと二人きりでのお昼ご飯。今日はわけあって隠れて話したいことがあったから、皆とは別れてこんなところでお昼をとることにした。
案件は、新しい学院紹介PVの撮影について。今までもあやせが出ていたが、撮り直すにあたってもう一度あやせが呼び出された。実際、一部界隈ではちょっとした人気になっているという噂もあるし、学院、ひいてはアストラルというもの自体への認識を良いものにするためにはうってつけだろう。
そこで、俺がなぜこんな話をすることになったのか。彼氏だから、なんていうのは半分だけ本当で、残りの半分は特班としての任務だ。以前、あやせの身に起こったああいう事件があった以上、特班としても危険があるなら学院の行事にも非公式に協力する必要があるという判断になった。今回の撮影は一部パートを学院外で撮るため、その間の護衛任務について軽く相談しに来た次第だ。
「それにしても、学院のPVなのになんで校外で」
「それは、まぁ。暁にも分かるんじゃないの。お父さんが何を目的にこの学院を立てたか知ってるんでしょ」
「まぁ、それはそうだな。実際のところ、学院の募集以外でも使えるような動画にしたいのがありありと見える」
「疲れはするけど、私にできることなら、少しでも協力したいの」
カメラの前で見せるような作った笑顔ではなく、心の底から笑って見せる。そんなあやせの様子を見ながらも、ここまでの会話や渡された絵コンテはきちんと映像記憶として残してある。彼女のことが好きだからこそ、俺も、俺達も頑張らなければ。
「それじゃ、私からは特に何も言わなくて大丈夫?」
「こういうのは俺が言ったほうが良いだろうし、あやせは気にしないで」
「わかった、それじゃそっちも頑張って」
「ありがとう、頑張るから、その……終わったら、イイコトしよ?」
これが顔を赤らめながら、恥じらいを隠しきれないように言うなら素のあやせだと分かるものの。おそらく、いや確実にからかうつもりだったソレは適当にあしらい、部屋を出ようとすると、当然のことながら不機嫌そうな顔を向けてくる。
「ちっ……やっぱり乗らなかったわね」
「もう長い間付き合ってるんだから、そのぐらい分かるよ」
「そこまで言うなら、本気とそうじゃないときが見分けられなかったときは……潰す、わよ」
今みたいに、明らかに恥ずかしそうにしてくれるときが一番可愛い。俺をからかう算段だったのに、こういう返しには弱いのだから。
「あっでも、潰しちゃったら困るよね……まずは一旦、どっかに保存してから。ああでも、それって私と暁がその……」
「サラッと怖いこと言ったな」
何を真面目に言っているのやら。とはいえ、星幽発表祭のときのようにまたあやせを護衛しなきゃならないとなれば、気を引き締めていかなければ。しかも今度は、ただの任務だけじゃなく俺個人としても背負っているものが違う。
そして当日。理事長には話を通しておいたことで、表向きには警備会社を雇った扱いで俺達が護衛についた。もともと潜入捜査も主任務の一つだから、こういうときの衣装は意外とあっさり手に入る。
「レヴィ6より、マクレガーへ。こっちは位置に付きました。レヴィ9も目視できるところにいます」
「マクレガー、了解。他の人員も配置についていることを確認しました」
「アレイスターより、マクレガーへ。了解した。状況を開始する。以後の指示は俺から行う」
普段は潜入というのに、今日はむしろ目立つぐらいのカチッとした警備服を着る。撮影に出ているのはあやせと理事長、その他は撮影スタジオの面々だから、俺がこんな格好をしていてもそう怪しまれない。撮影場所も学院から結構離れているから、緊張しつつも、そういう意味での心配は無用だ。
「しっかし……驚いたな。まさか親への紹介よりも彼女を護衛する形で会うことになるなんてな」
「はぁ……」
俺がため息を付くより早く、七海がため息をついた。まぁ、親父のこんな言動、本当にこれでも組織の長なのか疑いたくなる。
「それより、俺の位置からだと彼女さんがしっかり見えるぞ、どうだ、羨ましいか」
「……別に。普段飽きるほど見てるし」
本音では正直うらやましい。もちろん、普段からあやせのいろんな姿を見ているつもりではあるが、それでもこういうときの様子というのはめったに見ることがない。発表祭のステージも俺は外にいたから、まともに見ることが出来なかったわけで。
「それにしても、なんだ。やっぱり動画で見るよりもべっぴんさんだなぁ」
「はいはい、仕事仕事。なんでわたしがこんなことを言わなきゃいけないの……」
七海のため息まじりな説教は最もだ。親の不真面目を咎める娘、なんて本当に外で見せたくない姿その1みたいなものだ。そんな様子を聞いていたら、突然携帯の着信がなる。無線を切って応答すると、あやせからだった。
「ねぇ、暁?」
「んん、どうした。今はまだ撮影中だろ」
「その……ちょっと休憩に入ったから、もしそっちも可能なら」
「あー、ちょっと待ってくれ」
通常回線でかかってきた、あやせからの電話を保留にする。そして無線をつなぎ、ちょっと形式張った感じで現場スタッフ全体に伝える。
「こちらレヴィ6、対象が休憩に入ったため、こちらも移動します。残りの指示はアレイスターよりお願いします」
「アレイスターより、全員へ。レヴィ6以外は持ち場をキープしろ。レヴィ6は対象から離れるな。アウト」
物分りの良い親だ。とはいえ当初から、あやせが持ち場を離れる時には俺が付くと先に指定しておいた以上、ある意味予定通りではあったが。
「はぁ……。お前、あとから休憩扱いにして時給引いておくぞ」
「待ってこれ歩合制だったのか!?」
そんな驚きは無視され、電話越しの圧を感じながらあやせのところへ向かう。保留していた電話には簡単に応じて、休憩所近くの自販機へ向かった。
「はぁ……やっぱりこの服、肩が凝るわ」
「お疲れ、ほらこれ」
先に買っておいたお茶を手渡す。礼を言うなりキャップを開けて、一気に飲み干すその様子からして、相当疲れていたようだ。
「まぁ、でも暁に守られてるって思えば少しは安心してられるかな」
「それは本心からなのか、それとも」
「人の気持ちをそんなモノサシで測らないでよ……。私だって、その、この前みたいなことがあったから、やっぱり気になるには気になるし」
「悪かったって。それより肩が凝るんだろ? 終わったら揉んであげようか」
「そうね……。助かるわ」
さっきまで見せていた営業スマイルは跡形もなく崩れ、そこには等身大の少女がいる。だが、俺が好きなのはそんな彼女だ。こうやって俺と遠慮なく話して、そしてよく笑って、時折見せる恥じらいを含んだように照れる。そんなのが好きで、大好きだから彼女とこれまでやってこられたんだろう。
「さて、と。そろそろ戻らないと」
「あっ、暁。ちょっとまって」
呼び止められ、振り向く。そしてその隙に距離を詰められ、軽く口付けを交わす。任務中ということも忘れて、骨抜きにされてしまいそうな甘さ。とはいえ余韻はそう長くは続かず、あやせの声で正気に戻った。
「ほら、行くわよ」
「おう」
お互い持ち場に戻っていく。さっきのキスで、今日はこれからも頑張れそうだ、なんて言ったらあやせはどんな顔をしただろうか。ちょっとだけ見てみたかった気もする。
もとは書きたくなったから書いたお題無視のワンライだけど、結構いい感じに書けたんじゃないかな。長くしたければこの後にエロシーン入ってたかも