キャラを読み込んでいると、書いている最中にキャラが好き勝手に動き始める瞬間というのを久しぶりに経験できたから、書いてて楽しかったですね。
「潜入させている俺が言うのも何だが、もっと長い期間帰ってきても良いんだぞ?」
「こっちにも友達がいるし、それに休みと言ってもいろいろあるから」
「そうか……なら仕方ないな。それと、家は空けといたほうが良いか?」
「はい?」
長期休みに入ったことで、たまには実家に帰ることにした。潜入任務とはいえ、少しぐらいなら学院から離れても良いそうだ。それに、短時間でよければ警察用の回線を勝手に間借りしてリモートアクセスする回線を七海が用意してくれた。
そんなわけで、実家に帰ると連絡をしたら親父がこんなことを言い出すのだから困惑するのも仕方ない。七海とはほぼ毎日のように顔を合わせているわけで、帰る目的の大きなところは親父に会うためなのだから。
「どうせお前らのことだから、寮じゃなくて二人で暮らしたときに……とか考えているんだろ?」
「そんなことは思ってない」
「おっ、図星か?まぁ、お前たちに会いたいからそんな事する気は一切ないがな!」
電話口の親父は、いつになく楽しそうだ。確かに、七海と付き合い始めた事自体はすでに知られている以上、そういう余計な詮索をしてからかいたくなるものなのかもしれないが。このままだと帰ったその日の晩飯に赤飯でも出てきそうだ。それにしても、俺の彼女イコール自分の娘、という状況なのによくこれだけテンションを高くできるのだろうか。呆れを通り越して、今はむしろ煽って楽しんでるのだろうか。
「ともかく、駅までは迎えに行くから乗る電車決まったら教えてくれ。普通のメッセージで大丈夫だ」
「了解。また連絡します」
電話を切ってから気づく、これ秘匿回線のままだ。不都合があるわけではないが、こんなドメスティックな会話をこの回線で繰り広げるのは少しばかり変な気になる。ともかく、七海と帰る電車を決めるなり、荷造りをしないと。
メッセージを飛ばしたら5分ほどで七海がやってきた。外出したり、寮のイベントに出たりするときはきちんとした服に着替えて来るみたいだが、俺の部屋に来るときは普段着のパーカーだ。
「うーん、さっきアプリで調べたのだと……これだと良いんじゃない?」
「もう1時間遅いのだとどう」
「それならこっちかな」
「それじゃそっちにしよう、ちょっと寄り道してお土産とかも買いたいし、七海とデートもしたいし」
「……」
不思議そうな顔でこっちを見てくる。何か変なことを言っちゃっただろうか。
「どうした」
「いや、お兄ちゃんがそんな気が効く人だって思ってなかったから」
「わかってたけど本当に扱いひどいな!?」
心配するだけ無駄だった。とはいえ、七海の表情はさっきよりも明るく、嬉しそうなのを見て、提案してよかったと思う。鷲逗サイドモールよりも遠い、日帰りで行くと門限ギリギリなところにも今回なら行ける。帰省ついでにいつもと違うところでデートしたい、というのは間違いなく本心だ。
「そんな気が効くお兄ちゃんのために、わたしがピッタリな電車を調べておくね」
「それじゃ頼んだ。当日手ぶらで帰りたいし、荷物は先に送りたいから明日までに用意しておいて」
「わかった、それじゃまたね」
予定を決めると、七海は少し足早に部屋へと帰っていった。荷物をまとめるのに少し時間がかかる、ということらしい。さて、俺も荷物をまとめておくか。あとは二条院さんに念の為、帰省で部屋を空けることも伝えておいたほうが良いだろう。帰るまでにしておくべきことを考えつつ、棚からカバンを出して荷物を詰め込み始めた。
出発当日、七海が調べてくれた電車に乗って予定通り目的地につく。帰省途中にある、大きなショッピングモールは鷲逗のそれよりも大きく、心なしか七海も嬉しそうだ。俺はというと、こんなところに行くこと自体始めてで少し緊張すらしてしまう。
「ここ、転校するときに通って少し気になってたんだけど、本当に大きいね」
「こんなところ始めてきたから少し緊張するけども、大きなショッピングモールってこんなものなの?」
「うーん、ここはその中でも特に大きい方じゃないかな。さっ、行こっ」
言い終わるか否か、七海が俺の手を取り歩きだす。デートに誘ったのは俺なのに、七海に主導権を握られてしまい、ちょっとだけ残念な気がした。七海はこういうところに慣れているのだろうか。
「それで、お兄ちゃんはどこに行きたいの」
「七海の行きたいところ」
「……もしかして、無策でここに来ちゃったの?」
少しふくれて見せる七海。心なしか握る手が強くなる。同時に少しばかりその手がしめっぽくなってきた。不甲斐ない兄ですまないと謝る気持ちと、強引に主導権をとったのは七海なりの緊張を隠すための行動だったのか、と少し邪推をしてしまう。
「ごめんごめん、それじゃ先に少し喫茶店に入って、そこでパンフレットでも見ながら決めよう」
「そ、そうだね。そうしよう。お兄ちゃんにしては気が利くなぁ」
俺から提案されるとは思ってなかったらしく、驚きの表情を隠さない。少しは兄らしいところ、ひいては彼氏らしいところを見せないとって思って行動したのは正解だった。そうこうしているうちに、お互いが最初に抱いた緊張は解けていき、気づけば握る手もほどよい力に緩まっていた。
「あっ、ここ。この前テレビで見たから行ってみたかったんだ」
「それじゃここにしようか」
七海の提案で店に入る。ようやくこれでデートらしくなってきた。席についておすすめのケーキセットを注文し、待っている間も二人でパンフレットをにらめっこ。今まで服にも無頓着で、時計やコンポにも興味があるわけでもないまま生きてきたものだから、こういうときにどこを見れば良いのか少し困ってしまった。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「ん、どこか行きたいところでもあった?」
「そ、その……デートだから、お兄ちゃんの服とか選んでみたいなって。どこか好きなブランドとかある?」
「ありがとう、でも好きなブランドってないかな」
言ってから少し考え直す、七海のセンスに任せると突飛な服を選ばれてしまいかねない。ましてやブランドである程度幅を絞っているならともかく、それすらも自由にさせたらどんなところに連れて行かれるのか。
「……どうしたのお兄ちゃん」
「いや、なんでもない。ブランドはあんまりこだわりないけど、こことかよく聞くから行ってみたいかも」
「お兄ちゃんにしては悪くないセンスだね……もしかして、学院でファッションセンスの授業でも受けたの?」
「そんな授業あるわけないだろ!」
なんとか悟られずに済んだ。恋人に服を選んでもらう、ってのは一度はやってみたいシチュエーションだが、七海のセンスは少しばかり信用し辛いものがある。前に鉄心が話していたブランドを思い出せてよかった。
「それじゃ、ケーキ食べたらここに行こうね」
「そうしよう、もうそろそろ届くかな」
言い終わるか否かぐらいで、席に二人分のケーキセットが到着する。七海のストロベリーケーキは評判なだけあって、きれいに盛られたフルーツを見ているだけでも美味しそうだ。俺のチョコレートケーキも上品にクリームで飾り付けられ、さらには金箔が載っていて見るからに豪華だ。
「これが噂の……それじゃ、お兄ちゃんお口開けて」
「えっちょ、今外だって」
「そんなの気にしなくていいじゃない。あーん」
無理に拒否したらむしろ拗ねられそうだ。ここはおとなしく七海の言うことに従う。口を開けて、七海から差し出されたケーキを頬張る。甘ったるいほど砂糖を使ったクリームと、程々に酸味が効いたいちごの味が口の中でほどよい調和を保って広がる。これは人気になるわけだ。見た目に違わぬ美味しさだった。
「おいしい……それじゃ、こっちもほらっ」
「えっ、わたしはいいから……」
「俺だけこんな思いするのはずるいから、ほら七海もあーん」
「……あーん」
恥ずかしさからか、七海は目をつぶって少しだけ口を開ける。その隙間にケーキを差し入れる。舌にフォークが触れた頃に口は閉じられ、その隙間からゆっくり引き抜き終わったとき、ようやく七海が目を開けて味わい始める。
「美味しい……でもやっぱり恥ずかしいよ」
「自分で言い出しておいて、自分は恥ずかしいって」
「そ、そ、それはそういうものなのっ!」
恥ずかしさ隠しか、少し慌てた様子でアイスティーを飲み始めた七海を見て頬を緩ませつつ、俺も熱いコーヒーをゆっくりすすった。
楽しい時間はすぐに過ぎていって、気付けば出発の時間に。七海に選んでもらった服は流行に乗りつつも程々に落ち着いた感じで、これなら普段から着ていても良さそうだ。それに初めて恋人に選んでもらった服だから、その事実だけでも嬉しくなってしまう。
「ここから家まで、結構あるね……少し疲れたから寝ちゃいそう」
「寝てたらちゃんと起こしてあげるよ」
「2人とも寝て寝過ごしちゃったら大変だから、わたしも頑張って起きるよ」
一日中歩き疲れたのか、少し目がトロンとしてきた七海がもたれかかってくる。外はもう暗くなって、景色を楽しむような雰囲気でもない上に単調なモーター音が鳴り響く車内はもはやゆりかごのようなものだった。
最初は頑張って寝ないようにと、定期的にピクッと体を震わせていた七海だったが今は完全に眠りに落ちている。気持ちよさそうな寝息をたてて、安心しきって俺に体を預けてきた。
「……お兄ちゃん」
どんな夢を見ているんだろうか、寝言とはわかっていても呼びかけられて一瞬ドキッとしてしまう。少し顔を覗くと、幼い時の七海を思い出すようなあどけない様子だった。お互いもう大きくなったとはいえ、やっぱりまだ子供っぽいところは残しているのだ、とどこかで安心をしてしまう。兄として、そして恋人としてもっとしっかりしないと、そんなことを思わずにはいられなかった。
最初は2人がデートなのに全然デート感ないじゃん!ってお話にしたかったのにふたりとも緊張してそんなお話にはなりませんでしたね。
書いた時期的には令和元年一本目の小説ですね、今後も継続して更新していきますのでよろしくおねがいします。夏コミの原稿もそろそろ頑張らなきゃなぁ。