咲夜とメガネを買いに行くだけのお話です。
「ハルキよ、少し買い物に付き合ってくれぬか」
「良いけど、何を買いに行くの」
「それがじゃな……目が少し悪くなってな」
予想外の答えに、俺のほうが目を白黒させる。確かに、神の力などもう存在しないのだから運動すれば体のどこかが痛くなるし、火傷したり、あるいは擦りむいたりしたらそれ相応に怪我だってするが、それでもなんとなく「咲夜は怪我とかを一切しない」なんて思ってしまっていた。
「眼科には行ったのか?」
「ああ、前に眞一郎からいくらかもらってな。今日はメガネを買いに行こうと思うのじゃが」
「それって、俺までついていく必要があるのかよ」
「……お主、メガネ女子の魅力を知らんのじゃな。世間ではメガネをかけるだけで魅力が3割増しなぞ言われておるというのに」
「咲夜ならなにかけたって可愛いよ」
「なっ……そういうことを言わせたいわけじゃないわこの戯け! ほれ、行くぞ」
「結局行くのは変わらないのか……」
いくら彼女とのデート、といえどこの猛暑の中外に出ていく気にはどうしてもなれるわけがない。アスファルトから立ち上る熱気と空高く輝いている太陽。そのどちらもが俺に敵対している以上、外になぞ出て行きたくない。
「諦めろ、妾が行くと言っておるのじゃ。優しいハルキなら必ずついてくると信じておるぞ」
「……そこまで言われて居残るわけには行かないな」
重たい腰を上げて、部屋を出ていく咲夜についていく。それにしても、メガネと言われたところで俺にメガネを選ぶセンスなんて存在するわけがないのだが。まぁ、どうにかなるか。
「さて、妾もメガネなぞ初めて選ぶものだから、ハルキにおまかせしてみようかの」
「俺だってわからねぇよ」
「何を言っておる。お主が気に入ったものが、きっと妾にとっても良いものじゃ」
そんなことを言われて、断れる男が居るものか。棚に並ぶメガネをざっと眺めてみると、最近流行りのフレーム細めの丸メガネやオールドスタイルな黒ぶち、アンダーリムみたいなちょっと個性的なものも置いてある。ちらりと咲夜の顔を見て、どれが一番似合うか頭の中で組み合わせてみては想像する。
「ところでハルキ、ここにはフレームが蝶のメガネはないのか?」
「お前、そんなメガネをかけて何をする気だ。それにあれは仮面だろ」
「ほう、ハルキにしてはよく知っておったな」
そんな女王様がつけていそうなメガネが一般店に置いてあってたまるか。などと少しジョークを飛ばしつつ見ていく。その中でもいくつか気になった物をピックアップして、そして咲夜に手渡してみた。
「ほう、これは……」
「フォックスって形らしい。ちょっと角が釣り上がってるのが特徴だって書いてあった」
「……ちょっと妾には合わぬな。どうも厳しく見えてしまいそうじゃ」
試しにかけてみた咲夜がこっちを見る。確かに、これだと教育ママという雰囲気がピッタリだ。提案しておいて何だが、ちょっと目を合わせづらいぐらいの威圧感すらある。気を取り直して、次のメガネを渡してみた。
「こっちはいわゆる丸メガネ。最近流行ってるんだって」
「妾をのび太にでもするつもりか?」
「最近はフレーム細めのこういうタイプが流行りって前に読んだんだけど」
「ふむ……、悪くはないな。じゃが、妾のタイプには合わぬ」
「確かに、祖父さんなんか似合いそうだな」
「……ぷっ、すまぬ。思ったよりぴったりじゃ」
祖父さんのあの蓄えたひげと、柔らかな白髪にこの丸メガネ。意外と悪くないかもしれないが、残念ながら祖父さんはメガネを必要としていない。もし何かの機会があるならかけさせてみたいが、それは今日じゃない。
「して、これは」
「こっちはハーフリム」
「ああ、庵が掛けていたアレか。これには特別な力はなさそうじゃな」
「……むしろ庵のメガネって、本当に効果があったのか」
「妾も当てずっぽうで言っておるわけじゃないぞ」
驚愕の事実はさておき、こういうオーソドックスなメガネはしっくりくる。整った顔立ちの咲夜が、メガネを掛けることでより一層引き締まって見えるというか、いつも以上にお姉さんという雰囲気のほうが強く感じる。こういうのも悪くないかもしれない。
「このフレームが太いのはどうじゃ」
「これはウェリントンか。悪くはないと思うけど」
「じゃが、ここまでフレームが太いというのは気になるな……。こっちの細い方ならどうじゃ」
「悪くないけど、これなら佐奈とかの方が似合いそうだな」
「それは妾も同意じゃ。最初のと同じく、少し鋭くなりすぎてしまう。葵にも似合いそうじゃな」
比較的鋭い目つきの咲夜がこういった、シャープなものをかけるとちょっと印象がきつくなってしまいそうだというのは同意だ。それなら佐奈や葵みたいな顔の方が似合うと思う。
そんなこんなで、結局メガネ売り場で立ち見し続けること数十分、ようやくお気に入りが決まったらしい。少しフレームが太めのオーバルタイプ、確かに試着してみてもとてもしっくり来る。それに本人が気に入ったなら、それが一番だろう。
「結局、自分で選んだのが一番だな」
「せっかくじゃからハルキに選んでもらおうと思っておったが、やはり実物を前にしては妾も興味が抑えられなくてな」
「別に良いよ。それに、そのメガネも似合ってるし」
「ふふん、そうか。ハルキに似合っていると言われたなら安心じゃ」
咲夜のメガネ姿は今までにないのもあって新鮮だった。メガネひとつとってもここまで印象が変わるなんて。いろんな試着を一緒に楽しめたし、今日はここまで着いてきてよかったと思えたそんな一日。
皆さんはメガネ女子はお好きですか?
とりあえずこの話ではオーバルタイプを買うことにしてみたけど、ヒロインに似合うメガネとか思いついたらツイッターあたりで私に言ってくれるととても喜びます。