確か両親は海外だったよね。佐奈のことはどれだけ両親が知っているのか、正直作中で示されてないから結構想像込みになっちゃいました。
個人的には、佐奈は眞一郎の養子扱いにしてあるんじゃないかと思ってたり。
あれからそれなりに長い年月が経ち、俺たちの関係もより深いものになってきた。俺は卒業後、近くの大学に進学して、佐奈も短大に行く傍ら、祖父さんの手伝いを続けている。いつの間にか、渉さんをひとっ飛びに超えて、完全に新しいマスターといった様子になってしまったのは祖父さんの色目もあったのだろうか。とはいえ、今までと変わらない日常が続いていた。
そんなある日のこと。大学の期末試験を終え、少し長い夏休みに入ろうかというときに祖父さんから呼び出された。まだ評定が出ている時期でもないから、どんな理由だろうか。
「春樹よ、ワシが呼び出したということは分かっておるな」
「分かっていると言われても、何のことやら」
「……お前も、佐奈も、もうただの学生ではないのだから、そろそろ両親への挨拶ぐらいせぬか」
確かに佐奈と付き合い始めてから、簡単に連絡こそとっては居たが、ちゃんと挨拶らしい挨拶をした記憶がない。一応、この前の誕生日のときに撮った写真程度は送っておいたから、今の二人の顔ぐらいは知っている。同時に、義理の妹とこれから彼女として付き合っていくという話もした。文章だけとはいえ、意外とすんなり受け入れている辺り、俺たちの親で、祖父さんの子供と言うところなんだろう。なんてことも思ったものだ。
「それは、忘れてたわけじゃないけど」
「このままズルズルと引き伸ばし、いつしか望まぬ妊娠からできちゃった婚を」
「話が飛躍しすぎだろ!」
「だが、どこかできちんと道理は通しておかなければな」
真面目な表情の祖父さんを前に、何も言い返せなくなる。事実、なんとなく逃げていたような気がして、その事実を受け入れたくない自分もいる。だからこそ、どこかで伝えなければ。だが、それはいつになるのだろうか。両親ともまだ海外を飛び回っているはずだから、帰ってくるタイミングまで待っておくべきだろうか。
「せっかくの長い休みだ、すでに話は通しておる。早いところパスポートを取って、二人で挨拶ぐらいして来るんだな」
「……えっ」
目の前には二枚の旅券。海外旅行なんて、当然俺たちどちらも初めての経験だ。突然の出来事にびっくりしていると、奥から佐奈がやってきた。
「えっと、それは……」
「丁度いい、佐奈くんもこっちに来なさい。せっかくの休みなのだから、二人で両親に挨拶してくると良い」
祖父さんは平然と言ってのけるが、突然海外に行けと言われる俺たちの身にもなってほしい。庵じゃあるまいし、初めての長距離旅行がまさかの海外なんて。
「兄さん……」
「ここまで言われて、行かないわけに行かないだろ。安心しろ、俺が付いてるから」
不安そうな目でこっちを見る佐奈の様子を見るに、ここは俺がしっかりしないと。空元気と言っても良いレベルで、しっかりと言い返し、肩を軽く叩く。その仕草に安心してくれたのか、すぐにいつもの佐奈が戻ってきた。
「兄さんとの海外旅行、これはつまりハネムーン!?」
「……いや、それはなにか違う気がするけど」
「まぁ、ワシはしっかり渡すものを渡したから、後はお前たち次第だな」
そう言って、祖父さんは自室にゆっくりと帰っていく。前ほどの機敏さは失われ、そろそろ歳を感じさせるようになってきたが、それでも今は祖父さんの背中が大きく見えた。
「そうだ、春樹よ。いくら許可をもらえたからと言って、ひ孫はまだ見たくないぞ」
「感動を返せ!」
しかし、やはり根っこはいつもの祖父さんだった。むしろそのぐらいのほうが安心とも言えるのだろうが。
「安心してください、兄さんは甲斐性なしなの」
「それは安心するところじゃねぇ」
佐奈も佐奈で、祖父さんのセクハラ発言を軽々とかわしていく。この祖父あってこの孫あり、もしかしたら俺だけ置いてけぼりを食らっているのかもしれない、なんて思えてしまう。
ところ変わって、今は空港にやってきた。これまで旅行らしい旅行に行ったことがない二人だから、見るものすべてに驚いてみたり、感動してみたりと、なんとも騒がしい。それでも二人で新しい経験をするこの瞬間がまた得難いものだと実感して、妙に感傷的な気分にもなってしまう。
「兄さん、飛行機ですよ飛行機!」
「分かったから、そんなに騒ぐなって」
「だって、前の兄さんが飛行機に乗ったら何が起きるかわかりませんから」
いきなり否定しづらいことを言われ、黙り込むしかない。まぁ、事実あの天罰があった頃の俺なら、乗るはずの飛行機が突然欠航になるとか、ひどければ乗ってからエンジントラブルでも起こすか、最悪の場合は墜落だって考えられる。つくづく、あの神様に祓ってもらって助かったと思うしかない。
「ほう、ハルキが感謝の心を見せるとは珍しいな」
「……そのバレバレの変装はどうかと思うぞ」
「ふふん、少しは最近の流行りも研究したのじゃが」
「ルリも流行りに合わせてもでるちぇんじしたぞ」
ちらりと目線を向けると、そこにはよく見知った顔が。それどころか、いつの間にか知っている顔が勢揃いだ。葵に木賊、庵に虎太郎まで。そこに卯ノ花とルリが居るというのだからあの頃のメンバーが勢揃いだ。
「お前はともかく、どうしてみんなここに居るんだ」
「あれ、ボクは葵ちゃんから『二人が飛行機に乗るって、ちょっと不安じゃない?』って」
「そうだな、ここは海外経験豊富な俺が」
「豊富でも無計画な庵じゃ意味がないだろ、まぁ、今のハルからは邪気を感じないし、飛行機に乗るぐらいなら大丈夫かな」
「ごめんね、でも海外旅行に行くなら見送りぐらいさせてよね。幼馴染なんだからさ」
ずらりと並ぶ皆の顔を見て、さっきまでの興奮は一気に覚める。とはいえ、わざわざ俺たちのために集まってくれた皆を追い返すのもなんとも忍びない。結局、出発の時間まで飛行機の見えるテラスに集まり、皆で話をすることになった。
「兄さん、私たちのハネムーンにこんなに人が集まってくれたんですよ」
「……ま、これはこれで楽しいか」
軽くため息をつきながらも、この時間が楽しくて仕方ないと感じる俺もいるのだった。