特に春樹のキャラ崩壊が割と大きい気がします。あと佐奈も......いや元からこんなキャラな気がする(失礼)
ある休日。佐奈の呼ぶ声に応じて目が覚め、スッとベッドに横たえている体を起こそうとした瞬間に事件は起こった。今、見間違いじゃないならば俺の体は布団をすり抜けていった。確かに目線は布団に腰掛けたときのそれだが、眼下にはそのままの布団がある。未だに何が起きたか把握できないまま、周囲をキョロキョロと見回してみるも、やはり何が起きたのか未だに理解できずにいた。
「兄さん、まだ起きないんですか」
「佐奈、俺はここで」
「に、兄さん? 本当に、兄さんなんですか」
「そうだ俺だ、一体どうなってる」
「兄さんが、こんなに小さくなってるなんて」
「……えっ」
ふと後ろを振り返ると、どう見ても小学生ぐらいの身長にダウンサイズされてしまった俺がいた。我ながら生意気そうな顔をして……なんてボケをかます余裕もない。事実、佐奈の目線は明らかにベッドの上の俺ではなく、まだ寝ている俺のほうに向けられている。
「その、えっと……と、とりあえずヒメさん呼んできますね」
「……どうしてこうなった」
まだ気持ちよさそうに寝る俺と、ベッドの上で呆然とする俺。少なくとも昨日までの俺はこっちなのだろうが、それならここで寝ている俺は一体誰なんだろうか。そんなことを考えていると、実体の方の俺が目を覚ました。
「あっ、兄さん! 動いちゃダメですよ、どうしてこうなったのか、ヒメさんに見てもらうんですから」
「必要ない」
「そんな、でもこんなクールな兄さんも……じゃなくて、あれ? 兄さんだけど今の見た目なら私が妹じゃなくて、姉に……ふ、ふふっ、ふへへ」
佐奈さん、今あきらかに女の子がしていい顔じゃなかったですよね。意外とわけのわからない事態に遭遇してしまうと、ツッコミは冷静になってしまうのだろうか。そんな様子の佐奈を眺めつつ、起き上がった俺に引きずられるようにリビングに行くと、すでに着替えを済ませていた卯ノ花が立っていた。
「ふむ……これは確かにハルキじゃが……そっちのお主は何者じゃ」
「いや俺もハルキだって」
「姫姉様、こいつ、噛んだら治るか?」
「試してみる価値はあるじゃろう」
その言葉を合図に情け容赦なくルリが俺の腕に噛み付いた。正しくは幼い方の俺、だがこの際それはどうでもいい。卯ノ花にキスされたときのような脱力感が体を駆け巡るも、すぐにそれは収まる。どうやらルリの噛みつきも、俺の天罰の前には無力だったらしい。
「うー、まずい」
「痛ってぇな!」
「ふむ、生意気なのは幼少期からじゃったか」
「そんなところで納得するな!」
「して、お主よ、とりあえず今のお主は妾とルリにしか見えぬことは分かっておるな」
「それは分かったが、これからどうすればいい」
やはりというべきか、卯ノ花には俺が見えていた。少しだけ安心したが、それでも問題を確認する足しになる程度で、解決には繋がりそうにもない。起きたらこうなっていたこと、ルリの噛みつきは脱力感があるだけで、特に効果がないことの両方を伝えると、少し考えてみせた卯ノ花も、俺と同じ結論にたどり着いた。
「まぁ、天罰の影響なのは言うまでもないが……しかし幼児化とは、お主、もしや心の奥底でそんな趣味が」
「そういうつもりはないんだが、どちらにせよなんとかしないと学校にすら行けないだろ」
「まぁ落ち着け。さっきから佐奈が置いてきぼりになっておる」
「えっと、今の兄さんは兄さんであって兄さんじゃない、私が姉として世話をしてあげなければいけないってことですか」
「いやこれは置いてきぼりとは違うだろ」
話が通じそうにない妹と、話は通じるがどこか緊張感にかける神様とその従者。すでに事態は最悪な気がするが、そこにまた新しい来訪者がやってきた。そういえば、今日バイトのついでにノートを持ってきてくれるなんて言ってたっけ。
「やっほ、ハルはいる……って、あれ、ハルに弟? それとも親戚の子供?」
「すまぬ、葵。落ち着いて聞いてほしい。これはハルキじゃ」
「や、やだなぁヒメったら、いくらなんでもあたしがそんな冗談に」
「そうか、ならこんなこともできるな」
そういうなり、卯ノ花が小さい俺を少し引き寄せた。姿勢を崩した俺は、そのまま彼女の胸部に、俺の顔面が埋めて、しかもそれで離れようとしない。揺れるその2つの巨峰の様子を見るに、あの間は相当な柔らかさがあるに違いない。悲しいことに、俺はその感触を味わうことなく、ただどこかを触れられているみたいな違和感がつきまとうだけだが。
「な、に、に、兄さん! そんなに母性を求めてたんですか、良いですよ、私だって兄さんのためなら子守唄も歌いますし、一緒にお風呂にも入ってあげますよ」
「ちょ、何してるの、あたしも!」
何があたしも、なのかというツッコミを入れるまでもなく、今度は後頭部に葵のソレが押し付けられる。本当このエロガキが、という文句は今言うとただのブーメランになってしまうのがただただ悔しいばかりだが。
「ふふん、やはりハルキはこの姿でも男じゃな」
「兄さん! いや今は兄さんじゃなくてええとはる……いえ兄さんは兄さんです!」
「幼い頃のハルったら、ホント可愛かったんだから」
「はるき、不潔だ」
4人それぞれ反応は違えど、誰も真剣にこれを解決する気がないことだけはよく伝わってくる。まぁ、卯ノ花がこの様子だからそれほど重大な問題ではないのだろう。なお、ここで幼い俺が何をしでかすか見せられる俺にとっては気が気ではないが。
「まずは状況を確認しよう。ハルキよ、妾は覚えているか?」
「……わからない」
「ふむ、であれば当時の記憶レベルに戻っている可能性があるな。こっちはどうだ」
そう言って葵の方を指差す。当時からさほど顔立ちは変わっていないというのもあって、当時の俺の記憶ならおそらくは……。
「渉お姉さ……あれ、葵? お姉さん」
「……なんだか、ハルにお姉さん呼ばわりされると照れるね」
「いや、俺もそう思う」
俺(幼少期)の葵お姉さん呼びになにか変なスイッチが入ったのか、さっきから葵の表情が緩みっぱなしだ。気持ちはわかるが、そんなに嬉しいものなのだろうか。
「ならば、こっちはどうじゃ」
「……お姉ちゃん」
「に、兄さんがお姉ちゃんって」
「でも、名前が思い出せない」
「な、なんですって……そんな、兄さんが……あうぅ」
「落ち着け、ハルキが佐奈と出会った時期を考えたら、この時期の佐奈を知らないのは当然じゃ」
「そうです、よね。兄さん、私は佐奈って言います。兄さんの世話を何でもしてあげますから」
「あっこら、抜け駆けするなぁ」
「兄さんが私の弟で、ふ、ふふふ」
「あの、俺はそっちのけですか」
二人に俺の声は届かないと知っているが、それでも目の前のキャットファイトを前に、呆れ半分、諦め半分の気持ちにならずには居られなかった。そんな様子を、卯ノ花は俺に見せていると知って黙認しているのだからよりタチが悪い。全くひどい神様だ。
「……なにか文句があるのか、ハルキ」
「いいえ別に」
読心術かのような卯ノ花の目線に肝が冷える。それよりも、この事故みたいな事件はいつになったら解決するのか。そっちの方も聞きたい。
「なぁ、いつになったら戻れる」
「正直まだ分からぬ。一応確認してみる方法はあるが……」
「いいからやってくれ」
「そうか、ならば」
佐奈と葵の二人に囲まれ、色々ペタペタと触られている俺があっさりと持ち上げられたかと思うと、ためらいなくキスをされた。体の力が一気に抜けていく。感触はないくせに、天罰由来だからか、しっかりと体のだるさだけは残していくそれは、いつもよりも長く続いた。当然、そんな蛮行をみた佐奈と葵は黙っているわけがなく。いやお前たちが俺を心配するより私利私欲を満たしていることのほうが問題なのだが、というツッコミは届きそうにもない。
「に、に、兄さん! それにヒメさんまで!」
「ヒメったら、いきなりハルに何してんの!?」
「んっ……ふむ、この様子な一週間も持たぬな」
「そうか、それなら良かった……いや良くないが。とりあえず、目線が痛いからそろそろ離してくれ」
「今のお主はそこじゃろ、目線は浴びておらぬはずだが」
しばらくしてから解放され、ぐったりと床に座り込む俺と、その後ろで同じように疲れ果てた様子で座る俺。二人の姉たちによるお世話攻勢は一旦止み、今はとりあえず、この小さくなった俺をどうするかの協議がなされている。
「ええと、今のハルはハルであって、ハルでないんだよね」
「そんな、兄さんは兄さんですっ」
「いや話をややこしくするな」
「まぁ、そうじゃな。一種の降霊術みたいなもので、今のハルキはこの年代のときのハルキが宿っておる。つまり、正真正銘、数年前のハルキじゃ」
まぁ、その数年前のハルキには背後霊として現在の俺が居るわけですが。そんなことはルリと卯ノ花にしかわからない。彼女らも話す気はないらしく、皆の会話は俺が居ない前提で進んでいた。
「とりあえず、今のハルには保護者が必要だと思うんだ」
「それは私も同感です」
「眞一郎ではダメか」
「それが……今日から店を空けて旅行に」
なんともタイミングの悪い祖父さんだ。孫の一大事に、家を空けるとは。文句を言っても仕方ないが、この流れはとても嫌な予感がする。
「そうだ、ハルの面倒をあたしたちで交代で見よう」
「良いですね、兄さんが変なことをしないように私も見守ります」
「……」
おーい、当時の俺。今明らかに置いてきぼりで話についていけないって顔してるよな。そこで主張しないと後で痛い目に遭うぞ。そんな声を書けてみるも、届く様子はない。後ろで卯ノ花がくすくすと笑っているのがまた嫌な予感を確実なものにしてくる。
「……別に、俺は」
「やたっ、それじゃ、兄さんは今日から私の弟です!」
「あたしもハルのお姉ちゃんとして、いっぱい甘えていいからね」
「というわけじゃが、どうだハルキ。羨ましいか」
「……お前は止めろよ」
「別に一週間のことじゃ。妾が止める必要なぞ」
全くもってひどい神様だ。おもちゃにされる俺を見て楽しんでいる。ともかく、この奇妙な関係はこれから一週間も続くことが確定してしまった。後ろで見ている俺の胃に穴が空くのが先か、体に戻るのが先か。そこに存在しないはずのお腹を擦りながら、明日からの日々に恐怖を覚えるばかりだ。